S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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碧の邂逅

第三百七十八話 メンバー変更

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魔灯石護衛依頼から数日後。

「今日はどうしたんだろ?」
「さぁな」

校長代理を務めているシェバンニから突然呼ばれたのは校長室。
ヨハンとレインとモニカとエレナ、四人で校長室に向かっている。
校長室に呼ばれる時は大体が特別な話。今回も例に漏れず何かしらの話があるのだろうと覚悟を持って訪室した。

「入りなさい」

校長室をノックして聞こえる声はいつものシェバンニの声。

「失礼します」

校長室にはシェバンニ以外に四人の姿。

「……あれ?」

ナナシーとサイバル、それにサナとユーリがいた。

「どうしたの?」

問い掛けるナナシーは困り顔をして首を傾げている。
サナに顔を向けても同様。

「さて、これで全員揃いましたね」

ヨハン達をひとしきり見回したシェバンニ。

(一体何事なの?)

困惑するサナは隣のユーリを見ると、サナ以上にガチガチに緊張していた。
二人共に用件を聞かされていない。ただ校長室に呼び出されているだけ。

「不思議そうですね。実は兼ねてより考えていたことがありました」

ヨハン達を見るシェバンニの表情は厳しいまま。

「ナナシーとサイバル、この二人をユーリ、あなた達のパーティーに加えてもらえませんか?」
「「「「ええっ!?」」」」

一同が驚愕する中、一瞬呆けるユーリはすぐに発言の意図を察して床を見るようにして俯いた。

「せ、先生、どうして私達のところに、その、ナナシーさんとサイバルさんが?」

困惑したままサナはナナシーとサイバルを見て、そのまま窺うようにしてユーリを見る。

「もちろん無理にとは言いません。嫌なら断ってくれても構わないです」
「い、いえ、嫌とかそういうわけじゃないんですが……」

パーティーのリーダーを務めるユーリは未だに何も言わない。どうして何も言わないのか疑問が浮かぶ。

「ユーリ、あのことをここにいる人に伝えてもよろしいでしょうか?」

シェバンニが確認するようにユーリに問い掛けると、ゆっくりと顔を上げたユーリは了承する様にして小さく頷いた。

(どうしたのユーリ?)

疑問を抱き続けるサナと目が合ったシェバンニは優しく微笑む。どうして微笑まれたのかも併せて殊更疑問が重なった。

「実はですね、ユーリ達のパーティー、ここにはいませんがアキとケントの二人のことです」

冒険者学校では基本的に四人一組でパーティーを組んでいる。その後の二人が一体どうしたのだろうかと。

「実は二人から相談を受けていました」
「相談、ですか?」
「ええ。ここ最近あなた達二人には付いていけないと」
「えっ!?」

突然の言葉にサナは目を見開いた。

「誤解のないように言いますが、決してあなた達に不満があるからというわけではありませんよ」
「はぁ……」
「いえ、むしろ不満があるのは自分達自身に対して、といった方が正しいですね」
「それは……?」
「あなたとユーリ、それとあの二人との実力差は二学年になってから顕著に開いています」
「……はい」

それは事実その通り。
学年上位、二十位までにランクインしているサナとユーリに対してアキとケントの二人はランク外。
サナとしては同じように上を目指したいのだが無理強いはしたくない。せめて自分だけでも強くなればそれがパーティーの一助になる、と。

「でもそれがどうして?」
「相談されていたのはこのままではあなた達二人の重荷になってしまうのではないかということです」
「あっ……」

その言葉、重荷という言葉にはサナにも覚えがあった。
時折アキとケントの二人は言葉を詰まらせたり、何かを言いにくそうにしていたことがあった。その時の二人の表情を思い出す。

「それで先程の提案です。突然のことになりますが、ナナシーとサイバルの二人とパーティーを組みませんか?」
「で、でも……」

唐突な提案過ぎて困惑した。
ユーリを見るのだが、ユーリは何も言わずに真剣な表情をシェバンニに向けたまま。

「実力で言えば彼女たちは申し分ありません」
「いえ、そういうことではないんです」

実力の有無で返事に困っているわけではない、

「そうですか。では他の三人の意見を教えてもらえますか?」
「オレたちは来たばかりです。まずはここを知ることから始めますので、特に意見はありません」
「私も同じです。先生の判断にお任せします」

サイバルとナナシー、共に人間の世界のことにはまだ詳しくない。里長でもあるクーナからもシェバンニの方針には従うように指示されている。

「ではユーリはどうでしょうか?」

シェバンニの問いかけに釣られてサナはユーリに視線を向けた。

(どうして?)

