S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
578 / 724
紡がれる星々

第五百七十七話 険悪な間柄

しおりを挟む

魔王の呪いの詳細が判明したことで今後の動きにも大きな変更があった。
全体的な方針としては人魔戦争時代から存在している国、パルスタット神聖国への調査。これに関しては表向きに大きく動くわけにはいかないので、近々大使が派遣されるその際での何かしらの手段の模索――エレナが王女として対応することで決まっている。
アトム達スフィンクスはそれとは別、他の方面から解呪の方法を探すために旅にでるのだと。

それと当時の遺物、円卓の間にいた全員が過去見をすることになった黄の宝珠に関しては、ローファスへの謝罪と共にパバールへと渡している。重要な物であることは勿論なのだが、今の状態では持っていたところで役に立たないのだと。
宝珠の持つ魔力自体が枯渇してしまっており、赤と青と併せてその全てをパバールが一時預かることになっていた。

(なんにしても良かった。なんとかこれからも一緒にいられるけど、やっぱり強かったなぁ)

今居るのは屋敷の応接間。斜め前に座るアトムと窓際で椅子に座り本を読んでいるエリザ。尋常ならざる両親の強さ。
円卓の間での最後の話。それはアトム達がモニカを旅に連れて行くとのことだった。しかしそれは当事者のモニカだけでなく、ヨハンも含めた全員が断っていた。承諾するはずがない。

『んなこと言うがお前ら、本当にお前達にモニカを預けても大丈夫なのか?』
『信じて、父さん。僕たちを』
『……まぁ、そう言うと思ってたわ。だったらお前らの力を証明しろ。ヨハンだけじゃなくお前ら全員、魔族と戦う力があるんだってことを俺達にな』

その結果、アトム達スフィンクスに加えてラウルとリシュエルとヘレンに果てはローファスまでも含めた面々と、ヨハン達による模擬戦が行われることになる。
しかしそれは模擬戦と呼べるほど生易しいものではなかった。

『――――……そんなんじゃモニカを任せられないな』

威風堂々、勇猛果敢に居並ぶアトムたちのその姿はまさしく伝説の冒険者達に他ならない。

『はぁ……はぁ……。さすがというか、当たり前というか、こんなにまで強かったなんて……』

息を切らせながらチラと横目に見るそこには騎士鎧を纏う男アーサー・ランスレイ騎士団第一中隊長。

『ふぅ。これは骨が折れる』
『まだやれますか?』
『もちろんだよ。それにしてもまったく、急に団長から呼び出されたかと思えばまさかこんな仕打ちを受けるとは思ってもみなかったね』
『すいません。巻き込んでしまったみたいで』

アーサーと並び立ち、正面に立つアトムとガルドフに剣を構える。
現状、勝ち目は薄い。

『助かりました。でも本当によかったんですか?』

問い掛けるアーサーは小さく口角を上げる。

『いや、さすがに私も伝説を相手にして戦えるともなればいくらか高揚するものがあるよ。貴重な機会に感謝するね』
『そう言って頂ければ』

とはいうものの、全体的な結果としては惨敗。
加勢はアーサーだけでなく、ナナシーやサイバルは勿論、マリンまでもが参戦してくれている。エレナの懇願によって嫌々ながらも参戦したマリンは贈られる寵愛による後方支援のみ。気を失っているレインの介抱をしているマリン。

『諦めてお母さんたちと一緒に来たら? モニカちゃん』
『い、いやよ。私はヨハンといるの。絶対にっ!』

よろよろと立ち上がるモニカ。ただで負けるつもりもない。意識を朦朧とさせながらも最後まで意地を貫き通していた。気力を振り絞る。

『はぁ……相変わらず強情ねぇ……』
『わ、私達の力はこんなものじゃないわ』
『……モニカ』
『そう、ですわ。ここで引き下がるわけにはいきませんの』
『エレナちゃんも。いいわ。わかったわ』

深く頷くヘレンはモニカ達に向かって歩き、振り返った。
その行動にモニカもエレナも疑問符を浮かべる。

『おかあ、さん?』
『あなた達の気持ちは痛い程わかった。うん、お母さん決めた』

剣先を真っ直ぐアトム達へと伸ばす。

『なんだヘレン?』
『ねぇアトム。この子達ならきっと大丈夫よ。だから私はこっちにつくわ。愛する娘の味方をするために』

ニコッと微笑んだ。
その結果、顔を見合わせるラウルとリシュエルとクーナは頷き合うと、すぐにそれに追随する。

『え?』

その光景に思わず目を疑った。

『……お前らまで、どういうつもりだ? まさか情に絆されたとか言うなよ?』

明らかに怒気と殺気を放つアトムの形相は恐怖そのもの。肌にひりつく感覚。

『それだよそれ。いやなに、本気のアトムとやってみたくなってな。懐かしいだろ?』
『同じく』

共に剣を構える剣聖と竜人。

『本気、なんだな?』
『ああ』
『無論だ』
『いいぜ。だったら相手してやるぜ。覚悟しなッ!』

ラウルとリシュエル、共にアトムとはかつて敵対していた関係。今でこそ仲間と呼び合えるが、殺し合いをしていた間柄。

『……クーちゃんは?』
『決まってるじゃない。その方が面白そうだからだよ?』
『あなたねぇ』
『えへっ』
『かまわぬエリザ。このままではワシも面白くなかったのでな。もう少し歯応えが欲しかったのよ』
『うわぁ、おっかなぁい』
『くくっ、よう言いおるわい』

上方に杖を掲げるシルビア。頭上に描かれる大小無数の魔法陣。

『じゃあやるよナナシー、サイバル。しっかりついて来なさい。これがあなた達を指導する最後になるかもしれないのだから』
『『は、はいっ!』』

そうしてそこから先は激しい戦いが繰り広げられる乱戦。そこはもう親の世代と子の世代の戦いどころではなくなっていた。





結果としてはアトム達が折れる形で終局を迎えたその激戦。母エリザに言わせれば途中までは悪ノリだったらしいのだが最後には熱がこもり過ぎたのだと。このままでは死人がでかねないと判断した結果エリザがアトムに不意討ちでキスをして冷静さを取り戻させていた。

それから二日後、現在に至る。
屋敷の応接間で目の前の光景に疑問を抱きながら思い返していた。

(――……でも、どうしよう……)

しかし困るのはこの無言の間。不穏な空気。

「どうぞ」

ネネによって差し出される紅茶が三つ。

「ありがとうございますネネさん」
「……いえ」

そのネネも一言発すとヨハンの目の前に座っている二人の人物にチラリと目線を送るなりそそくさと部屋の入り口に歩いて行く。

(……なんだかすっごい険悪なんだけど)

明らかに不機嫌そうに向かい合って座っている二人の人物。
一人は主の父であるアトム。

「ちっ!」

そのアトムは正面に座る人物を軽く睨みつけては紅茶を口に運ぶ。

「嫌なら飲まなくてもいいぞ」
「んな指図は受けないね」

掛けられる声を意にも介さずカチャンとカップを粗雑に扱った。

「そういうところだ。やはり貴様には任せておれんな」

対するアトムの正面に座るのはカールス・カトレア侯爵。侯爵は当然の如く綺麗な所作を用いて紅茶を口に運ぶのだが、醸し出す雰囲気は明らかに怒気を孕んでいる。

(なにこれ?)

ネネが視線を向ける先、ヨハンの背後には執事然として無言で立つイルマニ。窓際にある書棚の近くに置かれていた椅子に座るエリザとカレン。本を捲りながらニコニコするエリザとは対照的にカレンは不安そうにヨハン達の様子を見ていた。
使用人としていつでも用事を請け負えるように応接間の入り口でお盆を胸に抱くネネもこの空気に耐え切れないでいる。

「どうするつもりなんだ?」
「なにがだよ?」

射抜くような視線を向け問い掛けるカールスに対してソファーに腕を回して不遜な態度で応対するアトム。

(どうしたらいいんだろう?)

侯爵を相手にする父の態度に疑問を抱くのだが、カールス・カトレア侯爵の問い掛けも確かに不躾。仲の悪さが滲み出ていた。
まるで板挟み。しかも理由が全くわからないから困ったもの。肩越しにイルマニに助けを求める様に視線を向けるとニコッと無言で頷かれるのみで助けてくれる気配の一切がない。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...