【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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両親の死

(過去編)復讐と忠誠

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 たけるは両親の死を疑問に思い本居に調べるように指示を出していた。
 そしてたけるの思った通り、進志しんじ美咲みさきの死は山道を曲がりきれず落下した事故死ではなく、『他殺』だった。

 調べた画像には山の途中にある駐車場に車を止めて山並みを見る進志しんじたちの姿が映っていた。そして同時に小さな男が車の下に潜り込む姿も映っていた。20分もしない間に油に汚れた顔をさらし足早に男は消える。
 そして、進志しんじたちはすぐ近くのカーブで車ごと落下して死んだ。実にあっけない。大組織を統べる男の死とは思えない・・・・・・


 それを突き止めた本居の追跡調査により、小さな男の潜伏先を割り出される。小さな男の運命の分かれ道はあの決定的な犯行映像だ。
 山の中の小さな駐車場はたまたま不良がたむろするということでカメラが設置されていた。次に、それを見つけ出し追跡できる人物がいたこと。そして・・・・・・
『天使』を覚醒させたことだ。


 犯行がばれていると知らない小さな男はニュースを確認して事故死で処理されたことを知り、天高てんたかく拳を突き上げた。

 「俺はやったんだ! これでうはうはだぜぇ!」

 これから、送られてくるだろうお金に思いをはせ、その場でくるくる回る。男は回りながら玄関に向かい、両手を広げ立ち止まると部屋を振り返り満足げに頷く。
 小さな男は3億という大金を提示され5代目総長 神林進志しんじを殺した。破格はかくのお金に信用できるか悩んだ。悩む男に驚愕の前金、2億支払われた。成功したら更に1億という破格はかく中の破格はかくに、にべもなく仕事を受けた。


 「これでこのオンボロとできるぜ」

 ぼろぼろのつぶれた畳、お風呂もない部屋に小さな男はもう一度天高く拳を突き上げる。そして大好きなドライブをしようと楽し気に部屋から出た。
 本当に楽しい・・・・・・楽しいドライブになるとは知らずに男の心は浮足立っていた。

 その外からスキップのような足取りで、部屋から出てくる男をたけるは静かに見ていた。ドライブを始めた男を、たけるはバイクでつけ始めた。
 10分間、ずっと後ろをついてくるバイクに小さな男はイラつきスピードを上げる。その行動にたけるはにやりと笑い、車を華麗に抜き去った。すれ違いざまに中指を立ててバイクをケツを揺らす。

 浮かれた心の男は立てられた中指と煽られたバイクに、アクセルを踏み込んだ。スピードを上げた車にたけるもスピードを上げる。抜けそうで抜けないスピードで。
 どこまでもついてくる車にたけるは口角を上げた。

 「馬鹿な奴・・・・・・もうすぐ落ちるのに」


たけるはヘルメットの中でつぶやくと、バイクのスピードを緩める。スピードが落ちたバイクに男は鼻で笑った。

 「っふ・・・・・・山道で怖くなったな」

 男を乗せた車は赤色、黄色、茶色そして緑が入り混じる山道を落ち葉を巻き上げ、たけるを抜き去る。走り抜けた車の窓から飛び出す中指にたけるは思わず笑った。たけるはこの後に起こることを知っているから・・・・・・

 たけるが笑った中指立つ手が踊るように慌てた。踊った手は役に立たず、車はガードレールを突き抜けると黒いアスファルトに吸い込まれるように消えた。ガードレールを突き抜ける姿はまるでゴールテープをきった短距離選手のようだ。


 抜かされたところで停止し、静観せいかんしているたけるの耳に、男の叫び声が届いた。それに続く崖下から響く衝撃音と振動に対してたけるは何も思わなかった。たける
 「(一応、連絡するか)」
と携帯電話を取り電話をかけた。普通ならば警察か救急を呼ぶが電話先はどちらでもない。

