498 / 724
紡がれる星々
第四百九十七話 閑話 二人きりの依頼①
しおりを挟む「ヨハン様。ご依頼が届いております」
三日後にはサンナーガの遺跡へと向かうことが決まっているのでやり残しはないかと屋敷に顔を出していたところでネネに声を掛けられる。
「依頼?」
疑問に思うのは、指名依頼にしても妙なところ。つい先日王国からの依頼を出されているのだから。ギルドからの依頼だということも考え辛い。
「依頼人は?」
「カトレア様からでございます」
「ん?」
そうしてネネから依頼書を受け取り確認すると、確かに書式や印は公式な依頼。書かれている文字に目を通すのだが、それでも疑問は拭えない。
「剣術指南?」
依頼の内容はカトレア家の身内を指導して欲しいということだった。日時は急であるが、本日か翌日がいいとのこと。
「備考に無理を圧してまでとは書かれていますね。どうされますか? お断りされますか?」
「ううん。別に今日だったら断る理由もないし、お世話になってるからすぐにでも行くつもりだけど」
ただ、恐れ多いのは剣術の指南役などしたこともないし、いつもは教わる側。一体誰を教えるのだろうかと。依頼書には対象者の詳細は記載されていなかった。
「どうかしたのヨハン?」
疑問を抱きながら応接間のドアを開けるとモニカが首を傾げている。
「あっ、モニカ……――」
時間があり暇を持て余していたモニカも一緒に屋敷を訪れており、今はのんびりと寛いでいるところ。
「――……そうだ! モニカも一緒に来てよ!」
「え? え?」
名案が思い浮かぶ。
困惑したままのモニカの腕を引いて連れ出し、そのまま真っ直ぐにカトレア邸へと向かった。
「――……まったく。そういうことならきちんと説明してよね」
道中、モニカに事の成り行きを説明しておいたのだが、その表情は呆れ顔。
「ごめんごめん。僕一人だと自信なかったし、でもモニカがいると安心だったからさ。やっぱり剣といえばモニカだし、頼りになると思ったから。もしかして迷惑だった?」
「め、迷惑とかそういうわけじゃないのよ。ただ、その……――」
途端に目線を彷徨わせてもじもじとするモニカ。その様子に疑問符を浮かべる。
「――……よ、ヨハンにしてはその、ちょ、ちょっと強引だったから」
顔を仄かに紅潮させながらチラリとヨハンの顔を見ていた。
「や。そ、それも別に迷惑とかじゃないのよ。そういうヨハンの一面も素敵だなって思うし、頼りにされるのはやっぱり嬉しいし…………って、どこ見てるの?」
その反応を窺うようなモニカの視線。しかしヨハンはモニカの顔を見ていない。周囲をキョロキョロとしている。
「着いたよ」
「え?」
「あっ、ごめん。何だった? 前に来た時は馬車だったから、ちょっと場所の確認をしてて聞いてなかった。なんて言ったのかもう一回言ってくれる?」
「い、い、言うわけないじゃないッ!」
「どうして怒ってるの?」
「そんなことはもういいから! それで着いたんでしょ! ほら入って良いの? 悪いの?」
「あー、カールス様にはいつでも来て良いって言われてるから」
「じゃあ良いのね、入るわよ!」
「え? あ、うん」
カトレア邸の門を潜り、早足で歩いて行くモニカ。その後ろ姿を見送りながら首を捻るヨハン。
(まったく。ヨハンったらいつもあんな調子なんだから!)
カレンを婚約者として迎えながらも、手を付けている様子も見られない。ただ、一部立ち回り辛くなったこと自体は事実であり、先日の騎士団との仕合――アーサーとの対戦の際の提案が脳裏に甦って来る。
(そういえばヨハンって私のこと、どう思ってるんだろ?)
仲間としての関係が既に築けているのは承知。知りたいのはそんなことではなく、異性としての距離感。聞いてみたい気もするが、踏み込むのに必要な勇気は戦闘に必要な勇気とは種類が異なる。
(卒業後、かぁ)
抱く感情にいつかは決着を付けなければならない。ヨハンがカサンド帝国を訪れている期間に想いは募るばかり。
卒業後の進路に迷いが生じていることも事実。父は寂しがるだろうが、母は後押ししてくれることはわかっていた。
(今度聞いてみよっかな)
先日出していた母への手紙の返信が帰って来ている。近々、荷の運送があるので王都へ訪れるのだと。約一年振りに会えることになる母との再会は待ち遠しくて仕方なかった。
「モニカ、ちょっと待ってよ」
「あ、ごめん」
そんなことを考えていると、先程まで抱いていた複雑な感情が落ち着いている。
「ヨハン様、いらしてくださったのですね」
侯爵邸の広大な庭園で声を掛けて来たのは屋敷の使用人の男性。
「こんにちは。突然の訪問すいません」
「いえ。ヨハン様が訪れた際はいつでも歓待するようにと仰せつかっておりますのでお気になさらないでください。それに依頼を出したこともお聞きしておりますので」
「ありがとうございます。えっと、それで侯爵様はいますか?」
「はい。では応接間で少々お待ちください。ヨハン様がいらしたことをお伝えしてまいります」
「わかりました」
屋敷の中に入っていく使用人。
「あっちだよモニカ」
「…………」
「どうかした?」
「ううん。なんだかヨハンが遠く感じて」
「遠く?」
「だってここ侯爵様のお宅、それも本宅よね?」
周囲を見回す規模の大きさ。流石と云わんばかりの大きく構えている屋敷の規模と綺麗に整えられた広々としている庭園。わかってはいることだが、最上級の貴族の屋敷に他ならない。
それを意にも介さず、使用人とはいえ気軽に会話を交わす様はモニカからすれば妙な感じに映る。
「うーん、僕も最初はそうだったけど、なんか慣れちゃって」
頭を掻きながら思い返すのは、いつも温和なイルマニがこういった貴族絡みのこととなると途端に口うるさくなるということ。自身の立場と成し得た事柄を冷静に客観視しろと。変にへりくだる必要も、媚びへつらう必要も、かしこまる必要もないということ。いつも通りの生活を送りながら貴族社会に慣れろ、と。
「そういうものなの?」
「それでいいんだってさ。だからモニカもそのうち慣れるんじゃないかな?」
「……だったらいいけど」
当分慣れそうにないなとモニカは思いながら、ヨハンに案内されて応接間へと向かって行った。
11
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる