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ルフィナはそのまましゃがみ込み、レリアンと視線を合わせて話しだした。
「あなたはいつもそう言うわね。「ひどいわ」って。でも私は一度もひどいことをしていないわ。ずっと爵位が上のあなたを立てて、言い掛かりも強奪も許してきたもの。…シャーメ伯爵夫人に社交界で虐められているお母様の為にね」
とんでもない資産家で、姉が王妃に選ばれるほどの美人だけあってメロウェイ・カルザーも中々の美丈夫。
独立した彼は下位貴族とはいえ超優良物件と化けた。
そんな彼と結婚したルフィナの母は多くの貴婦人に妬まれ、爵位が低い事も利用され虐めにあっていたのだ。
その筆頭が隣のタウンハウスに住み、メロウェイ家の暮らしをよく知るシャーメ伯爵夫人。
しかし、父カルザーも学園時代は「侯爵令息とはいえ三男なんて」といった扱いで婚約者が中々決まらなかったのだ。
なんならシャーメ伯爵夫人はシャーメ伯爵家の嫡女で跡取り娘だったため令嬢時代にラドムス侯爵家からカルザーの婚約を打診されているが好みでないと断っている。
そんなモテない学園生活でカルザーの人柄に惹かれ、少々苦労することになっても共に生きたいと想いを募らせた子爵令嬢が今のメロウェイ夫人。
そんな彼女に好意を抱き、継ぐ爵位がなくとも結婚をしようとお互い約束し、家に頼んで婚約したのがカルザー。
彼は学園卒業の直前に子爵となることが決まった為、ルフィナの両親は平民になる覚悟で恋愛結婚を望み、婚約し、結ばれたのだ。
そんな過去があるのでそもそも妬むなんてお門違いもいいところである。
しかし逃した魚は大きかったと隣の暮らしを見て妬みを募らせたシャーメ伯爵夫人はメロウェイ子爵夫人に嫌がらせを始め、やがてそれは虐めへと発展していった。
幼い頃、ルフィナがレリアンに反抗したのを知れば「爵位が下の癖に」とシャーメ伯爵夫人が母に難癖を付けに来ては我が家で傍若無人に振る舞う。
ルフィナはそれが嫌でたまらなかった。
「お父様は爵位を上げるため必死で頑張ったわ。おかげでもうお母様もシャーメ伯爵夫人と同じ、伯爵夫人。爵位を盾に言い掛かりなんて聞かなくて良いの」
「なっ…なによ!今は親なんて関係ないわっ!あなたがひどいって言ってるのよ!」
「私があなたの「ひどい」に何も言わず望みを受け入れていたのはお母様の為なの。お母様の立場が強くなった今、私が耐えたり我慢する必要は無くなったのよ」
「なっ…」
「それにレリアンがシェルを好きだったなんて初耳だわ。合同の時に付きまとっていたのは知っているけど」
それを聞いてふと思う。
もしかしてセドナーから王子だと聞いて付きまとっていたのでは?呼び方もはじめは呼び捨てだったはず…。
コソッとディーダにその考えを伝えると、レリアンを拘束しながらディーダはセドナーに大声で問いかけた。
何のためにこっそり伝えたと思ってるのよディーダ!
「セドナー・ラドムス侯爵令息!まさかシェルが王子だと他言していたんじゃないだろうな!?」
ザワッと取り囲んで見守っていた大人たちが反応する。
視線はいつの間にか人垣の最前列にいた真っ青な顔をしているセドナーの父、ラドムス侯爵に向いていた。
「まさかセドナー…漏らしていないよな?下手すれば反逆罪になると伝えていただろう…?」
その言葉に激しく頷くセドナー。
「もちろんです!王子だと気取られる行動もしないよう気を付けていました!!」
後でルフィナに聞いたのだが暗殺等から王子を守るため、学園に在籍している間は誰が王子か漏らさないのが暗黙の了解らしい。
万が一何かトラブルがあった場合、反逆罪に問われるかもしれないからというのは社交界では常識のようで、身内には一応通達も来るらしい。
「そうよ!教えてくれていたらもっと確実な関係を築いているわ!シェルが尊い血筋をもっているから失礼な事はするなってだけで王子だなんて気付けないわよ!」
うーーーーーん…でもそれでレリアンが付き纏ったって取られたら……グレーな漏らし方な気がする…。
実際セドナーはアワアワしてるし侯爵は頭を抱えて膝を付いてしまった。
ただ、先程と違って少し同情を浮かべた視線も多くなっている。
私はというとシェルが王子だと知っていたというディーダが何も教えてくれなかった事に納得すると同時に、セドナーもあんな奴だけどバレないような振る舞いだったと思い返した。
「確かに子爵令嬢だったルフィナも王妃様の姪だしそれで王子なんて思わないわね」
と、誰に聞かせるでもなく声に出して助け船を出す。
私の呟きに少し復活するラドムス侯爵。
恩は売れる時に売っとくに越したことはない。
セドナーも藁を掴むように私の声の倍ほどの大きさで返事を返してきた。
「そうだろう!?あまりにシェルにしつこくアピールするから諌めるためにそう言ったんだよ!おかげで付きまといはクラス合同の時だけに抑えられていただろう!?」
そう言いつつセドナーが縋るようにシェルを見つめる。
シェルはそれを冷ややかに見返していたが…人垣が割れる気配を感じ、ため息と共に「まぁ、そうだな」と返した。
