S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
459 / 724
学年末試験 二学年編

第四百五十八話 顎(アギト)

しおりを挟む

「凄いわこれ!」

モニカが大きく斬撃を放つと頑強な鱗を易々と切り裂けた。およそこれまででは考えられない程の力が湧き上がってくる。

「キシャアアアッ!?」

悶絶するような声を放つシーサーペント。モニカがそのまま近くの浮島に着地するなり叩きつけるようにして眼前へと放たれる巨大な尾。

「風牙っ!」

しかしその尾はモニカに到達することなく、スパンと目の前で両断される。血飛沫を撒き散らすその先には薙刀の魔剣シルザリを振るっているエレナ。

「まったく。なにがどうなっていますのやら」

明らかにマリンの【贈られる寵愛】によって自身の能力が大きく底上げされているのだという実感。どこか不思議な感覚を得ていた。

「瞬速の矢」

シュバッと風切り音を上げてグングンと伸びる矢はシーサーペントの眼球にブスッと刺さる。

「ギシャアア……――」
「これなら勝てるわ!」

突然の痛みにシーサーペントが大きく体をくねらすように動かす中、確かな感触を得てグッと手に力を込めるナナシー。チラとマリンを視界に捉えた。

「ありがとう、マリンちゃん」
「キシュウウッ…………」

圧倒的な防御力を誇っていたシーサーペントの鱗はもう傷だらけ。それどころか尾は切り落とされ眼は片目しかない。

「あっ! あいつ逃げる気よ!」

魔力弾を何度放とうが避けられ、当てたと思えば弾かれてしまう始末。魔力を溜め込む背びれも破られた今、もう残された攻撃手段は何も持ちえていない。
シーサーペントは体を上方目掛けて大きく伸ばすと一気に一直線に頭から水面に向けて飛び込ませる。ザブンと大きな水飛沫を辺り一帯に撒き散らせた。

「だめ、届かない!」

ナナシーが慌てて水中に向けて矢を射るのだが、いくら威力を大きく上げたとはいえそれでも水中では半減する。軽く刺さる程度。水中に潜られれば攻撃手段もない。せっかくここまで追い詰めたというのにこのままでは逃げられてしまう。

「水流のあぎと

小さな声が聞こえ、直後にはぼこッと水面が隆起する。次の瞬間、水面から大きな水の柱が立ち昇った。水柱の先端はまるで水竜の如き咆哮を上げているように見える。そうしてその中に飲み込まれるかのように巻き込まれているのはシーサーペント。

「「「サナ!」」」

圧倒的なまでの水の操作術。それが誰の手によるものなのか、エレナ達にはわかっていた。

「絶対に、逃がさないわ!」

右手のブレスレットが大きく光り輝いている。ウンディーネから借り受けた能力をここ一番、最大限に発揮している。

「す、凄まじい」
「ああ」

姉妹、獣化しているテレーゼとキリュウが見上げながら思わず呆気に取られる程にその水柱は強大な力強さを物語っていた。

雨の矢シャイニングレイン

サナが続けざまに呟いた直後、水柱を囲うように中空に細長い水の塊が生み出されていく。そうして水柱の中には鋭い水の針が降り注ぐようにして撃ち込まれていった。

「シャアアアアアアッ――――」

絶叫を上げながらシーサーペントの体を貫いていく。

「エレナさん! モニカさん!」

大きく声を掛けるサナ。この機を逃さないで欲しいということ。モニカとエレナは顔を見合わせ合い小さく頷いた。

「ここまでお膳立てされたら」
「ええ。やるしかないようですわね」

ダンッと跳躍するモニカとその場でクルッと身体を一回転させるエレナ。

「紫電ッ!」
「旋風乱舞ッ!」

ようやく激しい雨の矢が止むなりドパンと水柱の水が晴れる。周囲にキラキラと乱反射する水飛沫を撒き散らしながら空中にその身を放り出されたシーサーペント。跳躍していたモニカが丁度そこに到達するなり振り切られる剣戟。

「シャアア――」

ピッと水滴すらも真っ二つに裂き、決定的な一撃を以てシーサーペントの体を両断する。モニカの身体が両断したシーサーペントを通り抜けた直後、いくつもの風の刃がザンッと音を立てながら更に切り裂いた。

「これで終わり、ですわ」

優麗な笑みを浮かべるエレナはシルザリを浮島に突き立てる。
結果、巨大な魔物シーサーペントはボトボトと水音を立てながら水面に落ちていった。もはや肉塊と化している。

「やったぜあいつら!」
「……ええ」

しっかりとその眼に捉える戦いの結末。輪切りにされたシーサーペントを見てようやく倒しきったのだと。

「お、おいっ!」

レインが慌てて両腕をマリンに差し出すと、マリンは後方に倒れながらレインの腕によって支えられる。

「なんだ? 気絶、してるのか?」

それでも思わずレインも笑ってしまうのは、腕の中で抱かれているマリンは意識を失いながらも薄っすらと笑みを浮かべていた。

「まぁなんだかんだ言いながらも結局お前のおかげで助かったぜ。あんがとな」

そうして顔を上げたレインが次に目を向けるのは遠くに見える浮島へ。

「こっちは終わったぞヨハン」

そこではヨハンとゴンザが未だに剣戟を響かせながら戦いを繰り広げていた。





駆け回るほどの大きさがある浮島。素早く動き回っている二人。

「ふっ!」

ヨハンが剣を大きく振り下ろすなり鋭い金属音を響かせた。

「ぐっ!」
「ゴンザ! もうやめるんだ!」

目の前に銀色の刃が迫る中、それでもゴンザはニヤッと笑みを浮かべる。

「はあッ!」

大剣を大きく振るいながらヨハンを押しのけ、そのまま追撃を仕掛けるためにゴンザは地面を踏み抜いた。

「っと」
「チッ!」

ゴロッと横に転がって迫る剣を躱し、そのまま地面に手を着くと跳ねるようにしてすぐさま起き上がる。

「……はぁ……はぁ……――」

肩で息をしているゴンザに対して体力的に余裕があるのはヨハンの方。

「――……くそっ。バケモンめ……」

憎々し気にヨハンを睨み付けるゴンザなのだが、ここまで劣勢に立たされ続けている。何度となく剣を振るい続けているのだがそのどれもをいなされ続けていた。

「もうやめようゴンザ」
「あ?」

だらりと剣を下げるヨハン。

「これ以上僕たちが争っても意味はないよ」

狂気が収まる気配を見せない中、遠目に見えるのは丁度モニカ達がシーサーペントを倒しきったところ。

「意味がない、だと?」
「うん。詳しく聞かないとわからないけど、もしゴンザが間違いを犯したのだとすれば、それはきちんと償えばいいんだし」
「…………やっぱりテメェは何もわかっちゃいねぇな」

そう言いながらゴンザもだらりと剣を下げる。

「ゴンザ?」

言動と態度が一致していない。戦意を失って剣を下げたわけではないのは見て取れる。

「!?」

直後、ブンッと大剣に灯すのは黒い光。

「俺より強い奴がいることを、俺は許せねぇんだよッ!」

ギラッと眼光鋭く、その場で大きく剣を振るった。その剣に対してヨハンは慌てて後方に飛び退く。

「ぐっ!」

ピッと胸の辺りの衣服を切り裂き、トロッと血が垂れる。

(……今の攻撃)

これまでで一番鋭く、そして威力が高い。何より、その黒い光は色こそ違えども剣閃に他ならなかった。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...