456 / 724
学年末試験 二学年編
第四百五十五話 常在戦場
しおりを挟む「ね、姉さん!?」
学生達の窮地に姿を見せたのは、王立騎士団第七中隊長キリュウ・ダゼルド。テレーゼの姉だった。
「どうやら無事だったようだな」
「どうしてここに!?」
「あれだけの脅威だ。私も加勢しようと思ってな」
「あっ…………」
それだけで大いに納得する。むしろこれだけの非常事態。騎士団としてもこれを王国の危機だと判断したのだと。戦線に加わらない方がおかしい。
「だがそれよりも、ここまでよく頑張ったなテレーゼ」
「…………いえ」
頑張ったと言われてもサナの前に立つ壁となっただけで何も出来ていない。まだやれるはず。力不足が憎い。
「その悔しさを忘れるな。お前はもっともっと強くなれる」
そのテレーゼの心情を見透かすかのような眼差しを向けるキリュウ。
「…………はい」
「ところでそちらのお嬢さん」
「わ、わたたたし?」
突然声を掛けられたことでしどろもどろになるサナ。
「ああ。見たところかなりの魔導士と見た」
「あっ、いえ、そんな」
褒められ慣れていないサナは思わず視線を彷徨わせる。
キリュウから見るサナが用いた魔法の数々は目を見張るものばかり。
「それでだ。一つ、頼みがある」
「頼み、ですか?」
「ああ。先程見せた魔法は私にも有効か?」
「魔法?」
そんなサナだからこそキリュウはこの局面に於いての打開策が浮かんでいた。
とはいえどの魔法のことを差しているのか。
「あのエルフの矢の速度を上げた魔法だ」
「え? あれを?」
「ああ」
妙案に用いるのはナナシーの矢を加速させた魔法。
「私って……? どんな武器ですか?」
しかしどう用いようとしているのかということがさっぱりわからない。ナナシーのように遠距離攻撃を扱えるのかどうか。
「私が使う武器はこの身体だ」
ニコリと笑みを浮かべるキリュウ。テレーゼの姉であるキリュウであれば同じような能力を有しているのだと、そこでようやく理解した。
「それって……」
「ああ。肉体は無理か?」
キリュウの身体が光を帯びていくなりすぐさま獣化していく。テレーゼが見せた時よりも素早く、そして美しく。そこにいるのはまるで人狼なのだが、映える美しさを誇る赤い毛並みはどこか高貴に満ちていた。
「えっと、魔力を帯びているからたぶん大丈夫だと思いますけど」
加速魔法の条件は魔力の含まれている物に限られているのだが、人間そのものはいくら内部に魔力を有しているとはいえ基本的には難しい。だが闘気のように魔力を体外に放出していれば例外。特に今のキリュウやテレーゼのように獣化していれば尚更。
「十分だ。ならとりあえず一撃を入れてこよう」
「一撃って……」
「時間がない。説明は後だ。もう一度さっきのを撃たれれば全員もたないぞ」
「は、はい」
「よし。タイミングはそっちに任せる」
サナの返事を受けたキリュウはすぐさまシーサーペントに鋭い眼差しを送り、ダンッと勢いよく駆け出す。そのまま片手に剣を抜き放つとだらりとぶら下げた。
「……いっちゃった」
思わず呆然としてしまう。有無を言わせぬ提案。
「大丈夫だ。アレに任せていればいい。なに、死にはしないさ」
「う、うん」
もう既に最前線にいるエレナ達に追い付こうとしていた。
「エレナ様っ!」
「!?」
凄まじい勢いで浮島を飛び越えていくキリュウはそのまま大きく声を掛ける。
「あなたは!?」
「私が時間を稼ぎます。その間に回復を!」
「わかりましたわ!」
そうしてエレナはすぐさまモニカの下へと駆け寄り、治癒魔法を施し始める。
「ねぇエレナ。あれだれ?」
「彼女は騎士団の方ですわ」
「騎士団?」
「今は彼女に任せますわよ」
「わかったわ」
今のこの危機的な状況に於いて戦力は少しでもあるに越したことはない。エレナが言うのであれば間違いもない。そうしてモニカは体力の回復に専念する。
「よし。あとは……――」
エレナ達の動き確認したキリュウは大きく息を吸い込んだ。
「キシュウウゥゥ…………」
チラと見上げる先に堂々と佇んでいるシーサーペント。
狙うのは顔ではない。恐らくどれだけ速度を上げたところでまだ余裕があるであろうこの状況では急所への致命傷は与えられない。防がれてしまうと決死の一撃が無駄になりかねない。
「――……いくぞッ!」
ドンっと力強く浮島を踏み抜き跳躍した。
その勢いにより水面へ波紋を残しながら浮島には大きく罅を入れる。
「【加速魔法】」
すかさずサナはキリュウの前に魔方陣を出現させると、キリュウの身体は加速度的に速度を上げてシーサーペントへと向かった。その先には光を灯し始めている背びれ。
「ヌンッ!」
真っ直ぐに腕を伸ばして剣を大きく突き出す。
「さすが。硬いな」
魔力を十分に溜め込んでいるその背びれなのだが、全力を出せば貫けない程ではない。
「常在戦場ッ!」
ここは王都内の学校。それもただ妹の試験を観戦に来ただけ。だがここはもう生死を賭けた戦場に他ならない。
「ハアアアアアッ!」
獣化したことで強化された筋肉が悲鳴を上げる中、キリュウの目の前でバリンッと音を立てる。
まるでガラスが大きく割れるかのような音を響かせながら背びれを貫いた。
「す、ごい……」
いくら加速魔法により威力の底上げをしたとはいえ、単独で頑強な鱗を貫いた事に対して思わず感嘆の声を漏らすサナ。
「ギシャアアアア」
まるで悲鳴かと思える程に大きな声を上げるシーサーペント。再び魔力解放を行おうとしていた背びれは次第にその光を霧散させていく。
「やはり一つだけでも壊せば有効だったようだな」
背びれが先程の驚異的な攻撃を生み出していた要因そのものだという見解をキリュウは抱いていた。結果、その見解通りすぐさま放たれようとする気配を失わせていく。
しかしシーサーペントはすぐさま自身へと甚大な被害を与えた存在をギロッとその目に捉えた。
11
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる