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紡がれる星々
第五百二十 話 閑話 入浴時間(後編)
しおりを挟む遡ること少し前。男子風呂にて。
アーサーとヨハンがのんびりとしている中、離れたところでレインがスネイル達騎士と話していた。
「おい貴様。本当に上手くいくんだろうな?」
「ああ。アイツはエルフだ。その手の魔法はお手の物だよ」
「そうか。期待してるぜ」
レインとスネイルはガシッと握手を交わす。利害の一致。
「――サイバル!」
「本当にいいのだな?」
「信用してるぜっ!」
「まったく。こういうことで信用されても困るのだが」
溜息を吐きながら魔力を練り上げるサイバル。
岩場に生まれる双葉が見る見るうちに大きく成長していった。
「最初は俺だ!」
巨大な双葉の上に乗るスネイル・ドルトマンス。相手が油断している最初の内が勝負。
「へへっ。あの女の恥ずかしい姿をこの目に焼き付けてやるぜッ!」
事あるごとに痛い目に遭わされる敵。外見は可愛い女子なのだが、内面は悪魔。魔物よりも相当に厄介。
そうして伸びる植物が木柵の上に到達しようとした頃。
「ふひっ、ふひひ――」
いよいよその目に捉える女性達のあられもない姿。そこにはスフィア隊長もいる。
「――ぶべらっ!」
覗き込もうとした瞬間、額に衝撃を受けるスネイルは後方に弾け飛んだ。
「さすがナナシー」
「威力は抑えておいたけど、レインじゃなかったわよ?」
誰だかわからないが間違いなく騎士の誰か。
「構わないわ。女性のお風呂を覗こうとするなんて騎士の風上にもおけないもの。遠慮なくやっちゃって」
「まぁ、あなたがそう言うならそれでいいけど」
指示される通り、言われるがままにその場所を射抜いたナナシー。
「どう、ニーナ?」
魔眼でジッと木柵の向こう側を見ると、宿す魔力が左右に散開している。
「うーん、落とされたからさすがに止まったみたいだけど、これはまたくるね」
「ったく。懲りないわね。手分けしてやるわよ」
「……なにをやっているのよあなた達は」
そう呟くカレンには楽しそうに見えて仕方なかった。
◆
休養の為に訪れた温泉のはずが、落ち着きとは程遠い争いが繰り広げられていた。
男湯へと降り注ぐ魔力の塊、微精霊の波動。それらを、レインを筆頭にしてなんとか防ぎつつ木柵を乗り越えようと奮闘している騎士達。
「よっと」
そんな中、ヨハンは魔法障壁を展開させて降り注ぐ数多もの魔法を防ぐ。
「私も入れてもらうよ」
まるで雨宿りするかのように魔法障壁の中にアーサーが入って来た。
「私は魔法が苦手なのでね」
「そうなんですね」
しかし、それを補って余りある実力の高さを何度も披露している。
「彼らもそれは同じなのだが、キミ達は随分とバランスが取れているようだ」
「そうですね。僕もそう思います」
パーティーとしての戦力では一定以上の自信はあった。
視界に映すのは、一人、二人、と倒れていく騎士達。スネイルの他に巻き込まれるようにしてバリスや他の騎士達。残っているのはレインとアルスとマルスにサイバルのみ。
「雨の矢」
木柵の向こう側から小さく聞こえるサナの声。
直後に降り注ぐのは無数の水針。威力を抑えているので刺突性は低いのだがその分打撃力はあった。
「ぐあっ」
「がはっ」
「なぁろ!」
そして残ったのは息を切らせているレインだけ。サイバルは呆れてもう手伝うのを止めている。
「ちっ……――」
「レインもうやめたら?」
「――……この手だけは使いたくなかったのだが」
一体何をするのかと思っていると、駆け出すレインが近付いて来た。
「こんなことして、後でどんな目に遭うかわかるでしょ?」
既に相当な目に遭っている。精も根も尽きそうになっていた。
「んなこといっても見たいものは見たい! お前も男ならわかるだろ!?」
「いやまぁ、確かにそれもわからなくもないけど……」
しかし理性を保たなければいけないのではないかと。
「例えコレの結果、後でどんな目に遭おうとも死にはしないさ。目先の利益を俺は優先する!」
「そこは我慢するのが普通なんじゃないのかな?」
「男のロマンがそこにあるのに我慢なんか必要ねぇ!」
グッと拳に力が入る。
「死なばもろともさ!」
ヨハンとアーサー、互いに顔を見合わせ苦笑いする。
「で、どうするのさ?」
「お前を向こうに放り投げる!」
「えぇっ!?」
「お前だったらあの魔法の嵐を掻い潜れるはずだ!」
加えて、ヨハンに対しては危害を加えることは最小限にするだろうという見込み。その隙が最大の好機。
「じゃあいくぞ!」
「ちょ、ちょっとちょっと」
流石にそれだけはさせるわけにはいかない。
「いい加減になさいっ!」
「なっ、マリンお前っ!?」
申し訳ないけどレインの意識を刈り取るしかないと魔力を練り上げた瞬間、勢いよく脱衣室のドアが開く。姿を現したのは髪を濡らしたまま衣服を乱しているマリン。
「マリン様、いくらなんでも男湯を覗くのははしたないですよ。それに服もきちんと着て頂かないと」
「そ、そっちのバカがしつこいからじゃない!」
アーサーの言葉にマリンは顔を真っ赤にさせ、手の平を顔に当てるのだが、指の隙間からレインをしっかりと捉えていた。
(い、意外に良い身体してますわね)
その身体つきを堪能する。
「とにかく、ちょっと落ち着きなさい! ここに何をしに来たのよ。あんまり度が過ぎるとわたくしも報告しにくいじゃないの」
「……そっか。すまん。確かにやり過ぎたかもな。楽しくなってつい」
「ついではありませんわ! 一度出て来なさい!」
「わかったって。だからそんなに怒鳴るなよ。じゃあちょっといってくらぁ」
申し訳なさげに謝罪をするレインをマリンが連れていった。
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