ユーリのこの様子からしてユーリは全て知っていたのだと。しかしサナは全く知らなかった。

(今まで通りでいいんじゃないの?)

例え互いの実力差があっても協力し合えばいいのではないかと。
ナナシーとサイバルとパーティーを組むこと。それが指し示すのは、これまで二年近く行動を共にしてきたパーティーが解散するのだということだと。

「えっ?」
「サナ?」

ヨハンもそのサナの表情を変化に思わず驚く。

「あ、あれ? どうしたの私?」

慌てて片手で両の頬を触って自分の意図しない感情の変化を理解した。
その場にいた一同が驚いたのは、サナは目を開けたままポタポタと涙を流している。

(ううん。私が見て見ぬ振りをしていただけだわ)

自覚がなかったわけではない。深く考えないようにしていただけ。
アキとケントが気遣ってくれていたのは知っていた。自信のなさが表情に表れていたのも理解している。

そのサナの様子を見てユーリはグッと奥歯を噛み締めた。

「俺は……受け入れたいと思います」
「……ユーリ」

ユーリの真剣な眼差しは尚も変わらない。

「そうですか。サナ、あなたは答えが出ましたか?」
「…………」

問い掛けに対して即答できない。本当にこれで終わりなのかと。
楽しかったいくつもの思い出が自然と甦って来る。

「私は………正直今は何も考えられません。突然のことで今は………」

サナの迷いをただただその場で聞いていたヨハン達。

「あの、先生?」
「なんでしょう?」

スッと手を上げ、シェバンニに問い掛ける疑問と提案。

「僕たちのところに入るってことはできないんですか?」

二学年に編入してきたのも自分達がいるため。それならばキズナに入ればそれでいいのではないかと。そうすればサナもこれだけ迷わずに済む、と。

「いえ、彼女たちは王都に勉強に来たのです。いくらあなた達と知り合いだからといっていつもあなた達といるわけにもいきません。他の人間も知っていく必要があります」
「……そうですか」

ナナシーとサイバルの学内における対応を伝える為に呼び出したのだと。
その返答に内心一際がっかりしていたのはレイン。

(くそっ!)

ヨハンの提案の際に思わず胸が躍ったのだが期待通りには運ばなかった。

「サナ。難しい問題だというのはわかります。ですが出会いと別れを経験することも時には必要になります」
「……はい」

仲違いすることもある。それどころか最悪死に別れをすることもある。
シェバンニの意図的な配分。

「すいません。さっきはああ言いましたが、俺からも一つだけ提案してもいいですか?」
「ええどうぞ」

隣で悩むサナを見て、ユーリは提案を持ち掛けた。

「俺とサナ、それとこのナナシーさんとサイバルさんで二対二の実戦形式での模擬戦をお願いします。パーティーを組む組まないに関わらず、実際にその実力をこの目で見てみたいです」

突然のユーリの提案にその場にいる面々は思わず驚愕したのだが、シェバンニだけは小さく笑う。

「ええ。私は構いません。互いの実力を知ることも必要なことですから。納得のいくようにして下さい。ナナシーとサイバルはどうですか?」

問い掛けにナナシーとサイバルは互いに顔を見合わせた。
ニヤッと笑うナナシーと小さく溜め息を吐くサイバル。

「オレは別に大丈夫です」
「もちろん私も大丈夫です! むしろこっちから願い出たいところでした」

対照的な反応の二人なのだが答えは同じ。

「わかりました。立ち合いは私がしましょう。それとあとの二人にも」

アキとケントをその場に立ち会わせるのだと。

「どうですかサナ?」
「…………――」

目を彷徨わせた後、サナは意を決する。

「――……わかりました。まず、模擬戦からお願いします!」

それまでとは打って変わった真剣な眼差しをシェバンニに対して向けた。その後、決心する様にしてナナシーとサイバルを見る。そのサナに対してナナシーは微笑みで返した。

「ヨハン達も観に来てくれるのよね?」
「え? いいんですか?」
「私は当事者たちが構わないのでしたら問題ありませんよ」

ヨハンはシェバンニの言葉を受けてサナとユーリを見る。二人共に小さく頷いていた。

「しかし覚悟をすることです。授業でも言いましたが、エルフは元々が人間よりも強い存在です」
「はい。わかっています」

サナは既に決意と覚悟をその瞳に宿している。

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