その声が聞こえたか否かのタイミングで割れた人垣の間から現れたその人は、会場全体に散らばり警備していた近衛たちをまとめて引き連れていた。
「あなたはいつもそう言うわね。「ひどいわ」って。でも私は一度もひどいことをしていないわ。ずっと爵位が上のあなたを立てて、言い掛かりも強奪も許してきたもの。…シャーメ伯爵夫人に社交界で虐められているお母様の為にね」
とんでもない資産家で、姉が王妃に選ばれるほどの美人だけあってメロウェイ・カルザーも中々の美丈夫。
独立した彼は下位貴族とはいえ超優良物件と化けた。
そんな彼と結婚したルフィナの母は多くの貴婦人に妬まれ、爵位が低い事も利用され虐めにあっていたのだ。
その筆頭が隣のタウンハウスに住み、メロウェイ家の暮らしをよく知るシャーメ伯爵夫人。
しかし、父カルザーも学園時代は「侯爵令息とはいえ三男なんて」といった扱いで婚約者が中々決まらなかったのだ。
なんならシャーメ伯爵夫人はシャーメ伯爵家の嫡女で跡取り娘だったため令嬢時代にラドムス侯爵家からカルザーの婚約を打診されているが好みでないと断っている。
そんなモテない学園生活でカルザーの人柄に惹かれ、少々苦労することになっても共に生きたいと想いを募らせた子爵令嬢が今のメロウェイ夫人。
そんな彼女に好意を抱き、継ぐ爵位がなくとも結婚をしようとお互い約束し、家に頼んで婚約したのがカルザー。
彼は学園卒業の直前に子爵となることが決まった為、ルフィナの両親は平民になる覚悟で恋愛結婚を望み、婚約し、結ばれたのだ。
そんな過去があるのでそもそも妬むなんてお門違いもいいところである。
しかし逃した魚は大きかったと隣の暮らしを見て妬みを募らせたシャーメ伯爵夫人はメロウェイ子爵夫人に嫌がらせを始め、やがてそれは虐めへと発展していった。
幼い頃、ルフィナがレリアンに反抗したのを知れば「爵位が下の癖に」とシャーメ伯爵夫人が母に難癖を付けに来ては我が家で傍若無人に振る舞う。
ルフィナはそれが嫌でたまらなかった。
「お父様は爵位を上げるため必死で頑張ったわ。おかげでもうお母様もシャーメ伯爵夫人と同じ、伯爵夫人。爵位を盾に言い掛かりなんて聞かなくて良いの」
「なっ…なによ!今は親なんて関係ないわっ!あなたがひどいって言ってるのよ!」
「私があなたの「ひどい」に何も言わず望みを受け入れていたのはお母様の為なの。お母様の立場が強くなった今、私が耐えたり我慢する必要は無くなったのよ」
「なっ…」
「それにレリアンがシェルを好きだったなんて初耳だわ。合同の時に付きまとっていたのは知っているけど」
それを聞いてふと思う。
もしかしてセドナーから王子だと聞いて付きまとっていたのでは?呼び方もはじめは呼び捨てだったはず…。
コソッとディーダにその考えを伝えると、レリアンを拘束しながらディーダはセドナーに大声で問いかけた。
何のためにこっそり伝えたと思ってるのよディーダ!
「セドナー・ラドムス侯爵令息!まさかシェルが王子だと他言していたんじゃないだろうな!?」
ザワッと取り囲んで見守っていた大人たちが反応する。
視線はいつの間にか人垣の最前列にいた真っ青な顔をしているセドナーの父、ラドムス侯爵に向いていた。
「まさかセドナー…漏らしていないよな?下手すれば反逆罪になると伝えていただろう…?」
その言葉に激しく頷くセドナー。
「もちろんです!王子だと気取られる行動もしないよう気を付けていました!!」
後でルフィナに聞いたのだが暗殺等から王子を守るため、学園に在籍している間は誰が王子か漏らさないのが暗黙の了解らしい。
万が一何かトラブルがあった場合、反逆罪に問われるかもしれないからというのは社交界では常識のようで、身内には一応通達も来るらしい。
「そうよ!教えてくれていたらもっと確実な関係を築いているわ!シェルが尊い血筋をもっているから失礼な事はするなってだけで王子だなんて気付けないわよ!」
うーーーーーん…でもそれでレリアンが付き纏ったって取られたら……グレーな漏らし方な気がする…。
実際セドナーはアワアワしてるし侯爵は頭を抱えて膝を付いてしまった。
ただ、先程と違って少し同情を浮かべた視線も多くなっている。
私はというとシェルが王子だと知っていたというディーダが何も教えてくれなかった事に納得すると同時に、セドナーもあんな奴だけどバレないような振る舞いだったと思い返した。
「確かに子爵令嬢だったルフィナも王妃様の姪だしそれで王子なんて思わないわね」
と、誰に聞かせるでもなく声に出して助け船を出す。
私の呟きに少し復活するラドムス侯爵。
恩は売れる時に売っとくに越したことはない。
セドナーも藁を掴むように私の声の倍ほどの大きさで返事を返してきた。
「そうだろう!?あまりにシェルにしつこくアピールするから諌めるためにそう言ったんだよ!おかげで付きまといはクラス合同の時だけに抑えられていただろう!?」
そう言いつつセドナーが縋るようにシェルを見つめる。
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