S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百四十六話 火と水と……


「なに、いまの…………」

先程までの速さとは段違い。受け身すら取ることなく壁に叩きつけられたガウを見て、あまりにも圧倒的な速さと破壊力にネオンは呆然とした。

「うわぁ。アリエルさん、容赦ないなぁ」
「仕方ないわ。遊びじゃないもの」

その様子を見守るサナとカレン。

「そう、ですよね。でも、この調子なら」

問題はないはず。どう考えてもあの聖騎士の二人ではアリエルに勝てるとは思えない。
それに周囲の警戒をしているのだが、他に新しく何かの気配があるわけでもない。そのままサナが視線を向ける先はテトとバニシュへ。

「ほらほらどうしたお嬢ちゃん。もう一度見習いからやり直した方がいいのではないか?」
「ぐぅっ! 老いぼれが調子に乗りおってからに」

口調を荒げ始めているバニシュは既に余裕を失くしている。
手数でテトが勝っているだけでなく、そもそもの水と火という属性の相性。

(あの人、やっぱり凄い)

同じ水魔法の使い手として、テトが繰り出している魔法技能は正に教科書。それだけに留まらず、細かな強弱による応用。ただひたすらに魔法を放っているだけでないのは見ているだけで勉強になった。

「……ちょ、ちょっと待って」
「え?」

見入ってしまっていたところで不意に耳に聞こえてきたカレンの声。戦況を見定めていたカレンの下に不意に訪れたのは悪寒。唐突にそれはやってきた。
周囲を漂う微精霊が突如として危険を告げている。

「マズいッ!」
「カレン先生?」

バッと勢いよく両腕をテトの方へと伸ばす。
すぐさま展開するのはテトを護るように張られる魔法障壁。

「むっ?」

突然魔法障壁が展開されたことで驚くテトなのだが、それが誰の手によるものなのか確認はしても、攻撃の手を緩めることはない。障壁の前方に生み出される水魔法。

「何が起きる?」

疑問を抱いたのだが、すぐに状況が答えを教えてくれた。
パシュッと一筋の水魔法がサラマンダーとバニシュの繰り出す火炎を潜り抜けるとバニシュの頬に傷をつける。
頬から血を垂らすバニシュはまるで自己再生でもするかのようにその傷口を閉じた。

「神の……――」

そうして大きく口を開ける。

「――……神の裁きを、何故素直に受けられぬッ!」

バニシュの怒声と共に、サラマンダーはその皮膚を一瞬にして黒く変色させた。

「これは?」

突然の変異に疑問を浮かべたのだが、それよりも驚愕したのはサラマンダーが吐き出す黒炎。これまでテトの水魔法によって相殺できていた火炎弾が相殺できなくなる。テトの水魔法を瞬時に蒸発させる程の熱量。ジュッっと音を立て、水蒸気を巻き上げながら黒炎がテトの下へと着弾した。

「どうして!?」

これがカレンが魔法障壁を展開していた理由。
大きく声を上げるサナ。カレンが真っ先にその気配を察知したのだが、思い当たる理由は一つしかない。

「魔族、化?」
「どうやらそのようね」

冷や汗を垂らしているカレン。
サラマンダーがその皮膚を黒く変色させただけでなく、視界に映るバニシュ自身も足下から瘴気を生み出していた。

「これは……?」

思わず両の手の平を見て自身に生じた異常を感じ取ったバニシュ。

「バニシュ! それ以上怒りを膨らませるな! それ以上進むと取り返しがつかなくなる!」

遠くから声を放つアリエル。

「何を言っている? 力が溢れて来るのだ。悪しき者を倒すための力が」

瘴気はその規模を大きくさせる。

「ふ、ふははっ。この力があれば忌まわしいあの老いぼれを倒しきれる」
「な、何が起きた?」

ゆっくりと身体を起こすテト。
カレンの魔法障壁によってなんとか重傷は免れたが、熱波による火傷をいくらか負ってしまっていた。

「いや。これではっきりしたといったところか」

バニシュのその様子を見てテトが息を吐く。

「いやはや、そういうことか。貴様が魔族と通じていたのだな」
「魔族、だと?」
「その力、それが動かぬ証拠よ」
「何を突然いにしえの魔の者のことを。耄碌したか。これは神がお前達に裁きを与えようとウチに遣わせた力に他ならない。正に天啓さね」
「絵空事を。貴様のような者に神は施しなど与えん」
「ハッ! 負け惜しみか。神の力を受け取ったウチに負けるのが怖いのだな」
「……バカなことを言いおる」

言葉ではいくらか返せるのだが、テトが感じ取るその魔力の波動。はっきりと感じられた。明らかに増幅させた魔力は、バニシュ一人だけであればまだ対抗のしようがあったのだが、厄介なのはあの召喚獣。サラマンダーにも同様に見られる。まるで相乗効果を発揮するかのように。

(やはり曲がりなりにも聖女に上り詰めただけはある、ということか)

通常、召喚術を行使すれば魔力の大半は召喚獣に持っていかれるもの。しかし、バニシュは召喚獣を使役しながら自身も魔法を使用している。恐らく緻密な魔力操作により、小さな火の粉に魔力を凝縮させているのだと。それが如何に難しい技術なのかということは誰よりもテト自身が理解していた。
先程までは属性の相性や地下水路という地の利もあった。だが、今しがた見せた力の増幅がその天秤の傾きを大きく動かしたのだと。
どう対応しようかと頭を悩ませた次の瞬間、背後でアリエルが漏らす小さな苦悶の声。

「ぐっ!」

直後、ドゴンと大きく響き渡る音。続けてガラガラと瓦礫が崩れた音。

「え?」

一体何が起きたのかと振り返ったサナの視線の先には、瓦礫に埋もれるアリエルの姿があった。

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