S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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碧の邂逅

第三百八十八話 水中遺跡①

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「ちょっとカレンさんひどいじゃないのさっ!」
「ごめんってば」

林間学校初日の夜、学生たちが宿泊する大きな建物の一室で憤慨するニーナ。
こっそりと付いてきたニーナが悪いのだが、一部釈明しようとシェバンニに話したところで誤魔化していると決めつけられ、何を言っても信じてもらえない。

「むぅううう」
「そんなに睨まないの」

結果、ただただ叱られ続けただけ。

「でもまだ良かったじゃない」
「それはそうだけどさ」

日も落ちてきたこともあり、強制送還という事態は免れていた。
部屋はカレンと同部屋をあてがわれている。

「そういえばあなた、水着は持って来ているの?」

林間学校の二日目はヒートレイクという湖に行く予定。
冬季に入っているこの時期であっても地下熱によって水浴びができる程に周囲の気温が高くなっているそのヒートレイクは年中入ることができるのだと。

「へっへーん」

持ち込んだ鞄からニーナは赤色の水着を取り出した。

「まったく、抜け目ないわね」

全て計算尽くで付いてきていることにカレンが呆れる。


◇ ◆


そうして二日目の朝を迎えて向かった先はヒートレイク。
大きな湖は泳いで渡るのだけでもかなりの時間を要する程の規模の湖。湖の中央には大きな島、中島がある。
学生たちがワイワイと水遊びを始めている中、ヨハンとレインとユーリは女性陣を待っていた。

「おいおい、楽しみだな」
「なにが?」

ヨハンとレインは上に服を羽織っているのだが既に着替え終わっている。サイバルは木陰で昼寝の体勢。まるで他の学生と遊ぼうという様子を見せない。

「そんなもん決まってるだろ? ユーリはわかるよな?」
「ま、まぁ」

微妙に口籠るユーリ。レインの言葉、その意図としていることを正確に理解していた。

「っと、来たぜ」

ぞろぞろと歩いてくる女性陣、モニカとエレナにカレン、ニーナとサナにナナシー。

「ほらっ、どれが好みだ?」

ガッとレインは肩を組みながら耳元で小さく囁く。

「ど、どれって……――」

言われても正直目のやり場に困った。

「どう、かな?」

恥ずかし気に視線を彷徨わせているモニカ。
端正な顔立ちで長い金髪と肉質の良い白い肌、程よい大きさの胸があり、包んでいるのは純白の水着。誰がどう見ても綺麗の一言。

「か、かわいいよ」
「あ、ありがと」

ぎこちない返答に同じぐらいぎこちない返事。

「モニカ、こういう時は堂々とするものですわ」

モニカに負けず劣らずの身体つきのエレナはゆるふわの髪と気品さを兼ね合わせているのだが、身に着けているのは黒い水着。しかし下品さの一切を感じさせないどころかむしろ上品だとさえ思わせた。

「如何でしょうか?」
「うん、とてもよく似合ってると思うよ」
「ありがとうございます」

ニコリと微笑むエレナの顔を直視できない。

「ねぇねぇお兄ちゃん、あたしは?」
「え?」

片腕に抱き着くニーナの胸の感触を得ながら視線を落とすと、桃色の髪を束ねたニーナは赤い水着を身に着けており、ニーナの元気よさを目一杯に表している。

「ニーナにぴったりだと思うよ。でもすぐにくっつかないこと」

グイッと引き離した。

「あなたはどこでもくっつくのね」

呆れながら腰に手を当てていたカレンは細身の身体つきなのだが出るところがしっかりと出ているその大人の身体。レインとユーリがゴクッと息を呑んだ。

「ヨハン、わたしはどうかしら?」

綺麗な銀髪も十分に映えるのだが水色の水着がまたどこか大人びて見える。

「似合ってますよ」
「ありがと」
「でも、それどうしたんですか?」
「ネネさんにお店を教えてもらったのよ」
「へぇ」
「ほらっ、サナも早く」

ナナシーの後ろでもじもじとしているサナは上を羽織っていた。

(ナナシー、俺はそんなことじゃ気持ちは変わらないからな!)

深い緑色の水着を着ているナナシーは明らかに身体つきで言えば他の女子たちより大きく見劣りする。良く言えば控えめ。

「ここまで来て何を可愛い子ぶってるのよあんたは!」
「きゃっ!」

サナの背後に立ったモニカが勢いよく羽織っていた布をはぎ取った。

「ぶっ!」

思わず鼻を押さえたレイン。その圧倒的な破壊力に思わず鼻血が出そうになる。

(す、スイカじゃねぇかっ!)

