S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百五十二話 幼馴染三人

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「ふぅ。もうっ! またここにいた! はい、二人の分のお弁当」
「ああ、ありがとうミリア」
「いつもサンキュー。スレイのついでに俺の分までな」
「ち、違うわよっ! ちゃんと二人に作っているんだからね!」

顔を赤らめる女性、ミリアは腕を組んで顔を逸らす。

「べ、別にスレイだけを特別に扱ってなんかないわ。ふ、二人とも特別だから。なんていったって幼馴染だしね」
「はははっ、そっか。ならありがたくいただくよ。ミリアの弁当は美味いからな」
「あ、ありがと」
「ほら、スレイも早く食べようぜ」
「……ああ、そうだな」

そうしてのどかな雰囲気の中、三人で食事をしていた。

(どういうことだろう?)

その様子を見ているヨハンはどこか不思議な感覚に陥っている。

(考えていることがなんとなくわかる。感情が流れ込んで来る)

切ないような、悲しいような、それでいて安らぎを抱くような、なんともいえないもどかしさ。

(誰の感情なのかわからないけど、互いに大切に思い合っているのは伝わって来る)

時代背景をもう一つ掴みきれていないがはっきりとした温かさ。幸せな空気。優しさ。

「――……それにしても、いつになったら国は落ち着くんだろうな?」
「さぁな。誰かが周辺諸国を統一してくれないことには無理だろ? この前も、北方のケドナ山脈の麓の国が落とされたって話じゃないか。今は小さな国が入れ替わり立ち代わり乱立し過ぎてるんだよ」

その言葉の中に聞き覚えのある単語があった。

(ケドナ山脈って)

王都の一番近くにある山脈の名前。

「だからさ、スレイ、お前がやれば?」
「オレが? 何言ってんだ。無理に決まってるだろ」

シグの言葉をスレイは笑い飛ばす

「そんなことないと思うけどな」
「だったらお前がすればいいじゃないか」
「おれ?」
「ああ。むしろ天才魔導士のお前だったらみんな認めるだろ? お前ぐらいの魔導士は見たこともないって村長や周りの人達も言っているじゃないか?」
「そうね。シグの魔法ってほんとすごいもんね。あれだけ凄いとグラシオン魔導公国でも重宝されるんじゃないの?」

首を傾げながら言葉にしていくミリア。

「ふふん。まぁ俺の魔法は確かに凄いからな。誰にも負けないぜ」
「言ってろ言ってろ」
「しかし、グラシオン魔導公国か……。いいな、それ!」
「どうしたシグ?」
「いいって?」

立ち上がり空を眺めるシグを、疑問符を浮かべながら見上げるスレイとミリア。

「ああ……決めたわ俺! グラシオン魔導公国に行って士官してくる!」
「「えっ!?」」
「なんて顔をしてんだよお前ら。お前らが俺の魔法を褒めたんだぜ?」
「そう、だけど……」
「本気で言ってるのか?」
「当たり前だろ? グラシオン魔導公国なら俺の才能を活かすにはもってこいってことだ。それに、今一番大陸の統一に近いのはここだって話じゃねぇか? なら今の内にいいところまで上がれば、統一した時にゃあ俺も上流階級間違いなしだぜ!」
「お前……そりゃあさまし過ぎるだろ」
「でもシグらしいね」

三人して笑い合う。

(グラシオン魔導公国?)

聞いたこともない国の名前。シグラム王国の周辺にはカサンド帝国、メトーゼ共和国、パルスタット神聖国の三か国しかない。

(だとしたら滅んだのかな?)

先程の会話、ケドナ山脈の近くの小国が滅んだとも言っていた。考えられるその可能性。

(まだわからないことだらけだ)

遠くを見に行くことも適わない。動き回れないということは感覚的に理解しており、これはあくまでも血が経験している記憶の追想に過ぎない。
それから先、シグは士官の為に旅に出る準備を進める。スレイとミリアには何度か止められるのだが、シグの決意は固く止めることは出来ないでいた。
そうして村の入り口でシグを見送るスレイとミリア。

「じゃあ元気でな。剣聖スレイ、聖女ミリア」

晴れやかな表情のシグ。

「ったく。恥ずかしい奴だなお前は」
「それやめてって言ってるのに」

溜息を吐きつつも笑顔のスレイとアメリア。
旅の準備の間に話していた、剣聖・聖女・大魔導士の称号。剣の腕に秀でたスレイ、治癒魔法に長けたミリア、魔法全般を扱えるシグ。子供の時に遊びながら話していた将来の夢。それを臆面もなくシグは何度も口にしていた。
しかしヨハンにはどこかしら寂しさが伝わって来ている。無理して別れを惜しんでいるのだということはわかっていた。

「いいじゃねぇか。俺は信じてるぜお前らを。いつかその称号に恥じないぐらい凄くなるってさ」
「だったらお前も向こうでしっかりとやれよな大魔導士シグ。死ぬなよ」
「誰に言ってんだか。お前もミリアをしっかりと守れよ!」
「ああ、もちろんだ」
「約束だぞ?」
「しつこいな。当り前だ」
「よしっ! 任せたっ!」

ガシッと肩を掴み合う二人。力強い言葉。

「あとな、俺がグラシオンで成功したらお前たちも俺のところに来いよ!」
「ああ。その時は偉くなったお前に養ってもらうぜ」
「でもシグ、あんまり女の子を泣かせたらダメよ? あなたモテるんだから」
「ははっ。俺は女の涙が一番嫌いなんだぜ?」
「ふふっ。知ってる」
「……ミリア」

見つめ合うシグとミリア。シグは口を開こうとしたのだが思い留まるようにして再び笑みを浮かべる。

「なに?」
「いや、なんもねぇ。じゃあまたな」
「うん、またね。シグが活躍する噂が届くの楽しみにしているね!」

そうして村を出ていくシグは地平線の向こう側へと姿を消していった。スレイとミリアによって見送られながら。

(聖女、か)

現代でもパルスタット神聖国に聖女がいるのだということは話には聞いていた。しかし関連に関しては不明。

(あれ?)

疑問に思っていたところで周囲の景色が大きく白みを帯びていった。

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