S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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再会の王都

第三百五十八話 もうひとつの再会

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ローファスがカトレア侯爵と実情とは異なるヨハンのその表向きの処遇、対応を協議している中、話し合いが行われていた部屋の中に残っているのはラウルとアトム。

「それにしても、まさか俺達の代でこんなことになるとはな」

全てを聞き終えたラウルは物思いに耽っている。
かつてアトム達と旅を共にした十数年前、既に遠い昔のこととなった当時のことを回想していた。またあの時のように旅をすることができるのだと思うと妙な懐かしさが込み上げてくる。

「いや、それは違うなラウル」

僅かに顔を難しくさせたアトムは小さく笑いかけた。

「確かにこれは俺達が残した問題なんだが、それを解決するのは俺達じゃない気がするんだよな」
「…………」

アトムの言葉を反芻するように頭の中で繰り返し、言わんとしていることがどういうことなのかと。

「……達、ということはそれはつまり、ヨハンやその周囲の問題だと? あのローファスの娘はもちろんだが」
「まぁそういうこった。当事者がいる以上、その周りで解決するべきだと俺は思うんだ」
「それが本当にできるとでも?」
「んなことは知らねぇよ。けど、お前がヨハンを連れて行ってる間、俺達であいつの仲間を鍛えておいたからな」
「なるほどな。希望は次代に託すと」
「ああ。あいつらが自分達で考え行動することが未来に繋がる」
「珍しく良いこと言うじゃないか」
「俺もヨハンが生まれて価値観が変わったんだよ。お前も子どもができたら考え方変わるぞ? ようやく継承権を放棄できたんだろ?」
「ははっ。そうだな。もう少し世界を見て回ったら考えてみるさ。さすがに今結婚したらまるで結婚したくて放棄したみたいじゃないか」
「別にいいんじゃねぇの? どうせあの拾った子のどっちかなんだろ?」
「…………」

その好意に気付かないわけではない。確かに向けられる好意に対して答えを出してもいいものなのだろうかと悩んだ時期もある。

(いつか答えを出せたらいいがな)

そうこう話している間にギィッと会議室のドアが開かれた。

「おぉラウル。久しいの。待っておったぞ」
「どお? 元気にしてた?」
「なんじゃ、一丁前な恰好しよってからに、何様じゃ」
「やっほラウル」

ガルドフにエリザとシルビア、それにエルフであるクーナが入って来る。かつて共に旅した仲間。

「なんかもうどういう反応したらいいかわからねぇな」

久しぶりにこうして顔を合わせるというのに以前とまるで変わらない反応。ラウルは思わず自然と笑みがこぼれた。まるで子供の頃に戻った様な感覚。

「まさかクーナさんにも会えるなんて思ってもなかったよ」
「まぁ私もおんなじ気持ちだけどね。今更外に出るなんて思わなかったよ」

ニカッとクーナも笑い返す。

「じゃあ早速ですけど、そのシルビアさんの師匠だっていうパバールって人のことを教えてもらえますか?」

パバールの名前を聞いてピクリと眉を動かすシルビア。明らかに不快感を見せているのだが、ラウルは気付いていない。そしてラウルは知らない。

「なんじゃ、お主が仕切るのか? そもそも何故ラウルの癖にそんな偉そうな恰好をしておる? ワシの質問に先に答えんか」
「え? は?」

シルビアがパバールの名前に嫌悪感を示すということを。
不快感そのままに、シルビアの杖がパリッと光った。その行動が差す意図。

「いや、そんなこと言われましても。一応俺も立場というものがありまして。ほら、俺も剣聖になったじゃないですか」
「そんなことはわかっておるわ。じゃが今この場にはワシ等しかおらぬ。つまりお前は一番下じゃ。そんなこともわからぬのか? 偉くなったものだな」
「えっ……?」

相変わらず理不尽な物言い。見た目も以前と同じなだけにシルビアに対してだけは頭が上がらない。

「わ、わかりましたシルビアさん、だからそれ収めてくれ!」
「くれ?」
「お、収めてください」
「…………フンっ」

ギュッと目を細めてラウルを見るシルビアはゆっくりと杖を下ろす。

「まぁそれはそれとして、ヨハンは向こうではどうだったの? 立派にしてた?」

ルンとエリザはニコニコと笑顔で問い掛けた。

「え? あっ、はい。そうですね。流石だなって印象です。あの年代では明らかに抜けた存在かと」
「へぇ、もっと詳しく教えてよ。これでも心配していたのよ?」
「すいません。勝手をして」

