S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百二十一話 閑話 突飛な提案

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「……ようやく落ち着いたね」
「……そうですね」

その場に残るのは倒れているアーサーの部下達とのんびり湯に浸かるサイバル。それと自分達。

「ところでヨハン君、少しキミには聞きたいことがあるのだよ」
「なんですか?」

突然の真剣な眼差し。どういう類いの質問をされるのかと思わず身構える。この様子では遺跡に関する何かしらの追加情報があったのかと。

「君はモニカ君のことをどう思っているのだい?」
「はい?」

予想外の質問。思わず呆気に取られた。

(なんだか前にも似たような質問されたなぁ)

先日のカールス・カトレアからの依頼を思い出す。

「答えに迷うのかい?」
「いえ……――」

だからこそ返答はもう決まっている。

「――……答えは決まっています。モニカは僕の大事な仲間です」
「女性としては?」
「勿論好意的に思っていますよ。前に二人で依頼を受けた時に、似たような質問をされたんです。だから答えは出ています。ニーナが言っていたようにあなたのところにモニカをいかせるわけにはいきません」

モニカ自身の気持ちがないのであれば、その力になる。それはモニカの母ヘレンとも交わした約束。

「そうか……――」

思案気な視線を水面に向けるアーサー。

「――……今のところ付け入る隙がなさそうだね。残念」

小さく呟いた。

「アーサーさん。僕からもいいですか?」
「もちろんかまわないさ。裸の付き合い、なんだって答えよう」

ニコリと笑みを浮かべる様からは敵意の一切が感じない。恐らく本音だと受け取れる。

「どうしてモニカなんですか?」
「その質問に答える前に、キミは私の事情を知っているかい?」
「はい。といっても少し聞いただけなのでおおよその生い立ちだけですが」
「十分だよ。それが答えさ。彼女が貴族でないこと、国家的に権力を持ち得ないことが重要なのだよ。それに加えて、一定以上の実力を有するということ。これがなければ説得力に欠けるからね」
「そのために?」
「もちろんそれは側面に過ぎない。実際モニカくんの剣技には魅了されたよ。あれだけの才能、そうそうお目にかかれないからね」
「だったらスフィアさんは? あの人の剣技も相当に凄いじゃないですか」
「それはそうなのだが、彼女はジャン殿の娘だからね」
「問題があるんですか?」
「問題はないさ。ただ気を遣うだけのことだよ」

苦笑いを浮かべるアーサー。

「しかしそういう意味ではキミ達は凄いよ。スフィアくんを初めて見た時も衝撃を受けたが、キミ達も引けを取らない。底が知れない。正直なところ、まとめて騎士団で面倒をみたいぐらいだ。私なら口を利いてあげることもできるが、どうだい?」
「遠慮しておきます。流石にその手の冗談は僕でもわかりますよ」
「いやいや、半分は本気だよ?」
「半分だけじゃないですか」
「ははっ。そうだね」

それもまた本音なのだと。

(不思議な人だなぁ)

掴みどころがない。地位を笠に着るわけでも、学生だからといって見くびるわけでもない。
イルマニの言う通り、カールス卿やランスレイ卿のように正当に評価しているのだと。
同時に、素晴らしい景観を一望できるこのような場所で、まさか騎士団の中隊長を相手にしてこのような会話をするとは思ってもみなかった。

「さて、そろそろ私は上がらせてもらうよ」
「じゃあ僕も」

二人で湯船から立ち上がる。

「では明日もまたよろしく頼むね。キミ達が光明を見出してくれたら助かる。当然キミ達を推奨した国王の顔も立つし、それどころか私とキリュウさんにしてもそうだ。良いことだらけなのだからね」
「あまり期待しないでくださいよ。あくまでも可能性なんですから」
「こういう時は得てしてそういうところから道は開けるものなのだよ」
「そういうものですか?」
「ああ。そういうものだ」

そうして二人して脱衣室へと入っていった。
そして、木柵の向こう側にピタと張り付いて聞き耳を立てている者達。

「良かったね、スフィアちゃん」
「な、なにがよ」
「言わなくてもわかってるくせにぃ」
「し、知らないわよ」

ニヤニヤと話すアスタロッテと対照的にしどろもどろになるスフィア。

「カレンさん、ヤバいね」
「……そうね…………――」
「このままだとお姉ちゃんにお兄ちゃんを取られちゃうね」
「――……そうね……ってあなた何言ってるのよ!?」
「にひひっ。やっぱり好きなんじゃない」
「あ、な、た、ねぇっ!」

