S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験編

第五十七話 遭遇

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冒険者学校の地下ダンジョン、学年末試験であるこの試験の目的は最奥にある宝石を持ち帰ること。

そうして滞りなく地下四階に到達した。

そこは大きなホールかと見紛うようなだだっ広い空間が広がっている。
それだけ広くても魔灯石が数多くあり、その効果で光はしっかり灯って視界は十分に確保できた。

奥はどこまであるのだろうか。かなり大きな空間だった。

そこには信じられない景色が広がっている。


この光景はなんだ?どういうことだ?
これは冒険者学校の試験ではないのか?

そんな疑問が残る中、ヨハン達それぞれが血を流している学生たちに駆け寄ろうとした瞬間、辺り一帯に鋭い金属音が響き渡った。

「みんな、あれを見て!」
「はぁ!?遠くてちゃんと確認できねぇけど、あれはユーリとサナ?それに後ろにいるのはゴンザか!?」

遠く離れた金属音が響き渡った下の場所に目をやると、そこには黒い何かと剣を交え戦っているユーリとサナがいた。

「どうやら戦っているみたいね」
「ですが一体なにと?」

前線をユーリが担い、直接剣を交えている。
サナは移動しながら少し後方で魔法支援を行い、所々でナイフの投擲を行っていた。

ゴンザは片膝を着いて蹲り、肩を押さえている。
負傷している様子が窺えた。
そのゴンザの近くには子分のヤンとロン、加えて傍にもう一人、チンが倒れている。
その付近にも複数の学生が横たわっており、アキとケントが治療を行っていた。

ゴンザが負傷してほとんど戦えない状況から見ると、ユーリとサナが立ち向かえていることには入学当初を知っている者からすれば違和感を覚える。

本来一学年でも上位に入るであろうゴンザが劣勢に立たされており、ユーリとサナが戦えているのだから。

しかし、あのビーストタイガーの一件からユーリとサナ二人の努力は際立っている。
今直面している事態から見てもそれは十分に感じられた。
同時に、アキとケントもそれなりに努力はしてきたがこの場では力不足なのだろうという状況が読み取れる。

「何だ?あの黒いの?黒い鎧の…………剣士?」

視界に捉えるのは漆黒の鎧を纏った何者か。それがユーリとサナと戦っていた。

「早く助けに行かないと!」
「おい!こっちはどうすんだよ」

レインが傷を負った学生を抱きかかえる。

「ぅう、ぐぅ…………」

学生は小さく呻き声を上げた。

「大丈夫!まだ息はあるわ!!それよりも先にあっちをなんとかしないと!それにアキとケントが回復に回っているならとりあえずは任せて私たちはあの黒いのに対応したらいいの!」

