S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
366 / 724
再会の王都

第三百六十五話 その後

しおりを挟む
「カレンさん」
「ごめんなさい。でも、でも、見ていられなかったから……」
「ううん。ありがとう。助かったよ。僕の方こそ心配させたみたいでごめんなさい」
「……ヨハン」

ヨハンの優しさが胸に刺さる。
二人だけの戦いであることはわかっていた。兄を始めとした錚々そうそうたる面々が止めに入らないことからしても最悪の事態には陥らないのだろうということは頭では理解していた。
それでも止めに入らずにはいられなかった。目の前で危機に瀕したヨハンを守るために。


エリザ達の下に戻ったアトムはニコニコとしているエリザに向かってニヤッと笑いかける。

「………邪魔が、入ったかな? いやぁ、しかしそれにしても驚いたな。あれだけ強くなってるなんてな」
「確かに私も驚いたわ。でも私が怒っていないとでも思っているの?」
「あっ、やっぱり?」

表情や態度に出さないように努めていたが、エリザとしても我慢の限界だった。

「あの子が止めに入らなかったら私が止めていたわよ」
「すまん」
「ううん。あなたが本気を出さないといけなかったっていうのもわかっているわ。でもやり過ぎよ」
「……反省してる」

実際、アトムからすれば余裕などではない。ただの親としての意地。エリザもそれをわかっているからこそ限界まで我慢していた。

「じゃあお仕置きね」
「えっ? ちょ、ちょっと待てって!」

ニコッとしているエリザの持つ杖の先端が光ると、すぐさま迸るのは鋭い雷。パリッと音を鳴らすとアトムに直撃する。

「なにしてるのあれ」
「……さぁ?」

遠くに見える痺れを見せているアトムとそれを見て笑っているローファス。まるで子どものようなその姿に疑問を持って見ていた。

「……とにかく向こうに行きましょうか」
「……はい」

アトムが振り下ろしている剣を両手の平で受け止めているローファスを見ながら合流する。


「何やってるの?」
「おう。気にすんな。ちょっと旧交を温めているだけだ」

いがみ合うアトムとローファスを見ながら呆れてしまった。親友とは言うものの、悪友なのだろうということはそれだけで十分見て取れる。

「にしても本当に強くなったな」

スッと身体を向けるアトムは先程まで対峙していた気配の一切を見せない穏やかな表情。

「結局また勝てなかったけどね。勝てるとも思ってなかったけど、まさか全く効かなかったなんて。さすがにショックだよ」
「ははっ、まだまだ息子に負けてたまるかって。そんな歳食ってねぇしな」

ケラケラと笑うアトム。

「それに全く効かなかったわけじゃねぇよ。かなり痛かったぞ?」
「ほんとに?」
「当り前じゃねぇか」
「ふむ。出掛ける前に中々に良いものを見せてもらった」
「そうね。ヨハンの成長が見られてお母さんも満足よ」
「え? 母さんたち、どこかに行くの?」
「ええ。ちょっとお母さんたち調べものをしていてね」
「……そぅ」

改めて見回して見ても不思議な感覚。国王や剣聖に校長など錚々たる人達の中にいる父と母。今回久しぶりに戦ってみてその高みは確かに実感したのだがそれでもどこか奇妙な感覚を抱いた。

(そんな人たちがしている調べものって?)

更に抱く疑問。一体何を調べているのか。恐らく聞いたところで教えてもらえないのだろうという程度の見解は抱く。

「やっぱりここにいた!」
「え?」

不意に遠くから聞こえて来て姿を見せたのはレインとモニカとエレナ。

「どうしてみんながここに?」
「いやいや、朝早くからモニカとエレナに叩き起こされたんだけど、ヨハンはもういなかったじゃないか? それで前はこの鍛錬場によく来ていたからここかなーって」

