S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験編

第五十六話 地下

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「…………階段だね。ここから下に行けるのかな?」

しばらく進んだ先で、やっと下に下りる階段を見つけた。

「どう思う?」
「それが必ずしも正解とは決まっていませんわ」
「でも下りてみないとわからないよね?」
「よしっ、とにかく悩んでいても仕方ないよ。まずは下りてみよう!」

相談の結果、迷ってしまうのだが最終的な結論をヨハンが出した。

階段を下りると、ほんのりと空気が重くなるのを感じる。
また同じような土の壁でできた道が広がっていた。

「どこか変わった様子はある?」
「いえ、特に見られないですわね」
「とにかく進んでみるしかないな」
「じゃあ行くよ」

上階と同じ様な景色が広がる中、地下二階を歩く。
地下一階と同じようにゴブリンが現れることはあるのだが、これまで同様変わらずすぐに討伐した。


だが、変化はすぐに訪れる。
しばらく進むとズシンと大きな音が広がり、地面に振動を感じた。

「この音は?」
「うん、どうやらゴブリン以外が出たようだね」

何が現れるのか構えると、道を塞ぐほどの巨体が姿を現す。

「じゅずるううぅぅう」

その巨体は涎を垂らしながら現れた。手には棍棒を持っている。

「トロルだな」
「私がいくわ」

新しく現れた魔物に対してモニカが先陣を切って前に出た。

トロルはゴブリンと同じ人型であるのだが、その体躯はゴブリンのそれとは大きく異なる巨体。
その巨体から繰り出される剛腕による棍棒の威力は直撃すると人間など簡単に圧し潰す。

そんなトロルに対してモニカは怖気を抱くことなくゆっくりと歩を進めた。
淀みの無い歩を進め、トロルに近付く。

トロルはモニカが棍棒の間合いに入る瞬間、その手に持っている棍棒を大きく振りかぶった。
振り下ろされる棍棒を受け止めるなどもってのほかなのだが、モニカはその剣で棍棒を受け止め、同時に刀身に当てるとそのまま角度を斜めに逸らす。

タイミングを一歩間違えば剣は確実に叩き折れるだろう。
しかしモニカには全く問題なかった。

剣自体もドルドが打ったらしい剣ではあるのだが、感心すべきはそこではない。
特筆すべきはモニカの剣の技量。
トロルの棍棒を一切の無駄なくその威力は剣を伝い地面に受け流す。
途轍もなく冷静で華麗な見極め。

地面に棍棒を叩きつけたトロルはすぐに次の動作に移ろうとするが既に遅い。
即座にモニカがその胴体を一刀両断する。

「トロルですか。まぁ当然ゴブリンより苦戦するでしょうけど、これもきちんと対処すればそれほど苦労はしないですわね。ですがこれ以上のレベルになるともしかしたら辛くなることもあるかもしれませんわね」

エレナの見解は先に入った他の学生を気にしていた。
まだ苦労するような程の魔物は現れていないが、これ以上になるとそれなりに危ぶまれる。

そうしていくらか話していると、ほどなくして更に下に降りる階段を見つけた。

「そういえばここまで誰とも会わなかったね」

ふと疑問に思う。
先に入った他の学生の誰とも会わないのだった。

「ああ、みんな順調に進んでいるようだな」
「(…………ほんとうにそうかしら?)」

レインが気楽に考えるのに対してエレナは思案気に考える。

そうして地下三階に降りると、これまでと少し様子が変わった。
床に壁や天井の至るところには薄い光が灯っている。

「これは?」
「ええ、これはこの壁の中に埋まっている魔石ですね。魔石自体はそれほど高価ではありませんが、魔力を含んだ石が自発的に発光していますの。魔灯石と呼ばれるものですわね」

