【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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裏切り

聖と栄の裏切り

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  「どうでしょうか」

 さかえの大きな洋風の家にひじりと見知らぬ男が顔を突き合わせていた。男の話にさかえひじりは顔を見合わせて考える。その様子に男は内ポケットから茶封筒を取り出しガラス机に置いた。

 「なんだ? これは」
 「そろそろ失礼します。お時間を頂戴したのでお礼ですよ。良いお返事をお待ちしております」

男がさかえ組員に案内されて部屋から出ていくのを確認してからさかえひじりは奪い会うように封筒を確認する。
 「500万だぜ」
 「これは俺のだ!」
 「なんでだ!? わしのだ! わしの家を訪ねてきたのだからの!」

言い合うさかえひじりのもとに男を送った組員が戻ってきて呆れた顔をした。

 「親分・・・・・・どうするんですか」
 「なにがや、山藤」
何がはないだろうと長年一緒にいるさかえに自分の親分ながらあきれるとため息をついてしまう。

 「あの男の誘い受けるんですか」
 「「・・・」」

山藤の確認のような問いかけにさかえひじりも答えなかった。





 「風に~吹かれてなびく、飛んでいく~君の大切なあの子が~つかめ! 取り戻せ!Uhu-離れていく・・・・・・寂しい・・・・・・寒いかなしーいぃ」
 「若? 何の歌ですか」

 「ハゲの歌」

 「ちょっ!? 若!」
黒木がたけるの歌の内容に吹き出しかけ耐える横で隠岐おき還田かんだは爆笑していた。

 「俺・・・・・・剥げたらどうしよう」
頭に手を乗せながら困った表情を浮かべるたける隠岐おきは笑ったまま大丈夫だと不確定な安心をたけるに与える。

 「そうだといいんですけどね。で? さかえさんとひじりさんはまだ」

 たけるがひどい歌を歌っていた場所は六本木神林組本部大会議室で幹部会で2人以外の幹部が勢ぞろいしていた。何故そんな歌を歌っていたかといえば遅刻中の片割れさかえの頭を見ればわかることであろう。

 「っ! んっん・・・・・・連絡しているのですが」
笑いをこらえて湖出こでたけるに申し訳なさげに答える。たけるは珍しいこともあるものだと空席をみるが議題進行に影響がないだろうと判断する。

 「始めてしまいましょうか」
 「はい、では本日最初の議題は」
 「申し訳ありません! 遅れました!」
 「・・・・・・」

 湖出こでの司会進行の声を遮る大きな声とダン!という音が響く。たけるはあまりの勢いと音に眉間に皺を寄せる。遅れてきたかと思えば邪魔するかのように音を鳴らし入る様は良いものではない。

 「うるさいぞ・・・二朗、仁」

隠岐おきは我慢することなく2人に怒る。さかえひじり隠岐おきの声と目つきに、きゅっと肩を小さくして速足で席に座り置かれた資料を顔を隠すようにもった。

 「湖出こでさん、続けてください」

たけるの促しに湖出こでは2人にため息をついてから進行を初めから再開し直す。たけるは手元の資料を確認しつつ遅れてきた2人が、いつもと何か違うように感じた。しかし、大したことないだろうと判断した。のちに尋ねておけばよかったと後悔することになるとは思っていなかった。


ーーー

 「では、本日の幹部会は終了いたします。総長、お疲れ様でした」

 湖出の言葉にひと声かけて尊が大会議室から出ていくのにほかの者たちも続く。残されたのはさかえひじり山藤やまふじ岸部きしべの4人のみで自分たち以外が消えた大会議室に息をついた。さかえひじりは落ち着かない心で幹部会に参加していたわけだが何事もなく終わってホッと一息ついた気分だ。
 それは2人の後ろで控える山藤やまふじ岸部きしべも同じ思い。

 「ばれないもんだな」
 「でも俺達は待っているだけでいいのか」
 「堀がそういったんだから待つしかなかろう」
 


 直接会ってこれからの計画を堀が提示した。堀は大国組の情報を自分が集め、ここというところでさかえひじりの出番を設けると提案した。そしてその出番で活躍したほうが総長になればいいとさかえひじりは考えた。そもそも誰が活躍したほうを決めるなど不明確さが残る。
 しかし、頭の良くないさかえひじりはよくわからないながらに頷いた。悲しくなるほどのあほさ加減。

 「どうなるのかの」
 「さての」
そしてこの会話が大会議室以外にも漏れていたことを4人は気が付いていなかった。

 さかえひじりに盗聴器を仕掛けた堀は馬鹿な奴らだと、にやりと笑う。

 「さてと・・・・・・どっちにつこうかな。それともほかのところにするかな。関東最大暴力団組織神林組につくか、関西最大暴力団組織大国組につくか、はたまたほかの組につくか」

という堀の羨ましい悩みは急遽、答えがでることになる。



 「さかえ組長、ひじり組長。あと少しで大国組について調べが付きそうです」
 「おぉ!」
 数日後、堀からの連絡に今まで以上にうれしそうな声を2人は上げた。鼻歌交じりに仲良く後部座席に納まるさかえひじりは仲が良いといえた。びっしと決めたスーツに趣味が良いとは言えないきらめくネクタイが目立つ。
 2人は大国組とことを起こす前に景気づけに豪華な食事でもどうかと堀に招待された。名前を聞けばなかなかのフランス料理の店でさかえひじりはにべもなく了承して楽しみにしている。

