S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都活動編

第 二百四話 ワーウルフ討伐

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そうして一同はワーウルフを討伐するために出発する。

依頼書に書かれている目的地は帝都から馬車で街道沿いに移動して一時間程度の深い森。
その森は帝都近郊にしては売れ筋の果物や薬草の採集が頻繁に行われている帝都の人間にとっては比較的馴染みのある場所。

深い緑が生い茂っている割には光がそれなりに入り込んでおり、見上げると木々の葉にはそこそこに隙間が見られた。おかげで視界は充分に確保できる。

森の中の先頭をモーズが歩き、続けてアッシュとヨハン。少し離れて歩くのがニーナとロロ。

「そういえばアッシュさんは武闘大会に出たことあるんですか?」

ワーウルフの目撃情報があった場所に目的地に着くまでの間、アッシュに問い掛ける。
帝都で活動をしているアッシュなら出場している可能性があった。

「ああ武闘大会か。あることにはあるよ。二年前の話だけどね」
「結果はどうだったんですか?」
「残念ながら二回戦負けだったよ」

出場の理由は腕試しだったのだが、二回戦で敢え無く敗退したとのこと。アッシュに勝った者も三回戦で敗退しており、上には上がいるものだと痛感したのだと。

「それがどうかしたのかい?」
「ああいえ。ニーナが武闘大会のチラシを持っていたので、どんなのか知っている人がいれば聞いておきたいと思いまして」
「そういえばもうすぐあるなぁ。確か一か月後ぐらいだったか」
「今回は参加しないんですか?」
「さすがにないな。あれから多少は強くなってるにしても劇的に強くなってるわけじゃないし。再挑戦してみたい気はあるけどあそこは中々の猛者揃いだからね。そういうヨハンは出てみるのかい?」
「そうですね。参加してみたい気はあるんですけど、知り合いの許可がなければ…………」

ラウルに確認してからでなければ参加するとは断言できない。

「(アッシュさんで二回戦負けか。なら相当に強い人達が出場しているんだろうね)」

ここまで一緒に活動をしてきた中で、アッシュは弱いとまでは言い切れない。だが特別強いというわけでもない。

「許可?」

ヨハンの言葉の中に違和を感じ取ったアッシュは疑問符を浮かべた。

「あっ、僕たちを帝都に連れて来てくれた人のことです。勝手して迷惑をかけるわけにはいかないので」
「ヨハンの師匠だね。そういえば全く顔を見ないけど、大丈夫なのか?」
「はい。それは問題ありません」
「そうか。ならいいけど、なにかあればいつでも遠慮なく言ってくれよ?」
「わかりました」

今日の活動が終われば武闘大会のことを確認する為にラウルの下を訪ねるつもりでいる。
アッシュに対する返事はそれからで良かった。

「(この子らの師匠だなんて、一体どんな人なのだろうね)」

これだけの強さを身に付けた子。
ワーウルフの事を知っているにも関わらず臆する様子を全く見せないこの自信。
横目に見て、改めて考えても不思議でならない。

「(相当な人物なのだろうね)」

それだけの武芸者なら一度顔合わせをしてみたくなる。

「なんだヨハン。武闘会に出るのか?」

アッシュとの会話を聞いたモーズが歩きながら顔だけチラッと振り返った。

「はい。機会があれば、ですけど」
「やめとけやめとけ。お前でも組み合わせの運が良ければ一回か二回は勝てるかもしれんが、よっぽど腕に自信がないとあそこの上位は化け物だらけだぜ。ソロの傭兵紛いの冒険者や強さを探求している武道家達、それに帝都の有望な若手兵士どもが出場しやがるからな」
「へぇ。そう、なんですね…………」

一体どんな大会なのか、想像が膨らむ。

「ハッ」

返す言葉にモーズはヨハンが尻込みしていると感じて鼻で笑った。

「(どうしよう。となると俄然出てみたくなってきた)」

しかし考えているのは真逆。
見知らぬ土地の見知らぬ強者。どうにも胸の高鳴りを押さえられない。出場願望が強くなる。

グッと胸の辺りを静かに力強く握った。

「まぁその話は後ででもできるから帰ってからゆっくりするとしようか。もうすぐワーウルフの目撃のあった地点だ。気を引き締めてね」

そろそろ戦闘準備に入るように指示を出す。

「アッシュさん!」

瞬間、突如木の上から気配を、明確な殺気を感じ取った。
アッシュよりも早く気配を感じ取ったので大きく声を掛ける。

「わかってる!」

ヨハンの声に同調するアッシュは、地面を踏み抜いて後方に飛び退いた。
直後、地面がドスンと鈍い音を鳴らす。

「……出やがったな」

モーズも腰から剣をスラッと抜き放ち、それまでの態度から一変して真剣な眼差しを目の前に向け臨戦態勢に入った。

「さすがだね。鉄で出来たこいつが見ての通りだ。アイツの攻撃、腕力は尋常ではない」

アッシュが鉄の防具であてがわれた胸のところを、冷や汗を流しながら指先を使ってゆっくりと触る。
そこにはくっきりと爪痕が残っていた。

「まともに喰らえば即死。運よく生きていても重症は避けられないね」
「……あ、ああ」

チラリと横目に見るモーズはその傷がもたらす事態にゴクッと息を呑むのは、鉄製の防具に易々と傷を付けるその爪痕に驚愕を示す。

「ガルウゥゥゥ…………――――」

目の前の人型の獣がヨハン達を見ながら低い唸り声をあげた。

「動きを止めるなよ」
「ああ」
「はい」

現れたのは身体中を濃い茶と白の体毛を生やせた狼の顔をした魔物。
ワーウルフと呼ばれるその魔物の手、指先からは長く伸びた爪が鋭利な刃物と化しているのは既に確認している。その頑強さを物語るように、爪の先にはアッシュの鎧の削り取った部分が凝縮されて引っ付いていた。

「グゥ」

ワーウルフは爪に付いた鉄の塊を、腕を振るって横に飛ばすと地面でガシャっと音を立てる。

「こいつがワーウルフ……」

初めてみる魔物をしっかりと見た。

「そうだ。アイツの攻撃は爪だけではない。あの牙にも十分に気を付けろ」

小さく開けた口から見える獣独特のその牙と長く伸びた爪。
人間の平均的な大人の男以上の体格のワーウルフは全身が筋肉質であり、肉体的には普通の人間を遥かに上回る。

事前に確認していたことと一致していた。対峙するのは初めてだが授業で習ったこととそれほど大差はない。

「(たしか、ワーウルフは好戦的でその攻撃手段はあの鋭い爪と牙によるもの。それに加えてその爪と牙を食い込ませるための尋常ならざる脚力による踏み込み)」

ジッと観察しながら思い出していた。

「こいつ一匹程度ならあたしだけで大丈夫だって」

背後から聞こえる声、ニーナはいつもの調子。

「あんたは大人しくあたいと一緒に後方支援さね」
「えぇっ?」
「そうやって調子に乗って傷を負われる方が面倒さ」
「でも大丈夫だよ?」
「いいから最初はあいつらに任せな」
「ぶぅううっ」

どう聞いても残念がっているその声。
チラリと背後を振り向くと、予想通りニーナは頬を膨らませている。

「余所見している暇はないぜ!」
「わかってます」

モーズの声に反応して前を向くと、ワーウルフが前傾姿勢になって脚に力を込めるのが見えた。

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