463 / 724
学年末試験 二学年編
第四百六十二話 閑話 賢者パバール(中編)
しおりを挟む「いかにも。かつてはそう呼ばれていたが、今となっては私の存在など書物に少し残る程度だろうな」
ガルドフの問いに対して賢者パバールは肯定する。
賢者と呼ばれる存在、それは魔法に著しく長けたものが得られる称号。しかしパバールという賢者は見識の広いガルドフであっても聞いたことがない。
「申し訳ないが、少し話をさせてもらえぬか?」
「そうじゃな……――」
パバールは未だに視線を逸らし続けるシルビアをジッと見た。
「――……これが全くの初対面の者達ばかりであればまた話が変わるのだが、そうでもないのでな」
「じゃあさっさとしようぜ」
「ちょっとアトム! もうちょっと言い方を考えてよ!」
「そういうのがめんどくせぇんだって」
「けど、今回は事情が違うわよ」
初対面の、それもシルビアの師、つまりエリザからすれば師の師であるのだから当然の答え。失礼のないようにする方が確実に良いという判断をしているエリザ。不安気にパバールに視線を向けるとパバールは笑みを浮かべている。
「無駄だってエリザちゃん。アトムはいつまで経ってもアトムだよ」
「それはそうだけどさクーちゃん……」
「おい。それは褒めてんのか? けなしてんのか?」
「どっちもだろう」
ラウルからすればいつも通り。良くも悪くもアトムはアトム。
「かまわんさ。その程度であれば」
その返答を受けてエリザはホッと安堵の息を漏らした。
「では」
「ただし」
話を進めようとするガルドフの言葉をパバールが遮る。
「一つ条件がある」
「条件とな?」
「ああ。詳しい話はその馬鹿弟子が私に正式に謝罪をして自身の非を認めることだ。そうすればお前達がわざわざこんなところまで訪れた事情を聞こう」
笑みを浮かべシルビアを指差しながらパバールはその条件を提示した。
全員の視線がシルビアに向けられるのだが、シルビアは明らかに不快感を露わにしている。
「こ、の、言わせておけば調子に乗りおってからに!」
言いたい放題言ってくるパバールに対して、シルビアは我慢できずにパバールに対して杖を構える。
「ちょ! 姐さん!?」
その動きが何を示すのかということを全員が即座に理解した。
そして予想通り、息つく暇もない程の素早さで杖が雷を帯びるとすぐさま一直線でパバールに向かって放たれる。
「ふんっ。この程度。まだまだ青い」
雷光が眼前に迫る中、パバールは腕を軽く振るう。
展開されたのは魔法障壁。しかしただの障壁ではなかった。それが反射の効果を持つ魔法障壁だということはその場にいる面々は一目で察する。
しかし驚愕することは魔法反射を繰り出したことでもなかった。
「なんて強度なの!?」
「硬っ!」
エリザとクーナも魔法の技術は超一流。だがシルビアの魔法はその二人よりも一段階上。そのシルビアが躊躇なく、一切の遠慮のない威力を用いて放たれた魔法。それでも障壁に罅を入れることなく跳ね返されているのだから。
そうしてパバールの目の前で反転させた雷光は術者であるシルビアに向かっていく。
「っ!」
小さく声を発したシルビアは直前で顔を動かし雷光を躱すのだが、雷光はそのまま後ろにいたアトムとラウルへと向かった。
「おい!」
「ったく!」
即座にアトムとラウル二人して剣を抜き放ち雷光を受け流す。
「ほぅ」
パバールが感心の声を漏らすのは遠目に見えるその二人に対して。内心ではシルビアの魔法の素早さに対して若干胆を冷やしていた。その反射した高威力の魔法を、いくら距離があったとはいえ的確にいなす姿はそれだけで二人共に強者なのだと見て取れる。
(ふむ。その辺の者を連れて来たというわけではないということだな)
その様な者達を引き連れて一体どういう用件なのかと少しばかりの興味も湧くのだが、それとこれとは話は別。
「もう終わりか? では素直に謝罪をすることだな」
「そのようなことをする必要はない。貴様が大人しく屈服すれば良いだけじゃ」
顔をしかめながら尚もパバールに対して向けられる杖。立て続けにいくつもの魔法を放ち続けた。
だがどの結果も同じであり、炎・雷・氷と属性を即座に変えようともその都度対応される。
「おいおいいい加減にしてくれよ」
「まったく。大変だよね」
アトム達が身を捻りながら反射された魔法を躱す中、クーナは空中で浮いていた。
「クーちゃんずるいわよ!」
「だって一人しか浮かせられないんだもん」
エリザが声を掛けるクーナは風魔法の応用で自身を浮かせている。
「こんなもんに手こずってどうする」
「俺達はガルドフみたいな化け物じゃないんでね」
「そうかの」
ラウルが剣で炎を切り裂く中、微動だにしていないガルドフの正面には氷と雷が同時に迫って来ていた。
「むんっ!」
上半身半裸のガルドフはその厚い胸板に力を込める。
直後、粉々に砕け散る氷とパチンと霧散する雷光。
「まったく。どんな身体してんだよ」
圧倒的なまでの肉体の強さに対して呆れる一同なのだがそれもまたいつものこと。
「ぐっ、くぅっ!」
「ふむ。諦めが悪いのは相変わらずじゃの」
魔法を反射し続けるパバールが隙間を縫うようにしてシルビアへと杖を向けた。
「これは!?」
シルビアの頭上、上空に浮かび上がる黒の紋様の魔方陣。
「マズいッ!」
危機を察知するなりその場を飛び退こうとするのだが、足下から伸びるいくつもの黒い手。その手がシルビアの足を掴む。
「チッ!」
次の瞬間、上空の魔方陣から降って来るのは黒い幕。一気にシルビアを覆い尽くした。
「姐さん!?」
姿が見えなくなるシルビアへアトムが叫ぶ。
「案ずるな。少しばかり灸を据えてやるだけだ」
ニヤッと笑みを浮かべるパバールの足下にも魔方陣が生まれ、パバールも地面に沈むようにトプンと姿を消した。
「むぅ。これはどういうことだ?」
魔法に聡い二人、エリザとクーナに向けてガルドフが問い掛ける。
「どういうことって聞かれても……」
スタっとエリザの横へ軽やかに着地するクーナ。互いに顔を見合わせた。
「ええ。別の空間に移されたのは間違いありません。ですが」
「そこじゃないのよねぇ、怖いのは」
「そうなの。シルビアさんは無事だとは思いますが……――」
見つめる先はシルビアが姿を消した場所へ。パバールの言葉尻からしてそう受け取っていたのだが問題はそこではない。
「だったら様子を見るしかねぇんじゃねぇの?」
「そうだな」
害意を感じさせないパバール。一方的な魔法攻撃に対抗していたのみで、むしろ敵意を剥き出しにしていたのはシルビアの方。
そうなると急いで何か手を打たなければいけないわけではない。次に姿を見せるまでどうしようもない現状、出来ることもなさそうなのでとにかく待つことにした。
「――……おっ?」
そうして待つこと一時間程。
「ようやくか」
パバールとシルビアの関係などの談話をするなどして時間を潰していた中、姿を消した地面に再び浮かび上がる魔法陣。
立ち上がり迎える準備をするのだが、思わずその場所から目を逸らす。
「待たせたの」
「…………」
満足気な笑みを浮かべているパバールに対してまるで凌辱でもされたのかと言わんばかりのシルビアの表情。どう声を掛けたらいいのかわらからなくなった。
「シルビアさん、なにされたの?」
ただし、クーナだけが考えなしにその禁忌に触れる。
「黙れッ!」
「え?」
杖の先端がパリッと音を鳴らすなり響く雷鳴。
「きゃあああああっ!」
クーナの毛を逆立てる程に直撃した。
(バカね、クーちゃん)
その様子にエリザは苦笑いするしかない。内心では理解している。シルビアが何かしらの謝罪の意を示したのだろうということを。
「フンッ」
ただの憂さ晴らしに利用されたクーナを余所にガルドフは問い掛ける。
「では詳しい話をさせてもらっても?」
「かまわんよ。中に入れ。話を聞こう」
パバールはそう言ってアトム達を家の中に招き入れた。
14
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる