360 / 724
再会の王都
第三百五十九話 突然の贈り物
しおりを挟むアトムたちが再会を果たしたその少し前。
「ちょっと、どうするのよこれ」
部屋の隅でしゃがみ込んでひそひそと耳打ちし合うモニカとエレナ。
「……現状どうしようもありませんわ」
唐突に突き付けられた事実、それがまさかカサンド帝国の皇女との婚約。まだ在学中とはいえ、邪険に扱うこともできないその立場。
(なにしてるのかしらあの二人?)
そんな二人の様子を訝し気に見ながらカレンは危機感を抱いている。
(それにしても、どうなってるのこのパーティー。あの二人、物凄い可愛いじゃない)
圧倒的な美少女。女性であるカレンから見ても間違いないと断言出来た。
(あの子にしてもそうだし)
チラリと視線を向ける先にいるサナにしても、先程の態度からしてヨハンに好意を持っていることは間違いない。
「とにかく、ここはわたくしに任せてくださいませ」
「どうするの?」
「相手が皇女であれば仕方ありませんわ」
すくっと立ち上がり、エレナはカレンに笑みを向ける。
「申し遅れました。わたくしはヨハンさんの同級生のエレナと申します」
「そう。あなたがエレナさん。王女なのよね?」
「ご存知でしたか。ええ。わたくしはこのシグラム王国、第一王女であるエレナ・スカーレットと申します。以後お見知りおきを」
綺麗な所作を用いて一礼した。
「よろしくね。ならそっちの子がモニカさんね」
カレンと視線を合わせてモニカはぺこりと頭を下げる。
「よろしくお願いしますわ。ですがわたくし達、ヨハンさんの仲間ですのでそちらではよく一緒に行動なさっていたようですが、これからはわたくし達と行動することが多くなりますのできっと寂しい思いをさせることになると思いますわ」
「あら、そう?」
僅かにカレンはきょとんとした。
「それは楽しみね」
カレンからすれば明らかな宣戦布告。互いに笑顔なのだがバチバチと視線が交差する女の戦いの様相を呈しており、ニーナが小さく拍手をしていた。
「それで? モニカさんとサナさんもどこかの貴族の子なのかしら?」
先に互いの身分。カレンはそれぞれの素性を確認しておきたい。
「いえ、私の家は普通の商人です」
「わ、わたしは普通の家の子です。親もただの木彫り細工職人ですので」
サナとモニカが同時に首を振る。
「あらそう。てっきりそれだけ可愛いから」
「「そ、そんなことないですよ」」
二人して大きく手を振る中、レインは目を光らせた。
(よしっ! ここだ!)
僅かな沈黙の間に差し込むようにして口を開く。
「な、なぁ、もっとその帝国で起きた話聞かせてくれよ」
「あっ、それだったら僕もエレナに聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと?」
「うん。あのさ、父さんが王宮にいたんだ。エレナ、何か知ってる?」
「へ?」
ヨハンの問いを受けてエレナ達は互いに顔を見合わせた。そのままニヤッと笑顔になる。
「ああ。そのことでしたか。もう知っていたのですね」
「ってことは?」
「実はですね、わたくし達ヨハンさんのお父様たちに鍛えて頂きましたの」
「えっ!?」
「ほんとお前の父ちゃんと母ちゃん、アトムさんとエリザさんマジ半端ねぇな。何回か死ぬかと思ったか」
「それで言えばシルビアさんが一番厳しかったけどね」
「違いねぇ」
ヨハンがカサンド帝国に行っている間の出来事。思い返すだけで苦笑いが込み上げてくる厳格で猛烈な指導。
「……こっちはこっちで何があったの?」
ヨハンがわけもわからないといった感じを見せる中、そうして互いの身に起きたことを話して聞かせ合った。
◇ ◆
「――……そうだったんだ。そんなことがあったんだね」
まさか入れ違うように父と母が王都に来ていたとは思ってもみない。
「でも僕の時はそんなに厳しくなかったけどな」
「それな、それ! お前の父ちゃん言ってたぞ! 『ヨハンは小さい頃でこれを余裕でこなしていた』ってな」
しかし鍛錬の内容はヨハンが幼少期にしていた比ではない。年齢に即した内容に引き上げられている。
「確かに辛かったわ。まぁけど、おかげで私たちも前以上に強くなれたわよ」
「そっかぁ……」
「しっかし、そっちはそっちで大変だったみたいだな」
カサンド帝国での出来事。
ヨハンのS級昇格やニーナが竜人族だったことも勿論なのだが、巻き込まれる形となった幾つもの事態。その最たる事案は魔族に関すること。
「シトラスと倒すことができたのは良かったけど」
「申し訳ありませんヨハンさん。それだけの事態の時に隣にいることができなくて」
「ううん。僕もまさかそんなことになるとは思ってもなかったからさ」
ヨハン一人に背負わせてしまったことによる申し訳なさ。それぞれがそれぞれの気持ちを抱く。
「けど人間が魔族に、ねぇ。そんなこともあるんだな」
「転生っていうみたいだけどね」
「ですがヨハンさん。魔王の復活が近付いている。確かにそう言っていたのですわね?」
「うん。でもまだ詳しいことは何もわからないんだけど」
ヨハン達の会話を黙って聞いていたカレンは一人考えていた。
(魔王の復活にシグラムが何か関係しているの? ねぇティア)
魔王に関することを知っていたセレティアナがこの場に居れば何か教えてもらえることがあったかもしれないと考えながら胸元の翡翠の魔石にそっと手を送る。
「えっ!?」
ふと握りしめた翡翠色の魔石が大きく光を放った。
「どうしたのさカレンさん?」
一同が突然の光に驚愕し、ニーナが声をかける。
「……わからないわ。でも、ティアが何か伝えようとしたのかも」
「ティアちゃんが?」
首を傾げるニーナなのだが、セレティアナを知るニーナであってもカレンが何を言おうとしているのか理解できない。エレナたちは目を見合わせていた。
そこにコンコンとドアがノックされる。
「誰かしら?」
ガチャッとドアが開いて姿を見せたのは寮母。
「おお。やっぱりここに居たみたいだねヨハン君」
「あっ、お久しぶりです。またよろしくお願いします」
「いいっていいって、元気な顔を見せてくれたらあたしゃそれでさ」
「どうかしましたか?」
「いや、あんたらお客さんだよ」
客と言われ、後で呼び出すと言われていたのでもしかしたらローファス王の使いかもしれないと思いながら寮の玄関に出ると大きな馬車が停まっており、そこにはカールス・カトレア侯爵がいた。
(あれ? この人って確か……)
一度だけ会ったことのある人物。飛竜討伐の翌日部屋を訪問されている。
「カトレア侯爵様ではありませんか」
「エレナ様、少々こちらのお二人をお借りしてもよろしいでしょうか?」
カールスが視線を向ける先はヨハンとカレンの二人。エレナは侯爵がわざわざ直接訪れるのであるのだから王女である自分にかと思ったのだがそうではなかった。
「ヨハンさんとカレンさんを?」
「ええ。よろしければエレナ様達もご一緒頂いても構いません」
カトレア侯爵の言葉の意味がわからずにそれぞれが疑問符を浮かべながらも馬車に乗り連れて行かれた先は中央区の端にある大きな屋敷。
「さて、途中で説明した通り、今日からこの屋敷はお前の物だ。詳しい話は明日にする」
「…………えっと、どうしたらいいのこれ」
思わず呆気に取られる。
貴族でもなく、大富豪でもなく、ただの学生でしかないヨハンは唐突に中央区に屋敷を所持することになった。
14
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる