S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都訪問編

第百七十八話 惨劇

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「何か作物でも燃やしているんじゃないんすか?」

黒煙に向かって手綱を握るロブレンは信じられない様子の表情を浮かべていた。

「いや、だとしたら煙は白煙になるはずだよ」
「……それもそうっすね」
「ロブレンさん、農家の出身じゃなかったけ?」

ニーナがロブレンを呆れるように見る。

「ニーナ嬢ちゃん手厳しいっす」

とはいうものの、ロブレンもそれぐらい知っている。いや、知らなかったわけではなく信じたくなかっただけ。
黒煙が上がるということは草木以外の何かが燃えていることの証明。

「周囲に気を張っておけ。突然襲って来るかもしれないからな」
「はい」
「うん」

情報が足りないどころか原因不明。
今のところ周囲に目立った気配は見られない。しかし野盗にせよ魔物にせよ、原因がそこにあるのなら襲われることになることも視野に入れなければならない。

「……おいおい、マジかよ」

当初は飄々とした態度のロブレンだったのだが、ヨハン達の表情が一変したことでロブレンにも緊張感が走った。

「おいおい、俺はツイてるんじゃないのかよ」

手綱を握る手にグッと力が入る。
何か飛び出して来るのではないかと、怯えながら小さく呟く。
ここまで順調に来ていたのだが、帝国領に入った途端に風向きが大きく変わった。

「クソっ!ほんとに大丈夫なのか!?」

ラウルはまだしも、ヨハンとニーナは見た目子どもにしか見えない。果たして野盗や魔物に襲われれば助かることが出来るのか不安を抱く。

いくらかの疑念を抱きながらも、懸念していたような不意に襲われるというようなことはなく黒煙の下に辿り着いた。

だが、そこには目を疑うような光景が広がっている。

ラウルの言葉通り、そこには小規模な村があった。
いや、正確には村があったという痕跡だけ。

そう表現した方が正しい。

「……ひどい」

見るも無残なその光景。
木造建てだったであろうその村の家屋はほぼ全てが燃え落ちており、原型を留めていない。
燃えているのは家だけではない。人や家畜のような黒い塊、その村に存在したであろう生物の何もかもが黒焦げになってしまっていた。

「みんな……燃えちゃってるね」

周囲を見渡しても村の中での生存者に一切の希望が持てないのは一目でわかる。

「うぷっ」

ロブレンは口を手の平で押さえた。
想像以上の惨状に耐えられなくなり、吐き気が込み上げて来る。

「無理しなくてもいい。生存者の捜索は俺達でする」
「え、ええ。で、ではお言葉に甘えまして、自分は……少し、休ませてもらいます」

そうしてロブレンはフラフラの足で馬車の方に歩いて行った。

「仕方ないか」

ロブレンの後ろ姿を見てラウルは小さく息を吐く。つい最近まで農家をしていたのなら耐えられないのも無理はないと。

「周囲に魔物らしい気配はないが、念のためにヨハンとニーナは二人で動いてくれ」

辺りを軽く見渡しながら声をかけられた。

「わかりました」
「はい」

壊滅の原因が全くわからない以上、ラウルはまだしもニーナと一緒になり二手に分かれて行動することになる。


「――誰かいませんかー?」
「おーい!」

それからニーナと二人、ゆっくりと周囲に気を配りながら生存者の捜索を始めた。
しかし、どこにも反応が見られない。

「一体、何が起きればこれだけのことが起きるんだろう?」
「ねぇ」

疑問を抱きながら村の中を歩く。
魔物が村を全滅させることはあるにはあるのだが、ここまでひどいのは聞いたことがない。

「もしかして、あの飛竜のような竜がまた?」

それを連想させる程の規模の壊滅具合。だとすれば多少の納得はできるのだが、目撃者がいない以上断言できない。

「全然いないね」
「うん」

生存者がいないかしばらく探してみるのだが、見るのも吐き気がするほどの凄惨な光景だけが広がっているのみで、生き残りは見つからない。

「ラウルさんの方はどうなんだろう?」

そう考えるのだが小さな村。
すぐにラウルが姿を見せた。

「あっ、ラウルさん」
「そっちはどうだ?」

俯き首を左右に振る。

「……そうか。これだけ燃え落ちているのだ。仮に生き残りがいたとしてもすぐにどこかに身を隠すだろうな」
「そうですね」

引き上げようと馬車の方向に身体を向けるラウル。

「仕方ないな」

もう生き残りを探すことに意味を見いだせないでいた。

「何か他にできることないかな…………」

本当にこのまま引き上げてもいいのだろうか。
何もないかもしれないが、もしかしたらまだ何かできることがあるかもしれない。
だが、かといって虱潰しに探す程の手もなければ他に探す手段に覚えもない。

「せめて声だけでも聞こえれば……――」

気配も感じないので、目に見える範囲に変化がなければ耳だけでもいい。

「――……あっ!」

思考を巡らせたところで、ふと一つだけ可能性が過りニーナを見る。

「そうか。目でも視えるかもしれない」

ピタッとその場で立ち止まり、前を歩いているニーナの背をジッと見つめた。

「どうした?」
「お兄ちゃん?」

ヨハンが立ち止まったことでラウルもニーナもどうしたのかと疑問符を浮かべながら立ち止まる。

「いや、あのさ。もしかしたら、ニーナのその眼で倒壊した建物の下に誰かいないかとかって探すこと、できないかな?」
「えっ?」
「……なるほどな」

つまり、魔力を見通せる魔眼持ちのニーナならば、生存者を探すことができるかもしれないと考える。

「うーん。やってみないとわからないけど、生きていればわかるかもしれないかな? でも、こんな状況で生きてる人なんていないんじゃない?」

辺りを見渡しながら話すニーナ。それはヨハンもわかっている。

「でも、やれることはやってからにしたいからさ」
「まぁお兄ちゃんが言うなら……」

仕方なしとばかりに小さく息を吐きながら、ニーナは眼に集中を向けた。
目を凝らしながら周囲を見る。

「うーん。やっぱりいないよぉ?」

手の平を添えながら見てみるのだが、それらしい魔力は見えない。

「ごめんニーナ。もうちょっとだけお願い」
「わかったよぉ」

渋々顔のニーナを先頭にしてもう一度村の中を歩くことにした。

「うぅーん」
「やはりいないか」

手の平を眉に添えながらニーナは難しい顔をする。

「誰かいませんかー?」

再び声を掛けながら見て回ったのだが結果は変わらなかった。

「――……あとは、ここだけだと思うんだけど?」

立ち止まる場所は、村の中でも一番大きな建物があったであろうという形跡のあるその場所。

「やっぱりダメだったか……」

僅かな可能性に賭けてもう一度見て回ったのだが徒労に終わる。

「ん?」

倒壊した建物に目を向けるニーナが僅かに首を傾げた。

「んん?」
「どうしたの?」

ニーナは下唇に指を一本送り考え込む。

「うーん、なんかここ、ちょっとおかしいんだよねぇ」

どうにも違和感を拭えない様子を見せた。

「おかしいって?」
「うん。なんとなーくだけど、小さな魔力が視えるような視えないような、どっちなんだろう?」

声に対する反応がなければ物音もしない。魔力を視通しているだけなので魔道具とかなのかもしれない。
とはいえ、ニーナの言葉だけで微かな希望が持てる。

その言葉だけで生存者がいる可能性に。

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