S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都活動編

第 二百三話 指名依頼

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「はっはっは!マジかよ!?こんなことってあるか!?質の悪い嘘じゃねぇよな?」
「至って大真面目な話だね」
「おいおい。ったくよぉ。俺達も随分と評価されてるじゃねぇか」

機嫌良く笑顔でアッシュの背中を平手で叩くモーズ。

「ほんとさね。これもアッシュがこの子達を見つけて来てくれたおかげさね」
「ちょっとオバサン。突然なによぉ?」

ロロも機嫌よく笑顔でニーナの肩を抱く。

「んんー?今は気分が良いからその口の悪さも許してあげるさ」
「ゆ、ゆるひてないれす」

ニーナは口の端を片手でつねられていた。

今回の依頼。
掲示板で依頼を見繕っていたところで受付に呼ばれたアッシュは受付嬢から直接依頼を受ける事になる。俗にいう指名依頼。

「いたた。ねぇお兄ちゃん。アレってそんなに珍しいの?」
「みたいだね」

事の経緯をアッシュから聞いたヨハンとニーナは特に変わらず平常心。
どうみても浮かれている三人を見て不思議に思う。

「どうしたのさ?あんた達ももっと喜びなよ」
「きっとこいつらはこれがどれだけ名誉なことか知らないんだから無理ないって」
「それもそうさね」

未だににへらと気味の悪い笑みを浮かべながら話しているモーズとロロ。

「あの?」
「なんだい?」
「その指名依頼、ギルド長からの指名ってそんなに凄いんですか?」
「コレかい?」

隣にいるアッシュに問い掛けるとアッシュは目線を卓上の依頼書に向けた。

「ああ。もちろんだよ。依頼人から直接指名が入るのは知ってるだろ?」
「はい」

依頼人が記載されている場所を指でトントンと叩きながら説明を始める。

以前に依頼を受けたことのある人から次も受けて欲しいと指名が入るのは信頼の証。
割り込みや相手の事情や都合もあるため指名にはその分割高、冒険者側からすれば報酬の上乗せ。それだけでなく、さらにありがたいのは、指名が入るだけで冒険者としてのその評判が広がり、付加価値として他からの指名も入りやすくなる。

「それだけでも十分なのに、今回はギルド長からの直接の依頼と来たものだ。モーズとロロの気分が良くなるのも仕方ない。もちろん俺だってそうさ」
「……へぇ」

ギルド長からの直接指名依頼。
それは普通の依頼人の枠を遥かに超えた名誉。報酬がそれほど大きく上乗せされるわけではなくとも、ギルド長から直接依頼を受けることができる実力ある冒険者として認められた事を意味した。

