465 / 724
学年末試験 二学年編
第四百六十四話 閑話 マリンとマックス
しおりを挟むヨハン達がローファス王に魔王の器に関する報告を別途行っているその頃、シグラム王国内政大臣私室では――――。
「マリン。今回は大変だったね」
「はい」
椅子に腰掛け、今回の件に関する報告書に目を通しているマックス・スカーレット公爵。
(それにしても、魔族が本格的に動き出しているということですか)
手元の報告書は全部で三種類。
ナインゴランを始めとした魔道具研究所の職員によって調査された魔導闘技場に関する状態の詳細と見解。シーサーペントやキラーフィッシュが発生した原因と今後の見込みや運用等が書かれている。
もう一つの報告書、冒険者学校からの報告書では今回中断した試験の経過と以後の対応、それとシーサーペント討伐に関する経緯を中心に書かれていた。他には怪我人の数等も記載されている。
(兄さんはどうするつもりなのでしょうかね)
そしてそれらとは別に作られている報告書。
スフィアとシェバンニとカレンによって作られたものであり、魔族や呪いに関する情報等が記載されていることもあり、極々一部の者しか閲覧できないようになっていた。
(この時代にどのような混乱を巻き起こすのか……)
王家に受け継がれている魔王の呪いのことはマックスも以前から聞き及んでおり、報告が行われる前に兄ローファスとは個別に話をしている。その際にアトム達スフィンクスに詳細を調べる様、極秘裏に依頼を出しているというのだから驚き以外ない。
まるで御伽噺かのようなその話。これまで半信半疑――それどころかどちらかというと信じていなかった。しかし本格的に調査依頼を出していることからして、兄は眉唾物ではないと踏んでいるのだろうと。
(ふぅ。仕方ありませんね)
そうなると自分にできることはほとんどない。経過を見守るしかない、と。
そうしてチラリと見るのは娘であるマリンの顔。上品に紅茶を口に運んでいる姿。
「どうかしましたか? お父様」
疑問符を浮かべて小首を傾げている。
「いや、マリンの活躍する姿をこの目にすることができなくて残念だったよ。途中までは観ていたのだがね」
「そういえばいらしていたのですね」
「ああ。しかしにわかには信じられないな。まさかあれだけの面々を相手にして堂々と渡り合うどころか……――」
そのまま試験の報告書に目を落とした。
「――……ここにもマリンがいたから倒せたと書いてあるよ」
「そこはわたくしですもの。当然ですわ」
得意満面な笑みを浮かべているマリン。
(だがどうしてかな?)
再び娘に向けるマックスの視線。
マリンの固有能力は明らかに戦局に応じて変化するようなものではない。類い稀な能力であることは勿論なのだが、以前魔導士団及び有識者に聞いたところによると、このような性質を持ち合わせている、又は変化するような兆しも見られないとのことだった。
(後天的に何らかの力が作用したのかもしれないね)
一部の能力にはそういったことが確認されている。先天的に持って生まれた能力であってもある時を境に変化することがあるという。
(しかもシェバンニ先生も予想外というのだから)
後で聞いたところによると、シェバンニがマリンを選抜に選んでいた理由は元々マリンのその王族が故の指揮能力を高く評価していたからとのこと。こういった複雑な戦いの中ではその強気も相まって揮えるのだと。
しかし理論と実戦は全く違う。その中での実際的な難しさを痛感させたかったのは、勇気と無謀との駆け引き。これはまさしく実戦でしか身に付かない。その差し引きを上手く使い分けて戦略的な部分で貢献するかどうかが焦点であった。上手くいけばその能力を如何なく発揮するだろうと見込んでいたからだと聞かされている。
「けれどもこれだと安心だね」
想定を上回る貢献、勝負を決する決定的な活躍を見せているのだから。
「ええ。お任せください。さすがにエレナ程の成績は収められないかもしれませんがこれからも上位に食い込んでみせますわ」
あと一年で卒業することになる。評価自体はどうあろうとも王族である以上、卒業後の進路はほとんど決まっているようなものなのでそれほど影響はしないのだが、そもそも王族として低評価を受けたまま卒業すること自体が許されない。それに因んで評価が低いとなると他にも問題が生じてしまう。
今回の選抜で評価を著しく上げただろうという実感と確信のあるマリン。内心ではホッと安堵の息を吐いていた。
「ようやくお前もエレナ様を認めることができたのだね」
「し、仕方ありませんわ! 身の程は弁えています」
もう一つの収穫は高慢な自尊心の決壊。それもただ決壊しただけでなく、良い方向に作用しているように見える。
「いやいや、しかし私が安心したのはそれとは別だよ」
「といいますと?」
「婚約の件だよ」
「……え?」
父の言葉受けて一瞬で目を丸くするマリン。理解ができない。
「卒業後に向けてそろそろそういった話をまとめていかなければいけないからね。この分だと楽になりそうだ」
「えっと……お、お父様?」
「ん?」
「わわわ、わたくしの、婚姻、ですか?」
「何を焦っているのだい? それ以外に誰がいる? ああ、もちろんエレナ様もだが? しかしそれは私の範疇ではないからね。むしろ国の行く末を担うことになるからそもそももっと別の問題なのだが」
「あっ、いえ、そういうことでは…………」
「いやぁ、助かるよ。それだけの能力を持っていれば引く手数多だね。いや、婿を迎えなければいけないから選び放題といったところか。おかげである程度厳選できそうだ」
満足気に頷いているマックスを余所にマリンは失念していた。
マックス・スカーレット、公爵家どころか王家の血筋スカーレット家。その子女であるマリン・スカーレットは将来的に婿を迎えるのだと。
(あわわわわ)
マックスが言っている意味も遅れて理解する。要は稀少な能力を持ち合わせていることで優秀な人材を見繕えるのだと。
(ど、ど、ど、どうしよう…………)
同時に困惑してしまうのは、ようやく知ることが出来た、自覚することができた生まれたばかりのこの感情の処理の仕方。
行き場のない感情を抱いたまま休暇を迎えてしまっている。
11
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる