S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
648 / 724
神の名を冠する国

第六百四十七話 加勢の先は

しおりを挟む

「アリエルさん?」

サナが振り返った先。そこには目を真っ赤にさせた第二聖騎士のネオン・ローレライと第三聖騎士のガウ・バードリー。アリエルに対して攻撃を加えて吹き飛ばしている。

「まさか彼らも!?」

どうやってなのかはわからなくとも、アリエルを吹き飛ばせるだけの攻撃が生み出せたのだと。先程まではその兆候の一切が見られなかった。しかし、状況を見るにどうにも変調を来しているバニシュに同調しているように見える。

「があああああああッ!」
「うがあぁぁぁぁぁぁッ!」

猛獣と化したかのような二人の叫び声。

「ひっ!」

余りにも突然の変異。まるで何かに取り憑かれたかのような様子の変化。自分達へ攻撃対象を変えて迫りくる二人に対してサナは僅かに怯んでしまった。

精霊衝エレメントショック

サナの前に立ち塞がるカレンが伸ばす手の平。眼前に光の膜が展開され、バチッと音を立てるとガウとネオンは後方に弾け飛ぶ。

「あ、ありがとうございます」
「こんな時に気を抜いてはだめよ!」
「は、はい!」

カレンの声の調子により、すぐさま気を引き締め直すサナ。

(それにしても、この様子からして、恐らくあっちの影響を受けてるみたいね)

肩越しにチラリと見えるバニシュの姿。まるで憎しみの炎を燃やすかのように、その身にゆらめく炎を纏っていた。

「っつぅ。今のは効いた」

ガラっと瓦礫をどかしながら立ち上がるアリエル。

「大丈夫ですか?」
「ああ。心配は無用だ。しかし気を付けることだ。見ての通り、どうやら身体能力が桁違いに上がっている」
「……はい」
「とはいっても、気を付けろとは私が言えたことではないがな。いかんいかん、私も鈍ったものだ。あの程度の攻撃をいなせないとは」

手足の確認をして、ぐっぱっと手の平を握り直す。

「良かった、大丈夫みたい。カレン先生、どうしますか? 分かれて二人の加勢に入りますか?」
「…………」

サナの提案に対して僅かに思案するカレン。果たしてその選択が最適なのか。

(魔族化の影響が強いわね)

それまではアリエル一人で聖騎士二人を圧倒していた。しかしそれも状況の変化によって確実ではなくなってしまっている。
となればサナの提案の通りにするべきなのか。

(いえ……――)

だがその判断を即座に否定した。

「――……二人でテトさんの加勢に回るわ」
「えっ!? でも」
「アリエルさん。しばらく持ち堪えてもらえますか? あの人を倒して来ます」

声を掛けるアリエルは僅かに目を丸くさせる。

「なるほど。そういうことか。構わんさ。こちらへの心配は不要だ。むしろ私もこの二人を倒してすぐにそちらへ向かおう」
「そんな強がりはいいですよ。今は時間さえ稼いでもらえれば」

振り返りながらサナの背を押すカレン。

「さ、いきましょ」
「か、カレン先生?」
「いいから。あっちはアリエルさんに任せましょう。あの人なら大丈夫よ。それよりも、あの火の聖女を倒せば彼らももしかしたら正気に戻るかもしれないの」
「……カレン先生はそう考えているんですね」

魔族化したバニシュの影響。ガウとネオンもまた同様に力を増幅させているのだと。その可能性は大いにある。神の代行者である聖女に崇拝する聖騎士という関係性。その強い繋がりがあるが故に干渉しているのだと。
結果、そうであれば現状を打破するためにはテトに加勢をしてバニシュを倒すことが先決。

「やるわよっ!」
「はいっ!」

二人して駆け出す。視線の先には杖を向けられ、防御姿勢に入っているテト。

「神の怒りを思い知れッ!」
「くっ!」

杖の先端から巨大な炎の塊を射出するバニシュ。

不可視の魔弾インビジブルバレット
「水連華」

テトの後方から大きく声を発すカレンとサナ。追い越すようにして水の華がいくつも咲き誇り、バニシュが放った炎に着弾する。

「ふっ。その程度、燃やし尽くして――」

水魔法の最高峰であるテトでさえも凌駕する獄炎。見知らぬ少女の魔法など容易く消滅させられるものだと思っていたのだが、水の華は炎に着弾するなり弾けるようにして、周囲を覆い尽くす程の氷の華となった。

「――なにっ!?」

結果、炎はまるで氷像かの如く凍り付く。

「おおっ。これは見事だ」

思わず感嘆の息を漏らすテト。それが二人の魔法によって行われたことだと。

「大丈夫ですか?」
「わたし達が加勢するわ」

テトの横に並ぶサナとカレン。

「すまんな。まさかこれだけの炎の使い手とは思ってもなかったわ」

テトの知る歴代のどの火の聖女のよりも巨大な力。

「でも三人で戦えば一人ぐらい」
「アレを忘れてはダメよ」

アレ――カレンの視線の先には、口腔内に炎を凝縮させ、準備万端とばかりに今にも吐き出そうとしている火の蜥蜴。サラマンダー。

「術者を倒せばそれで終いじゃが、邪魔をされるとそれはそれで厄介じゃ。先にアイツを倒そう」
「ええ。それもそうね」
「きますっ!」

サラマンダーより吐き出される炎弾に対して、三人で腕を前方に伸ばす。三重の魔法障壁の展開。
強度で云えば誰よりも強いカレンの魔法障壁が後方で支え、前面をテトとサナによる水属性を付与させた障壁。その三重。相性補完も十分。
サラマンダーの炎は着弾と同時に大きく爆発音を伴うのだが防御はできていた。ダメージはない。

「いくぞっ!」

テトの声に同調するかのように、爆発によって生じた煙の中を左右に動くカレンとサナ。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

処理中です...