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中編
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美しいルアに感嘆の声を上げていた人たちは思わず小さく悲鳴を上げた。
王太子ケンシーの青年らしい血色の良い肌は土気色に、光を集めたような金髪はくすんだ麦藁のように変わっていた。
そして何より不気味な紋様が見えている皮膚全てに浮かんでいたのだ。
「苦しい…体中が軋むように辛い…痛い…ルア…何をした…!?っ!おま…え…ルア…か?」
突如自身を蝕んだ苦しみに呻いていたケンシーはようやく目の前のルアが大きく変化していることに気が付いた。
「ケンシー…何度も言い聞かせただろう…。ルアがお前を守っていると…。ルアと…聖女と結婚すれば呪いは弱まったというのに…」
ガックリと力なくケンシーに声をかける国王陛下の言葉に貴族たちは納得をした。
聖女ルアは王太子の呪いを身代わりに受けて醜くなっていたのだと。
昔々、この地に国を興した初代は勇者であった。
魔王を倒し、解放された地に建国されたのが始まりだ。
呪いは言うまでもなく魔王の呪い。
『吾が死して興る人の国の王族よ、末代まで呪おう。苦しめ、蝕まれよ』
最後を悟った魔王が残った魔力全てを使い掛けた呪いだった。
そしてそれは勇者の血筋でなくこの地の国の王族に継がれるものとなった。
この呪いを知り、人を哀れに思ったのが勇者に魔王討伐の加護を与えた神様だ。
神様はまず呪いを弱めた。
正確には呪いの威力は緩められないが呪われる頻度を数世代に一度としたのだ。
そして女神を勇者の元に遣わせ、国王となった彼を呪いから護らせた。
遣わされた女神は人と暮らすうちに情が湧き、呪いを受けるであろう後世の王族たちを哀れに思った。
しかし常に自分が人間界で護り続けるわけにもいかない。
そんな事をすればいずれ神通力を失ってしまう。
そこで、呪いを受ける者への救いとして、勇者と契りを交わし神の血を引く子孫を残すことにした。
呪いを受ける世代が王族に産まれる時、自身の子孫にも護りの力を持つ子が産まれるよう祝福をかけたのだ。
しかしその力を維持するために直系のみに縛りを掛けて血が途絶えては困る。
だけど子孫全ての中からだと広すぎて力を継がせるのは難しい。
そこで、女神は奇跡を起こす力の補助として『愛情』を選んだ。
また、自分の神殿を建て、自身の像に文字を彫り後世に正しく伝わるよう手も打った。
・女神の力を継ぐ子は女神と同じ銀髪をもつ娘として産まれてくる。
・その娘が呪い子と『愛』を交わせば呪いは抑えられる。
・『愛』を交わせない場合、『愛』をここで誓えば呪いは弱められる。
今の王家の血筋が続けば呪い子は女神の子孫になる。
可愛い子孫の為に範囲の広い『愛』とした。
『親愛』『友愛』『兄弟愛』『親子愛』…互いを心から大切に想い慈しめば護りの力として呪いを抑え込める祝福だ。
もし、『愛』の無い関係であっても『互いを愛する』と自分の神殿で誓ってくれれば僅かでも血の系譜があればそれを通じて護りの力が目覚めるようにもした。
これでどんな時代も、呪い子の苦しみを完全には拭えないにしろ不調程度に抑えられるだろう。
万が一誓いが本物になればあとは子孫の力で抑え込めるはずだ。
こうして女神の加護と祝福の力は時代を越え後世に伝わっていったのだが、女神はうっかりしていた。
赤子には『愛』も『誓い』も分からないのだ。
数世代を経て、全身に呪いの紋様が浮かび、終始苦しむ呪い子が産まれた代の王様は我が子を可哀想に思った。
そこで王妃様には呪いで死んだことにし、なんとはじめの子を一思いに殺した。
しかし、次に産まれた子も呪い子だった。
一人目を亡くし、二人目も呪われていた王妃様は悲しみに倒れてしまった。
仕方なく王様は倒れた王妃様の代理を務める者を側妃として迎え、やがて王は三人目の子に恵まれた。
しかもこの子は呪われていなかったのだ。
王は大変喜んだが王妃には酷なので伏せていた。
だがある時、側妃の子は呪われていなかった事を知ってしまった王妃様は呪いに苦しむ二人目の子と無理心中をしてしまったのだ。
次代の王は側妃の子となる事が確定した、皆がそう思った頃だった。
呪われていなかった三人目の子に呪いが現れたのだ。
どう足掻いても呪いの代は王になる者が呪われる、という事が分かった瞬間だった。
そこで王様は国中の魔道士や錬金術師をはじめ、あらゆる者に子供が『愛』を理解するまで苦しまないですむ方法を見つけるようお触れを出した。
そして女神の力を引く子孫探しも同時に行われた。
結果貴族でなく平民に珍しい銀髪の子がいると分かったのだが、まだ幼い子に愛も何もない。
王子の症状をどうにも出来ない彼女を王は軽んじ、平民だった故に彼女は呪いを何とかしようとする大人たちの研究材料にされてしまった。
やがて少女がすっかり心を閉ざした頃、一人の錬金術師が遂に『身代わりの宝玉』という魔石を創り上げた。
呪い子の血を魔石に垂らし、魔法で外れないように装着すると呪いがその魔石を身に着ける事になった人物に移るのだ。
しかし移すと呪いが強くなるのか身に付けさせた奴隷は苦しみのあまり半年もしないうちに自殺してしまった。
折角移動させた呪いがまた王子に戻り王様はすぐ何とかしろ、出来ないなら渡した褒美を返せと錬金術師を責めた。
そうして困った錬金術師の目に付いてしまったのは研究材料に使えるよう城に囚われていた銀髪の少女。
彼は女神の力を引く彼女に魔石を使えばどうなるかを試すことにした。
するとどうだろう。
女神の力を継いでいる影響なのか少女が苦しむことは無かったのだ。
ただ、可愛らしかった容姿が醜くなってしまった。
少女の元の姿を知る王子は自分の呪いのせいで心を閉ざし、見目まで醜くなった少女を哀れに思った。
優しい彼は少女が可哀想で、そして申し訳なくて彼女を大切に扱った。
まず城に囚われている状態の少女が両親と城で一緒にいられるよう手配をした。
気晴しも様々考え、時には舞台などを観に連れ出した。
その際、醜くなった容姿が気にならないよう人払いをかけたり…とにかく気遣い優しく寄り添い続けた。
そんな王子の優しさに少女が恋をするのは当然だろう。
そうして共に育ち成人した王子は、呪いの責任を取るためにも彼女を妻にすると覚悟を決めた。
哀れみから始まった関係を『愛』と言えるかは分からない。
しかし少女の内面の美しさや弱音を吐かない強さを『敬愛』している、そう思えたのだ。
そうして二人は『愛』を誓う結婚式を女神の神殿で挙げた。
王太子ケンシーの青年らしい血色の良い肌は土気色に、光を集めたような金髪はくすんだ麦藁のように変わっていた。
そして何より不気味な紋様が見えている皮膚全てに浮かんでいたのだ。
「苦しい…体中が軋むように辛い…痛い…ルア…何をした…!?っ!おま…え…ルア…か?」
突如自身を蝕んだ苦しみに呻いていたケンシーはようやく目の前のルアが大きく変化していることに気が付いた。
「ケンシー…何度も言い聞かせただろう…。ルアがお前を守っていると…。ルアと…聖女と結婚すれば呪いは弱まったというのに…」
ガックリと力なくケンシーに声をかける国王陛下の言葉に貴族たちは納得をした。
聖女ルアは王太子の呪いを身代わりに受けて醜くなっていたのだと。
昔々、この地に国を興した初代は勇者であった。
魔王を倒し、解放された地に建国されたのが始まりだ。
呪いは言うまでもなく魔王の呪い。
『吾が死して興る人の国の王族よ、末代まで呪おう。苦しめ、蝕まれよ』
最後を悟った魔王が残った魔力全てを使い掛けた呪いだった。
そしてそれは勇者の血筋でなくこの地の国の王族に継がれるものとなった。
この呪いを知り、人を哀れに思ったのが勇者に魔王討伐の加護を与えた神様だ。
神様はまず呪いを弱めた。
正確には呪いの威力は緩められないが呪われる頻度を数世代に一度としたのだ。
そして女神を勇者の元に遣わせ、国王となった彼を呪いから護らせた。
遣わされた女神は人と暮らすうちに情が湧き、呪いを受けるであろう後世の王族たちを哀れに思った。
しかし常に自分が人間界で護り続けるわけにもいかない。
そんな事をすればいずれ神通力を失ってしまう。
そこで、呪いを受ける者への救いとして、勇者と契りを交わし神の血を引く子孫を残すことにした。
呪いを受ける世代が王族に産まれる時、自身の子孫にも護りの力を持つ子が産まれるよう祝福をかけたのだ。
しかしその力を維持するために直系のみに縛りを掛けて血が途絶えては困る。
だけど子孫全ての中からだと広すぎて力を継がせるのは難しい。
