【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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狂気が動き出す

和解

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 「源田げんだだ」
 「隠岐おきだ」
 「黒木ではないのか」
 「あぁ、黒木は総長のそばについている。いま大国おおくに組から連絡があった」
源田げんだは思わぬ単語に携帯を握る手に力がかかる。 

 「幡中はたなかは山戸の正体を知らなかったようでな。子分が誤って殺したらしい。それで自首させるが面白い話があるから警視庁に邪魔したいそうだ。たっく・・・・・・俺達に頼むあたり抜け目ないやつだ・・・・・・どうする」
 「わかった」
 「2時間後にはつくと思う」
源田げんだは通話をきった電話をゆっくりとポケットに戻した。
 大国おおくに組が自ら名乗りを上げるとは何が起こるかわからない。源田げんだはこれは上層部と相談すべきなのか考える。しかし何もかもが闇に葬られる可能性が非常に高いと悩んだ。覚悟を決めたはずだと自分に言い聞かせ、捜査員に目を向けた。

 「2時間後に犯人が自首しに来る。大国おおくに組の組員だ。2代目幡中はたなかも来るようだ。警戒を怠るな」
 源田げんだの言葉に捜査員は目を点にする。一瞬、源田げんだが何を言っているのか理解できなかった。しかし、自首という言葉に副総監を殺した犯人のことだと理解し、大国おおくに組という巨大組織の名前に唾を飲み込んだ。

 「はぁ」
面白い話とは一体何なのかと不安を隠すこともできずその場でため息をついた。

 2時間経つか経たないかというところで車が5台ほど警視庁の地下に入った。源田げんだや堂園、長谷川をはじめとする捜査員は油断なく地下で待機していた。
 降りてきたのはいかにも厳つい男たち。最後の一台の車からは黒木と隠岐おきが姿を見せ、黒木が後部座席にかがみこむ。黒木の大きな姿が後部座席から出れば、尊が腕に抱えられ姿を見せた。隠岐おきが素早く取り出した車いすに黒木は尊を降ろす。
 源田げんだは視界の端でやつれ顔色の悪い尊の姿を捉えた。想像以上の状態に源田げんだは眉をひそめる。しかし、今は大国おおくに組だと向かってくる幡中はたなかたちを見続けた。
 幡中はたなか源田げんだの前で止まると右手を上にあげた。その仕草に警察官たちは緊張したが、一人の男が後ろから出てくるだけだった。

 「今回は面倒をかけた。こいつが山戸とかいう警察を殺した」
 幡中はたなかは感情のこもっていない声で淡々と警察官に告げた。怒気を放つ並ぶ警察官に興味を抱くことさえせず幡中はたなか源田げんだのほうを向いたままだ。

 「源田げんだ部長はあなたか。少し話したいことがある」
 「いいだろう」
 源田げんだは怒りを抑え幡中はたなかを中に促す。歩き出した源田げんだに続いたのは幡中はたなかと組員の1人、後は尊、黒木、隠岐おきのみで残りはその場にとどまるようだ。源田げんだはこの数日で最低限の意志疎通ができるようになった堂園に目くばせする。堂園が頷くのを確認し、犯人の横を通り過ぎ自室に案内した。
 


 尊は幡中はたなかから連絡をもらったときは驚愕した。山戸の愚かし行動、そしてどれほど自分に傾倒していたのか理解し寒気がした。今回のことは大国おおくに組に感謝すべきかと尊は心の中で感謝の言葉を口にする。実際には口にしない。口にすれば借りを作ったことになり今後の害悪になってしまうからだ。

 訪ねてきた大国おおくに組と警視庁に向かえば大人数の出迎えに疲れたようにため息をつく。副総監を殺されたらこうなるのかと尊は面倒に感じる。 

 「物々しいね」
 「仕方ないですよ。さて持ち上げますよ」
尊は黒木に身を任せる。歩くといってもいうことをきいてくれない黒木に諦め大人しくする方が楽だと尊は学んでいた。車いすに降ろされればわずかに感じる源田げんだの視線に軽く頭を下げ、大国おおくに組と警察のやり取りを観察する。
 ここで喧嘩になることはないだろうと静かにしていればどうやら源田げんだは警視庁内で話し合いの場を設けてくれるようだ。尊は黒木と隠岐おきに目くばせする。黒木は頷くと車いすを押し、後ろを隠岐おきが警戒しながら後に続く。この話し合いはどうなるのか尊は頭を痛める事態にならないことだけを祈った。



ーーー

 「山戸やまどとかいうあの男はどお調べたのか、千葉支部におったわしのもとに尋ねてきた」
 尊たち神林組は事前に話を聞いているため、源田げんだの反応を観察する。源田げんだ次第では今後の付き合いを検討する必要がある。
 「あの男は提案を持ち掛けてきたよった」


 山戸やまどが殺された日はきれいな青空が広がっていた。山戸やまどは前田が黒木ではなく尊を撃ったと聞いた瞬間、前田に殺意を抱いた。それと同時に尊を失うかもしれないという恐怖に駆られた。まだ、生きているが、どうなるかわからない。そもそも尊の職業というより生業上、いつ尊が死んでもおかしくはないことに今更ながらに山戸やまどは気が付く。

 「どうすれば尊君をずっと見ていられる」
 山戸やまどは恐怖と焦りで変に活発になっている頭で必死に考えた。尊を生かしたまま自分のもとに奥にはどうすればよいのか。

 「そうだ。尊君が総長でなくなれば尊君は死なない・・・・・・そうだ! そうだ! 尊君を養えばいいんだ」
 めでたくなった山戸やまどの頭はとてつもない答えに行きついた。神林尊を総長の座から降ろし一緒に幸せに暮らしている図が思い浮かんでいる。幸せといってもそれは山戸やまどの幸せで、山戸やまどの脳内にある幸せ図を尊が見れば凶悪な顔になっていただろう。
 山戸やまどは尊をどうすれば総長の座から降ろし、神林組から引き離すことができるか考えた。出た答えは敵対組織を上手いこと使い、尊を死んだように見せかけるという案。

 尊の行動を把握するために覚えたスキルで敵対組織である大国おおくに組2代目幡中はたなかの場所を割り出す。まるで運命かのように幡中はたなかは関東の千葉の支部にいることがわかり、山戸やまどは舞い上がりそうだった。
 山戸やまどはそのまま警視庁を出ると大国おおくに組千葉支部に乗り込んだ。銃も持たずただ着のみ着のまま訪れた支部で山戸やまどは歓迎を受けた。




  「提案があってきた」
 開口一番に提案があるとのたまう山戸やまど幡中はたなかは当然怪訝な顔をすると同時に目の前の男に警戒する。単身で乗り込んできた上等なスーツを着込む男はいかつい男たちに囲まれても笑顔でいる。何か奥の手を隠し持っているか、頭がおかしいかのどちらかだ。

 「あんた誰や」
 「これはすいません。一応、警察官で山戸やまどという。神林組の件で提案がある」
 警察官という単語に警戒を高めるが次に続いた神林という単語にその場は固まる。警察官が神林組について大国おおくに組に話があるとすれば裏取引に他ならない。幡中はたなかはそういう取引が嫌いだ。ヤクザにはヤクザの領分というものがある。
 しかし、無下に返せばどうなるかわからない。目の前の男はそう感じさせる何かを持っていると幡中はたなかは思った。

 「神林尊を死んだように見せかけて渡してほしい。神林尊が姿を消せば神林組は崩壊する」
 「どういうこっちゃ」
 幡中はたなかは主旨の見えない提案にいくら神林組が崩壊するといっても納得することができない。そんな幡中はたなか山戸やまどは口角を上げて笑みを浮かべた。気味が悪い笑みに幡中はたなかはこいつは狂人の類かと腰に手を回し銃に手を添えた。

 「簡単なことです。尊君をください。大国おおくに組は神林組のすべてを手にできるかもしれないんですよ! 悪い手ではないでしょぉ」
 「気色悪いやっちゃ・・・・・・そんないな言葉に応じるとでも思っとるんか」
 「思っているよ。なんて言ったって尊君と運命の糸で結ばれているんだ。何の障害もないはず」

