S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帰郷編

第 百五話 叱責(前編)

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ヘレンとシェバンニがモニカの実家に戻って来てから翌朝に話をすることになっているのは、夜も遅すぎることから。

「どうぞ、奥様」
「ありがとうマリアン」

メイド長の、かなり歳のいった女性マリアンが応接間で紅茶を配り終えると、マリアンはヘレンの顔を確認する様に見てヘレンは「大丈夫ですよ」と小さく頷く。

「……では、何かありましたら」

マリアンは部屋のドアの前で小さく一礼をして部屋から出て行った。

「さて、ではお話を始めましょうか」

シェバンニが眼鏡の奥にある眼光鋭くヨハン達を射抜きながら見る。
睨みつけられたヨハン達はこれから何を言われるのかゴクッと喉を鳴らすのは、その表情からはどう見ても褒められるとは思えないのだから。

「まず、私はあなた達にこの遠征前、何をどう伝えましたか覚えていますか?」

シュンと肩を沈めているモニカ達目掛けて言葉を掛けると、お互い目線だけを小さく交わして順に口を開く。

「…………先輩の指示に従うこと」
「ええ」

先輩冒険者、ベテランから遠征について学ぶ必要があった。

「勝手な行動は慎むこと」
「はい、その通りです」

勝手な行動を取っても自分達には王都を出れば責任を取ることが難しい。

俯きながら自分達で口にすることで自責の念が大きくなるのだが、エレナはそこでシェバンニを見ながら凛とした声ではっきりと答えた。

「ですが、先生はこうもおっしゃられていましたわ」

エレナが何を言うのか視線が集中する。
シェバンニもエレナの言葉、口元をしっかりと見た。

「命の危機に瀕した時はその限りではない、と」

「…………そうですね」

エレナの言葉を聞いて、シェバンニも小さく頷くのだが同時にレインとモニカもハッとなり、確かにその条件を満たしているのだと内心で喜ぶ。

「では、それらを踏まえた上であなた達にお聞きします」

テーブルに両肘をついたシェバンニは顔の前で手を組んできつく見つめられた。

「(……大丈夫、条件は無事にクリアしている!)」

いくらか思考を巡らせるのだが、このままの流れであるのならばこの場はお咎めなしで終わる可能性もあるのではないかという程度にレインは期待を持つ。

「(……僕たちが今回したこと、それによる結果、かぁ……)」

ヨハンは改めて今回自分達がしたことを振り返り考えてみた。
そしてシェバンニが口にする言葉を待つ。

「あなた達は今回、先輩の言うことを聞かずに、守らずに、勝手な行動に出ました。間違いありませんね?」

シェバンニは口を開くとゆっくりと言葉を紡いでいった。それは事実で間違いはない。

「そして、その時に命の危機に瀕する状況に陥ったと、そういうことでよろしいのですね?」

「あっ――」
「えっ……いえ、それは、その…………」

そこでレインも気付いた。
改めて言葉にされることでエレナは言葉に詰まる。口籠ってしまった。

命の危機に瀕したというのは確かにその通りではあるのだが、勝手に見回りに出なければ恐らくその状況にはなっていない。

それどころか――――。

「どうやら理解して頂けたみたいですね。 それで? あなたはどう思いますか、ヨハン?」

問い掛けられた内容は先程まで自問していたことと一致する。

「……はい。僕たちは間違いなく余計なことをしました」
「余計なことですか? と言いますと?」

シェバンニが再び問い掛ける。

「…………あの……確かに僕たちはモニカの故郷を守るという大義をかざしましたが、自分達が置かれている立場を軽視していました。 それに、結果的にヴァンパイアに遭遇もしましたけど、シトラスにも襲われてしまい、戦闘にもなりました。 ただ、そんなことは冒険者をしていれば起きるかもしれないことで……――」

「そうですね」

「それでも、僕たちが動いたことでトマスさんやヤコブさんを助けることが出来たというのは事実だと思います」
「ええ。それのどこが余計なのでしょうか?」

ヨハンが一つひとつ確認する様に言葉にするのだが、レインもエレナもモニカもヨハンの言葉の意図がわからず疑問符を浮かべた。

そこで真っ直ぐに顔を上げて目の前にいる人物を見る。

「――僕たちが余計なことをしたというのは…………」

視線の先にいるのはヘレン。

「ん?わたし?」

「はい。恐らくヘレンさんがギルドの人が言っていた別口で依頼を受けていた人ですよね?」

問い詰めるように見つめると、ヘレンは思わず顔を逸らす。

「えっ? あー、いやぁ、どうかなぁ……」

とぼけた様に誤魔化そうとするヘレンなのだが、その反応を見るだけでもう十分だった。

「……お母さん。いくらなんでもそれは無理があると思うわ」

疑念の眼差しが集中することで、慌てて笑顔を向けられる。

「あははっ、まぁここまできて隠してもしょうがないわね。どうせ後で言うつもりだったし。 ええそうよ。 ヨハン君の言う通りよ」

頬をポリポリと掻きながらヘレンはあっけらかんとした様子で答えた。

「そうなると、可能性の話ですが、ヘレンさんがあの場に現れたことからしてもトマスさんとヤコブさんの救出に間に合っていた可能性があります。それにシトラス撃退にしてもそうなんですが…………」

つまり、自分達が行った余計なことというのが、ヘレンの裏での活動を邪魔していたかもしれないということになる。

「ええ、その通りですね」
「あちゃあ、そこまで気付いていたのね。確かにわたしはあのちょっと前からあそこにいたけど、一応タイミング的には偶然なんだけどね」

それだけ聞いて納得するのは、ヨハン達は今回無駄なことをしたのだと。

「(でも、収穫がなかったわけでもない)」

考えるのは、シトラスに遭遇できたことでシトラスが魔族だったことやシトラスの行いなどといったことの得られた情報もあった。

「しかし、根本的なことが間違っています」
「えっ?」

明らかに声を一段階大きくさせたシェバンニは怒っているのが容易に見て取れる。
間違っているというのはどういうことなのだろうか。

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