17 / 20
執事レノと使用人たち
しおりを挟む
シャロット様の結婚式の3日前、私はレイナーラ領に到着されたラメノ侯爵様にある使用人たちから預かった人数分の小袋を返しに行った。
中身は私達には大金の金貨が数枚入っている。
驚く侯爵様に私はお願い事を告げた。
「ラメノ侯爵様、このお金を返す理由を聞いてくださいませ」
退職が決まった当初、私たち使用人は皆シャロット様に付いていく気満々だった。
なんせヘンドリー侯爵領は国こそ違えど近いので隣町へ引っ越す程度の感覚だ。
しかしシャロット様は私たち全員を集めて話してくださった。
「私はね、結婚した後はサヴィと一緒に旅へ出たいの」
何でもサルヴィーノ様は商会のお仕事であちこちの国へ飛び回っていらっしゃるらしい。
侯爵位を継ぐと今のように気軽に動けなくなるから結婚後も叶うなら多くの国を回りたいとシャロット様に話されていたそうだ。
そして、それはこの領地の狭い範囲しか知らないシャロット様にとって憧れだという。
そういえば学校を卒業されてから諸外国について書かれている本を集めて読んでいらした。
「だから、皆の気持ちは嬉しいけど私は不在がちになると思うの。その事を踏まえてこの先どうするか考えて欲しいわ。どうか自分の幸せのために決めてね」
皆の顔、一人ひとりを見ながらそう話されたシャロット様の私達を思い遣るお気持ちに淑女として立派に成長されたと感慨深さで胸がいっぱいになったのは私だけではあるまい。
使用人だけで話せるようにと気遣われたのか、もう眠るから一人で部屋に行くとシャロット様が退室されてすぐ、迷うこと無く同行を宣言したのは乳母と侍女の母娘だった。
「うちの旦那はとっくに奥様のお傍にいっちまってるからね。向こうの使用人さんたちにシャロット様のことをお伝えする役目は私がするわ」
「私は旅先でもお世話しますから!どこでも一緒に参りますから皆さん安心して下さいね!」
親族や家族がレイナーラ領にいる者は多い。
皆が残れるように真っ先に声を上げたに違いない。
ファナリーをジッと見つめ、しばらく考えている様子だったお世話役のサナリア殿がポツリと言った。
「気持ちは共に行きたい…。でも、私は年だから迷惑をかける方が多くなるのではないかと…不安もあったの…」
彼女は使用人の中でも最年長。無理もない。
「私は…残るわ。教会でセディナ様の墓守をさせてもらえないかお願いするわ」
それを聞いて庭師の青年が声を上げる。
「俺もばあちゃんと教会で働きたいって頼むよ!俺、サナリアさんの事を本当のばあちゃんだと思ってるから!」
思えば彼は孤児だった。
サナリア殿がセディナ様の墓参りに行った時、たまたま喪主をまだ子供の彼が務めているのを見かけたそうだ。
思わず声をかけると事故で両親を共に亡くしたと言うではないか。
親族は別の街に暮らしているが場所が分からないと途方に暮れる彼の年齢を聞いて庭師見習いが出来る年だから雇えないかと私に相談してきたのだ。
「私は…行きます。お嬢様の好物をあっちの方たちに伝えなきゃですから!でも不在がちなら一人居れば充分ですよ?」
調理人の一人が料理長の方をチラチラ見ながらいう。
「料理長はお孫さんに美味しい物を作ってあげなきゃ!もうすぐ生まれるんですよね?」
それを聞いて涙ぐみながら料理長は同行を宣言した調理人の手を握りつつ「お嬢様を…宜しく頼む…ありがとう!」と漏らした。
悲喜こもごも、それぞれの思いを吐露しながら、シャロット様の言う「自分の幸せ」も考えた。
「…というわけで道を決めまして、これはサカオ王国へ渡らない者のお金なのです」
そして、続けて私はお願い事をラメノ侯爵様に伝える。
「実は、私を含めラメノ侯爵様に雇われることを希望するものがおります。これは叶えて頂けるでしょうか?」
もはや友人付き合いに近い故に若干いたずらっぽい言い方になってしまったが許して頂きたい。
驚いていたラメノ侯爵様だったが私の願いを聞いてニヤリと顔を崩された。
「何人が私の領に来てくれるのかな?」
こうして全使用人29人のうち、ファナリーとソフィア母娘、調理人の男と御者をしていた者、そして騎士の一人がシャロット様と共にサカオ王国へ渡る事となった。
他にも8人はシャロット様の暮らしが落ち着き、旅に出るまで仕えたいと希望した。
サルヴィーノ様は快く了承してくれ短期雇用してもらえることが決まっている。
ラメノ侯爵様に雇われることを希望したのは私を含め6人。
中でも一番若い調理人のこの男はお嬢様の好物を侯爵ご夫妻に召し上がってもらうのだと張り切っている。
「このお金は『契約成立金』だ。どんな道を選んでも返す必要はない。サカオ王国に行く者には『引っ越し祝い』を別に渡すつもりだったから引け目もいらん」
そう言って金貨の入った人数分の袋を返された。
ラメノ侯爵様のお心遣いに思わず目頭が少し熱くなる。
が、よく見ると一袋だけ手元に残されていた。
「ま、このレノの分は驚かされたし一杯奢ってもらおうかな?」
袋を指で摘んで悪い顔しながらそんな事を言うではないか。
「そういう事なら私も遠慮なく懐に納めておきます」
涙も引っ込みサッと回収して有り難く内ポケットにしまうと「でも店への案内は今日も頼むぞ」なんて肩を組んで言ってくる。
年甲斐もなく悪友のような物言いに笑ってしまった。
「庶民の店と味、ハマりましたな?」
「私には珍しく味わい深いものなのだよ」
このナーラの街を案内できるのもあと僅か。
私はとっておきにしていた店を案内するのは今日だな、とほくそ笑んだ。
中身は私達には大金の金貨が数枚入っている。
驚く侯爵様に私はお願い事を告げた。
「ラメノ侯爵様、このお金を返す理由を聞いてくださいませ」
退職が決まった当初、私たち使用人は皆シャロット様に付いていく気満々だった。
なんせヘンドリー侯爵領は国こそ違えど近いので隣町へ引っ越す程度の感覚だ。
しかしシャロット様は私たち全員を集めて話してくださった。
「私はね、結婚した後はサヴィと一緒に旅へ出たいの」
何でもサルヴィーノ様は商会のお仕事であちこちの国へ飛び回っていらっしゃるらしい。
侯爵位を継ぐと今のように気軽に動けなくなるから結婚後も叶うなら多くの国を回りたいとシャロット様に話されていたそうだ。
そして、それはこの領地の狭い範囲しか知らないシャロット様にとって憧れだという。
そういえば学校を卒業されてから諸外国について書かれている本を集めて読んでいらした。
「だから、皆の気持ちは嬉しいけど私は不在がちになると思うの。その事を踏まえてこの先どうするか考えて欲しいわ。どうか自分の幸せのために決めてね」
皆の顔、一人ひとりを見ながらそう話されたシャロット様の私達を思い遣るお気持ちに淑女として立派に成長されたと感慨深さで胸がいっぱいになったのは私だけではあるまい。
使用人だけで話せるようにと気遣われたのか、もう眠るから一人で部屋に行くとシャロット様が退室されてすぐ、迷うこと無く同行を宣言したのは乳母と侍女の母娘だった。
「うちの旦那はとっくに奥様のお傍にいっちまってるからね。向こうの使用人さんたちにシャロット様のことをお伝えする役目は私がするわ」
「私は旅先でもお世話しますから!どこでも一緒に参りますから皆さん安心して下さいね!」
親族や家族がレイナーラ領にいる者は多い。
皆が残れるように真っ先に声を上げたに違いない。