 演説でもするかのように腕を大きく広げ、心の底からそう思っているとわかる表情の山戸やまどに今度こそ幡中はたなかは寒気を感じた。幡中はたなかは銃を取り出し山戸やまどの心臓あたりに突きつける。それでも変化しない山戸やまどの表情に幡中はたなか
 
 「(これはもうだめだ)」

と感じた。そして、これを放置しては大国おおくに組の損失につながる可能性が高い。幡中はたなかはトリガーにかかる人差し指に力を込めた。




 幡中はたなかは自分が山戸やまどを撃ち抜いたことは言わずに経緯を簡単に源田げんだに説明した。源田げんだは途中から頭を抱えていた。考えていた以上に最悪かつ浅はかな行動だ。死んだ山戸やまどには悪いが罵りたくなるものだった。
 さすがの幡中はたなか源田げんだに同情を禁じ得ない。一般人であってもいろいろアウトなことを警察管、それも上層部の人間がやってしまったというのはどう考えてもアウトすぎ。

 山戸やまどを海に捨ててから、やはり気になり神林に確認を取って知らされた驚愕の事実にいつもドンと構えている幡中はたなかも慌てた。しかし、過ぎたことは仕方ないと幡中はたなかは替え玉を用意させると神林組に警視庁にとりなすように願い出た。
 正直なところ大国おおくに組を巻き込んでほしくなかったと幡中はたなかはぼやきたい。しかし、殺した手前、下手なことは言えない。私情ははさまず事実のみを伝えようと努めた。

 「総長、あなたは直接の被害者です。どうしたいですか」
 「どうしたいとは」
 「この事実を包み隠さず世間に報道するかどうかです・・・・・・死んでしまった以上本人に罰をあたえることはできません」
 
 尊はやはり自分に意見を聞くのかと肩をすくめる。すべての視線が尊に集まる。この件に関しては幡中はたなかも尊に同情し
 「(この際警察の信用を無くしてやれ)」
と応援すらしていた。敵対組織であるにも関わらず。
 尊はあの誘拐の一件から目をつけられていたことに、恐怖しかない。静かにくすぶる怒りと後悔、そして罪悪感。自分がいなければ両親は死ななかった。桜も死ぬことはなかった。これまでのことすべてが自分の存在のせいだと思えてしまう。

 「若?」
 「総長?」
 隠岐おきや黒木たちの声に尊はわずかに目を見開いてから苦笑した。自分のせいと考えては皆に悪いと尊は思い直す。隠岐おき達は自分を大切に思ってくれている。それなのに自分で自分を下にしてはいけない。
 すべては山戸やまど山戸やまどに手を貸したものたちが悪い。尊の罪悪感は少し薄くなった。


 「どうもこうもないですよ。山戸やまどが死んだ以上、私はどうこうしようという気持ちはありません。事実を隠蔽してもよいとは言いませんが世の中に変な影響を与えない対応をお願いしたい」

 尊の言葉に源田げんだは肩の力を抜いた。そして真っ直ぐ尊を見ると椅子から床に降りると頭を下げた。尊は予想だにしない源田げんだの行動に内心慌てたが、ここは源田げんだの思うようにさせるべきだと肩に添えられた隠岐おきの手に尊はとどまった。

 「総長、いや・・・・・・神林尊さんの人生に多大なる被害を与えた上に、死んでしまい罰せられることなくこの世を去った山戸やまど。そしてそれを防ぐことも発見することもできず野放しにしてしまった警察を代表しお詫びします。申し訳ありませんでした」

 尊は源田げんだの頭を見下ろす。どんな言葉を返せばわからない。ただ尊の心にあるのは虚無感だ。しかし、この虚無感は今も横にいる隠岐おき、黒木、そして神林の組員たちが埋めてくれると思う。それならと尊は口を開いた。

 「謝罪を受け入れます。ただ警察としての姿をお見せください・・・・・・源田げんだ部長」

 にやりと笑った尊の目は膜を張っている。いろいろな思いを抱きながら返してくれた返答に源田げんだはもう一度頭を深く下げるといつもの仏頂面で尊たちを見据えた。その表情に尊も隠岐おき、黒木もにやりと笑った。
 そのやり取りを幡中はたなかはおかしな奴らだと思いながら、少し羨ましく見ていた。大阪府警と自分たちにはない関係性だ。どちらかがバランスを崩せば一貫の終わりな関係は神林尊だからこそ成り立っていると幡中はたなかは感じた。
 「やはり神林尊は危険だな」
ぼそりと誰にも聞こえないような声でつぶやいた幡中はたなかの声はしっかりと拾われた。

 「心外ですね。人畜無害ですよ」
 幡中はたなかは肩を震わせ尊をみる。人の好い笑みを浮かべながらしっかりと幡中はたなかを見ている尊に聞こえたのだと確信する。

 「私は全国制覇なんて考えていませんよ。組員がつらい思いをしないようにするだけです。だから大国おおくに組に構想を仕掛けるつもりは全くありません」
 「・・・・・・ったく・・・・・・困ったもんやで」
 「何がですか」

幡中はたなかはひとつ頭をかくと苦笑を浮かべた。

 「信用できると思おてしまうんやでな」
幡中はたなかは尊が組員のことを第一に考え行動していること、そして一切権力や覇権に興味がないことを信用していた。そして、自分もそれに毒され始めていたことを感じた。
 いつまでも血を流し覇権を争う時代ではないのだろうと幡中はたなかは思う。取り締まりも厳しいこの時代にヤクザはそぐわないのかもしれない。しかし、ヤクザがいなくてははみ出し者が道から落ちて終わってしまう。自分はそういうものたちを拾い、生かしていかなくてはいけないと幡中はたなかは決意を決めた。

 「6代目神林総長、大国おおくに組2代目は神林組に今後一切手を出さないことを誓おう」
 「ありがとうございます」
 握手をする2人に隠岐おき、黒木は諦めの表情を浮かべ幡中はたなかの側近は目を丸くした。その様子を源田げんだはいろいろなことが起こりすぎて、喜んでいいのかわからなかった。大きな抗争の火種が一旦、鎮火したのを仏頂面で見ていた。

 「そうだ。源田げんださんが次の副総監ですか」
 「と、ん゛ん! 突然なんですか」
 源田げんだは突然の言葉に眉間のしわを深くした。源田げんだは尊を睨みつけた。

 「いやぁ、副総監が源田げんださんだとうれしいなぁと」
 「決定権はありませんので」
源田げんだは決まっていないことに返事はできないと首を振る。にやにやとした表情の尊の横で、反対に難しい顔で頷く幡中はたなかが口を開いた。

 「あんたなら、ええなぁ・・・・・・よっしゃ! まかしとき!」

 「・・・・・・待ってください! なにする気ですか!」
 「ははは!」
 笑いながら部屋を出ていく幡中はたなか源田げんだは手を伸ばしたが、無意味に終わる。尊と隠岐おき達は顔を見合わせると小さく噴き出した。手を伸ばしたまま固まっている源田げんだの顔が尊たちのほうに向いた。右眉がぴくぴくと動き、困惑が濃く表れていた。

 「幡中はたなかは何をする気なんだ」
尊は軽く笑った。

 「たぶん大阪府警からも圧力をかけさせて、源田げんださんを副総監にするつもりですよ」
 「はぁ!? ・・・・・・ん? も? もってなんですか」
察しの良い源田げんだに尊は口角を上げて笑みを向けた。

 「秘密」



ーーー

【本文】
 尊はようやく歩かせてもらえるようになり、久しぶりに自分の足で本部の廊下を歩いていた。大会議室の前に来ればいつかのように中からばか騒ぎをする栄と聖の声が聞こえる。尊と黒木は目を合わせ笑うと笑っている木下、橋に扉を開けるように促す。

 「総長がお見えです」
木下の声に開き始めた扉の向こうからバタバタとせわしない足音が聞こえる。尊はくすくすと笑いながら開いた扉から中に入ると迷わず総長席に向かう。
 黒木が下げる椅子に腰を下ろし両サイドにいる幹部の顔をゆっくり見渡す。栄、聖、湖出、還田、緑埜、水琴、貫谷が椅子に座り尊を見ている。尊はこの光景も久しぶりだ微笑んだが、左すぐの空席を見て尊は吹き出しそうになる。それに耐えるといつものように書類を手に持ち準備万端の湖出のほうを尊は見た。

 「湖出さん、今日の議題は何ですか」
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