S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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碧の邂逅

第三百七十九話 サナ、ユーリvsナナシー、サイバル

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冒険者学校の鍛錬場。
屋内にある石畳の広々とした空間。そこでサナとユーリに対してナナシーとサイバルが向かい合っていた。観戦席にはヨハン達の姿。

(エルフのナナシーさんとサイバルくん、かぁ)

ユーリは片手に長剣を持ち、サナは短剣を片手に投擲用のナイフを数十も身に付けている。

(私達でどれぐらい通用するか)

学内上位に登り詰めたとはいえ、話に聞く限り二人共に相当強い。サナが視界に捉えるナナシーとサイバルは共に腰に長剣を差していた。
今回の模擬戦は訓練用の木剣ではない真剣。実戦形式の模擬戦。

「お二人はよろしいのですか?」

エレナの問いかけにアキとケントは表情を暗くさせながらも笑みを浮かべる。

「まぁ俺達程度だともう限界が見えたってか」
「うん。あの二人の邪魔はできないなぁって。特にサナなんて……」

向上心そのままに学内順位を凄まじい勢いで駆け上がっていた。才能もあったユーリならまだしも、自分達ではとても追いつけない。

「だから丁度良かったかも。あの二人が編入してきてパーティーを組んでくれるなら」
「……そうですの。あなた達が決めたことですものね」

それ以上かける言葉が見つからない。

(まぁ、ね)
(わかるぜその気持ち)

無言で話を聞いていたモニカとレインも立場は違えども似たような感情を既に抱いている。チラリと鍛錬場を見ているヨハンの横顔を見て抱くその同種の感情。しかしモニカもレインもアキとケントとは違い、追い付きたいという気持ちの方が強い。

「では二組とも準備はよろしいですね?」

間に立っていたシェバンニが左右に顔を振る。
ユーリは観察する様にしてナナシーとサイバルの二人を見た。そのままサナに小さく話し掛ける。

「サナはあの二人をどう見る?」
「シェバンニ先生があれだけ言っていたのだから相当強いと思っていいと思うよ」
「やっぱりそうだよな……だが、それでも勝つぞ」
「うん、もちろんだよ!」

真剣な表情をしているサナとユーリを見てナナシーは笑みを浮かべていた。

「あんなに真剣になっちゃって。可愛いわね」

負けるつもりは毛頭ない。

「油断していると足下をすくわれるぞ」
「わかってるわよ」
「彼らがどれくらい強いと思っている?」
「ヨハン達があれだけ強かったのだから、それなりだと思うわ。私たちと組まそうとしているのだし尚更」
「……それもそうか」

事前に聞いている話ではサナとユーリは学内上位。となると油断をするはずもない。

(悪い癖がでなければいいがな)

小さく溜め息をするサイバルは、隣に立つナナシーが舌なめずりするのを見て小さく首を振る。

「では始めます」

シェバンニが杖を上方にかかげ、先端が光るとすぐさま放たれた小さな光弾。
ある程度上昇したところでパンッと小さく音を鳴らして破裂する開戦の合図。

「いくぞサナっ!」
「うん!」

余裕綽々で佇んでいるナナシーとサイバル目掛けて機先を制するつもりでユーリとサナは一直線に踏み込んでいった。

「へぇ。速さは中々」
「何か仕掛けて来るぞ」

サイバルが視界に捉えるサナとユーリは縦一列に並んでいる。
迎え撃つために挙動を確認するサイバルとナナシー。

「おおおおぉぅッ!」

声を発するユーリがサイバルに向けて大きく剣を振りかぶっていた。

「サイバルっ!」

ユーリの剣を後方に飛び退いて回避するのだが、ナナシーが声を掛けたのはその後に続けられる攻撃に対して。
サナはユーリの背後から飛び越えるようにして跳躍している。両手に持つナイフを六本サイバルに投擲していた。

「問題ない」

サナの動きはサイバルには見えている。
即座に投擲されたナイフを回避したのだが、続けざまに懐に踏み込もうと剣を横薙ぎに振り切っているのはユーリ。

「ぐうっ!」

ユーリは横から腹部に強烈な衝撃を受けて吹き飛んだ。

「甘いわよ」

スッとその場に片足立ちするナナシーはゆらっと足を揺らす。

「余計なことを」
「なによ。助けてあげたのよ?」
「必要ないな。それよりも次だ」

サイバルとナナシー、二人して上方を見上げると、そこには大きな水の塊が中空に浮かび上がっていた。

「いっっけっえぇ!」

水の塊はサナの魔法。
サナはナイフを投げた後、既に魔力を練り上げている。

「中々の魔力量ね」

ナナシーが感心しながら見るそのサナが浮かび上がらせた水の塊からは、プツプツと音を立てて螺旋状の水の槍がいくつも射出されるとすぐさまナナシーとサイバル目掛けて襲い掛かった。


「凄いじゃないサナ」

ヨハンも驚くその魔法。以前のサナであれば間違いなく扱いきれない規模の魔法。

「ええ。彼女も努力していましたもの」
「へぇ」
「ですが……――」

エレナの見解ではこの程度ではナナシーとサイバルを倒せない。
それは事実その通りであり、視界に映るナナシーとサイバルは突き刺そうと迫る水の槍に対して余裕を持って躱している。

「だ、だったらっ!」

グッとサナは水の塊に大きく魔力を流し込んだ。比例して水は大きく膨張する。

「よしっ!」

避けられるのならば避けられないだけのことをすればいいだけ。水槍の速さは今で最大限。ならば大きさを向上させて放てばいいだけ。

「――……えっ!?」

思わず口を開けて呆けさせた。耳に入って来るのは小さなパシュッという音。

「いつまでも攻撃を受けてばかりとは思わないことね」

視界の奥、ナナシーの手には薄緑色に輝く穹、それは明らかに弓の形をしている。

「あっ……」

サナが上を見上げると、魔力で造られた水の塊は小さな穴を穿たれており、何かを射られたのだと理解した。

「サナっ!」

ドパッとサナに降り注ぐ決壊した魔力の塊。間一髪のところでユーリが横っ飛びで飛び付いて回避する。
二人して地面をゴロゴロと転がり、遅れて水が地面を染み渡らせた。

「大丈夫か!?」
「う、うん、ありがと」

立ち上がりながら見るナナシーとサイバル。

「……強い」
「うん」

追撃を仕掛けられることなく悠然と立っている姿に想像以上だという感想を抱く。

「どうする?」
「…………」

ユーリの問いかけに返せるだけの言葉を持っていない。初っ端からほぼ全力を出しての先程の攻防。

「中々良い連携だったな」
「そうね。威力も申し分なかったわ」

ナナシーとサイバルが抱く見解としても想像以上。最後の一撃を素直に喰らうわけにはいかなかったが故の反撃。

「この分だともう少し上げてもいいか」
「いいの!?」

サイバルの言葉に嬉々として表情を緩めたナナシー。

「あまり無茶が過ぎなければな。それに気を抜けば意外にやられるかもしれない。お前はいつも相手を見過ぎるからな」
「だってしょうがないじゃない。癖なんだから」

苦笑いしながらの返答。つい興が乗ってしまうと相手の実力の底を確認したくなるナナシーの悪癖。

「じゃあ次はこちらから仕掛けるぞ」
「ええ」

グッと身を引き締めてサナとユーリを見た。

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