【完結】6代目総長

ジロ シマダ

文字の大きさ
22 / 49
両親の死

(過去編)両親の死

しおりを挟む
 恐怖の違和感から数日が経過し寒さが増したころ水琴みこと組が新しく建てたビルの竣工式しゅんこうしきに神林たける以下、幹部が招かれていた。酒を片手に立つたけるは両脇にいる隠岐おきと黒木を肘でつつく。

 「ねぇ」
 「「無理です」」

 黒木と隠岐おきの返事に口をとがらせ、向かい側にいる還田かんだ湖出こでに視線を向ければ苦笑を浮かべながら肩をすくめられる。
 「(ならば)」
さかえひじり貫谷かんたに應武おうたけ緑埜みどのに視線を投げた。帰ってくるのは4人の小さく振られる首だけ。

 たけるも含め全員で壇上の脇に立つ水琴みことを睨みつけ顎をしゃくった。
 「(隣に立つ男をどうにかしろ)」
とはっきりとした意味ある多くの目に睨まれた水琴みことはちらりと横を見る。中央に立つ小さい年寄りに声をかけようとするが無理だった。口を閉じて、たけるたちに頭を下げるしかできなかった。


 そんな周りの様子など気にならずどこぞの校長先生のように中央で長々と挨拶をしているのは先代と兄弟のように争いながら組を盛り立ててきた久留原くるはら泰三たいぞうである。皆からは『叔父貴おじき』や『おやっさんと』よばれる名誉めいよ顧問こもん的な存在だ。この男、いかんせん話が長すぎた。

 「それでは今後の神林組の発展を祈りまして挨拶といたします。ではカンパーイ」

まばらに久留原くるはらの音頭に答えるように乾杯が聞こえ、拍手が起こる。

 「長いんだよな」
ぼやくたけるたちのもとに豪快に笑いながら久留原くるはらがよってくる。たけるはすぐにサングラスをとって笑顔で久留原くるはらを迎えた。

 「お久しぶりです、おじさん」
 「東北を支配下に治めるとはやるの! たける
 「いえいえ。たまたまですよ」

 久留原くるはら謙遜けんそんするたけるに何を言うかと笑うと背中をバシバシ叩き、いらないことを口にした。

 「何を言うか。お前はちゃんと先代と姐さんの仇も討って総長をしっかり勤め上げているじゃないか」
シーンとその場が凍り付いた。

 「叔父貴おじき

黒木と隠岐おきが困ったように頭を抱えて久留原くるはらを見れば、久留原くるはらは2人の視線に
 「(そうだった言わない約束だった)」
と口に手を当てたけるを見た。たけるのジト目であることに気が付く。そんなたけるたちを気にもできないのは、周りにいたほかの幹部たち。

 初めて聞いた先代の事実に幹部、組員が久留原くるはらたけるに詰め寄るように近づいてくる。たけるは久留米を自分より前に少し押し出し、詰め寄る幹部や組員の盾にした。そして幹部たちの後ろにばれないよう気配を殺し回り込む。

 助けを求める久留原くるはら
 「(自業自得だ)」
たけるは放置し、サンドイッチに手を伸ばした。

ーーー


 大学の研究室で仲間とお菓子を食べながらくだらない話をする、25歳の秋の学生生活を送るたけるの日常は突然終わりを迎えようとしていた。

 「でさぁ、あっ! ごめん」

 たけるは尻で震える携帯電話を取り出すと研究室をでて電話にでた。出た瞬間、相手のあまりのうるささに耳を離した。そしてなぜか緊張感が高まり感覚が研ぎ澄まされたたけるは電話の向こうの雑音を瞬時に聞き取り理解した。