 「特定されないように通報しておいてくれ」
 「らじゃぁ! それと今そっちに隠岐おきさんと黒木さんが向かってまぁす」
 「みたいだな」

たけるが聞きなれた車の音に振り返り姿が見えるのを待った。
 少し下のカーブから神林組の車が顔をのぞかせる。運転席にはものすごい形相の黒木とその横で前かがみで前を見る隠岐おきの姿があった。2人は道の脇に立つヘルメットをかぶるたけるに警戒したようでスピードがすこし落ちた。

 たけるはついてくるだろうと、車を待たずバイクを壊れたガードレールまで走らせる。下を覗き込むたけると壊れたガードレールと下から登る煙に、黒木と隠岐おき
 「(まさか!?)」
と最悪の事態を想像した。

 2人は銃を握りこみ、落下したのはたけるなのではないかと恐怖と不安を抱え近づく。銃を握り近寄る2人の形相にたけるは安心させるように声をかけた。


 「どっちが本居を問い詰めたんですか」
 「若ぁ!」

 黒木はうちモケットに差し入れていた右手を抜くとたけるを抱きしめた。あまりの強さにギブギブと黒木の腕をたけるは叩く。その様子に隠岐おきはほっとしながらハンチング帽を深くかぶり直すと、たけるの疑問に答えた。

 「俺です。前にネットに強いやつ頼れるやつを拾ったと聞いたのを思い出して」
 「さすが! 隠岐おきさん」

 「で? あれは何ですか」
隠岐おきは下に落下し煙を上げている車を指す。黒木も隠岐おきの指さす方を見ながら頷く。

 「車」
 「・・・・・・」
隠岐おきと黒木の視線に根負けしたけるは両手を上げながら正直に話した。

 「あれは父と母を殺した男が乗っている車です」
 「殺したんですか」
 「はい」

よどみなく何かおかしいか、というようなたけるに2人は目が点になってしまう。


 「俺は大切なものを傷つけられて黙っていられるほどできた人間じゃないんですよ」

 ずっとかぶっていたヘルメットを外し、そういうたけるの目は冷たく研ぎ澄まされていた。隠岐おきも黒木もぞくり、としたものを感じた。


 「大切なものを傷つけるものは排除はいじょする。傷つけた者には報復ほうふくする。やるからにはやり返される覚悟はあるはずだ」


 下でくすぶる車を見下ろしながらそういうたけるの目に迷いも後悔も一切ない。隠岐おきは『その目』に、『その心情』に引かれ、ほれ込んだ。隠岐おきの目に映るたけるは気高く、慈愛にあふれながらも残酷に微笑む天使に見えた。

 隠岐おきはハンチング帽を外し、その場に膝をついた。黒木もたけるも突然のことに、驚き顔を見合わせる。左手を胸に当てゆっくり顔を上げた隠岐おきの真剣な瞳はたけるをとらえた。その瞳にたける
 「(真剣に向き合わなくてはいけない)」
と感じた。たける隠岐おきに体をまっすぐ向き合わせると、隠岐おきは口を開く。


 「隠岐おき 倫太郎りんたろうは神林たけるに忠誠を誓います。何があろうとも私はあなたのために存在し続けます」

りんとし、どこかうっとりとした声で隠岐おきはそういうとたけるの手を右手ですくうように持ち上げ、額に当てた。
 たける隠岐おきの言葉に驚きながら、歓喜かんきしている自分がいることに気が付いた。隠岐おきが『自分のものである』と当然のように思っている自分に驚く。たけるは一度目を閉じると、うれしいことを言う大切な隠岐おきに言葉を贈った。

 「隠岐おき、死ぬことは許さない。俺がいいというまで生きていろ」

静かで包み込むような声でありながら逆らえない声色が隠岐おきを歓喜させる。
 「(やはり支配者たる人間だ)」
隠岐おきは強く確信した。そして自分が仕えるべきお方と隠岐おきは歓喜する。