大きめの桃などと表現するのすら生温い。

「…………ぅ」

すぐさま両腕を前に交差させるサナは桃色の水着を着ていた。
目尻に涙を溜めながら、恥ずかし気に上目遣いでヨハンを見る。

「大丈夫だよサナ。よく似合ってるよ」

ヨハンはニコリと微笑んだ。

「ほ、ほんとに?」
「もちろんだよ。可愛いよ」

途端にパアッと目を輝かせるサナ。
サナの様子からして、恥ずかしさを増長させることを言えばショックを受けるのはわかっていた。

「ありがとうヨハンくん!」
「どういたしまして」

面白なさげに見ているモニカ達なのだが、ヨハンとしても困惑している。

(ほんと、どこ見たらいいんだろ)

なるべく凝視しないよう、注意を払わないといけない。

「よくやるわよ。そんだけ可愛い水着を用意するぐらいだから自分が可愛いって知ってるんじゃない」
「なっ!?」

呆れながら言葉を発すモニカにサナがムッとする。

「そんなこと言いながらモニカさんだってそうじゃない! 白の水着なんて男ウケするの狙っているようにしか見えないわよ!」
「なんですって!? 別に白なんて普通じゃないの! 一番多いわよ!」

途端に罵り合うモニカとサナ。

「……先に行ってるね」

終わる気配の見せない喧嘩に苦笑いするしかできなかった。


◇ ◆


結局、サナとモニカの喧嘩によって水泳勝負が巻き起こって全員が付き合わされた。
泳いだ先は湖の中央にある大きな中島。

「どうしてこんなに疲れないといけないのよ」
「モニカさんのせいじゃない! せっかくこんなに気持ちの良い場所なのに」

岩場に座り、息を切らせているモニカとサナ。

「何言ってるのよ! 元々はあんたのせいじゃない!」
「まぁまぁ、それぐらいにしておこうよ。気持ち良い場所だってことは確かなんだし」

ヨハンの言葉を受けるのだが、バチバチと互いに睨み合う。

「「ふんっ!」」
「……あはは」

仲の良い時もあればこうして喧嘩をする辺り、丁度良い釣り合いが取れているのかもしれないが思わず苦笑いが漏れ出た。

「まぁでも、ほんとに気持ち良いわね」

モニカは長い髪を耳にかき上げながら水に足をつけるとパシャッと水を蹴る。
透き通るほどの水質にほんのりとした温かさ。湖から上がれば少しの肌寒さはあったのだが水の中であれば出たくなくなるほどの気持ち良さ。

(こんなところがあったんだ)

地下熱によって水温が上がっているらしいのだが、およそ通常では考えられない。
まだまだ未知の領域、神秘的な出来事など世の中には多くある。

「みてみてお兄ちゃん! こんなの見つけちゃった!」

ザブンと水中から顔を出したニーナ。手に持っているのは透き通る様な青い小さな石の欠片。

「なにそれ?」
「ちょっとニーナ、見せてくださいませ」

石の欠片を見たエレナが目の色を変える。

「え? はい」
「……間違いありませんわ。アクアマリンですわね」

手渡されたエレナはジッと具に観察して断言した。

「ニーナ、これどこで?」
「え? 潜っていた先にあったけど?」

魔眼で海中を視通した際に魔力を含んだ鉱石が見えたので拾っているのだが、普通に見れば水の色と同化してまず見えない。
真顔で答えるニーナの横でエレナは思案する。

「こんなところで希少鉱石であるアクアマリンが採れるなどありえませんわ」

そういうとエレナはすぐさまザブンと水の中に潜っていった。

「他に何か変わったことはなかった?」
「変わったこと? そういえば建物みたいなのあったかな?」
「建物?」

ニーナの返答に疑問符を浮かべていると、すぐにエレナが戻ってくる。息を切らせながら。

「はぁ、はぁ、ヨハンさん、大変ですわ!」
「どうしたの?」
「この下には遺跡が眠っていますの!」
「えっ!?」

エレナが確認したところによると、中島の下にあったのは明らかに人工的に作られた建造物。
しかし王国はその遺跡の存在を知らない。見た感じ、場所も場所なだけにかなりの年数が経過しているように見えるのだと。

「――……もしかしたら、古代遺跡?」
「わかりませんわ。ですがその可能性はありますわね」

陸に上がり、持ち得る情報から話し合うのだが詳細は掴めない。水中に巨大な建造物など現代の技術ではほぼ作れない。

「だったら調べるしかないわね」
「ええ。もちろんですわ」

ニヤッと笑い合うモニカとエレナ。

「ヨハンさん、よろしいですか?」
「もちろん。僕も興味あるし」

そうして林間学校の二日目はマヌシード高原にあるヒートレイク、その中島で見つけた水中遺跡を調べることとなった。

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