瞬間、微精霊の波動がニーナへと飛んでいく。

「へへーんだ、もうその手は食わないよぉ!」

軽やかに岩の上を跳躍して躱していった。

「待ちなさいっ!」

ニーナを追いかけるカレンの背後では、サナとエレナが間にいるモニカをジッと見ている。対してモニカは水面に顔を半分沈めていた。

「ちょっとモニカ。先程の、どういうことか説明して頂けますか?」
「モニカさん。私もいっぱいお話したいなぁ。二人で依頼受けたのね。へぇー。いいなぁ、羨ましいなぁ。楽しかったんだろうなぁ」

問い詰めるような視線。

(も、もうヨハンったら、こんなところでそんなこと言わなくたっていいじゃない)

ブクブクと泡を吐くモニカは、お湯に浸かる以上の、思い出す自身に向けられる言葉から体内の温度が上昇していく。





「いい息抜きになったみたいだね」
「そうですね」

確かに思っていた以上に満喫してしまっていた。アーサーと一対一で話したこともどこか不思議な感覚。

「でもいいんですかアレ」
「いつものことさ」

外に出たところで正座させられているレイン。反対側にはスフィアが小隊長を務める隊に所属している騎士達。

「あんなでも決めるべきところは決めているから気にしなくても構わないよ」
「そうですか。ならいいんですけど」

苦笑いしかでない。

「ててっ、アイツほんと時々すっげぇ怖いんだよ」
「今回はレインが悪いと思うけどね」

帰り道、馬に跨りながら頬を擦るレイン。詳しくは聞いていないが怒られた末に頬を叩かれたのだと。

「それにしてもお兄ちゃん、お姉ちゃんもお嫁さんにもらえばいいのに」
「「「なっ!?」」」

モニカの後ろに乗りながら、何の気なしに口にするニーナの一言に一同は驚愕する。

「そんなことできないでしょ」
「だって貴族だったらお嫁さんいっぱいいても良いって聞いたよ? そしたらあたしもお嫁さんにしてもらうのになぁ」
「またニーナはそんな冗談言って」
「冗談じゃないよお兄ちゃん?」
「え?」

首を傾げる様を見る限り、嘘をついているようには見えない。

「だってお兄ちゃんのこと好きだし」

ニカっとはにかむ。

「そりゃあ僕もニーナのことは好きだけど、それとこれとは別なような気がするなぁ」
「じゃあさ、お兄ちゃんが貴族になればあたしをお嫁に貰ってくれるってことでいい?」
「あー、わかったよ。もしそんなことがあればね」
「やった! 絶対約束だよ?」
「わかったわかった」
「あーっ! その顔絶対約束守らない気でしょ!?」
「そんなことないよ。もし僕が貴族になることがあれば、ね」

今すぐどうこうなるわけではない。それに偶然とはいえニーナの父とも再会できた。であれば父の意向もあることだし現実味があるとも思えない。
ヨハンのその顔を横から見るマリン。前で手綱を握るエレナに向けて口を開く。

「ねぇエレナ」
「なんでしょう?」
「あの、エレナはその……知っているの?」
「知っている、とは?」
「ヨハンが、貴族になるとかならないとかじゃなくて……――」

問い掛けようとした瞬間、思わずその口を閉じた。

(――……この感じ、間違いなくエレナは知っているわね)

少なくとも問いかけに対する無言の返答。
笑みに含まれるいくつもの感情。その最たるものは自信と信頼。前を走るスフィアへと向けていた笑みと類似している。

(ヨハンが貴族、いえ、カトレア家の血を引いているということを)

それが示すことがどういうことなのかということを。
そんな中、ヨハンの後ろに乗るサナと並走するモニカは同じことを考えていた。

((そっか、そんなこともできるんだ))

ニーナの突飛な提案が決して的外れな提案ではなかったのだと。
ただし、それを堂々と口にできるだけの勇気を持ち合わせているかのどうかの問題もまた別に浮上している。

「ヨハンってやっぱりモテるのね」
「だなっ」
「レインはモテないわね」
「いいんだよ俺は。一人にだけモテればさ」
「誰に?」
「だ、誰ってそりゃあナナシーみたいな可愛い子だよ」
「ありがと。まさかレインから可愛いだなんて言ってもらえるだなんて。そんな子が見つかるといいわね」
「……お、おぅ」

そうして束の間の休息を終え、遺跡へと戻っていった。

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