ある辺境伯の後悔

だましだまし

文字の大きさ
16 / 20

ロベルト・レイナーラ

しおりを挟む
お父様が辺境伯の仕事から帰ってきた。
馬を入替えてずーっと走って馬車で3日もかかる所から1日で帰ってきたみたい。

夜中なのに執務室で今更リッジ子爵を調べるよう命じてたし結婚式で何かあったのか不思議に思って数日後だった。

お父様が王城へ呼び出され、うちはただの伯爵家になったらしい。


半年ほどすると僕に城勤めを辞めて領地で暮らし管理するようにと命じてきた。
正直めんどうだけど王都での社交も煩わしいので引き受ける事にする。
引っ越しは侯爵家に嫁いだ姉の出産が近いので産まれた子の顔を見てからの予定だ。

…赤ん坊との対面は姉の葬儀になってしまった。
腹の子は双子で難産の末に三人とも天に召されてしまったらしい。
義兄は血の気のない顔をしていたが葬儀の参列者に夫として、次期侯爵として挨拶をしていた。
姉夫婦の仲はそれなりに良好だった事を、義兄が気丈に振る舞っている事を憐れむ声や姉の近況を噂する周りの人の囁きで知った。

同じ侯爵家だからなのか、祖父だからなのかは分からないけどお祖父様とお祖母様も来ていた。
暗く沈んだ顔をし時折涙を浮かべつつ姉の夫だった人と話している。

お父様は、お祖父様はお母様を亡くしたお父様に優しい声かけ1つしなかった人だと聞いていたけどの死を悼み、その夫を気遣える人だったらしい。
でも僕たちに気付かなかったのか会話することは無かったし、僕も話しかけなかった。

お父様は涙でぐしゃぐしゃだ。
「セディナだけでなくリビアナまで出産で…」と恥ずかしいくらいに嘆いている。
そりゃ僕も悲しいけど出産は命がけだなんて常識だ。
それに初産なのに双子の可能が高いから通常よりも危険なお産になるとはお父様も聞いてたはずなのに。


領地に引っ越し、僕は何故辺境伯から侯爵でなく伯爵になったか分かった。
平和が長くてレイナーラ領は田舎だから伯爵位なんだと思っていたのに、領地の管理が代行に丸投げで防衛なんて街ごとの警備隊任せだったのだ。
騎士を維持する為に辺境伯の手当が出てたのにコレではそりゃ爵位を下げられても仕方ない。
シャロットの結婚くらいから領主代行に王都の機関を使っていたからバレたんだろう。

王都での仕事なんて殆ど無いんだから自分でやれば良かったのに、なんて思ったのは最初の一ヶ月だった。
思った以上に大変な仕事だったからだ。
収支計算とかだけしてりゃいいと思ってたのに他にも多岐に渡る内容があって、その全てを把握してなくてはならない。
「レイナーラ領は少し広いですからね。専門の私ですら完全に1人では難しいですよ」
色々教えてくれているバランさんが初仕事の時からそう言ってたので領主お父様に補佐の人員を求めたら「お前が現地で探せ」という。
なのにいざ募集をかけたら給与が高いだの募集人数が多いだの文句ばかり。
仕方なく王都から連れてきた侍従を補佐に充てると今度は邸内が回らない。

でも、どんな職種で募集をかけても中々人が集まらないのだ。
どうやら元々働いていた使用人の親族を中心に良くない噂がたってしまっていたらしい…。
日々の生活を支えてくれる使用人も現地で雇用しようと王都から連れて来たのは一時しのぎが出来る程度の人数しかいない。
なのに人材が中々集まらない。
文句の手紙を無視し、他所より高待遇にしてやっとパラパラと応募があった。

僕が来て半年もするとバランさんへの支払いはとんでもなく高額になっていた。
それでも相変わらずの人手不足でバランさんに辞められると困る。
苦肉の策で僕は領主お父様に管理が難しい土地を手放す事を提案した。
それを断るなら自分でやってくれ、と半分脅しの文言付きにしたからか許可はすぐに出た。

こうして…領地を売ったお金でバランさんを雇っているような錯覚を起こすくらいに切り売りし、元の半分ほどの大きさになった時、やっと僕と補佐官にした侍従たちとで領地経営が出来るようになった。

お父様は王都での暮らしが立ち行かないと文句ばかり言ってくる。
小さな家に引っ越した、使用人も領地より少なくなった、日々侘しい食事しか出てこない…ぶっちゃけ僕の知ったことではない。
やっと領地で安定して平穏に暮らせるようになったんだ。
そんなに文句ばかりならお父様もこっちに引っ越して僕の仕事を手伝ってくれたらいいし、そろそろ爵位を譲ってもらいたいのが本音だ。
その方が仕事がスムーズになるのに何度も断られている。


お母様のお墓に手を合わす。
命日にお父様だけは来ていたけど…僕が参るのは幼い頃ぶりになってしまった。

横には真新しいお姉様のお墓。
そして反対の横には空の僕の墓。
お姉様のお墓の中には嫁ぎ先の侯爵家が渡してくれた遺髪だけ埋葬されている。
だから正確には墓ではないのかもしれないけど…何となくお母様の近くはお姉様と僕で囲いたかった。

そして…叶うならお姉様の墓には余裕があるから妹のシャロットの髪もその時が来れば埋葬したい。
僕が先にお母様の隣で眠るだろうからこれはシャロットが遺言にでも残してくれないと無理だろうけど…。
来年のお母様の命日には兄妹で共に墓参りをする約束をしているから、その時に頼んでみよう。

そんな事を考え立ち去ろうとすると風がふいた。
それで葉か何かが頭に触れたらしい。
でも、まるでお母様に撫でられたような優しい感覚で…何も可笑しくないのにフッと笑みが溢れた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...