 「若!」
 「病院に行く」

 黒木の叫ぶような声をろくに聞くことなくたけるは電話を切りずるずると壁にもたれながらしゃがみ込んだ。握りこむ携帯電話がみっしっという音をかすかに鳴らす。


 「おせぇな、ソンのやつ」
 「彼女かな」

感覚が鋭いたけるの耳に研究室の仲間の声が聞こえてきた。たけるはゆっくり立ち上がると言い聞かせるように目を閉じて何度も頷き目を開ける。
 大したことなかった風を装おい研究室の扉を開けて、軽く笑いながらたけるは仲間に声をかけた。

 「用事ができたから今日は帰るわ、じゃ」

 仲間が引き留める間など与えずたけるは研究室からでて足早に研究棟を抜け走り出した。仲間はすこし違和感を感じるがたまにあることだとたけるなしに話し続ける。


 電話の向こうで聞こえた病院を走りながら検索し他県にあるとわかり舌打ちをしてしまう。駅のロータリーに駆け込むとすぐにタクシーを捕まえて運転手に怒鳴りつけるように行き先を告げた。

 「群馬の橋本総合病院へ」
 「えっ!?」
 「急いでるんです!」

 運転手はまさかの目的地に驚くがたけるの必死そうな顔にすぐにカーナビをセットすると、ロータリーを抜けて走り出した。携帯をぎゅっと握りしめたけるは悲しみの中にいた。電話の向こうから聞こえた。


 「総長と姐さんが!」
という言葉だけなら生きているかもしれないという希望が持てた。しかし、続いた言葉に希望はないことを知らされる。

 「なんだと! 死んだのか」
たけるは死んだ両親のもとにただ急ぐしかなかった。こんなにもあっさり大切なものは自分からいなくなるんだと瞳に影を落とす。
 途中で追い付いた黒木の車に乗り込み群馬県の橋本総合病院に到着すれば警察車両、警察官がならび、ものものしい雰囲気が放っている。
 警察官は入ってきた、いかにもな車に警戒を強める。そして、警察官の存在など気にも留めない黒スーツの男たちが車から次々に降りて院内に入ろうとするのを止めた。

 「のけよ!」
 「迷惑だ! かえれ!」
 「んだと! くそサツが」

警察もあまりの緊張感に口調が荒くなってしまい、すわ殴りあいの攻防かと思えた。その時、凛とした耳に残る声が暴れそうなヤクザたちをうっちとめた。

 「やめろ!」
たった一言。その一言が暴れる男たちをとめたその事実に警察官たちは驚き、自分達まで止まっていることに気が付いていなかった。
 警察官はヤクザたちが目を向けるほうに視線を動かした。そして、口々に聞こえてくる声に警察は暴れる男たちよりも位が高いのだと認識した。

 「わか・・・・・・」
 自分達の知るたけるはこんな怒気を発する人物ではなかったと神林組員は車の前で自分達を睨み付けるたけるの姿を目を見開く。
 たけるは動きをとめた組員の間を抜け警察官たちの前に立った。自分たちの前に立つパーカーを羽織る、ただの大学生風の男に警察官はあとずさる。

 「うちのものが騒がせました。申し訳ありません。私は神林たけると申します。両親に会わせていただきたい」
 「神林・・・・・・ではお前は」

警察は驚きながらたけるを見ていたがすぐに意識を戻すとふさいでいた体をすこしずらした。

 「ありがとうございます。黒木、いくぞ。みんなはおとなしくしていろ。幹部はとおせ」

 たけるはそれだけ言い残すと黒木と共に院内に入っていく。警察官はたけるが消えては目の前の荒れくれたちが暴れるのではないかと心配したが組員は貧乏ゆすりをしたりと落ち着かない様子であるが暴れることはなかった。


 「ここです」
 たけるは看護婦の案内で霊安室に入れば、白い布がかけられる2つの固まりまでの短い距離をゆっくり近づいた。覚悟を決めて布をゆっくり取り払う。
 その遺体は確かにたけるの親だった。しかし、あまりにも悲惨な姿にたけるは目を背け黒木は進志と美咲の遺体を目の当たりにし本当に死んだのだと悲しみのあまりその場に崩れた。

