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帰郷編
第 百四話 擦り合わせ
しおりを挟む一方その頃ギルドでは。
「――――とまぁそういうわけで、今回の件はヴァンパイア絡みだったってわけね」
「さすがヘレンさん!頼りがいあり過ぎます!」
「ごめんねミランダ、こんな時間になっちゃって」
「ぜんっぜん問題ないです!結局大体は片付けちゃうじゃないですか」
ヘレンの報告を笑顔で応対するギルド受付嬢のミランダは満面の笑みを浮かべている。
とりあえず依頼の内容、ヴァンパイアについてはギルドに報告を行っており、その討伐を無事に終えたという形に間違いはなかった。シトラスのことまでは依頼にないので報告義務はないので現状伏せている。
トマスとヤコブはヤンセンが既に救護室に運び終えており、報告を終えてその場で話しているのはヘレンとシェバンニとヤンセン。
「それにしても、まさか先生まで来ているとは思わなかったわ」
テーブルに片肘を着いて呆れながらヘレンはシェバンニを見る。
「でもあなたもよく私に気付きましたね。実戦を離れていると思っていましたが?」
「ううん。さすがに今は前ほど実戦という実戦はしてないわ。 んー、たぶん直前まで気を張ってたからじゃないかな?でないと先生の変身を見破るなんてことできないもの。それに確か前にあの姿になったの見たことあったと思うから」
「なるほどね。それは盲点だったわね」
シェバンニはヘレンを観察する様にして見た。
「(ふむ。けして衰えているということもないようですね)」
「で?先生は何をしに?」
ヘレンが疑問を口にする。どうしてシェバンニはここにいるのかがわからない。
「あなたの娘のパーティーは色々と問題を起こし、時には巻き込まれるので遠征に出るものですからちょっと見ておきたかったのですよ。それでヤンセンに頼みましてね」
「ふぅん、まぁわからなくもないわね。それに裏稼業もやってるような節もあったし。まぁその辺はあとでちょっと聞くけどね」
「あんまり追及しないでくださいよ?」
「わかってるわ。どうせ極秘事項なんでしょ?」
「……あのー?」
ヘレンとシェバンニが軽快に言葉を交わしていく中、ヤンセンが困惑しながらシェバンニとヘレンを見て口を開く。
「なんですかヤンセン?」
「あ、あの、先生? この人は? 話の内容からして先生の知り合いとは思いますけど、先生の変身を見破るなんて相当な――――」
「あら?あなた知らないのですか?……そうですね、【黒い閃光】といえば伝わりますかね?」
「く、黒い閃光だって!?」
ヤンセンは驚きに目を見開いてヘレンを見た。
「…………黒い閃光っていやぁ、王都を拠点にしてソロでS級まで登り詰めたっていう……闇夜を駆け抜けるそのあまりにも圧倒的な速さと強さで並みいる魔物や言い寄ってくる男を一瞬にして倒していったっていう」
「あら?先輩もご存知でした?」
「あ、ああ。あまりにも短いその活動期間だったことで引退までも閃光だったとは聞いたけど、まさかこんなところにいたなんて…………」
「昔の話ですよ。昔の。今はしがない主婦ですよ」
笑いながら答えるヘレン。
「その様子じゃどうやら結婚も閃光のだったようですね」
「先生はご結婚を?」
ヘレンがその二文字を口にした途端、急激にギルド内に冷気が蔓延する。ヤンセンは身震いして腕を組み二の腕をさすった。
「あっ、ごめんなさい。余計なことを口にしたみたいですね」
口元に手を当てる微笑むヘレンに対して青筋を立てるシェバンニ。
「そうですね、その辺りの話は関係ありませんので置いておきましょうか」
「(そもそも先生から結婚の話をしたのに)」
ヘレンは若干の理不尽に思いながらも掘り下げる必要もないと考え、そのまま笑顔を向ける。
「さて、あとはそのシトラスの話ですね」
「ええ」
そこでヘレンとシェバンニは同時にヤンセンを見た。数瞬の時間が流れた後、ヤンセンは見られた意図に気付いて口笛を引き出して立ち上がった。
「さーて、トマスとヤコブの様子でも見て来るかなー」
そのままギルドの奥、救護室の方へ姿を消していく。
「シトラスの目的はヴァンパイアを使って何をしようとしていましたか?」
「…………そこなのよね」
ヘレンはしばし考え込むのだが答えが見いだせない。
「あいつ、かなり強かったわ。倒せないってほどでもなかったと思うけど、ムキになって戦おうとしなかったあたり、たぶん本当に目的は達成したのかも」
「魔物を造る目的ですか…………」
「そういえばヨハン君が気になること言ってたわね。笛がなんとかって。それにあいつとも初めて会ったわけじゃないみたいだったし」
「それについては私も聞き及んだだけですが、以前そのシトラスが造ったという魔物に襲われたことがあったそうです。それに、王都でオルフォード伯爵がその笛を使って国家転覆を目論んだということにもそのシトラスが関与しているかもしれないと」
「へぇ、学生生活満喫しているわね」
「笑い事じゃありません!」
「いや、だって貴重な経験をしているってことでしょ? それで?笛で国家転覆?どういうこと?」
シェバンニの言葉に疑問符を浮かべる。
「まったくあなたは変わっていませんね。 つまり、オルフォード伯爵が持っていたというその笛は魔物を召喚するらしいのです。そしてその笛がシトラスに渡されたということらしいのですよ」
「…………へぇ、魔物を召喚する笛を魔族が作ったと」
「他にシトラスは何か言っていましたか?」
「…………そうね、他には…………魔王の復活がどうだとか絵空事を口にしていたわね。んなことあるわけないじゃないの」
ひらひらと手を振るヘレンはへらへらと笑っているのに対して、シェバンニは目を細めて神妙な顔付きでヘレンを見る。
「そうでしたね。あなたは知らなかったのですね」
「……なんのことよ?」
「どうやら世界樹の光が落ちてきているらしいのですよ。それでガルドフが調査に出ています」
「ガルドフが!?」
「あと、これは内密にしておいて欲しいのですが、アトムとエリザも恐らく一緒かと。声を掛けると言っていましたので」
「――!?」
ヘレンはシェバンニの言葉を聞いて驚愕した。何も言えずに口を開ける。
「――――本当の話なのよね?」
「ええ。ですが、果たして真実はどうなのかわかりませんよ?」
「わかったわ。ここまで聞いたんだからまた何かわかったら教えてね。中途半端だと気持ち悪いから」
「そうですね、わかりました。ただ、結果が出るのが一年後になるのか二年後になるのか…………」
「まぁ便りがないのが一番良いってことにしとくわ」
「わかりました」
「じゃあそろそろあの子らのところに行きますか。もちろん先生も一緒ですよね?」
「当り前です。言いたいことは色々とありますのでね」
「……はははっ」
ヘレンは苦笑いしながら立ち上がった。
「(あちゃあ、これはあの子ら怒られるパターンね)」
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