考えている暇はない。
モニカの直感がそう告げる。

「…………ま、戦力的にはそうなるか」

冷静に周囲を見渡すと、レインもその判断に納得した。するしかなかった。

幸いにも血を流してそれほど時間が経っていないのか、重症の学生もいるがかろうじて全員がまだなんとかなりそうである。
状況を見る限り治療は間に合いそうだ。



ユーリとサナが戦っているその場所に近付くに連れて、その黒い物体が明確に見える。

やはり鎧だった。
全身を黒で包んだ人型の鎧。

「ってかそもそもなんだあれ?デュラハンか?」
「いいえ。どうやら違うようですわ。デュラハンには頭はありませんもの」

頭のない人型の魔物、デュラハンとはまた別のものだった。

「なんにしろあれはかなり強いみたいだね」

ヨハン達は黒い鎧剣士と戦っていたユーリとサナの近くに辿り着く。
その黒い鎧剣士は頭がしっかりあり兜を被っている。

呼吸音を「コヒュー」と鳴らしていた。

「サナ!ユーリ!」

ようやくサナとユーリの背後に辿り着く。

「ヨハンくん!無事だったのね!」
「ヨハン!気を付けろ!こいつかなり強いぞ!」

サナとユーリもヨハン達が来たことに気付いて声を掛けた。

「うんわかってる!サナ、遅れたようでごめんね」
「ううん、それは大丈夫。けど、私達じゃ倒しきれないの!」

サナとユーリだけでは押され気味であり、戦況を傾けないように保つのが精一杯。

「あとは任せて!」
「えっ!?」

ヨハンが黒い鎧剣士に向かってまっすぐ走りだす。
その速さは学生のそれではない。

腰の剣を抜き、下段からその胴を薙ぎ払うようにまっすぐ振り抜いた。

しかしその黒い鎧剣士はヨハンの剣を正面で受け止め、キィンと鋭い金属音がその場に響き渡る。

「なっ!?ヨハンの剣が止められた!?」
「そんな!?」

レインやモニカは驚きを隠せないのだが、ヨハンも黒い鎧剣士に剣を止められ驚いた。

「今のは捉えたと思ったけど――――くっ!」

黒い鎧剣士は受け止めた剣を上に逸らすと、さらに逸らした位置からヨハンの頭部目掛けて自身の剣を振り下ろす。

即座に横っ飛びに切り替え、眼前に迫る剣を回避する。

ゴロゴロと地面を転がり、追撃に備えてすぐさま身体を起こし、剣を前にかざすように構えるのだが――――。

「今のタイミングで襲ってこなかった?」

追撃されれば確実に劣勢に立たされていたのだが、黒い鎧はヨハンを追うことなくその場にただ立っていた。

「コヒュー、コヒュー」

黒い鎧は細い息をしているのか、ヒューヒューと音を鳴らしている。


「とにかく一度戻ろう!」

ヨハンは黒い鎧剣士をその視界に捉えたままユーリ達の元に戻るのだが、黒い鎧剣士は尚も動く様子を見せない。

「ねぇ!あの鎧は一体なに!?」

先に戦っていたユーリに問い掛ける。

「わからん。俺たちもさっきここに辿り着いたところだったんだ。その時にはもうゴンザが戦っていたけど、かなり劣勢だった。そこに俺とサナが助太刀して、アキとケントには倒れている学生を助けるように動いてもらったんだ」

ユーリは簡潔に状況を説明した。
だが、聞いたところで何もわかたない。

「そうなんだ…………」

ジッと黒の鎧剣士を見た。
先程のやり取りとそれ以前の行動を見ても十分強敵だとわかる。

「とにかくこいつは危険だ。倒れている子を安全な場所に移動させないと」

ヨハン達の後ろでは比較的軽傷だったゴンザをモニカが治療していた。

「ふぅ、これでとりあえず動けるはずよ」
「――ちっ!」
「いたっ!なにするのよこいつ!」

「うるせぇっ!女は黙ってろ!」

ゴンザは治療されるとモニカを押しのけ、ヨハンの横に立つ。

「このっ――」

怒り心頭になるモニカなのだが、エレナがそっとモニカの肩を掴む。

「今はそんなことをしている場合ではありませんわ」

どうしましょう、困ったものだ。とエレナもヨハンとゴンザの背中を見た。

「おい、てめぇ、ふざけんな。誰の前に立っているんだ」
「けど…………」

今ゴンザはあれに対抗できるのだろうか疑問に思う。

「うるせぇ!俺があんなやつに負けるか!」

止めようと思ったのだが、言葉では止まらないだろう。
ゴンザは黒い鎧剣士に再び立ち向かおうとする。


しかし――――。

「――ぐあっ!」
「モ、モニカ!?」

ゴンザは立ち向かうよりも先に前のめりになって倒れた。
その場に音もなく突っ伏して気絶する。

「なによ。せっかく治療したっていうのにまたすぐに怪我されたらたまらないわ。ちょっとはこっちの身にもなりなさい」
「……はぁ、モニカったら仕方ありませんわね」

モニカがゴンザの首裏を剣の柄で殴っていた。
エレナは呆れながらもそのモニカの行為を非難するつもりはない。

「…………」
「…………」

一連のやり取りを見ているユーリとサナは呆気に取られている。

モニカの行いは、あくまでもこれ以上怪我人を増やさないためと、他の倒れている学生の救助の人員を増やそうとしたのだが、聞く耳を持たないゴンザは邪魔になると判断され即座に気絶させられた。

「さすがモニカちゃん、やることが男前!」
「レイン?一応今は誉め言葉として受け取っておくけど、後で覚えてなさいよ?」
「えっ、あっ、いや――――」

レインは思わず冷や汗が垂れる。

「そんなことはいいですから、とりあえずあの鎧をなんとかしますわよ」


それから少しの時間を空け、コヒューコヒューと細い息を鳴らしながら鎧は動き出し、その歩を進めた。

徐々にヨハン達の下に近付いて来る。

黒の鎧剣士に対抗するためにヨハン達は横に並ぶ。
ヨハンとモニカは長剣を、レインは両手に短刀を構えた。
エレナは槍の派生である刃の長い得物、薙刀と呼ばれる武器を構える。

「ユーリ、サナ。あとは僕たちに任せてくれないかな?」
「危険だ!いくらヨハン達が強いといってもあの黒い鎧剣士はそんな強さじゃなかった!俺たちも一緒に戦うぞ!その方が勝機はある!」

先に戦っていた分その強さを実感していた。

「ごめん、その気持ちは嬉しいけど…………たぶん付いてこれないと思う。他の倒れている皆をお願い!」

そう言ってキズナは黒の鎧と対峙すると、それぞれ顔を見合わせ頷き合う。

それはこの後に繰り広げられる激闘の幕開けだった。

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