 「へい!」


 黒木は隠岐おきの返事にはっと意識を戻し隠岐おきを睨みつけ、負けてなるものかとドンと拳で自分の胸を殴りつけるように叩いた。

 「若! 俺も若のために存在し続けます! 若がいいといっても存在し続けます」

黒木の宣言にたけるは微笑む。

 「黒木、ありがとう」

ふわりとがげ下から巻き上がる風はオイルと焼ける匂い、そしてなぜか・・・・・・甘い匂いをたけるに届けた。

ーーー


 聞こえてくる久留原くるはらの話が終盤に差し掛かったころ、尊の脳内で引き出しが少し空きかけていた。尊は何か重要なことを忘れている焦燥しょうそうにかられ、必死に記憶の引き出しを引出した。
 そして、尊は思い出す・・・・・・ 墓参りで嗅いだ匂いとあの崖下から舞いがった風が伝えた匂いが一緒であることに。たまたま一緒なわけがないと尊は直感する。考えられる可能性にいてもたってもいられず、尊は話を聞いている水琴みことを呼んだ。

 「次の予定があるので私はこれで」

 総長としてこの場は何食わぬ顔を保ち、申し訳なさそうに水琴みことにいえば低姿勢で
 「滅相もない」
と頭を下げてもらえた。

 「おじさん、私は次の予定があるのでここで失礼しますね。皆さんおじさんと楽しんでくださいね」
尊はそういうとすぐに会場からでた。黒木はらしからぬ尊の行動に不思議に思いながら後に続く。



 速足で車に近づいてくる尊の姿に、木下は慌てて車から降りて後部座席のドアを開けた。尊は勢いを殺さずに乗り込む。訳が分からない木下ではあったが隠岐おき、黒木、還田かんだも乗り込むのに、すぐに助手席に戻る。

 「本部に迎え」
尊はそれだけ言うと携帯電話を取り出し電話をかけ始めた。

 「先代の死の資料を用意しておけ」

尊の言葉に電話の向こうにいる本居もといだけでなく、車にいる全員が驚いた。

 「総長、何かありましたか」
 「今はまだわからないですが。もしかしたら何かを見落としているのかもしれません」
隠岐おきの問いかけにそれだけ答えると、目を閉じて深い思考の海に頭を投じた。
 そして、あの頃の自分が調べてわかるようなことを警察がわからないわけがないと気が付いた。当時は余裕がなく、そのようなことは考えなかった。しかし、今にして思えばおかしかった。




 本部の地下室では本居もといが資料を手に立っていた。尊は前より増えている資料を受け取り、本居もといに目を向ける。本居もといは肩をすくめた。

 「追加で調べましたよ。それが限界です」

本当であればもっと有力な情報を差し出したいところであるが、情けないが限界だった。尊は肩をすくめる本居もといに小さく笑った。

 「ありがとう、助かるよ」
尊は資料を片手に足早に地下室を後にすると総長室に1人で籠る。廊下で不安そうに隠岐おき達が頭を突き合わせた。この中では一番、頭がいい隠岐おきは何となく尊が考えたことが分かっていた。

 「おそらく総長は先代を殺したやつがほかにもいるんじゃないかと考えたんじゃないか」
 「っ!? でも、おやっさんの話では確実に仇は討っているはず」
 
 還田かんだの驚く言葉に黒木も隠岐おきも頷く。2人はしっかり尊が仇を討ったことを目の当たりにしていた。
 「それ以外に理由などないだろ?」
隠岐おきは2人に問いかければ黒木も還田かんだも唸るしかない。何が要因で尊が先代の死を調査し直しているのかわからない。が、あまりよくないということは隠岐おきだけでなく黒木、還田かんだにもわかった。

 総長室では資料をめくる音のみ。息遣いもきこえない、ただただ紙の擦れる音のみが異様に大きい。その空間の中で尊は資料を穴が開くほど見ていた。
 尊には崖に突き落とした男の後ろに誰かがいると思えてならなかった。しかし、資料の写真だけではどうにも判断が付かない。男が頻繁ひんぱんに会っている人物も、事件前に会っている人物もいない。証拠にも参考にもならない。

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