明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
103 / 967
リレーするキスのパズルピース

手紙と不意打ち/7

しおりを挟む
 貴増参のブラウンの瞳は反射神経という防御力で思わず閉じられ、真っ暗になった視界で、びた鉄っぽい男の匂いが一気に濃くなったのを感じると、しゃがれた声が鼻で笑い、ボソッと吐き捨てるように聞こえてきた。

ジョークだ」

 ――無防備に目え閉じやがって。してやったりと、明引呼は思った。

 ロッキングチェアの肘掛けに近づくように、寸止めされたパンチの拳はすっと下され、オレンジ色の細いリボンの下に着ている白いシャツの胸元を、ガバッと結婚指輪をしている手で乱暴につかみ、自分のほうへグッと引き寄せた。吐息がかかるほど至近距離で、鋭い眼光は相手を焼きつくすように射る。

「惚れてんぜ」

 兄貴らしい愛の言葉がささやかれると、わざと最初に上げておいた左膝が内側にバランスを崩し、貴増参の唇に力強く近づき、アッシュグレーの鋭い眼光はまぶたの裏に隠された。そして、布地が激しく引っ張られるように、明引呼の唇が触れた。

 突風が祝福するように吹き抜け、丸テーブルの上に置いてあった、カウボーイハットがサーッと空へ舞い上がる、飛ばされた風船みたいに。

(ここで叶えられたら、てめぇの感情エモーションも動くんだよ。お預けくらって、いきなり……ドキドキしやがれ――)

 赤い四角もの――お弁当箱が丸テーブルの上から二人を見ている前で、藤色とカーキ色の前髪は重なり混ざり合う。違う色になってしまうほど、長く深く。

(不意打ちのキス、欲しかったんです。僕は君から――)

 眠っている男にかがみ込んで、襲うようにキスをしているような格好のまま、二人はしばらく唇を重ね、攻めと受けが策略的に逆転している立場に酔いしれていた。

 いつの間にか戻ってきていたカウボーイハットを藤色の髪に被り、明引呼はさっきの情事はそれとして鋭く切り捨て、農場主として敷地を眺め始めた。

 深緑のマントはきちんと縦の線を描き、仕事という距離感で立っていた。そこで、貴増参のわざとらしいため息が聞こえてくる。

「ああ、残念。僕はもう戻らなくてはいけない時間です」

 明引呼の鋭い眼光は農園の木々から、横滑りしていき、貴増参の顔を見上げた。

「チェンジしてもらったわりには、滞在時間がずいぶんみじけえな、おい」
「武術大会の開催期間中ですから、てんやわんやの大忙しです」

 ロッキングチェアに座ったまま、明引呼の片手はジーパンの後ろポケットに当てられ、出した様子はないが、四角いものが、斜め右に傾いた鉄色の線を空中ですうっと描き、反対の手にパシッと落ちるとそれは携帯電話だった。

「だな、メール読んだぜ」

 ポンポンと手のひらで弄ばれるように投げられる電話を目で追いながら、貴増参の優しさの満ちあふれたブラウンの瞳は一瞬閉じられた。

「彼なら大丈夫です」

 目を開けたが、日に焼けた明引呼の顔は頬を見せるばかりで、こっちに向かなかった。無力に近い戦いにいどむように、鋭い眼光をはるか遠くへ射し込む。

「あれはタフだからよ。バカがつくほど」

 二人の脳裏に同じ人物が浮かんでいた。農園を吹き抜けてくる風に、貴増参と明引呼は無言でただただ吹かれていた。

 やがて 貴増参が沈黙を破った。結婚指輪をした左手が、顔の横にさっと上げられ、手のひらを向けてにっこり微笑み、羽布団みたいな柔らかで低い声が風に乗った。

「それでは、またあとで。瞬間移動です」

 貴増参が竜巻みたいに回るとすうっと消え去り、ウッドデッキのあちこちはがれた木の床の上で、砂埃がトルネードを描いていた。

 明引呼の節々のはっきりした指二本に挟み持ちされた桃色の封筒が、男のロマン的に顔の横へ縦向きに連れ出された。

「話そらして、さりげなく去っていきやがって。手紙の主、言っていきやがらねえで。放置して、ツッコミポイント残してくんじゃねえよ。後始末、全部オールオレってか?」

 ボケで思いっきり巻かれてしまった、ラブレターの差出人という犯人探し。丸テーブルの上に、ウェスタンブーツは両方ともドサッと乗せられ、衝動で赤いお弁当箱がガタッと揺れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...