 「わざわざお越しくださりありがとうございます」
 「いやぁ、わるいな」
 「楽しみにしとるぞ」

 店の前で堀が畏まったように2人を出迎えるために待っていた。その姿にさかえひじりも当然だと胸を張り店に入る。運ばれてくる料理に満足していればいつの間にか食事は終了していた。
 ひじりは満足していたがさかえはどこか物足りなさげな表情。しかし、ひじりが机の下で足をけり上げ顔を普通にさせた。さかえひじりにけられたことに腹を立てながら上に立つものが卑しくてはいけないと気持ちをしっかりさせる。

 「これからの計画ですが」
 「おぅ!」
 「2人にはこれから行っていただきたいところがあります。そこでとても重要なことをしていただきます。とても大変なことですがいいですか」
 「もちろんだ! 大変なことぐらい覚悟しておる」
 「俺もだ」

 さかえひじりの答えに満足そうに頷いた堀は椅子から立ち上がった。さかえひじりも移動するのかと立ち上がったが堀が指さすのを見て怪訝そうに自分たちの後ろを確認した。

 「お前ら!?」

さかえひじりの後ろには銃口を頭に突きつけられて捕まっている山藤やまふじ岸部きしべ。その光景の意味するところはに馬鹿な2人でもすぐに理解できた。

 「裏切ったのか!?」
 「裏切ったとは心外ですね? 俺はまだ仲間になるとは言っておりませんよ」

いけしゃあしゃあと笑顔でいう堀に反吐が出そうになるがさかえひじりも下手に動くことはできない。子分が人質に取られている以上どうにもできない。

 「紹介しますね。こちら大国組系曽我そが組組長曽我そが様です」
 「よろしゅうな」

 ニット帽を取り禿げ頭を見せながらふざけたように挨拶をした男こそ、堀のことを逆に調べ上げ利用した曽我そがである。曽我そがは堀の言葉をまるっと信用していなかった。盗聴器のこともすぐに気が付いていた。レベルの違いが表れた瞬間だ。

 「素敵な場所に招待や」

曽我そがの言葉に今度こそさかえひじりも舌打ちした。



 明るいオフィスの一角で2つの固まりがつるされていた。つるされた固まりを男たちが仕込みをするように叩けば悲鳴のようなうめき声が発せられる。

 「ぐっ! うっ!」
 「っ!」
額から流れる血が目まで降りてくるのがさかえにはわかる。首から流れる血が胸まで降りてくるのがひじりにはわかる。フランス料理を食べていた捕食者から一転して捌かれる側食料にさかえひじりも変身していた。
 つるされ拳や刃物で傷つけられている。気を失うことも許されない生き殺しのような状態だ。

 「さてと、とりあえず神林尊を殺してはくれへんか」
 「っ!? そんなことせん!」

息も絶え絶えのさかえひじりからはっきり出た言葉は曽我そがに意外だという表情を浮かばせる。それは痛めつけていた曽我そが組員も同じ思いだ。2人の様子、行動からてっきり自分が助かるためなら親くらい売ると思っていた。

 曽我そがは威嚇するような顔つきのさかえひじりの顔を見比べると組員にひじりを下ろすように指を振る。受け身を取ることもできず床に落ちたひじりはうめき声を上げながら曽我そがを見上げた。

 「提案や」

曽我そがの提案という言葉と共にひじりの上から鈍い音とさかえのうめき声にもならない音が聞こえた。ひじりがぱっと見上げれば口から血を流し意識をもうろうとさせているさかえが目に入る。

 「やめろ! 俺が変わる!」

 ひじり曽我そがの足に縋るように這いつくばる。ひじりはなんだかんだと昔からの付き合いのさかえのことは仲間として認めていた。いや、腐れ縁という名の親友ですらあった。さかえはもうろうとする意識の中、聞こえたひじり懇願こんがんする声にひじりだけでも助かってほしいと願った。

 「やから提案や? あれを助けたいんやったら神林尊をやれ」

しゃがみ込んだ曽我そがが差し出す銃をひじりは凝視する。上から
 「やめろ」
という声が何度もそしてどんどん大きくなりながらひじりの耳をうつ。ひじりは2分かかって答えを出した。





 尊は浮かない顔で総長室で書類仕事を片付けていた。

 「若?」
 「ん? ・・・・・・・なんでもない」

嫌な予感を感じていた尊のもとに木下が駆け込んできた。尊はどうしたのかと駆け寄ろうとしたが黒木がとめた。

 「何があった」
 「すいません! ひじり組長が!」
 「ひじりさんが」

嫌な予感が当たったかと尊の背筋を冷たいものが走る。

 「酷い怪我で!」

尊は黒木の腕をかいくぐると総長室から飛び出した。エレベーターから飛び出すと入口で支えられながら立っているぼろぼろのひじりの姿が目に入る。尊はすぐにひじりに駆け寄り反対の肩を支えた。

 「黒木! 緊急招集だ!」

自分の大切なものに手を出したことを後悔させてやるという気持ちのみが尊の心を占める。









 「総長!?」
 「おい! 医者だ! 吉城先生呼んで来い!」
 「総長!」
 「若! 若! しっかりしてください!」
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