464 / 724
学年末試験 二学年編
第四百六十三話 閑話 賢者パバール(後編)
パバールによって案内された建物の中はまるで既視感を覚えるような内装。
(やっぱ姐さんの師匠だな)
並べられている書物の多さもさることながら、何に使うのかわからない道具の数々はシルビアが住まいにしていた家屋と同じ。しかし違いがあるのはその多さ。シルビアの持っていた分だけでも相当に多いと感じていたのだがここにはそれ以上あった。
「そこに座れ」
中央にある木卓に腰掛ける様に指示される。
「ふむ。詳しい経緯はわからないが、見たところ主等はシルビアの仲間ということだな?」
「下僕じゃ」
悪態感を含めながら答えるシルビア。
「なにか言ったか? ひよっこ」
「ぅぐっ」
パバールの鋭い視線がシルビアを射抜く。
「まぁよい。それで、話とは?」
「単刀直入に話そう。大賢者パバール殿、実はそなたが持っておられるという時見の水晶、それを借り受けに来た」
それがパバールの下を訪れた最大の理由。
「確かに時見の水晶を持っておるが誰に聞いた?」
「グランケイオスから教えてもらったんだ」
「ふむ。なるほど。それならばいくらか納得のいくものよの。私は漆黒竜に会うたことはないが、確かにそれはここにある。先々代が漆黒竜と会うておるのでその時に知っておったのじゃろうな」
パバールは徐に立ち上がり、いくつもの魔道具が置かれているところに行くと一つの水晶を手にする。
「これがお主等の探しておる時見の水晶だ」
ゴトンっと机の上に透明の水晶を置く。
「漆黒竜が言っておったのはこれのことだな。それで、これで何を調べるつもりだ?」
「魔王の呪いだよ」
「!?」
アトムの言葉を聞いた途端にパバールは目を見開いた。
「何を知っておる?」
その様子に疑問符を浮かべるシルビア。確実にパバールはいくらかの事情を知るような反応を示している。
「魔王か? それとも呪いか?」
「…………」
シルビアの問いかけにパバールは無言。しかし値踏みするようにしてジッと目の前にいる面々を見回した。
(嘘を言っている風にも見えないな。私が生きている間にそれが起きる事が幸いと捉えるべきか……――)
そうしてゆっくりと口を開く。
「――……そのどちらとも、だ」
ほんの一言の返答だけだが、その中には重大なものが含まれていた。
ガタンと勢いよく立ち上がるアトム。
「おいっ! だったらそれを詳しく教えてくれよ!」
「ちょ、ちょっとアトム! 慌てないで!」
「これが落ち着いていられるかよ! 俺たちが知りたいことをこの婆さんが知ってるかも知れねぇんだぞ!?」
「いいから座れって」
「そうよ」
実際内心では落ち着いていられないのはシルビアを除く全員がそう。呪いに関する詳細を知るために動いているのだから。
「連れがうるさくしてすまぬ」
エリザとクーナとラウルによってアトムが黙らされている中でガルドフがため息を吐きながら問いかける。
「かまわんさ。賑やかなのは嫌いではない」
人里離れて隠れ住むパバールなのだが、決して人間嫌いというわけではない。あくまでもその性質上隠れ住んでいるだけ。それはシルビアと付き合いの長いアトムたちはよく知っている。
「しかしだ。とは云うものの、恐らく私はお前たちの知りたいことには答えてやれないだろう」
そこでアトムたちはピタと動きを止め、パバールの言葉に耳を傾けた。
「どういうこった?」
「単純な話だ。私が魔王に関して知っておるのは、かつての勇者と共に戦っただけだからな」
「「「「!?」」」」
その言葉に全員が思わず耳を疑う。
「貴様が?」
「ひよっこにも話してなかったな。驚くのも無理はない。かつての人魔戦争、あれに私も参戦しておった」
「詳しく伺っても?」
「とはいえもう遠い昔ばなしだ。掻い摘んで話そう……――」
そうしてパバールがアトムたちに話して聞かせたかつての人魔戦争。
それは約千年前、魔族に支配されようとする人間がその生存を賭けて抗ったのだという。その中でパバールは魔導国家の魔術指南役を担っていたのだが、魔導国家には魔族の手が介入していたのだという。