つまり、そのギルドの一握りの実力を持ち合わせた冒険者なのだと。

「ねぇ、なんか妙に視線を感じるんだけど?」
「だね」

周りの冒険者達がひそひそと話しながらこちらを見ている。
どうしてこれほどまでに注目されるのかわからない。

「さっきの話を他の奴に聞かれてて、それですぐに話が広まったのだろう」

ニーナの疑問に対する答えをアッシュが答えた。
しかし、それにしても周囲からの注目度がもの凄い。

「あと、どうしてB級の依頼を受けられたのですか?」
「そう。そこは俺も疑問だぜ」

それまで気色の悪い笑顔で話していたモーズも話題が変わると途端に真顔になる。

「そのことだけど、ここから先は特に注意して聞いてくれ」

気を引き締めるように真剣な顔付きで指を一本立てて声を発すアッシュ。

「な、なんだよ?」

モーズも思わずゴクッと喉を鳴らした。

「もったいぶらないでさっさと言いな」

ロロは机に肩肘を着いている。

「ああ。実は、この依頼だが……」

ゆっくりとアッシュの言葉に対して全員が集中して耳を傾けた。

「前に……」
「まえに?」
「前に、ゼンたちが受けたのだが、途中で放棄した依頼なのだってさ」

言い終えたアッシュは途端に笑顔になる。
それを聞いた途端にモーズとロロは目を丸くさせた。

「おいおい」
「なんだって?」
「その依頼を……」
「ゼン達が……」

「「失敗したって?」」

信じられないものを見るかのように、確認する様にゆっくりと声に出す。

「ああ。つまり、俺達はアイツらの尻拭いをするわけだ」

ニヤリとアッシュが笑った。

「…………」
「…………」

静寂が流れる。

「だっはっはっは!こりゃたまんねぇな!」
「ぷくく。全くだ。傑作さね」

しかし数秒も持たないうちにアッシュ達三人は顔を近付けてお互いの目を合わせるなり爆笑した。

「ねぇお兄ちゃん」
「なに?」
「どうして尻拭いさせられることをこの人たちはこんなに嬉しそうなんだろ?」
「うーん…………」

アッシュ達はゼン達の事を間違いなく好んではいない。
なのに、彼らが失敗した依頼を行わなければいけないことを喜んでいる。

「たぶん、あの人たちが失敗したことが嬉しいのと、それをあの人たちよりランクの低い自分達にギルド長からの指名として入って来たことでギルドの評価が思っていた以上に高かったから嬉しいんじゃないかな?」
「……なるほど。要はただ単に性格が悪いだけの話ね」
「言ってしまえばそうだけど」

はっきりと言い過ぎなのだが、この様子を見ている限りニーナの見解もわからなくもない。

「まぁ僕たちとしてはいつも通り依頼を受けるだけのことだね」
「だね」

シグラム王国で依頼を受けていたこととそう変わらない。
ギルド長どころかローファス王から直接指名依頼を受けていたのだから。

「はぁ。笑った笑った。しっかしワーウルフかぁ。となると打ち合わせはしっかりとしないとな」

ひとしきり笑い終わった後、真面目な顔つきをして依頼書に目を落としたモーズが口を開く。

「ワーウルフって、確か人狼のことですよね?」
「ああ。ここらじゃ滅多に遭遇しないが、知ってるかい?」
「はい一応。前に授業で習いました」

魔物に関する授業の際に習ったことを思い出した。

「授業?」

疑問符を浮かべながら問いかけられる。

「あっ、こっちの話です」

別に説明しても良かったのだが、色々とややこしい事情があるので説明するのも一苦労。
今はその必要を感じないので苦笑いしながら手を振った。

「なんだ?」
「また時間がある時にでも」
「まぁいい。今はそんなことどうでもいいか。知っているのは話が早いしね。でだ。ワーウルフを人狼と呼ぶのは間違いない。場所によってはそう呼ぶ地域もある」
「討伐難易度は高いのですか?」
「まぁな。人型で獣並みに素早い動きをして、獣だから本能の方が勝るらしいが知能も一定数ある。つまり、魔獣に分類されるBランク討伐対象だ」
「へぇ」
「で、今回はそれが三匹目撃されている。おまけにワーウルフは人間を積極的に攻撃してくるのだ。となると早急に手を打たなければ被害が大きくなるからね」
「わかりました」

知っている情報、授業で習った内容と概ね変わらない。
となると、それほど困難を要するとは思えない。

「思っていた以上に怖がらないね」
「えっ?」

ロロが不思議そうにヨハンとニーナを見た。

「いや、あんたたちさ」
「僕たちですか?」
「ああ」

会話のやりとりから見ても、ヨハンとニーナに恐れは見られない。

「散々笑っておいてなんだけど。今回、あたいはちょっとばかし警戒しとかないと危ないと思ってるよ」
「まぁ大丈夫なんじゃないの?」

ニーナがあっけらかんと答える。

「おいおい。気楽にしてんのもそれぐらいにしとけよ? いくらなんでも俺たちだって危なくなって助けられねぇこともあるんだからそのつもりでいろよな」
「はぁい。わっかりましたぁ」
「ったく。ほんとにわかってんのか嬢ちゃん」
「もちろんですよ」

ニカっと笑うニーナの軽い返事にモーズとロロも呆れて溜息を吐いた。

「でも実際そのつもりでかかってくれよ?今の俺達なら十分に張り合えるはずだから油断さえしなければ大丈夫だと思うがね」
「わかりました」

アッシュからも念を押されるのだが、別に気を抜いているわけではない。

「さて、じゃあ行こうか」
「おうっ!」

気合の入った表情でモーズが立ち上がり、ギルドを出て行く。

「Bランクなんだよね?」

小首を傾げるニーナ。

「そうだけど、やっぱり気を付けておかないといつ何が起きるかわからないのも確かだよ」
「はぁい」

相変わらず軽い返事をされた。

「大丈夫そうだね」

だがニーナの眼を見ればわかる。

「なにが?」
「いつも通りのニーナだなって」
「当り前じゃないの」

アッシュ達に言われるまでもなくニーナも既に準備は整っていた。

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