ヨハンが光の放っている部分に触れるとエレナが魔灯石によるものだと答えた。

魔素の充満しているダンジョンでは度々こういった現象が見られる。

ランタンの灯が必要なくなったので、それぞれがランタンを片付けた。


地下三階を歩いて行く。
どういう理由か、これまでより道が大きくなっていて歩き易い。トロル2匹分ほどの横幅があった。

地下3階もまた上階と同じようにゴブリンやトロルが出現したが、道も広くなっており戦い易い。

「これなら問題なさそうだね」

これだけ広ければ普通の学生でも連携が取りやすいだろうと考える。

「ここまで来ていたらの話じゃない?」
「どういうこと?」
「おかしいと思わない?ここまで誰とも会ってしていないわ」
「まぁ……確かに」

可能性としては全員が問題なくスムーズに前に進んでいるのか、偶然誰とも会わなかっただけなのか、それとも何らかの方法で脱出しているのか。

「まぁそんなに気にすることもないんじゃねぇの?これだけ簡単な試験なんだ。どうせ先に進んでいるだけだって」
「だといいけどね」

レインは楽観的に考えていた。


そうしていくらか歩いていると突然壁が動き出す。

「今度はなに!?」

ズモモと音を上げて、壁から岩の塊が現れた。

「お次はゴーレムか」

ゴーレムは岩で出来た人型を構成しており、その身体は刃物を通さない。
スフィアの父ジャンのような剛剣、ガルドフ校長ほどの剛腕であれば肉弾戦もできるのだが、学生の一学年の子供らにとってそれらは現実的な話ではない。

「なるほど、ゴーレムとは試験にぴったりな相手ですわね。ここはわたくしが行きますわ」

笑みを浮かべながら前に進むエレナ。

「えっ?僕が行くよ?」
「いいえ、あなたはまだ必要ありませんわ。まだわたくしたちに任せて下さいませ」

とは言ってもここまでほとんど戦わせてもらっていない。
身体が戦いたくてムズムズする。

レインもモニカもエレナもヨハンが戦うことで楽に進めるのはわかりきっていた。

しかしこれは試験。
自分たちもしっかりと戦えるということを証明したかった。
結果、行動として表れている。


ゴーレムはズシンズシンと重量を感じさせる振動を上げながら近付いて来た。
トロルよりは小さい体躯だが、圧倒的な身体の頑丈さは折り紙付き。

「まともに相手をする必要は全くありません。ここは魔法をどれだけ扱えるかに焦点が当てられていますわ。――――ウォーターボール」

エレナはほとんど無詠唱で水の塊を中空に出現させた。

一切の躊躇なくゴーレムにぶつけると、ゴーレムは躱すことなくドパンと音を立ててエレナの魔法が直撃する。

「あら?思っていた以上に張り合いがないですわね」

ズムムと鈍い音を立てながらゴーレムは無残にも土に還った。
土の中が僅かにキラリと光り、エレナが近付くとそれを拾いあげる。

「あまり質はよろしくないようですので仕方ありませんか」

エレナが拾いあげたのはゴーレムを形作る魔石だった。
エレナは簡単に言ってのけるが、ゴーレムを水魔法の一撃で倒すなどは普通の学生にはできない。

「(あくまでも普通の学生相手を基準にした試験内容のままなのでしょうか?)」

魔石を眺め、淡々とした口調のまま静かに考える。

「(ですが、本当にここまで他の学生に遭遇しないなんてことがあり得ますか?それにこれは、不可解な魔力の…………残骸ですわね。どこかで感じたことのある感覚なのですが――――)」

それがどこだったか思い出せないでいる。

もう少しで思い出せそうだと思ったところに再度地下に続く階段を見つけた。


もう迷うことなく階下に続く階段を下る。

「……おいおい、なんだよこれ――――」

思わずどういうことなのか理解できずに固まってしまった。

地下四階に下りた想像以上の景色が広がっている。
地下三階よりもはるかに広いその空間には、無数の学生たちが血を流し横たわっていたのだから。

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