S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百五十六話 飛来する砲撃

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「ふむ。これは避けきれない」

キリュウが上げたのは最低限の戦果。しかしそれが最大の戦果でもある。
シーサーペントの魔力解放の要を的確に見抜いただけでなくそれを成し遂げただけでも十分な功労。

「仕方ない」

凄まじい勢いでキリュウの眼前へと迫る尾。空中では身を捻ることができず、出来ることといえば防御姿勢を取るのみ。

「がっ!」
「姉さんっ!」

テレーゼが大きく声を上げる中、尾によって激しく叩きつけられたキリュウは水面へと身体を打ち付ける。

「間に、合った!」

水面に向け大きく手をかざしているサナ。

「ぐぅ……」

モニカが攻撃を受けた時と同様、サナの魔力によって水面は綿のように柔らかくなっていた。ここまで連続した魔法使用にはまだ不慣れだったのだが、それでもサナはなんとかキリュウを受け止めることに成功している。

「くぅ、これは効いた」

小さく頭を振り、混迷しそうになる意識を振り払った。

「まったく」

抱く感情は我ながら情けないの一言。決死の一撃とは程遠いながらもこれだけしかできない。ここに至る迄あの怪物とこれだけの死闘を演じてきている学生達の実力の高さには素直に称賛せざるを得ない。
ただしそれよりも、アーサー・ランスレイ、旧知の間柄の彼がこの場を目にしていれば心配するだろうか。それとも――。

「いや」

恐らく笑うだろうなと、どこか確信的に断定できる。

「ようやく慌てだしたか」
「キシャアア」

そうしてキリュウが視線の先に捉えるのは、これまで淡々と殲滅せしめようと攻撃を繰り出していたシーサーペントが初めて見せる怒りの感情。

「キシュウウウッ」

長い舌をシュルリと回しながら即座に反応を示すのは、その場に於いてキリュウを守った存在、サナをジロリと見る。それどころか、先程までの戦闘に於いて、要所要所で補助魔法を使っているサナがここに於いて最も邪魔な存在なのだと認識した。

「え?」

不意にシーサーペントと目が合うサナは悪寒が走る。

「しまったっ!」

これからシーサーペントが繰り出す攻撃を悟ったキリュウはすぐに起き上がりサナの下に舞い戻る様にして駆け出した。シーサーペントの狙いがサナへと代わったのだと。

「テレーゼッ!」

ガパッと大きく口を開くと、直後に放たれるのは高出力の魔力弾。

「ぐうっ!」

姉の声に応えるかのようにして再びテレーゼがサナの前に立ち、受け止めるようにして槍を構える。ドンっと激しい音を響かせながらその魔力弾が衝突した。

「がはっ!」

後方、サナの後ろまで吹き飛ばされる。

「キシャアアア!」

しかしテレーゼが防ぎきった中、連続して魔力弾が放たれようとしていた。

「うぐっ……」

必死に立ち上がろうとするのだが、次の一撃を防ぎきる体力はもう残されていない。エレナ達もその攻撃を阻止しようと動き始めるのだが、それよりもシーサーペントが魔力弾を放つ方が早い。

「【与えるべき寵愛アフェクション】」

直後、その場に響く小さな声。

「な、なんだこれは……――」

テレーゼは突如として湧き上がって来る力がまるで信じられない。自分の力でありながらも自分の力ではない様に感じられるどこか浮遊感が漂う妙な感覚。

「――……だがッ!」

これであれば間違いなく耐えきれる。
ガパッと口を大きく開けるシーサーペントから放たれるのは巨大な砲弾と化した二度目の魔力砲。

「う、おおおおおおおおッ!」

すぐさま立ち上がるなり駆け出し、背後にサナとユーリを背負いながら、両腕を大きく広げて立ち塞がった。

「こ、こ、ここでやらねばいつやるというのだっ!」

ガシッと抱き込み、その魔力砲を防ぎきるために渾身の力を込める。

「は……はぁ、はあああああああっ!」

両腕を交差させる刹那の瞬間、パンッと鋭い破裂音を辺り一帯に響かせた。

「はぁ、はぁ、や、やった…………」

確実に以前の自分では魔力砲をかき消すどころか背後のサナ達を守ることも適わずもろともに消滅して死していただろう。

「あ、とは、頼んだ」

満足気な笑みを浮かべ、バタンと前のめりにテレーゼは倒れる。

「テレーゼさんっ!?」

慌ててしゃがみ込むサナがテレーゼの身体を揺するのだが、すぐさま苦悶の表情を浮かべるテレーゼ。

「し、しんぱいするな。だいじょうぶだ。いきている」

細かく息を吐きながら小さく笑みを浮かべた。

「よかった」

ホッと安堵の息を吐くサナ。

「だ、だが、もう何も出来はしない。だからあとは、たのむ…………――」

そこで意識を手放すテレーゼ。スッと目を瞑ると気を失う。

「……任せて」

これまで何度となく守ってもらったサナ。これだけの力を得ながらも未だに守ってもらってしまっている。

「あいつは私が倒すわ」

だがこれまでと明らかに違う感覚に襲われていた。絶対的な意志を持ち目の前の怪物を倒すのだという決意を宿す。

「テレーゼさん。この試験が終わればいっぱいお話ししましょうね」

ニコッと笑みを向け、サナはすくっと立ち上がった。


「――……まったく。無茶をする人達ばかりですわね」

その様子を遠くから見るマリン。カニエスが倒れてくれていたおかげで与えるべき寵愛をテレーゼに向けて行使することができた。

「ですが、これで今のところは全滅を免れたようね」

不意の乱入者によるものとはいえ、マリンがこれから成そうとしていたこと、シーサーペントの背びれを破壊するということを見事にやり遂げてくれている。感謝すると同時に、もはやもう広範囲攻撃がないのであればこれから先の展望に対して思考を巡らせる負担は大きく軽減した。

「キシャアアアアアアッ!」
「え?」

直後、目を疑う光景が起きる。
立て続けに受ける攻撃と邪魔な小虫達。結果、怒り狂ったシーサーペントが取った行動。

「あいつ、どこ狙ってやがんだ?」

レインの言葉の通り、それは狙いを定めず、無作為に繰り出された破壊行動であり、シーサーペントの正面、半円側に向けて繰り出された細い線状の攻撃だった。

精度が不十分であったのだが、運悪くもその細い魔力弾がマリンの下へと飛来する。
明らかにこれまでよりは威力は落ちており、闘技場全体を巻き込んだ魔力解放程ではない。距離があったことで通常であればなんとか避けきれる速度のはずだったのだが、【与えるべき寵愛】の使用による反動で身動きが取れないでいた。

「あっ……――」

避けきれない。
本能が理解している。例え殺傷能力がこれまでより低い攻撃であったとしても、自分の防御力であれば当たり所が悪ければ死んでしまう。動きたくとも動けない。不意に訪れた事態に思わず頭の中が真っ白になってしまった。

「ぐはっ!」

ゆっくりと流れる刻の中で、視界を遮る人影。
ドンっと付き押された。その影の中に見える慌てた表情。

「レインッ!?」

ドサッと倒れながらも目線だけは逸らさない。自分の不甲斐なさによって目の前で倒れてしまっている人間がいる。

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