 たけるは背けていた目を戻し両親の顔をじっと見つめた。溢れる涙をそのままに視線を外さないたけるに黒木は悲しみを感じずにはいられなかった。静かに何も表に出ていない表情で涙を流すたけるは長い間そこにただ立っていた。

 たけるの中に何故という言葉があふれる。何度も何度も自分の中でなぜを繰り返すうちにたけるに変化が起きた。
 思ったことのない感情と口にしたことのない言葉があふれ出す。
 『殺されたなら殺せばいい』

たけるの中で何かが切り替わる音がした。



 2日目の朝に進志と美咲の死はただの事故死であると警察より報告を受けた。幹部と組員はその報告に納得していたがたけるは違った。

 納得していないたけるは静かに自室で座っていた。あまりの静けさに本邸の者たちはたけるに声をかけることができない。本邸に静まり返り古い時計の音が時を刻む音だけが妙に響いている。
 黒木は空気に耐えられない組員の助けを乞う目に仕方ないとたけるの部屋に向かった。

 「若」
 ふすまの前で声をかけるが返事がないのに不思議に首をかしげ、黒木はもう一度声をかける。それでも返事がないことにもしかしてと、ばっと勢いよくふすまを開ければ黒木が思った通り、そこには誰もいなかった。
 開いた窓からきれいなモミジが吹き込みたけるの部屋を赤く飾っていた。


 黙って本邸を抜け出したたけるは古びたアパートを訪れた。古びたアパートには似合わない大きな機器が並び苦しそうな音を立ててたけるを出迎える。

 「総長の言う通りでしたね」
 「本居・・・・・・俺は総長じゃない」

 たけるは本居のPCを覗き込みながら苦々しい声を出す。本居はくるくる椅子を回しながら意味が分からないというが、そんな本居にたけるも意味が分からないと睨みかえした。

 「だって6代目はBOSSのものでしょ! というか俺、総長以外につく気ないし」
 「ひじりさんかさかえさん、それか若頭の隠岐おきさんが継ぐだろ」

 本居はたけるに拾われよくしてもらっている恩があり、自分を認めてくれるたけるを慕っている。
 神林組の末端組員に名を連ねてはいるが正直、たける以外の言うことを聞く気はない。それくらいなら死んだ方がましだというほど本居は真っ直ぐにひねくれた男だ。

 「でも2馬鹿は争うよ」
 「・・・・・・」
 たけるは本居の言葉に何も言い返せない。確かにひじりさかえが6代目を求めて争うことは明らかで、せめて美咲だけでも生きていればどちらかを任命し争いなく決まっていた。
 しかし、これはただのタラればで考えたところで意味などなさない。

 たけるは組を継ぐ気はない。もともと親も
 「継がなくてもよい」
といってくれ、大学で研究職に就き、つつましく1人で生活しようと考えていたのだ。

 「まぁいいや、総長」
 「総長では・・・・・・もういいや。それでこいつは今どこにいる」

 変わらず総長という本居を否定しようとしたがこの男に何を言っても意味がないと今すべきことに意識を切り替えて、PCの中にいる男を冷たい瞳で見つめるたけるの横側を横目で見ながらキーボードに指を走らせる。

 「ここ」
 「わかった。動いたら連絡をくれ」
 「どうするんですか?」
 「殺すだけだ」

 ヘルメットをかぶり息をするように言うたけるに本居は目を見開き一瞬固まるとすぐに笑う。たけるは笑い出す本居に触れずに、アパートの前に止めているバイクにまたがるとエンジン音をさせて目的地に走らせた。
 本居はPCに表示されるたけるに渡したGPSを目で追いながら頭を抱えていまだに笑っていた。

 「あんたはやはり、こっち側の人間だよ」

 本居は何でもないように『殺す』といったたけるはどう考えても裏側の人間で俺達以上の存在だと確信する。ぐんぐんと赤い点は迷いなく進む。

 「早く俺の本当のBOSSになってよ」
と頬杖を突きうっとりとした目で本居は赤い点を追い続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

処理中です...