S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
566 / 724
紡がれる星々

第五百六十五話 十五年前

しおりを挟む

それから先、白んだ世界で次々と映されていく景色はまるで走馬灯のような光景。流れ往く刻。

「平和な世界が築かれていったんだなぁ」

そう思えるほどにこれまで見て来た世界と正反対に穏やかな日常。
人魔戦争直後こそ慌ただしさが見られていたが、戦争によって荒廃した土地の再生がいくつも行われていた。

「へぇー。シグラム王国もこうして創られていったんだ」

エルフ達とミリア達が手を繋ぐ世界樹と草原、そして織り成す新緑の数々。エルフの里の成り立ちとそこから比較的近郊、元グラシオン魔導公国領。荒れ果てた土地はとても人の住めるような土地ではなかったのだが、それでも世界樹を中心として潤い始めているその土地には徐々に人が集まり始めている。
しかし僅かにしこりを残しているのは、魔族に関する以後のことが映されていない。それは追想する記憶の中に映るものではないからだと理解していた。

(たぶん、ずっと身を潜めていたんだろう)

ガルアー二・マゼンダは人魔戦争当時の魔族。当然の選択とも思えるのは、魔王の復活を目論むのであればそれも理解できる。

「あの人がカレンさんとラウルさんの先祖なんだ」

見覚えのある帝国城。現在とは外観に若干の違いはあるのだが、断崖絶壁を背負う城の規模はあそこぐらいしかない。
傭兵隊長を務めていたレイが統治者、皇帝として就く様子。

「――……ミリア……泣いてる。そっか、良かったね」

そう思えるのはミリアの花嫁姿。多くの人々に祝福されている。
泣いているミリアの頭を困り顔で擦るシグ。

『ったく、家名なんていらないけどな』

新しい国の建国に因んで家名が必要になっていた。

『だったら、スレイの名前も入れられない?』
『本気で言ってるのか?』
『当たり前じゃない。冗談でこんなこと言わないわよ』
『……わかった。ミリアがそう言うなら。それとなくだけどな』

そうしてシグラム王国。家名はスカーレットとなった。
そこから先はミリアと、シグの、いくつもの記憶。
呪いに関することはシグとパバールが調べるもののわからず。そして子へ伝承として伝えられている。話に聞いている通り、現代へと繋がる話。

「あっ」

ミリアがミランダと共にサンナーガ遺跡、当時の街であるサンナーガの地下に壁画の間を作っていた。そうして黄の玉をはめ込むミリア。

『いつかこれを必要とする時、きっと運命が導くわ。その人の下へと』
『光の聖女の祈りね』
『ええ。その未来を見ることができないのが残念だけど、私は信じるわ。あの子達の、シグとスレイの絆を』
『……ミリア』

黄の宝珠が地下にあった理由。

(…………運命、か)

偶然なのか、必然なのか、それとも導かれたのか。ともかく、黄の宝珠が目指して来たところへと辿り着くための確かな一助となっていることは間違いない。
そして次々と映しだされる子孫の記憶。時代を跨いで幾年もの歴史が流れていくシグラム王国。それはスカーレット家が歩んできた歴史そのもの。その端々を垣間見る。その中には賢者パバールが王国を後にする姿もあった。

荒れ果てた大地は脈々と成長を遂げていき、小さかったシグラム王国の開国も年代を重ねることによって国としての規模を大きくさせていく。いくつかの転換期は訪れるのだがそれもまた国が辿るべき通過点。人魔戦争を見て来た後からすればまさに泰平の世と云って差し支えない。

「やっぱり魔王の呪いはどの時代でも成就されることはなかったんだ」

そうして白んだ世界が視界を覆い尽くす程の光を放つ。

(まだ、まだ何かあるはずだ)

光が収まると、目の前には大きな部屋。知らない部屋の中なのだが壁に描かれている紋様を知っていることはもちろん、ヨハンも良く知る人物がその部屋の中にはいた。

(これって王様と王妃様だよね? 若いなぁ)

いくらか若さを感じさせる程のローファス王とジェニファー王妃。歳にすれば三十にも満たないくらい。

(王妃様のお腹、赤ちゃんがいるんだ)

部屋は恐らく王妃、ジェニファーの私室。ベッドに横になっているジェニファーは大きなお腹を嬉しそうに擦っている。身重。

「ふふっ、もうすぐね。みんなびっくりすると思うわ」
「ああそうだな」

意地の悪そうな笑みを浮かべ、同様の笑みを作るローファス王。

(だったら、やっぱりエレナが……)

この場面が映し出されるということは、現代における魔王の呪い、器となることかと。

「これまで秘密にしてきた甲斐があるというもんだ――」

直後、僅かの時間を要してスッと移り変わる次の場面は全く同じ場所。王妃の寝室。

「――っつぅぅぅっぅぅ、はぁ……はぁ……」

苦悶の表情に顔を歪める王妃の側には年配の侍女が一人。

(あれ? あの人ってどこかで見たことあるような……)

しかしどこだか思い出せない。それでも絶対にどこかで会ったことある。確信を抱きながら同時に考えるのはこの場面がこれまでとどう関係するのかということ。

「頑張ってください王妃様、もうすぐです! あとひと踏ん張りです! もう頭まで見えていますよ!」
「頑張れジェニファー! もうすぐだ!」

侍女の後ろで狼狽えながらも声を張るローファス。

「しかし婆や! 男はどうしてこうも無力なんだ! もうすぐ日を跨ぐじゃないか!」
「ええい五月蠅い!」
「山で例えると今は何合目だ!?」

侍女の返答に言葉を重ねる。

「ローファス! 今大変なのはあんたじゃなくて王妃様なんだよっ! あんたはどっしりと構えて王妃様を安心させなっ!」
「安心させるっていったって……」
「だったら黙って王妃様の手でも握ってやりな! こういう時はそれだけでもいくらか楽になるんだよ!」
「わ、わかった」

そうしてジェニファー王妃の横に膝をつくローファスはしっかりと手を握った。

「頑張れジェニファー。もうすぐ生まれるんだ。俺とお前の子が」
「え……ええ」
「だいたいあんたは出産を山で例えるだなんてどういう了見だい。そもそも、出産をわたし一人でさせるのもどうかと思うがね。あんたの時も二人でやったわい!」

侍女の言葉にそれまで顔を歪ませていたジェニファーはニコリと微笑む。

「も、申し訳ありませんマリアン。これは二人で相談して決めましたので――はあぁっ!」
「しっかりいきんで! で、相談って、なんのだいローファス?」

疑問符を浮かべる侍女マリアン。

(こんな場面、見てしまってもいいのかな?)

思わず目を逸らしたくなる様子。過去のこととはいえ、エレナの出産を目撃することになるとは思ってもみなかった。

(父さんも僕が生まれる時こんな感じだったのかな?)

加えて同時に考えるのは生命の誕生について。父も母も間違いなく多くの愛情を注いでくれている。

(でも、本当にどうして一人なんだろう?)

王女の出産だというのに周囲に人の気配が見られなかったのは確かに不思議な感覚。

「最初に驚くのはマリアンだろうな」

疑問を抱く最中、にッと笑うローファス。

「出産で何を驚くことがあるというのだ」
「っつうっ! はあっ!」
「話はあとじゃ! 生まれるぞ!」
「頑張れジェニファー!」

侍女マリアンがシーツ越しにジェニファーの股に腕を入れ、グッと腕を引き抜くとバッと取り出されたのは小さな赤ん坊。

「オギャアアアアッ!」

その腕の中には確かに元気な産声を上げる姿。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...