S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都活動編

第 二百二話 C級冒険者

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「冒険者の人達って何を考えているのかしら?」
「さぁ。アッシュさん達が気にしていないみたいだからいいのじゃない?」

その様子を見ている受付嬢も不満を露わにする。
ギルド内部の評価は真逆。難度が高すぎて時折依頼を放棄することがあるゼン達。

稀少な薬草の採取などや難度の高い魔物の討伐など、内容が内容だけに放棄するのも仕方がないと受け止められていた。
だが、アッシュ達はヨハンとニーナを加えた時のスタートこそⅮランクの依頼から始めたのだが、日を跨ぐ毎に依頼の難度を常に上げていっており、その依頼はこれまでのアッシュ達三人でならかなり苦労するはずの依頼難度に到達していた。

それを苦も無く遂行している。

「でもさ、マリ……あの子たち、そんなに凄いのかしら?」

受付嬢の一人がカウンターに片肘を着いて不思議そうにヨハンとニーナを見て口を開いた。
短期間でアッシュ達の周囲における変化といえばヨハンとニーナの存在。それによってそれだけの成果がもたらされているとしか考えられない。

「ミナ、もしかしてあなた知らないの?」
「なにを?」
「いや、だから……――」

受付嬢のマリが小さくミナに耳打ちした。

「えっ!?あの子達Aきゅ――」
「こらっ!」
「もがっ」

慌ててミナの口を両手で塞ぐ。
突然受付が騒がしくなり、周囲の冒険者達が目を向けた。

「ごめんなさい。なんでもないです」

苦笑いしながら声を掛けると、周囲の人たちはすぐに目を外す。

「だから大きな声を出さないでって言ったでしょ!」
「ご、ごめんって!でも今の本当?」
「ええ。この間ギルド長とラウルさんが話しているのを聞いたのよ。他の子に話したからてっきりミナも知ってると思ってたわ」

マリがミナに小さく耳打ちした内容。
それは――――。

『まさかあのアトムの子が来ているとはね』
『ああ。だから驚かないように先に伝えておこうと思ってさ』

会話の内容に疑問を抱いたマリがギルド長に質問したところ、全部を教えてもらえたわけではなかったが、ギルドに顔を出している子の中にシグラム王国でA級の依頼を遂行してきた人物がいるのだと。

にわかには信じられなかったその話はマリも当初冗談だと思って聞いていた。
しかし、アッシュ達が依頼をこなしていく姿を見ていくとヨハンとニーナ以外に考えられない。他には見知った顔ばかりが見られる。

次第にそれが事実とは言わないまでもそれほど違わないのだと認識していった。

「へぇ。それだけ凄い子なのね。よく見たら可愛い顔してるし、今のうちに唾つけておこうかしら?」

ミナは指で小さな穴を作り、ヨハンを視界に捉えるようにして覗き込む。

「ほんとあなたは懲りないわね。それで何回失敗しているのよ」

溜め息を吐きながらマリは呆れ交じりでミナを見た。
こうしてギルドの職員はその事実を把握していくのだが、わざわざ冒険者同士の関係に口を挟むことはない。

あくまでも公平な立場で依頼を斡旋しているだけ。



「おーい!こっちだ、こっち!」

ギルドの奥で椅子に腰掛け、ヨハン達に向かって手を振っている男はモーズ。

「遅かったですか?」
「いや、大丈夫だ。時間丁度」
「アッシュさんは?」
「あいつはほれ」

逆手で親指を使って掲示板を指差す。

「今日の依頼を見繕っているところだわ」
「にしても、改めて考えてみてもあんた達ほんとミスをしないわね」
「当たり前じゃない」
「ちょっとニーナもうちょっと言い方考えてよね」
「いやいや。あれだけできたら普通はそれだけ自信持つもんさね」
「だな。むしろ可愛い方だぜ」

モーズとロロが感心を示すのは、ヨハンとニーナの基礎戦闘力はもちろんの事、これまでの活動で一切のミスをしていない。全てをそつなくこなしていた。それだけに留まらず、落ち着きや視野の広さに判断力や正確性といったこと、そのどれをとっても常に一定水準以上。

最初の頃はいくらか偶然だとは思っていたのだが、いつ、どの時、どの場面でも常にそう。

「そうなると、あいつらの声もどうでもよくなるな」
「ほんとさね」

既にモーズとロロはヨハンとニーナに対する態度を軟化させている。

「僕としてもそれなら良かったです」

周りの声を気にしていない様子、一緒にいることで気を悪くさせていないことに安堵した。

「ならどうだ? そろそろ正式に俺たちの仲間にならねぇか?もちろんニーナの嬢ちゃんも一緒にさ」
「前も言いましたけど、僕たちは一時的にご一緒させてもらっているだけなんで。それにいつか帝都を離れなければいけないから」
「ほんと、残念さね。それさえなけりゃあ今後も一緒にやっていけるのにねぇ」

残念がる二人を見て苦笑いすることしかできない。

「待たせたね。今日の依頼なんだが、ちょっとだけ厄介なことになった」

表情を落としながら声を掛けてくるアッシュは難しい顔をしていた。

「どうかしましたか?」
「ああ。コレのことだ」

ピラッと見せられるその依頼書はBの判が押された依頼書。
表題には『ワーウルフ討伐』と書かれている。

「おいおい!どうやってBランクの依頼を持って来たんだ?」

依頼書を見たモーズは目を見開いた。

「それだけじゃないさね。ここを見てみな。ギルド長の印が押されてるじゃないさ」

ロロが指差す場所は依頼人の名前が記載される場所。
そこには冒険者ギルドと書かれており、普段ならギルドの公印が押されるはずが、ギルド長の名前であるカッツォの印が一緒に押されている。

「そうだ。つまりこれはギルド長からの推薦依頼だ」

「おいおい。マジかよ」
「……ギルド長からの指名依頼」

驚き困惑するモーズとロロに対して一切反応を示さない、無反応なのはヨハンとニーナ。

「どうしたのかな?」
「さぁ?」

一体ギルド長の印が押されているとどういうことなのか全く理解できないでいた。

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