そこで、女神は奇跡を起こす力の補助として『愛情』を選んだ。
また、自分の神殿を建て、自身の像に文字を彫り後世に正しく伝わるよう手も打った。
・女神の力を継ぐ子は女神と同じ銀髪をもつ娘として産まれてくる。
・その娘が呪い子と『愛』を交わせば呪いは抑えられる。
・『愛』を交わせない場合、『愛』をここで誓えば呪いは弱められる。
今の王家の血筋が続けば呪い子は女神の子孫になる。
可愛い子孫の為に範囲の広い『愛』とした。
『親愛』『友愛』『兄弟愛』『親子愛』…互いを心から大切に想い慈しめば護りの力として呪いを抑え込める祝福だ。
もし、『愛』の無い関係であっても『互いを愛する』と自分の神殿で誓ってくれれば僅かでも血の系譜があればそれを通じて護りの力が目覚めるようにもした。
これでどんな時代も、呪い子の苦しみを完全には拭えないにしろ不調程度に抑えられるだろう。
万が一誓いが本物になればあとは子孫の力で抑え込めるはずだ。
こうして女神の加護と祝福の力は時代を越え後世に伝わっていったのだが、女神はうっかりしていた。
赤子には『愛』も『誓い』も分からないのだ。
数世代を経て、全身に呪いの紋様が浮かび、終始苦しむ呪い子が産まれた代の王様は我が子を可哀想に思った。
そこで王妃様には呪いで死んだことにし、なんとはじめの子を一思いに殺した。
しかし、次に産まれた子も呪い子だった。
一人目を亡くし、二人目も呪われていた王妃様は悲しみに倒れてしまった。
仕方なく王様は倒れた王妃様の代理を務める者を側妃として迎え、やがて王は三人目の子に恵まれた。
しかもこの子は呪われていなかったのだ。
王は大変喜んだが王妃には酷なので伏せていた。
だがある時、側妃の子は呪われていなかった事を知ってしまった王妃様は呪いに苦しむ二人目の子と無理心中をしてしまったのだ。
次代の王は側妃の子となる事が確定した、皆がそう思った頃だった。
呪われていなかった三人目の子に呪いが現れたのだ。
どう足掻いても呪いの代は王になる者が呪われる、という事が分かった瞬間だった。
そこで王様は国中の魔道士や錬金術師をはじめ、あらゆる者に子供が『愛』を理解するまで苦しまないですむ方法を見つけるようお触れを出した。
そして女神の力を引く子孫探しも同時に行われた。
結果貴族でなく平民に珍しい銀髪の子がいると分かったのだが、まだ幼い子に愛も何もない。
王子の症状をどうにも出来ない彼女を王は軽んじ、平民だった故に彼女は呪いを何とかしようとする大人たちの研究材料にされてしまった。
やがて少女がすっかり心を閉ざした頃、一人の錬金術師が遂に『身代わりの宝玉』という魔石を創り上げた。
呪い子の血を魔石に垂らし、魔法で外れないように装着すると呪いがその魔石を身に着ける事になった人物に移るのだ。
しかし移すと呪いが強くなるのか身に付けさせた奴隷は苦しみのあまり半年もしないうちに自殺してしまった。
折角移動させた呪いがまた王子に戻り王様はすぐ何とかしろ、出来ないなら渡した褒美を返せと錬金術師を責めた。
そうして困った錬金術師の目に付いてしまったのは研究材料に使えるよう城に囚われていた銀髪の少女。
彼は女神の力を引く彼女に魔石を使えばどうなるかを試すことにした。
するとどうだろう。
女神の力を継いでいる影響なのか少女が苦しむことは無かったのだ。
ただ、可愛らしかった容姿が醜くなってしまった。
少女の元の姿を知る王子は自分の呪いのせいで心を閉ざし、見目まで醜くなった少女を哀れに思った。
優しい彼は少女が可哀想で、そして申し訳なくて彼女を大切に扱った。
まず城に囚われている状態の少女が両親と城で一緒にいられるよう手配をした。
気晴しも様々考え、時には舞台などを観に連れ出した。
その際、醜くなった容姿が気にならないよう人払いをかけたり…とにかく気遣い優しく寄り添い続けた。
そんな王子の優しさに少女が恋をするのは当然だろう。
そうして共に育ち成人した王子は、呪いの責任を取るためにも彼女を妻にすると覚悟を決めた。
哀れみから始まった関係を『愛』と言えるかは分からない。
しかし少女の内面の美しさや弱音を吐かない強さを『敬愛』している、そう思えたのだ。
そうして二人は『愛』を誓う結婚式を女神の神殿で挙げた。
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