S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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再会の王都

第三百六十四話 剣剛

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「ぐっ!」

上方から勢いよく振り下ろされるアトムの木剣を横っ飛びで間一髪躱す。
ドゴンと激しく音を立てて地面が爆ぜた。

「……うそっ」

カレンが思わず目を疑うのは、それを成し遂げているのは木剣。
驚愕するのはそれだけでなく、地面を砕くほどの斬撃を放ったのだが木剣は原形をしっかりと維持している。遠目に見ても破損している風には見えない。

「……上手く躱したな」
「…………」

ゆらっと身体を起こしてヨハンを見るアトムなのだが冷や汗が止まらない。その目の奥にある底知れぬ眼差しに畏怖の念を抱いた。

「今のが……本気?」

呟きながら思い返す先程の一撃。
しかしじっくりと考えている余裕などない。

「っ!?」

再びゆらっと身体を傾けるアトムなのだが、目を疑うのは一瞬の間に距離を詰められている。振り切られる木剣に対して慌てて剣を受け止めようとするのだが、構えた木剣が音を立てて二つに折れた。

「ぐぅっ」

それでもすぐさま回避に切り替え後方に飛び退こうとするのだが剣先が胸の辺りを掠めると同時に鋭い痛みを覚える。
トロっと身体を伝い滴り落ちる血。ポタポタと地面に落ちた。

「どうして!?」

叩き折られたヨハンの木剣。カレンは思わず目を見開く。

「それだけ剣に流す闘気に違いがあるということだな」

ヨハンとアトムの違いは闘気の練度の差。地面を砕く程の闘気の凝縮が木剣自体の強度を上げており、それがこれだけの違いを生み出している。

「あれが……伝説の冒険者……――」

チラリと視線を向けるのは兄ラウルへ。剣聖の称号を得ている兄が以前に一度だけ話してくれた剣の師のことをふと思い出した。

「――……剣剛」

確かにそう言っていた。
そのまま視線を向ける先は他のスフィンクスのメンバーたちへ。
間違いなくヨハンはこれまで見て来た中でも最上位に位置する程の強者。それは共に戦ったことからしても断言できる。それが一方的に守勢に回らされる程の圧力を受けるなど考えられない。

(あんなの、どうやって勝つのよ)

不安が募る。
目の前で戦っているのは親子であるはずなのに心臓の鼓動がまるで警鐘のように大きく鳴り響いた。

「ラウル」
「ああ」

動きを止めたアトムがラウルに顔を向け大きく声を掛けると、ラウルは近くに立てかけてあった別の訓練用の木剣を手にするとヨハンに向けて放り投げる。

「余裕ってこと?」
「いや。これはあくまでもお前の実力を確かめるためにしていることだろ?」
「そういうのを余裕って言うんじゃないのッ!?」

ヒュンヒュンと空中を飛ぶ木剣を受け取るなりすぐさまアトムに向かって斬りかかった。

「ぐっ」

胸の痛みを堪えながらも、考えるのは動きを止めている余裕などない。剣戟を躱してすぐに繰り出されるのは的確に狙われる急所。一つでももらえば致命傷は免れない。

「だったら!」

先程の魔法で大きく魔力を消費してしまっているので長期戦は臨めない。そもそも圧倒的な経験値の違いがあるのだからどちらにせよ短期決戦に持ち込む方がより勝ち筋はある。

すぐさま木剣に闘気を流し込み、剣を振るうアトムが見切りをしていたところで剣先から迸るのは鋭い斬撃、剣閃。

「っと」

決定的な一撃のつもりなのだが躱されてしまった。
それでもアトムの上腕の薄皮を斬ることには成功する。
指先で血を拭うアトムはペロッと舌で舐めた。

「そうか。もう剣閃を使えるんだったな」

ニヤリと笑みを浮かべるアトムは昂る感情を一向に抑えきれない。それは目の前の息子、ヨハンのその表情を見ると尚更。

「お前、自分が笑っていることに気付いてるか?」
「え?」

まるで自覚はないのだが、いつの間にかヨハンは笑みを浮かべている。
勝てる見込みのないこの戦いに於いて、笑みを浮かべているなどあり得ない。それでも無意識に笑ってしまっていた。

(なるほどね。やっぱり俺の息子ってところか)

懐かしく振り返るのはかつてガルドフに拾われて一人前になるまで、ほとんど半殺しになりながらも闘気の扱いを叩き込まれた時の事。
拾われた、ではなく仕方なく拾わせた、が正確に言えば正しいその最初の出会い。

「だったら見せてやるぜ。本当の剣閃を」

グッと剣を横に構えるアトム。途端に一層の輝きを放つ木剣。

「なっ!? アトムの奴、あれを使う気か!?」

これまで余裕をもって見ていたラウルが思わず目を見開く。

「兄さん、あれって!?」
「あいつの……最強の技だ」

ラウルが剣の柄に手を添えたのをカレンは視界の端に捉えると不安が一層に高まった。
ラウルが知るアトムの剣閃、それはかつて漆黒竜グランケイオスのその最強の鱗に唯一傷を付けたその斬撃。

「絶空斬閃」

眩いばかりの木剣の輝きを目にした途端、ヨハンも悪寒が走る。間違いなく受け止めてはいけない一撃なのだと本能が告げる。

「…………」

それでも無言で自身の木剣に闘気を流し込むとすぐさま光属性の魔力を流し込んだ。今の自分が繰り出せる一番の技。

「……なるほど。それがお前の剣閃か」
「うん」

笑みを浮かべたままの二人。これから行うのは力比べ。どちらがより強いのか。

「いくぜ」

互いに剣を振りきろうとした瞬間、二人同時に剣を止める。

「っと」
「え?」

ヨハンの周囲を取り囲むようにいくつもの光の壁が層を成す様にして展開されていた。

「これは……――」

見覚えのあるその光の壁、魔法障壁はカレンのもの。すぐさまカレンに目を向けると、ヨハンに向けて大きく手をかざしていたカレンは首から下げた翡翠色の魔石が光を放っている。

「はぁ……はぁ……はぁ…………」

息を切らせながら展開したのは最大規模の魔法障壁。

「カレン、お前――」
「もういいじゃないの! どうしてまだ戦わないといけないの!? あなた達は親子なのでしょ!?」

カレンの行いの意図を理解できないわけではない。

「……カレンさん」

だらりと木剣を下げると剣からは光が失われていく。アトムにしてもそれは同じ。

「これぐらいにしておこうか」
「うん」

アトムはパッとヨハンに向けて木剣を放り投げると、それをパシッと受け取った。
それを見たカレンはホッと小さく安堵の息を漏らす。

「これ以上やると将来の伴侶に俺が嫌われちまうな。娘に嫌われるのはあの親父さんだけで十分だろ。例え俺のが義理だとしてもな」
「あの親父さん?」
「いや、こっちの話だ。なんでもねぇ」

振り返るアトムはエリザ達がいる方向に向かって手を振りながら歩いて行った。
どういうことなのだろうか理解できないでいると、入れ替わる様にカレンが走って来る。カレンはすれ違うアトムに小さく頭を下げるのだがその眼差しは困惑の色を宿していた。

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