椅子に腰掛けながらエリザは笑顔を絶やさない。

「ううん。いいのよ。一人前になるためには必要なことだもの」
「そうですね。ほんとあいつには色々と助けられました」
「へぇ。ラウルが助けられるって、わたしが会った時よりやっぱり成長してるみたいねー」

エリザと同じようにしてその隣に座るクーナ。

「そうだな。たぶんクーナさんもびっくりするのでは?」
「ふふん。ビックリさせるのはこっちなんだからね」

クーナが何を言いたいのか正確に理解できないラウルは疑問符を浮かべる。

「どういうことだ?」
「それは後で教えてあげるから先にそっちの話を聞かせてよ」

クーナが示しているのは後に再会を果たすヨハンが知る既知のエルフ、ナナシーとサイバルのこと。まだエレナ達にも会わせていない。

「別にいいけど、どうせ碌なことじゃないのだろうな。クーナさんのことだから」
「そんなことないわよっ!」
「いいや。そんなことあるね」
「ないってば!」
「いいからはよ話せ。時間の無駄じゃ」
「「……はい」」

シルビアの杖がパリッと鳴る中、そうしてラウルからエリザ達にカサンド帝国で起きた一連の話から事の顛末まで話して聞かせた。


◇ ◆ ◇


「へぇ。本当に凄いじゃない」

カサンド帝国で起きた様々な出来事を聞き終えたクーナは感嘆の声を漏らす。

「まぁ私たちの子だものねぇ」

一通りの話を聞き終え、それぞれがヨハンの成し遂げたことに対して感心していた。
アトムとエリザからすれば、何度となく他からヨハンの話を聞かさせることが楽しくて仕方ない。

「なんじゃ、ということはワシだけではないか、お主等の子に会っておらんのは」
「いや、姐さん、大丈夫ですって! 後で時間作って会いに行くんでその時にでも」
「では大賢者の下に赴く前に、みなでヨハンの成長を確かめにいくこととしようか」

ガルドフがその場を締める中、ふとアトムは疑問が浮かぶ。

「そういや、あのエルフの嬢ちゃんたちはもう良いのか?」
「ええ。問題ないわ。あとはシェバンニさんが受け持ってくれるってさ。今色々と説明を聞いているところよ」
「そっか」
「あとさっき決まったことだけど、部屋もそのヨハンくんが貰う屋敷に住まわせてもらうってロー君が言ってくれたし。さすがに今からだと寮に部屋がないみたいで」
「ならあとはもう預けるしかないんだな」
「あの子達なら心配ないわ。大丈夫よ。特にナナシーなんて天才と言われた才能の持ち主だからね」

エルフの中でも特に優秀。本人は謙遜しているが、特筆すべき才能でもないと人間の世界で生活を送ることなど許可しない。それはかつて世界を旅して回ったクーナにしても同じ。

「にしても話してたら遅くなっちまったな」

会いに行こうにも寮の規定では時間外。別にローファスの国王としての権限もあることからしてそれぐらいの融通などいくらでも作れるのだが。

「もう明日でいいんじゃない?」
「そうだな」
「どうせなら驚かせたいなぁ」
「またクーちゃんは」
「いいじゃない別に」
「だったらこういうのはどうだ?」

一同の視線がラウルに集まる。

「どうせヨハンのことだ。もしかしたら朝にはあそこにいるかもしれないしな」
「なに? あそこって」
「俺がヨハンと初めて会った場所だよ」
「ふぅん。だったらそこにみんなでいこうよ!」
「いいぜ。ならそれで決まりだな。よし。景気づけに飲むか!」

ラウルとガルドフに目配せしたアトムはくいッと酒を飲む仕草を向けた。

「ほどほどにしてよね。酔い潰れたら朝起きられないのだから」
「わかってるって」

呆れ交じりにため息を吐くエリザにはにかむアトム。

「安心せい。その時はワシが起こしてやろう」
「……安心できねぇなそれ」

どんな強引な起こされ方をするのか寒気を覚える中、それからはそれぞれの旧交を温めた。

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