S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百四十六話 スフィンクスの帰還

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「やっと帰ってきたな」
「ああ」
「女は怖いな」
「ああ」

王都を一望出来る草原に立つアトムとラウル。その顔は満足感と開放感に満たされていた。

「ほんにどうしようもない弟子じゃ」
「ならばさっさと帰れッ!」

後ろから聞こえるいがみ合う声。毎度のこと。パバールとシルビア、師弟関係にあるそれは道中何度も魔法合戦を繰り広げていた。

「まぁまぁ、もう王都はすぐそこじゃ」

宥めるガルドフ。これもいつもの役割。
加えて心労の原因にはもう一組の存在。

「はいあたしの勝ちぃ」
「私の勝ちに決まってるじゃない!」

普段はまるで姉妹かのような仲の良さを発揮しているクーナとエリザ。しかし事あるごとに喧嘩をしている。今現在は手に入れた魔石の権利がどちらにあるのかという主張。

「「はぁ」」

溜息を吐くアトムとラウル。ようやくこれから開放されるのかと。

「あっ! もう王都が見えるじゃない!」

軽やかにアトムの背に乗るクーナ。手を額に当て王都を眺めた。

「おい、降りろっての」
「なによそんなこと言いながらアトムもあたしの胸の感触しっかりと確認してるんでしょ?」
「そりゃあそうだけどさ……。だいたい、そもそもお前の胸ってそんなにねぇじゃねぇかよ」
「なにそれひっどぉい。泣くわよ?」
「おぅ泣け泣け――っ!」

適当にいなしていたらそれどころじゃないのは得る殺気。

「ねぇアトム? 何の感触ですって?」
「ちょ、ちょっと待てエリザ! 俺じゃねぇだろ俺じゃ!」
「わっと」

視界に飛び込んで来る水の塊を慌てて横っ飛びで回避する。アトムがいた場所、バンッと土を抉るエリザの水撃魔法。

「はぁ。なぁいつまでやっているのだ。さっさと行こうぜ」

ラウルは呆れつつ、なるべく干渉しないようにさっさと歩いていった。
そうして程なくして着いたシグラム王都の外壁の外で入都手続きを行う。

「では参ろうか」
「あー、ガルドフ、俺は後で行っていいか?」

外壁を潜り抜けた先で立ち止まるアトム。

「ん? どうかしたかの?」
「別に今日は報告だけだろ?」
「確かにそうじゃな?」
「もしかして、どこか行くの?」
「ああ。せっかく帰って来たんだ。ちょっと、飲んでくらぁ」

問い掛けるクーナに対してくいッと口元に器を運ぶ仕草をするアトム。旅の疲れを癒すには酒が一番。

「まったく、ほどほどにしてよね」
「ああ。すまねぇなエリザ。じゃあまた後でな」

そうしてアトムは手をひらひらと振ってすぐさま雑踏の中に姿へと消していった。

「本当、いつまでも自由だなあいつは」

重大な案件が後に控えているというのに普段と変わらないアトムに呆れるラウル。

「だからこそ、なのよ」
「ああ。あやつの気持ちもわからないでもない」

エリザとガルドフ。共に付き合いが最も長い二人が知るアトムの心情。
とはいえ、ラウルにしても付き合いの長さはそれなりにある。

「……なるほどね。そういうことか」

姿を消した方向を見やりながらアトムの性格を考える。
二人の言葉から連想するのは、同じようにして付き合いの長いローファスへ向けるアトムの気持ち。魔王の呪い、その真相に迫れるかもしれないと思うと、昂る気持ちを抑えきれなかった。一人になって鎮めたかったのだと理解する。

(あの時は結局わからずじまいだったものな)

かつてエルフの里を訪れた時のこと。その世界樹。最後の活動にして最大の謎に迫れるのだから。それがまさかローファスが関係しているともなれば。

「それにラウル、あなたも妹のことは気になるでしょ?」
「そうだな。少しはな」
「少し、なのね」
「ああ。ヨハンに預けた以上、心配はしていない」
「あら嬉しいこと言ってくれるわね。でもまぁせっかくだし、顔を見せに行ってあげたら?」
「それもそうだな。ではそうさせてもらおう」
「しかし全員で行く必要もあるまい。ワシもしばらく別に行動させてもらう」

周囲を見回しながら歩き始めるシルビア。その後ろをピタリと歩くパバール。

「……なにをしておる?」
「いやなに、案内してもらおうかと思っての、馬鹿弟子。流石に年月が経つと多くが変わっておる」
「ちっ、調子に乗りおってからにババアが」
「あ?」
「なんでもないわ」

お願いだから問題だけは起こさないでとエリザは内心で祈りながらいがみ合う二人の姿を苦笑いして見送った。

「お主はどうするエリザ?」
「そうね、報告も兼ねてお父様のところに行かせてもらうわ」
「じゃああたしも一緒に行く!」
「ではローファスへの報告は儂だけで行くとする。遅くとも夜にはそれぞれ王宮に赴いてくれ。それまでに話はまとめておく」

そうしてガルドフ一人だけが王宮へと向かっていった。





「しっかし王都も変わんねぇな。ま、今回は期間もそんなに空いてないから当たり前か。 さぁて、どこで飲もうか」

アトムが歩いているのは東の商業地区。多くの冒険者達が行き交うのは、居酒屋を中心とした飲食店が多く並んでいる区域。

「にしても懐かしいなこの辺りは」

もう二十年程昔、最盛期の現役時代。依頼を終えてはよくこの辺りで飲んでいた。

『今日は俺の活躍のおかげだな。ばっちり決まったぜ』
『何を言っておる。俺に決まってるだろう。最後のトドメは俺だったんだからな』
『いいやローファス。あれは俺のお膳立てがあったおかげだろうがよ。てめぇ一人じゃ無理だっての』
『なんだと? なら俺が一人で十分だったってことを証明するためにそろそろ決着を付けようか?』
『いいぜ。っつってもいまのところ俺の全勝だけどな』
『もうっ、二人ともやめてよこんなところで』
『おっ? 今日もアトムとローファスの奴がやるってよ! みんな見に来いよ!』

遠い記憶の中の回想。毎日わいわい楽しく飲み歩いていた時のこと。

「ガンテツの野郎まだ店開けてるかな? 今度見に行ってやろう。あれ? ここは確か……――」

ふと足を止め見上げる一件の店。他の店舗とは異なり、落ち着いた雰囲気の店。

「そっか、確かここだったな、ヨハンとニーナちゃんの話をしたのは」

ぼんやりとしか思い出せない当時のサシ呑み。

「あとはリシュエルのやつがいれば最後の全員が揃うんだけどな」

エルフの里襲撃事件で里を救うために奔走したアトム達スフィンクス。それに加えてラウルとリシュエルの主だった最上級の戦闘力を持つ人物。それ以外、他にもシェバンニやカトレア卿など多くの関係者の協力の下にそれらが未然に防がれている。

「今頃なにしてんだか」

願わくばこのまま当分会わなくても良いと考えていた。そうでなければ話が一層にややこしくなる。

「ここにするか」

そうしてドアを開けようとしたのだが、ドアの方から先に開かれた。

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