S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百五十五話 常在戦場

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「ね、姉さん!?」

学生達の窮地に姿を見せたのは、王立騎士団第七中隊長キリュウ・ダゼルド。テレーゼの姉だった。

「どうやら無事だったようだな」
「どうしてここに!?」
「あれだけの脅威だ。私も加勢しようと思ってな」
「あっ…………」

それだけで大いに納得する。むしろこれだけの非常事態。騎士団としてもこれを王国の危機だと判断したのだと。戦線に加わらない方がおかしい。

「だがそれよりも、ここまでよく頑張ったなテレーゼ」
「…………いえ」

頑張ったと言われてもサナの前に立つ壁となっただけで何も出来ていない。まだやれるはず。力不足が憎い。

「その悔しさを忘れるな。お前はもっともっと強くなれる」

そのテレーゼの心情を見透かすかのような眼差しを向けるキリュウ。

「…………はい」
「ところでそちらのお嬢さん」
「わ、わたたたし?」

突然声を掛けられたことでしどろもどろになるサナ。

「ああ。見たところかなりの魔導士と見た」
「あっ、いえ、そんな」

褒められ慣れていないサナは思わず視線を彷徨わせる。
キリュウから見るサナが用いた魔法の数々は目を見張るものばかり。

「それでだ。一つ、頼みがある」
「頼み、ですか?」
「ああ。先程見せた魔法は私にも有効か?」
「魔法?」

そんなサナだからこそキリュウはこの局面に於いての打開策が浮かんでいた。
とはいえどの魔法のことを差しているのか。

「あのエルフの矢の速度を上げた魔法だ」
「え? あれを?」
「ああ」

妙案に用いるのはナナシーの矢を加速させた魔法。

「私って……? どんな武器ですか?」

しかしどう用いようとしているのかということがさっぱりわからない。ナナシーのように遠距離攻撃を扱えるのかどうか。

「私が使う武器はこの身体だ」

ニコリと笑みを浮かべるキリュウ。テレーゼの姉であるキリュウであれば同じような能力を有しているのだと、そこでようやく理解した。

「それって……」
「ああ。肉体は無理か?」

キリュウの身体が光を帯びていくなりすぐさま獣化していく。テレーゼが見せた時よりも素早く、そして美しく。そこにいるのはまるで人狼なのだが、映える美しさを誇る赤い毛並みはどこか高貴に満ちていた。

「えっと、魔力を帯びているからたぶん大丈夫だと思いますけど」

加速魔法の条件は魔力の含まれている物に限られているのだが、人間そのものはいくら内部に魔力を有しているとはいえ基本的には難しい。だが闘気のように魔力を体外に放出していれば例外。特に今のキリュウやテレーゼのように獣化していれば尚更。

「十分だ。ならとりあえず一撃を入れてこよう」
「一撃って……」
「時間がない。説明は後だ。もう一度さっきのを撃たれれば全員もたないぞ」
「は、はい」
「よし。タイミングはそっちに任せる」

サナの返事を受けたキリュウはすぐさまシーサーペントに鋭い眼差しを送り、ダンッと勢いよく駆け出す。そのまま片手に剣を抜き放つとだらりとぶら下げた。

「……いっちゃった」

思わず呆然としてしまう。有無を言わせぬ提案。

「大丈夫だ。アレに任せていればいい。なに、死にはしないさ」
「う、うん」

もう既に最前線にいるエレナ達に追い付こうとしていた。

「エレナ様っ!」
「!?」

凄まじい勢いで浮島を飛び越えていくキリュウはそのまま大きく声を掛ける。

「あなたは!?」
「私が時間を稼ぎます。その間に回復を!」
「わかりましたわ!」

そうしてエレナはすぐさまモニカの下へと駆け寄り、治癒魔法を施し始める。

「ねぇエレナ。あれだれ?」
「彼女は騎士団の方ですわ」
「騎士団?」
「今は彼女に任せますわよ」
「わかったわ」

今のこの危機的な状況に於いて戦力は少しでもあるに越したことはない。エレナが言うのであれば間違いもない。そうしてモニカは体力の回復に専念する。

「よし。あとは……――」

エレナ達の動き確認したキリュウは大きく息を吸い込んだ。

「キシュウウゥゥ…………」

チラと見上げる先に堂々と佇んでいるシーサーペント。
狙うのは顔ではない。恐らくどれだけ速度を上げたところでまだ余裕があるであろうこの状況では急所への致命傷は与えられない。防がれてしまうと決死の一撃が無駄になりかねない。

「――……いくぞッ!」

ドンっと力強く浮島を踏み抜き跳躍した。
その勢いにより水面へ波紋を残しながら浮島には大きく罅を入れる。

「【加速魔法ブースト】」

すかさずサナはキリュウの前に魔方陣を出現させると、キリュウの身体は加速度的に速度を上げてシーサーペントへと向かった。その先には光を灯し始めている背びれ。

「ヌンッ!」

真っ直ぐに腕を伸ばして剣を大きく突き出す。

「さすが。硬いな」

魔力を十分に溜め込んでいるその背びれなのだが、全力を出せば貫けない程ではない。

「常在戦場ッ!」

ここは王都内の学校。それもただ妹の試験を観戦に来ただけ。だがここはもう生死を賭けた戦場に他ならない。

「ハアアアアアッ!」

獣化したことで強化された筋肉が悲鳴を上げる中、キリュウの目の前でバリンッと音を立てる。
まるでガラスが大きく割れるかのような音を響かせながら背びれを貫いた。

「す、ごい……」

いくら加速魔法により威力の底上げをしたとはいえ、単独で頑強な鱗を貫いた事に対して思わず感嘆の声を漏らすサナ。

「ギシャアアアア」

まるで悲鳴かと思える程に大きな声を上げるシーサーペント。再び魔力解放を行おうとしていた背びれは次第にその光を霧散させていく。

「やはり一つだけでも壊せば有効だったようだな」

背びれが先程の驚異的な攻撃を生み出していた要因そのものだという見解をキリュウは抱いていた。結果、その見解通りすぐさま放たれようとする気配を失わせていく。
しかしシーサーペントはすぐさま自身へと甚大な被害を与えた存在をギロッとその目に捉えた。

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