それにいち早く気付いたパバールは国家を抜け出し、当時の勇者と行動を共にすることになったのだと。
そして魔王を倒した勇者は代償として呪いを受けることになった。
「――……だが、私も含め多くの人間がいくら呪いについて調べようとしても一向に詳細は掴めなかった。結果、こうして副産物による秘術で生きながらえておるがな」
呪いの正体を解明しようと様々な研究をしたのだが一切わからなかったという。その中で見つけた時の秘術。肉体の老化を驚異的に遅らせるというその魔法によって今日まで来たのだった。
しばらくはシグラム王国で勇者と共に過ごしていたのだが、誰もが扱えるわけでもない時の秘術は欲望に駆られた人間に狙われやすく、また年月が経てば自分の知る者も年老いては先に死んでいき、理解する者も減っていく。そうなると段々と存在自体が気味悪がられる。
そうした結果、呪いについても継続して調べてはいたものの詳細はわからず、それに呪いが発動しようとする素ぶりもないことから王国にいる意味を見出せなくなったパバールは各地を転々とすることになった。
「それで姐さんと」
「ああ」
その中で拾った魔法の才能に長けた幼子、それがシルビアだった。
「……壮絶な人生だったようですな」
「いやなに。あいつの苦しみに比べればこんなもの」
遠い記憶を懐古するパバール。こうして口にすることすらいつぶりになるかも思い出せない程。
「いやしかし。それにしても魔王の復活が近づいているというのか……――」
思案気に口元を触るパバール。
名前こそ口にしなかったが、あいつ、ローファスの祖先にあたる当時の勇者。
しかし問題なのは、パバールの言葉が全て真実だとすれば決定的なのは呪いが実在するのだということ。
「ふむ。まさかこんな形で私の生涯の目標であった呪いに触れることになるとは思わなんだ。弟子が出ていったことが幸いしたな」
「フンッ」
チラリとパバールが見るのはシルビア。だがシルビアは目を合わそうともしない。
「ではこれをお貸しいただけますか? 事が終わり次第必ず返しに来ますので」
「残念ながら貸すことは出来ん」
「!?」
これまでの話の流れは良好だったはず。途端に一同は困惑するのだがパバールは薄く笑う。
「まぁそう焦るでない。私も一緒に行こうではないか。あいつの子孫をまた見ることができるのだ。置いてきた荷物を取りに行くようなものさ。よって何も問題はない」
「なんだよ。そんなことか」
「来んでよいのに」
「何か言いよったか? ひよっこよ?」
「何でもないわ」
シルビアが口を開いたことによりその場に流れる不穏な空気。
「まぁまぁ。お主にも色々あるのじゃろうがそう言うでない。これで最終的に問題の糸口が掴めるやもしれぬのじゃから」
「チッ」
「それにお主も言うておったではないか。置いてきた師匠を――」
「それ以上言うでないガルドフ!」
「っと、これはすまんかった」
ニコリと笑うガルドフに対して得も知れぬ表情をするシルビア。
たった一人シルビアと対等に意見を言い合えるのは今も昔もガルドフのみ。
そっとアトムに耳打ちするエリザ。
「相変わらずシルビアさんはガルドフに弱いのね」
「だな」
一連のやり取りを見ながらパバールは笑みを浮かべる。
(良い仲間に巡り合えたようだな)
もう随分と昔に出ていった弟子の姿に、当時の勇者達と並び立つかつての自身の姿を重ね合わせていた。
「さて。では早速準備をするのでしばし待っておれ」
「はやくせんと置いていくぞ」
「口の減らないひよっこよの」
事あるごとに悪態を吐くシルビア。その様子を見ながらエリザがアトムに耳打ちする。
「結局のところ、仲良しみたいね」
「…………そうか?」
そうしてアトム達スフィンクスはパバールを伴って王都へ帰還することになった。
あなたにおすすめの小説
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中