モニカもエレナも早速ヨハンを訪ねて訪室したのだが不在。そのため慌てて用意して探しに来ていた。

「それよりも、この状況はどういうことでしょうか?」

ヨハンの所在が掴めたこと以上に周囲にいる面々に疑問を抱くエレナ。そのまま父である国王、ローファスの姿を捉えて口を開く。

「まさかお父様までいらしているなんて」

ヨハンだけでなくこれだけの面々がいることが疑問でならない。

「ちょっとヨハン怪我しているじゃない!?」
「あっ、いや別に大丈夫だよ」

モニカが慌ててヨハンに近寄るのだが既に治癒は終えている。衣服にいくらかの破れがある程度。

「大したことではないエレナ。アトムとヨハンの模擬戦を見ていただけだ」
「「「えっ!?」」」

驚愕に目を見開いてエレナ達は三人揃ってアトムを見ると、ニカッと笑い返された。

「……そういうことでしたか。だったらわたくし達にも声を掛けてくれてもよろしいのに」
「だなっ。俺達もお前がどれぐらい強くなったのか見たかったぜ」

加えてレインは内心でヨハンとアトムにどれくらいの差があるのかということにも興味があった。しかしエレナがそのまま向ける視線の先にはカレン。

(カレンさんは見ていたようですわね)

突然ヨハンの婚約者の位置に就いたカレンに対して不安を抱く。様子を見る限り現状ヨハンがベタ惚れというわけではなさそうなのは見て取れるのだがそれでもどう対応していいものか。

(仕方ないですわね)

自身が知らない空白の期間を把握することから始めることを決める。

「え?」

不意にエレナの肩をポンと叩く手の平の感触。振り返るとシルビアの笑み。

「シルビアさん?」

一体どうかしたのかと首を傾げるのだがすぐさま悪寒が走った。

「では次にはお主等がこやつに実力を見せる番じゃな」
「えっ……?」

その発言の意味。わざわざ説明されなくとも理解する。レインはそーっと足音を消してその場を後にしようとしていた。

「えぇっと……いやぁ、あのぉ、シルビアさん?」

困惑しながらもエレナが返す笑み。

「それはちょっと遠慮したいなかなぁって。ほ、ほら、まだ朝も早いですし、女の子の朝は色々と準備をしなければいけないではありませんか。ご飯も食べないといけないかなって、思いますの」
「なにをぶつくさ言っておる。遠慮などいらんさ。さぁ行くぞ!」

すぐさま杖をレインに向けると魔力の網がレインを捕らえる。モニカは諦めて小さく首を振って息を吐いていた。

「エレナ?」

微妙に涙目を向けてくるエレナ。

「気にするな。いつものことだ」
「父さん?」

全く以て状況の理解ができない。

「シルビアさんも変わっていないようだな」
「まぁ……な」
「ラウルさん?」

隣で話しているラウルとアトムに疑問を抱くのだが、すぐにその言葉の意味を理解することになった。


「――……すご、い」

鍛錬場に降り注ぐシルビアの魔法の嵐。その凄まじさに驚嘆しながら、同時に対応しているエレナとモニカとレインの三人の連携がまた凄い。エレナ達からすればもう慣れたもの。

「それにしても、あの子達もあんなに強いのね」

カレンもまるで信じられない光景。確かにヨハンから事前に色々と聞いていたがその戦いぶりは想像以上。

「そうですね。僕が知ってる頃よりもみんな凄い強くなってます」
「当り前よ。私達が鍛え上げたのだからね」
「それにしても……」

まるで想像以上。
そのヨハンの横顔を見ながらニコリと笑みを浮かべるエリザ。

「あの子達、ヨハンと一緒に戦いたいって、それはもう必死だったわ」

元々エレナ達を鍛え上げるということはシルビアの発案なのだが、エリザとしても予定以上に指導に熱が入ってしまっていた。

「そぅ……なんだ」

自分自身も強くなったという自覚はある。同じようにしてエレナ達も強くなっていたことが素直に嬉しかった。

「その点じゃが、学年末試験でシェバンニが面白いことを考えておるようじゃから期待して良いぞ」
「面白いことってなんですか校長?」
「それは試験内容なので教えられん」
「……そうですか」

だったらどうして今口にしたのかと思わず苦笑いしてしまうのだが、久しぶりに学生生活に戻ることが楽しみでもある。
そうしてひとしきりシルビアが満足するまで続いたエレナ達の模擬戦を観戦してから一度屋敷に赴くことになった。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

処理中です...