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「なんだ、セドナーは許すのか」
物々しい様子の近衛を引き連れて現れ爽やかに笑う王太子殿下。
いや、周りの雰囲気と王太子殿下の纏う空気のギャップよ!
脳内でツッコミを入れていると苦笑いしたシエルナード王子が「一応、従兄弟で幼馴染みですから」と返していた。
つかの間の和やかな空気。
しかし王太子殿下の鋭い声で即座にピリッとしたものに戻った。
「ラドムス侯爵!」
「はいぃっ!」
「その方の子息の失態、よく分かっているな?」
「はいっ!えぇっ!それはもう!此度の言動、愚息が申し訳ありませんでした!」
額に浮かぶ冷や汗なのか油汗なのかをハンカチで拭きつつ必死な様子の侯爵。
ルフィナ曰く若干プライドが高いが真面目な良い叔父だそうだ。
「侯爵はパーティ前のセドナーの行動も分かっているかな?」
「あ…は…えと…」
セドナーが好き勝手喚いてたけど親は把握してなかったのか…
サッと侯爵家の侍従らしい人がラドムス侯爵の横に行きヒソッと何かを囁いた。
「ぬあぁ!?!!!」
一瞬で顔色を白くし真っ赤になった侯爵。
「もっ…申し訳…くくっ…」
何かを必死に堪え思わず顔を背けた侯爵の視線の先に居たのはルフィナだった。
その瞬間、その何かの抑えが弾けたのだろう。
王太子殿下が目の前にいるというのにバッとルフィナの前に膝を付き、手を取った。
「ルフィナ!すまない!恥をかかされ辛かったな!ごめんよルフィナぁぁあ」
ルフィナの手を額に当て嘆きながら謝る様に見物人たちは面食らう。
しかしラドムス侯爵家と交流のある者たちは仕方ないといわんばかりだ。
王太子殿下もやれやれといった表情で見守っている。
どうやらこのラドムス侯爵、子供の頃から弟たちを可愛がっていた面倒見の良い性格で、息子しかいない彼は姪のルフィナを娘同然ととても可愛がっていたそうな。
「ルフィナが本当に娘になってくれたらこれ以上嬉しいことはないのだがなぁ」なんて周囲に溢すこともあったのでセドナーの勘違いは拍車をかけたのだろう。
侯爵としては一度断られて以降は、そんな願望は変わらずあれど、それだけ姪が可愛いと話題に出していただけなのだが。
実際、社交界では既にルフィナは子爵令嬢だが侯爵家の後ろ盾があると認識されていたので陞爵がまだでシエルナード王子との婚約が無くとも軽んじられる事はなかっただろう。
「叔父様、私は大丈夫ですわ。セドナーがどんな人間かよく知ってますし叔父様は悪くないです」
微笑むルフィナに目を赤くしたラドムス侯爵は「ありがとう」と微笑むとまた顔を真っ赤にし、物凄い早さでセドナーに、これまた物凄い音がするゲンコツをお見舞いした。
セドナーは蹲り「ぐぅぅ…」と頭を抱え苦しんでいる。
相当痛かったに違いない。
ふうふうと息は上がっているが全力の一撃を放った事で怒りが落ち着いたのか侯爵は王太子殿下の前に戻り改めてしっかりと頭を下げた。
「あまりの事に取り乱してしまいました。お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません。愚息は然るべき処罰が決まるまで謹慎させます。皆様にも祝の場を乱してしまったこと、心よりお詫び申し上げます」
ラドムス侯爵は方々に向かっても頭を下げた。
「厳重に注意して頂きたいが処罰までは求めていないよ」
ルフィナの横にいたシエルナード王子が優しく告げた。
横には微笑むルフィナ。
「シエルナード王子…ルフィナ…なんと寛大な…。ありがとう…ございます…」
思わず涙を零すラドムス侯爵。
頭を下げる侯爵の横にどうやらゲンコツの衝撃から立ち直ったらしいセドナーが並んで深々と頭を下げる。
「思慮も配慮も足りていませんでした。申し上げございませんでした…」
父の様子に何か思うところが少しはあったのだろうか。
あのセドナーが王太子殿下に、そして向きを変えルフィナに頭を下げた。
「セドナー、しっかりと反省しろよ?」
はじめの鋭い声と違い、どこか温かみも感じる王太子殿下の声色に周りも良かった良かったと胸を撫で下ろしていく。
ザワザワとした声と共に崩れていく人垣。
事の発端のレリアンはすっかり皆に忘れられたかのような扱いだ。
ただ、私は見た。
王太子殿下とラドムス侯爵がやり取りしてる間に仕事の出来る近衛たちによりレリアンは拘束され、猿轡までされ、シャーメ伯爵夫人もろともサッサとどこかへ連れて行かれたのを。
項垂れるように肩を落としたシャーメ伯爵がその後を付いて会場を後にしたのを。
そして察している。
大人たちは脇でさっさと処理されるレリアンの事はもちろんシャーメ伯爵家について触れない方が良いのだろうと判断したことを。
親が子供たちにも言い含めたのだろう。
レリアンの事はスルーされたままパーティは何事も無かったかの様に再開し、シャーメ伯爵家の面々は戻る事無くそのまま閉会した。
物々しい様子の近衛を引き連れて現れ爽やかに笑う王太子殿下。
いや、周りの雰囲気と王太子殿下の纏う空気のギャップよ!
