S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
521 / 724
紡がれる星々

第五百二十 話 閑話 入浴時間(後編)

しおりを挟む

遡ること少し前。男子風呂にて。
アーサーとヨハンがのんびりとしている中、離れたところでレインがスネイル達騎士と話していた。

「おい貴様。本当に上手くいくんだろうな?」
「ああ。アイツはエルフだ。その手の魔法はお手の物だよ」
「そうか。期待してるぜ」

レインとスネイルはガシッと握手を交わす。利害の一致。

「――サイバル!」
「本当にいいのだな?」
「信用してるぜっ!」
「まったく。こういうことで信用されても困るのだが」

溜息を吐きながら魔力を練り上げるサイバル。
岩場に生まれる双葉が見る見るうちに大きく成長していった。

「最初は俺だ!」

巨大な双葉の上に乗るスネイル・ドルトマンス。相手が油断している最初の内が勝負。

「へへっ。あの女の恥ずかしい姿をこの目に焼き付けてやるぜッ!」

事あるごとに痛い目に遭わされる敵。外見は可愛い女子なのだが、内面は悪魔。魔物よりも相当に厄介。
そうして伸びる植物が木柵の上に到達しようとした頃。

「ふひっ、ふひひ――」

いよいよその目に捉える女性達のあられもない姿。そこにはスフィア隊長もいる。

「――ぶべらっ!」

覗き込もうとした瞬間、額に衝撃を受けるスネイルは後方に弾け飛んだ。

「さすがナナシー」
「威力は抑えておいたけど、レインじゃなかったわよ?」

誰だかわからないが間違いなく騎士の誰か。

「構わないわ。女性のお風呂を覗こうとするなんて騎士の風上にもおけないもの。遠慮なくやっちゃって」
「まぁ、あなたがそう言うならそれでいいけど」

指示される通り、言われるがままにその場所を射抜いたナナシー。

「どう、ニーナ?」

魔眼でジッと木柵の向こう側を見ると、宿す魔力が左右に散開している。

「うーん、落とされたからさすがに止まったみたいだけど、これはまたくるね」
「ったく。懲りないわね。手分けしてやるわよ」
「……なにをやっているのよあなた達は」

そう呟くカレンには楽しそうに見えて仕方なかった。





休養の為に訪れた温泉のはずが、落ち着きとは程遠い争いが繰り広げられていた。
男湯へと降り注ぐ魔力の塊、微精霊の波動。それらを、レインを筆頭にしてなんとか防ぎつつ木柵を乗り越えようと奮闘している騎士達。

「よっと」

そんな中、ヨハンは魔法障壁を展開させて降り注ぐ数多もの魔法を防ぐ。

「私も入れてもらうよ」

まるで雨宿りするかのように魔法障壁の中にアーサーが入って来た。

「私は魔法が苦手なのでね」
「そうなんですね」

しかし、それを補って余りある実力の高さを何度も披露している。

「彼らもそれは同じなのだが、キミ達は随分とバランスが取れているようだ」
「そうですね。僕もそう思います」

パーティーとしての戦力では一定以上の自信はあった。
視界に映すのは、一人、二人、と倒れていく騎士達。スネイルの他に巻き込まれるようにしてバリスや他の騎士達。残っているのはレインとアルスとマルスにサイバルのみ。

「雨の矢」

木柵の向こう側から小さく聞こえるサナの声。
直後に降り注ぐのは無数の水針。威力を抑えているので刺突性は低いのだがその分打撃力はあった。

「ぐあっ」
「がはっ」
「なぁろ!」

そして残ったのは息を切らせているレインだけ。サイバルは呆れてもう手伝うのを止めている。

「ちっ……――」
「レインもうやめたら?」
「――……この手だけは使いたくなかったのだが」

一体何をするのかと思っていると、駆け出すレインが近付いて来た。

「こんなことして、後でどんな目に遭うかわかるでしょ?」

既に相当な目に遭っている。精も根も尽きそうになっていた。

「んなこといっても見たいものは見たい! お前も男ならわかるだろ!?」
「いやまぁ、確かにそれもわからなくもないけど……」

しかし理性を保たなければいけないのではないかと。

「例えコレの結果、後でどんな目に遭おうとも死にはしないさ。目先の利益を俺は優先する!」
「そこは我慢するのが普通なんじゃないのかな?」
「男のロマンがそこにあるのに我慢なんか必要ねぇ!」

グッと拳に力が入る。

「死なばもろともさ!」

ヨハンとアーサー、互いに顔を見合わせ苦笑いする。

「で、どうするのさ?」
「お前を向こうに放り投げる!」
「えぇっ!?」
「お前だったらあの魔法の嵐を掻い潜れるはずだ!」

加えて、ヨハンに対しては危害を加えることは最小限にするだろうという見込み。その隙が最大の好機。

「じゃあいくぞ!」
「ちょ、ちょっとちょっと」

流石にそれだけはさせるわけにはいかない。

「いい加減になさいっ!」
「なっ、マリンお前っ!?」

申し訳ないけどレインの意識を刈り取るしかないと魔力を練り上げた瞬間、勢いよく脱衣室のドアが開く。姿を現したのは髪を濡らしたまま衣服を乱しているマリン。

「マリン様、いくらなんでも男湯を覗くのははしたないですよ。それに服もきちんと着て頂かないと」
「そ、そっちのバカがしつこいからじゃない!」

アーサーの言葉にマリンは顔を真っ赤にさせ、手の平を顔に当てるのだが、指の隙間からレインをしっかりと捉えていた。

(い、意外に良い身体してますわね)

その身体つきを堪能する。

「とにかく、ちょっと落ち着きなさい! ここに何をしに来たのよ。あんまり度が過ぎるとわたくしも報告しにくいじゃないの」
「……そっか。すまん。確かにやり過ぎたかもな。楽しくなってつい」
「ついではありませんわ! 一度出て来なさい!」
「わかったって。だからそんなに怒鳴るなよ。じゃあちょっといってくらぁ」

申し訳なさげに謝罪をするレインをマリンが連れていった。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...