S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
205 / 724
帝都活動編

第 二百四話 ワーウルフ討伐

しおりを挟む

そうして一同はワーウルフを討伐するために出発する。

依頼書に書かれている目的地は帝都から馬車で街道沿いに移動して一時間程度の深い森。
その森は帝都近郊にしては売れ筋の果物や薬草の採集が頻繁に行われている帝都の人間にとっては比較的馴染みのある場所。

深い緑が生い茂っている割には光がそれなりに入り込んでおり、見上げると木々の葉にはそこそこに隙間が見られた。おかげで視界は充分に確保できる。

森の中の先頭をモーズが歩き、続けてアッシュとヨハン。少し離れて歩くのがニーナとロロ。

「そういえばアッシュさんは武闘大会に出たことあるんですか?」

ワーウルフの目撃情報があった場所に目的地に着くまでの間、アッシュに問い掛ける。
帝都で活動をしているアッシュなら出場している可能性があった。

「ああ武闘大会か。あることにはあるよ。二年前の話だけどね」
「結果はどうだったんですか?」
「残念ながら二回戦負けだったよ」

出場の理由は腕試しだったのだが、二回戦で敢え無く敗退したとのこと。アッシュに勝った者も三回戦で敗退しており、上には上がいるものだと痛感したのだと。

「それがどうかしたのかい?」
「ああいえ。ニーナが武闘大会のチラシを持っていたので、どんなのか知っている人がいれば聞いておきたいと思いまして」
「そういえばもうすぐあるなぁ。確か一か月後ぐらいだったか」
「今回は参加しないんですか?」
「さすがにないな。あれから多少は強くなってるにしても劇的に強くなってるわけじゃないし。再挑戦してみたい気はあるけどあそこは中々の猛者揃いだからね。そういうヨハンは出てみるのかい?」
「そうですね。参加してみたい気はあるんですけど、知り合いの許可がなければ…………」

ラウルに確認してからでなければ参加するとは断言できない。

「(アッシュさんで二回戦負けか。なら相当に強い人達が出場しているんだろうね)」

ここまで一緒に活動をしてきた中で、アッシュは弱いとまでは言い切れない。だが特別強いというわけでもない。

「許可?」

ヨハンの言葉の中に違和を感じ取ったアッシュは疑問符を浮かべた。

「あっ、僕たちを帝都に連れて来てくれた人のことです。勝手して迷惑をかけるわけにはいかないので」
「ヨハンの師匠だね。そういえば全く顔を見ないけど、大丈夫なのか?」
「はい。それは問題ありません」
「そうか。ならいいけど、なにかあればいつでも遠慮なく言ってくれよ?」
「わかりました」

今日の活動が終われば武闘大会のことを確認する為にラウルの下を訪ねるつもりでいる。
アッシュに対する返事はそれからで良かった。

「(この子らの師匠だなんて、一体どんな人なのだろうね)」

これだけの強さを身に付けた子。
ワーウルフの事を知っているにも関わらず臆する様子を全く見せないこの自信。
横目に見て、改めて考えても不思議でならない。

「(相当な人物なのだろうね)」

それだけの武芸者なら一度顔合わせをしてみたくなる。

「なんだヨハン。武闘会に出るのか?」

アッシュとの会話を聞いたモーズが歩きながら顔だけチラッと振り返った。

「はい。機会があれば、ですけど」
「やめとけやめとけ。お前でも組み合わせの運が良ければ一回か二回は勝てるかもしれんが、よっぽど腕に自信がないとあそこの上位は化け物だらけだぜ。ソロの傭兵紛いの冒険者や強さを探求している武道家達、それに帝都の有望な若手兵士どもが出場しやがるからな」
「へぇ。そう、なんですね…………」

一体どんな大会なのか、想像が膨らむ。

「ハッ」

返す言葉にモーズはヨハンが尻込みしていると感じて鼻で笑った。

「(どうしよう。となると俄然出てみたくなってきた)」

しかし考えているのは真逆。
見知らぬ土地の見知らぬ強者。どうにも胸の高鳴りを押さえられない。出場願望が強くなる。

グッと胸の辺りを静かに力強く握った。

「まぁその話は後ででもできるから帰ってからゆっくりするとしようか。もうすぐワーウルフの目撃のあった地点だ。気を引き締めてね」

そろそろ戦闘準備に入るように指示を出す。

「アッシュさん!」

瞬間、突如木の上から気配を、明確な殺気を感じ取った。
アッシュよりも早く気配を感じ取ったので大きく声を掛ける。

「わかってる!」

ヨハンの声に同調するアッシュは、地面を踏み抜いて後方に飛び退いた。
直後、地面がドスンと鈍い音を鳴らす。

「……出やがったな」

モーズも腰から剣をスラッと抜き放ち、それまでの態度から一変して真剣な眼差しを目の前に向け臨戦態勢に入った。

「さすがだね。鉄で出来たこいつが見ての通りだ。アイツの攻撃、腕力は尋常ではない」

アッシュが鉄の防具であてがわれた胸のところを、冷や汗を流しながら指先を使ってゆっくりと触る。
そこにはくっきりと爪痕が残っていた。

「まともに喰らえば即死。運よく生きていても重症は避けられないね」
「……あ、ああ」

チラリと横目に見るモーズはその傷がもたらす事態にゴクッと息を呑むのは、鉄製の防具に易々と傷を付けるその爪痕に驚愕を示す。

「ガルウゥゥゥ…………――――」

目の前の人型の獣がヨハン達を見ながら低い唸り声をあげた。

「動きを止めるなよ」
「ああ」
「はい」

現れたのは身体中を濃い茶と白の体毛を生やせた狼の顔をした魔物。
ワーウルフと呼ばれるその魔物の手、指先からは長く伸びた爪が鋭利な刃物と化しているのは既に確認している。その頑強さを物語るように、爪の先にはアッシュの鎧の削り取った部分が凝縮されて引っ付いていた。

「グゥ」

ワーウルフは爪に付いた鉄の塊を、腕を振るって横に飛ばすと地面でガシャっと音を立てる。

「こいつがワーウルフ……」

初めてみる魔物をしっかりと見た。

「そうだ。アイツの攻撃は爪だけではない。あの牙にも十分に気を付けろ」

小さく開けた口から見える獣独特のその牙と長く伸びた爪。
人間の平均的な大人の男以上の体格のワーウルフは全身が筋肉質であり、肉体的には普通の人間を遥かに上回る。

事前に確認していたことと一致していた。対峙するのは初めてだが授業で習ったこととそれほど大差はない。

「(たしか、ワーウルフは好戦的でその攻撃手段はあの鋭い爪と牙によるもの。それに加えてその爪と牙を食い込ませるための尋常ならざる脚力による踏み込み)」

ジッと観察しながら思い出していた。

「こいつ一匹程度ならあたしだけで大丈夫だって」

背後から聞こえる声、ニーナはいつもの調子。

「あんたは大人しくあたいと一緒に後方支援さね」
「えぇっ?」
「そうやって調子に乗って傷を負われる方が面倒さ」
「でも大丈夫だよ?」
「いいから最初はあいつらに任せな」
「ぶぅううっ」

どう聞いても残念がっているその声。
チラリと背後を振り向くと、予想通りニーナは頬を膨らませている。

「余所見している暇はないぜ!」
「わかってます」

モーズの声に反応して前を向くと、ワーウルフが前傾姿勢になって脚に力を込めるのが見えた。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...