ファナリーをジッと見つめ、しばらく考えている様子だったお世話役のサナリア殿がポツリと言った。
「気持ちは共に行きたい…。でも、私は年だから迷惑をかける方が多くなるのではないかと…不安もあったの…」
彼女は使用人の中でも最年長。無理もない。
「私は…残るわ。教会でセディナ様の墓守をさせてもらえないかお願いするわ」
それを聞いて庭師の青年が声を上げる。
「俺もばあちゃんと教会で働きたいって頼むよ!俺、サナリアさんの事を本当のばあちゃんだと思ってるから!」
思えば彼は孤児だった。
サナリア殿がセディナ様の墓参りに行った時、たまたま喪主をまだ子供の彼が務めているのを見かけたそうだ。
思わず声をかけると事故で両親を共に亡くしたと言うではないか。
親族は別の街に暮らしているが場所が分からないと途方に暮れる彼の年齢を聞いて庭師見習いが出来る年だから雇えないかと私に相談してきたのだ。
「私は…行きます。お嬢様の好物をあっちの方たちに伝えなきゃですから!でも不在がちなら一人居れば充分ですよ?」
調理人の一人が料理長の方をチラチラ見ながらいう。
「料理長はお孫さんに美味しい物を作ってあげなきゃ!もうすぐ生まれるんですよね?」
それを聞いて涙ぐみながら料理長は同行を宣言した調理人の手を握りつつ「お嬢様を…宜しく頼む…ありがとう!」と漏らした。
悲喜こもごも、それぞれの思いを吐露しながら、シャロット様の言う「自分の幸せ」も考えた。
「…というわけで道を決めまして、これはサカオ王国へ渡らない者のお金なのです」
そして、続けて私はお願い事をラメノ侯爵様に伝える。
「実は、私を含めラメノ侯爵様に雇われることを希望するものがおります。これは叶えて頂けるでしょうか?」
もはや友人付き合いに近い故に若干いたずらっぽい言い方になってしまったが許して頂きたい。
驚いていたラメノ侯爵様だったが私の願いを聞いてニヤリと顔を崩された。
「何人が私の領に来てくれるのかな?」
こうして全使用人29人のうち、ファナリーとソフィア母娘、調理人の男と御者をしていた者、そして騎士の一人がシャロット様と共にサカオ王国へ渡る事となった。
他にも8人はシャロット様の暮らしが落ち着き、旅に出るまで仕えたいと希望した。
サルヴィーノ様は快く了承してくれ短期雇用してもらえることが決まっている。
ラメノ侯爵様に雇われることを希望したのは私を含め6人。
中でも一番若い調理人のこの男はお嬢様の好物を侯爵ご夫妻に召し上がってもらうのだと張り切っている。
「このお金は『契約成立金』だ。どんな道を選んでも返す必要はない。サカオ王国に行く者には『引っ越し祝い』を別に渡すつもりだったから引け目もいらん」
そう言って金貨の入った人数分の袋を返された。
ラメノ侯爵様のお心遣いに思わず目頭が少し熱くなる。
が、よく見ると一袋だけ手元に残されていた。
「ま、このレノの分は驚かされたし一杯奢ってもらおうかな?」
袋を指で摘んで悪い顔しながらそんな事を言うではないか。
「そういう事なら私も遠慮なく懐に納めておきます」
涙も引っ込みサッと回収して有り難く内ポケットにしまうと「でも店への案内は今日も頼むぞ」なんて肩を組んで言ってくる。
年甲斐もなく悪友のような物言いに笑ってしまった。
「庶民の店と味、ハマりましたな?」
「私には珍しく味わい深いものなのだよ」
このナーラの街を案内できるのもあと僅か。
私はとっておきにしていた店を案内するのは今日だな、とほくそ笑んだ。
1,110
あなたにおすすめの小説
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる