ある辺境伯の後悔

だましだまし

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執事レノと使用人たち

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シャロット様の結婚式の3日前、私はレイナーラ領に到着されたラメノ侯爵様にある使用人たちから預かった人数分の小袋を返しに行った。
中身は私達には大金の金貨が数枚入っている。

驚く侯爵様に私はお願い事を告げた。
「ラメノ侯爵様、このお金を返す理由を聞いてくださいませ」

退職が決まった当初、私たち使用人は皆シャロット様に付いていく気満々だった。
なんせヘンドリー侯爵領は国こそ違えど近いので隣町へ引っ越す程度の感覚だ。
しかしシャロット様は私たち全員を集めて話してくださった。
「私はね、結婚した後はサヴィと一緒に旅へ出たいの」

何でもサルヴィーノ様は商会のお仕事であちこちの国へ飛び回っていらっしゃるらしい。
侯爵位を継ぐと今のように気軽に動けなくなるから結婚後も叶うなら多くの国を回りたいとシャロット様に話されていたそうだ。
そして、それはこの領地の狭い範囲しか知らないシャロット様にとって憧れだという。
そういえば学校を卒業されてから諸外国について書かれている本を集めて読んでいらした。

「だから、皆の気持ちは嬉しいけど私は不在がちになると思うの。その事を踏まえてこの先どうするか考えて欲しいわ。どうか自分の幸せのために決めてね」

皆の顔、一人ひとりを見ながらそう話されたシャロット様の私達を思い遣るお気持ちに淑女として立派に成長されたと感慨深さで胸がいっぱいになったのは私だけではあるまい。

使用人だけで話せるようにと気遣われたのか、もう眠るから一人で部屋に行くとシャロット様が退室されてすぐ、迷うこと無く同行を宣言したのは乳母ファナリー侍女ソフィアの母娘だった。
「うちの旦那はとっくに奥様のお傍にいっちまってるからね。向こうの使用人さんたちにシャロット様のことをお伝えする役目は私がするわ」
「私は旅先でもお世話しますから!どこでも一緒に参りますから皆さん安心して下さいね!」

親族や家族がレイナーラ領にいる者は多い。
皆が残れるように真っ先に声を上げたに違いない。

ファナリーをジッと見つめ、しばらく考えている様子だったお世話役ばあやのサナリア殿がポツリと言った。
「気持ちは共に行きたい…。でも、私は年だから迷惑をかける方が多くなるのではないかと…不安もあったの…」
彼女は使用人の中でも最年長。無理もない。
「私は…残るわ。教会でセディナ様の墓守をさせてもらえないかお願いするわ」
それを聞いて庭師の青年が声を上げる。
「俺もばあちゃんと教会で働きたいって頼むよ!俺、サナリアさんの事を本当のばあちゃんだと思ってるから!」
思えば彼は孤児だった。
サナリア殿がセディナ様の墓参りに行った時、たまたま喪主をまだ子供の彼が務めているのを見かけたそうだ。
思わず声をかけると事故で両親を共に亡くしたと言うではないか。
親族は別の街に暮らしているが場所が分からないと途方に暮れる彼の年齢を聞いて庭師見習いが出来る年だから雇えないかと私に相談してきたのだ。

「私は…行きます。お嬢様の好物をあっちの方たちに伝えなきゃですから!でも不在がちなら一人居れば充分ですよ?」
調理人の一人が料理長の方をチラチラ見ながらいう。
「料理長はお孫さんに美味しい物を作ってあげなきゃ!もうすぐ生まれるんですよね?」
それを聞いて涙ぐみながら料理長は同行を宣言した調理人の手を握りつつ「お嬢様を…宜しく頼む…ありがとう!」と漏らした。

悲喜こもごも、それぞれの思いを吐露しながら、シャロット様の言う「自分の幸せ」も考えた。
「…というわけで道を決めまして、これはサカオ王国へ渡らない者のお金なのです」

そして、続けて私はお願い事をラメノ侯爵様に伝える。
「実は、私を含めラメノ侯爵様に雇われることを希望するものがおります。これは叶えて頂けるでしょうか?」
もはや友人付き合いに近い故に若干いたずらっぽい言い方になってしまったが許して頂きたい。
驚いていたラメノ侯爵様だったが私の願いを聞いてニヤリと顔を崩された。
「何人が私の領に来てくれるのかな?」

こうして全使用人29人のうち、ファナリーとソフィア母娘、調理人の男と御者をしていた者、そして騎士の一人がシャロット様と共にサカオ王国へ渡る事となった。
他にも8人はシャロット様の暮らしが落ち着き、旅に出るまで仕えたいと希望した。
サルヴィーノ様は快く了承してくれ短期雇用してもらえることが決まっている。

ラメノ侯爵様に雇われることを希望したのは私を含め6人。
中でも一番若い調理人のこの男はお嬢様の好物を侯爵ご夫妻に召し上がってもらうのだと張り切っている。

「このお金は『契約成立金』だ。どんな道を選んでも返す必要はない。サカオ王国に行く者には『引っ越し祝い』を別に渡すつもりだったから引け目もいらん」
そう言って金貨の入った人数分の袋を返された。
ラメノ侯爵様のお心遣いに思わず目頭が少し熱くなる。

が、よく見ると一袋だけ手元に残されていた。
「ま、このレノの分は驚かされたし一杯奢ってもらおうかな?」
袋を指で摘んで悪い顔しながらそんな事を言うではないか。
「そういう事なら私も遠慮なく懐に納めておきます」
涙も引っ込みサッと回収して有り難く内ポケットにしまうと「でも店への案内は今日も頼むぞ」なんて肩を組んで言ってくる。
年甲斐もなく悪友のような物言いに笑ってしまった。
「庶民の店と味、ハマりましたな?」
「私には珍しく味わい深いものなのだよ」

このナーラの街を案内できるのもあと僅か。
私はとっておきにしていた店を案内するのは今日だな、とほくそ笑んだ。
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