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エピソード スフィア・フロイア
第百二十一話 閑話 初任務⑥
しおりを挟む「……あ、あいつ、あんなに強かったのか!?」
驚愕するのはスネイル。
スフィアとアスタロッテによってこの場を離れるように言われたのだが、スネイルは岩陰に隠れてスフィアとアスタロッテが戦うのをジッと見ていた。
襲い掛かる正気を失ったアルスとマルスとロシツキーは騎士の動きとはおよそかけ離れた動きしかしていない。
「え、えへっ、えへへ」
「いや、ほんと気持ち悪いわ!」
「――えへへへへ」
軽快に蹴り飛ばすアスタロッテなのだが、蹴り飛ばされたアルスはすぐさま起き上がり、だらりとした腕を前に出している。
「スフィアちゃん、こっち代わってよぉ!」
「いやよ。気持ち悪いじゃない。私はこっちの相手をするの」
「ズルい!じゃあ早く倒してよ!」
「けど、どうにも降りてこないから決定打に欠けるのよねぇ」
サキュバスは上空で息を切らせていた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……く、くそっ」
スフィアが上空目掛けて水魔法を放っていたのだが、如何せん魔法はそれほど得意ではない。
そのため隙を見ては跳躍して剣戟を放っている。
しかし、サキュバスは背中の羽を使ってギリギリのところで回避していた。
「もうっ!だからそういうのはウチの方が得意なんだって。スフィアちゃんはこっち!」
アスタロッテはスフィアと入れ替わるようにして位置取りを変える。
途端にスフィアの目の前にはマルスが襲い掛かるのだが、スフィアは余裕で躱して足を引っ掛けて転倒させた。
「見てなさい。こういうやつには――――こうしてやるのよ!」
アスタロッテは両手をサキュバス目掛けてかざす。
グッと魔力の集束を確認すると同時に風の刃を複数飛ばした。
「なッ!?」
風の刃は多方面からサキュバス目掛けて襲い掛かり、サキュバスは急所を腕で防ぐのだが背中にある羽までは守ることができずに風の刃に切り刻まれる。
「やった!」
岩陰で見ていたスネイルもグッと握り拳を握る程に、羽にいくつもの傷を負ったサキュバスは上手く飛ぶことができずにそのまま地面に落下した。
そして、地面に落ちるのと同時にアスタロッテは騎士剣を抜いて斬りかかる。
「グッ……よ、よくもワタシの羽を――――」
目の前のアスタロッテをきつく睨みつけながらサキュバスは地面に手の平をつけた。
「ナメるなッ!」
サキュバスが地面に魔力を送り込むと同時に、目の前の地面が隆起する。
「――!?」
突然の衝撃に驚き、アスタロッテは後方に飛び退くのは、隆起した地面が大きな人型に形作り、それが大きく腕を振るってきたから。
「スフィアちゃん、あいつゴーレムを生み出したわ!」
「どうやら魔力量が尋常じゃない程に多いみたいね」
剣を鞘に戻してアルス達を追い払っているスフィアと背中を合わせて、背中越しに会話をする。
驚愕するのは、サキュバスがゴーレムを生み出すほどの魔力を有していたということ。
「やっと理解したわ。色々とおかしいと思っていたけど、どうやら突然変異か何かのようね」
「あいつが?」
「ええ。でないとこれだけの人数を魅惑状態にしておきながら、更にゴーレムなんて生み出せるはずがないもの」
「……なるほど、ね」
通常のサキュバスが魅惑できるのは、一体につき一人まで。
それがこの場では村人を十八人に加えて騎士達三人を起きたまま魅惑状態に誘った。そのうえでゴーレムまで生み出すのなど、普通のサキュバスでは到底あり得ない。
「選手交代ね」
「えー!」
「ならあれに対して何かできる?水魔法苦手じゃなかった?」
「一度やってみる!」
アスタロッテが手をかざし、魔力を練り上げて水魔法を放つのだが、水撃はゴーレムの身体を僅かに穿ったのみですぐにその穴は塞がる。
「ほら、無駄じゃない」
「むぅー」
不満気にスフィアと立ち位置を入れ替えて、アスタロッテは視界の中に仲間の騎士達を見ると、あまりのおぞましさで寒気を覚えた。
「ス、スフィアちゃん……こ、これ…………」
「え? ええ。殴っても殴っても起き上がって来るからつい叩き続けてたらああなっちゃったのよ」
「(……これ、もう誰が誰だかわからないわよ)」
頬をヒクヒクさせるのは、アルス達は顔面をパンパンに腫れ上がらせているにも関わらず、気絶することもないままグフグフと気色の悪い声を上げているのだから。
「こ、これあいつらいよいよ危ないんじゃないか!?」
それまでの様子を見ていたスネイルは慌てて背を向け、洞窟の外を目指して走って行く。
「さーて、どっちの魔力が長持ちするのかしらね」
スフィアは再び鞘から剣を抜き放ち、赤と青の光を剣に灯らせた。
グッと眼光鋭く目の前のゴーレムを射抜いて構えると同時に、タンっと軽やかに踏み込む。
「ハッ!無駄なことを!魔剣とはいえこいつを易々と斬れるものか!醜いメスブタは醜く踏みつぶされて挽肉にでもなってナッ!」
ゴーレムの背後で悠々と踏ん反り返っているサキュバスなのだが、次に繰り広げられた目の前の光景に思わず目を疑った。
振り下ろされるゴーレムの腕を軽く躱すスフィアは、拳を地面に突き立て轟音を立てるゴーレムの腕を容易に切り落とす。
「は?」
「だから言ったでしょ?覚悟は出来ているわよね?って」
余裕の笑みを浮かべた。
一方その頃、洞窟を出ていたスネイルは肩で息をしている。
「……はぁ……はぁ……。 チッ、あいつら女の癖に生意気だが死んだとなればオレも寝覚めが悪いしな」
ブツブツ文句を言いながらスネイルは腰元に手を送り、一本の竹筒を取り出した。
「あんな隊長でも来ないよりはよっぽどマシだろう」
竹筒を上空目掛けて構える。
その竹筒はお互いの居場所を知らせる為にアーサーから渡されていた竹筒で、後部の紐を引っ張ると魔力の塊が色付きの煙を伴って射出するというものであった。
大きな噴煙を上げるその竹筒を、スネイルは片目を瞑りながら勢いよく紐を引こうと手に力を込める。
「待ちたまえ」
「――――!?」
突然紐を持っている腕を押さえられた。
「えっ?」
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