脳内でツッコミを入れていると苦笑いしたシエルナード王子が「一応、従兄弟で幼馴染みですから」と返していた。
つかの間の和やかな空気。
しかし王太子殿下の鋭い声で即座にピリッとしたものに戻った。
「ラドムス侯爵!」
「はいぃっ!」
「その方の子息の失態、よく分かっているな?」
「はいっ!えぇっ!それはもう!此度の言動、愚息が申し訳ありませんでした!」
額に浮かぶ冷や汗なのか油汗なのかをハンカチで拭きつつ必死な様子の侯爵。
ルフィナ曰く若干プライドが高いが真面目な良い叔父だそうだ。
「侯爵はパーティ前のセドナーの行動も分かっているかな?」
「あ…は…えと…」
セドナーが好き勝手喚いてたけど親は把握してなかったのか…
サッと侯爵家の侍従らしい人がラドムス侯爵の横に行きヒソッと何かを囁いた。
「ぬあぁ!?!!!」
一瞬で顔色を白くし真っ赤になった侯爵。
「もっ…申し訳…くくっ…」
何かを必死に堪え思わず顔を背けた侯爵の視線の先に居たのはルフィナだった。
その瞬間、その何かの抑えが弾けたのだろう。
王太子殿下が目の前にいるというのにバッとルフィナの前に膝を付き、手を取った。
「ルフィナ!すまない!恥をかかされ辛かったな!ごめんよルフィナぁぁあ」
ルフィナの手を額に当て嘆きながら謝る様に見物人たちは面食らう。
しかしラドムス侯爵家と交流のある者たちは仕方ないといわんばかりだ。
王太子殿下もやれやれといった表情で見守っている。
どうやらこのラドムス侯爵、子供の頃から弟たちを可愛がっていた面倒見の良い性格で、息子しかいない彼は姪のルフィナを娘同然ととても可愛がっていたそうな。
「ルフィナが本当に娘になってくれたらこれ以上嬉しいことはないのだがなぁ」なんて周囲に溢すこともあったのでセドナーの勘違いは拍車をかけたのだろう。
侯爵としては一度断られて以降は、そんな願望は変わらずあれど、それだけ姪が可愛いと話題に出していただけなのだが。
実際、社交界では既にルフィナは子爵令嬢だが侯爵家の後ろ盾があると認識されていたので陞爵がまだでシエルナード王子との婚約が無くとも軽んじられる事はなかっただろう。
「叔父様、私は大丈夫ですわ。セドナーがどんな人間かよく知ってますし叔父様は悪くないです」
微笑むルフィナに目を赤くしたラドムス侯爵は「ありがとう」と微笑むとまた顔を真っ赤にし、物凄い早さでセドナーに、これまた物凄い音がするゲンコツをお見舞いした。
セドナーは蹲り「ぐぅぅ…」と頭を抱え苦しんでいる。
相当痛かったに違いない。
ふうふうと息は上がっているが全力の一撃を放った事で怒りが落ち着いたのか侯爵は王太子殿下の前に戻り改めてしっかりと頭を下げた。
「あまりの事に取り乱してしまいました。お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません。愚息は然るべき処罰が決まるまで謹慎させます。皆様にも祝の場を乱してしまったこと、心よりお詫び申し上げます」
ラドムス侯爵は方々に向かっても頭を下げた。
「厳重に注意して頂きたいが処罰までは求めていないよ」
ルフィナの横にいたシエルナード王子が優しく告げた。
横には微笑むルフィナ。
「シエルナード王子…ルフィナ…なんと寛大な…。ありがとう…ございます…」
思わず涙を零すラドムス侯爵。
頭を下げる侯爵の横にどうやらゲンコツの衝撃から立ち直ったらしいセドナーが並んで深々と頭を下げる。
「思慮も配慮も足りていませんでした。申し上げございませんでした…」
父の様子に何か思うところが少しはあったのだろうか。
あのセドナーが王太子殿下に、そして向きを変えルフィナに頭を下げた。
「セドナー、しっかりと反省しろよ?」
はじめの鋭い声と違い、どこか温かみも感じる王太子殿下の声色に周りも良かった良かったと胸を撫で下ろしていく。
ザワザワとした声と共に崩れていく人垣。
事の発端のレリアンはすっかり皆に忘れられたかのような扱いだ。
ただ、私は見た。
王太子殿下とラドムス侯爵がやり取りしてる間に仕事の出来る近衛たちによりレリアンは拘束され、猿轡までされ、シャーメ伯爵夫人もろともサッサとどこかへ連れて行かれたのを。
項垂れるように肩を落としたシャーメ伯爵がその後を付いて会場を後にしたのを。
そして察している。
大人たちは脇でさっさと処理されるレリアンの事はもちろんシャーメ伯爵家について触れない方が良いのだろうと判断したことを。
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