642 / 724
神の名を冠する国
第六百四十一話 変貌
しおりを挟む(じゃあよろしくね)
直後、手甲に炎を灯すニーナ。
「ほぅ。ようやく出し惜しみをしなくなったのか。中々の武具と見る」
これまでカイザスの剣で傷一つつかない程の強度を誇る煉獄。しかし煉獄は防具ではなく武具。
魔力を溜め込めるのが煉獄の本領。準備は万端。
「ねぇねぇ。爆撃って知ってる?」
「何を言っている?」
「知らないんだ。じゃあ見せてあげるよ」
戦いを開始した中で戦闘と平行して魔力を煉獄に流し込むのは至難の業。それを煉獄の前の持ち主、何食わぬ顔で行えるアリエルがとんでもなく器用なものだと思っていたものなのだが、譲り受けた頃に比べればニーナも遥かに扱えるようになっている。
(さーて、あとはレオニルさんが気付いてくれるかだけど……――)
ニーナが拳を構えるのは地面に向けて。
「どこを狙っている?」
カイザスを始めとして、一体ニーナは何をするのかと全員が疑問に思うのだが、拳を振り下ろす直前、ニーナがチラと見るのはカイザスではなくレオニルへ。
((――……気づいてくれた!))
互いに重なるその思惑。
期待の通り、ほんの、ほんの僅かではあるがレオニルはニーナと目が合った。
「はあッ!」
炎を宿しながら勢いよく地面に振り下ろされるニーナの拳。ドゴッと地面が陥没する程の穴を穿つと次には盛大な地響き。
割れた地面からはまるでマグマの如き炎を噴き出しながらカイザスの方角目掛けて迫る。
「なっ!?」
突如として生じた事態に驚きを禁じ得ない。
「ちっ!」
避けるためには跳躍するしかない。
「ピィィィィ」
鋭く響くカイザスの指笛。翼竜を呼び寄せる笛。
バサッと翼を動かすカイザスの愛竜はすぐさま地面から飛び立った。その翼竜へ向けて素早く跳躍する。
(今ッ!)
ようやく見せた隙。これまでレオニルに対して一切警戒心を解かなかったカイザス。
肩から指先にかけてボゴッと肥大化するレオニルの右腕。金色の毛が包み込んだ。
「やあッ!」
瞬間。直後には全身を獣化させたレオニルは、そのまま手に持っていた槍を迷うことなくカイザス目掛けて投擲する。事前に魔力を練り上げていたことによる淀みのない、流れるような獣化。
「!?」
愛竜に飛び乗るのと同時に自身へと襲い掛かる高速の槍を目にする。
「ぐあっ!」
避ける間さえないその一投は見事にカイザスの肩を貫いた。
「やったね!」
「ええ。ニーナさんのおかげです」
すぐに獣化を解くレオニル。駆け寄って来るニーナに笑みを向ける。
「さて」
だがすぐさま表情を引き締め、上空を浮かんでいるカイザスを見上げた。
「その傷ではこれ以上戦えないでしょう。負けを認めて投降してください」
「…………」
大きく声を掛けるレオニルなのだが、カイザスは肩を押さえるのみ。
「あれ?」
そのまま両目を凝らすニーナ。チラチラとレオニルや他の風の部隊を見るのだが誰も気が付いていない。
(あれって……――)
どす黒い瘴気がカイザスより生み出されている。
(――……どう見ても魔族化、だよね?)
間違いないと断言出来た。
「ニックさん! カルーさん!」
すぐに大きく声を掛ける。
「んだよ?」
「どうかしたん?」
「すぐに皆をここから離れさせて!」
「ん?」
「へ?」
意味が解らずキョトンとさせるのはレオニルも同じ。
「早くッ!」
ニーナの怒声にニックはビクッと身体を動かした。
「わ、わかったっつーの」
ニックとカルーの指示により、疑問に思いながらも翼竜に跨っていく風の部隊。背後に立つ風の塔へと飛んでいく。
「なにか、視えたのですね?」
「うん。アレはちょーっとだけマズいなぁ」
「少しだけ、ですか。そうは見えないですが?」
声の調子とは反対に冷や汗を垂らしているニーナ。その眼に捉えるのはどす黒い瘴気を盛大に噴き出し始めたカイザス・ボリアス。
「何が、と聞こうとしましたが必要ありませんでしたね。なるほど。アレが話に聞いていた魔族化、というやつですね」
もうレオニルの目にもはっきりと見える程に具現化された瘴気。
「許さんぞ貴様ら。よくも私の身体にこれほどの傷をつけたな……」
瘴気に包まれながら肩から槍を引き抜いた。血はすぐに止まり、頭部に角を伸ばすカイザス。それはまるで竜の角。肩や背中からも鋭い突起を生やしていく。
異形へと変貌していくカイザスの変化の影響を受けるかのようにして、愛竜である翼竜も皮膚を黒く変色させていった。
(あの眼……――)
カイザスと翼竜の変化の中で、なにより信じられなかったのは、カイザスが見せた両目の眼球の変化。
(――……あたしにそっくりだ)
竜人族のニーナが見せる竜化と。
カイザスはギロリと眼球を動かすと周囲を見渡した。
「それにしてもだ……――」
バサバサと翼の音をはためかせながら、街の至るところでは黒煙が立ち昇っている。混乱の最中にある首都を襲う更なる混乱。
「――……下賎な獣人どもめ。まさかこれほどまでに、神の裁きを必要とする者がいるとはな」
その頃、首都パルストーンの入り口付近ではトリアート大森林の獣人達が群れを成して突撃しているところだった。
「貴様らの罪、万死に値する!」
視線を真下に向けるカイザス。
まるで竜の眼に変貌させたその両目で眼下にいるニーナとレオニルを捉える。
11
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる