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リレーするキスのパズルピース
ラブレターと瞬間移動/1
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色っぽく結わかれた赤のお弁当の包みは、男っぽくガサツに結び直されていた。妻の愛で満たされたお腹を、ロッキングチェアーの上で食後の一休みをさせる。
ジーパンと椅子の間に挟んでいた、女性らしさを振りまく桃色のラブレターなのに、差出人は明引呼と同じ男。しかも、既婚者の彼に送ってくる、修羅場という嵐を待つような静けさを思わせるような相手。
手紙の主を探す。――いやこんなふざけたことをしてくる犯人を、明引呼は敏腕刑事並みに、しょっ引こうとする。
桃色の封筒が左手。水色の便箋が右手。青空に透かすように裏表にひっくり返すを何度もしながら、アッシュグレーの鋭い眼光はアリ一匹も見逃さないように見ていたが、やがてこの手紙のさらにおかしな点を指摘した。
「どこにも名前、書いてねえんだよな。どんなラブレターだよ? これじゃ返事聞けねえじゃねえか。片想いどころの騒ぎじゃねえだろ。一方通行すぎだろがよ」
どこかに呼び出されるでもなく、イニシャルが書いてあるわけでもなく、本文のみのラブレター。色気漂うほど綺麗な筆文字なのに、笑いを通り越して、何かの罠なのかと疑ってしまうような手紙。
兄貴は大爆笑することもなく、便箋を持っている右手のシルバーリング三つごと藤色の剛毛に近づけ、空いている指でこめかみをコツコツとノックする、昔聞いたことのある記憶を思い出そうとして。
「れかよ、ああ~、何つったか?」
だるそうに言葉を一部省略して、懸命に発掘してきたみたいに名前を、わざとらしく口にする。
「スー……ストーカーってか?」
穏やかではない単語が、広大な農園の片すみに響き渡った。だるそうに手紙を持つ両手を、ロッキングチェアからはみ出すようにだらっと垂らして、省略しまくりの言葉を吐き捨てる。
「がよ、っれて、下の話だろ? この世界じゃ誰もしねえだろ」
ありがたくない愛の一方通行は、ここには存在していなかった。
今はそばにいない。あのカーキ色のくせ毛と、優しさの満ちあふれたブラウンの瞳を持つ男が、ボケという濁流の中で密かに岸に残していった手がかりを拾い上げる。
「ヒントは時間きっちり計ってきて、ボクを使う野郎だろ? ここで、推理ってか?」
ウェスタンブーツのスパーは床を軽く蹴り上げるたびに、カチャカチャという金属音を歪ませる。ウッドデッキの日陰の下で熱いシャワーのように夏の風を全身で浴びながら、明引呼のガタイのいい体はロッキングチェアというゆりかごで揺られつつ、犯人候補を上げ始めた。
「オレを引っ張ってきた、あれはよ、てめぇのこと私と僕って言いやがって、使いわけてんだよ」
強風が吹く時だけ煽られる藤色の短髪の中にある脳裏に、鮮明に蘇る。腰までの長いマゼンダ色の髪と、まぶたにほどんど隠されていて、姿を滅多に現さないヴァイオレットの瞳を持つ男が。
ダンブルウィードが風に踊らされ、コロコロと横切ってゆく。心地よい口笛を吹くように、明引呼のしゃがれた声は次の容疑者を上げた。
「でよ、優雅な王子はよ……」
ここは帝国であって、いるとしたら皇子だ。ある男の通称のようだった。
「ガキの頃は僕でよ、今は私なんだよ」
閉じたまぶたの裏で真っ暗になった視界に浮かぶ。紺の肩より長い髪と猛吹雪を感じさせるほど冷たい水色の瞳を持っているのに、自分と同じように激情という感情を隠し持つ男。
十三時五分に届けて――それが相手の要求。時間をきっちり計ってくる候補は四人。さっと開けられた鋭いアッシュグレーの眼光は、青空を眺めて、そこに次の犯人像を描いてみる。
「あと、歩く十七禁野郎はよ、私、僕、俺ごちゃごちゃに混ぜて使ってんだよな」
空というキャンバスに色と輪郭が描かれてゆく。山吹色のボブ髪と、皇帝で天使で大人で子供で純真で猥褻で、全てが矛盾だらけ。宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳を持つ男。
そこで、揺れ続けていたロッキングチェアはピタリと動きを止め、しゃがれた声で犯人を吊し上げた。
「がよ、普通に考えりゃ、あいつしかいねぇだろ。ボクって言ってんのはよ。今言った野郎どもは僕で、漢字だろうが」
話しているだけでは、『ぼく』『ボク』『僕』どれも同じ響きだが、なぜかこの世界では、変換されてきちんと聞き取れるようだった。
シルバーリング三つずつは、日焼けした顔の前で左右から引き寄せられ、持っていた封筒と便箋がぐしゃぐしゃに歪むほどギュッとつかんでいた。
「わかるように書いてきやがって。放置してやっか? それとも、落とし物で届けてやっか」
独健の愛妻弁当と同じ運命を歩まされそうなラブレター。風を切るように投げられた桃色と水色は赤いお弁当箱と丸テーブルの隙間にちょうど入り込んですっと止まった。
その時だった、明引呼のジーパンの後ろポケットで、振動が起きたのは。
「ああ? 電話か」
ジーパンと椅子の間に挟んでいた、女性らしさを振りまく桃色のラブレターなのに、差出人は明引呼と同じ男。しかも、既婚者の彼に送ってくる、修羅場という嵐を待つような静けさを思わせるような相手。
手紙の主を探す。――いやこんなふざけたことをしてくる犯人を、明引呼は敏腕刑事並みに、しょっ引こうとする。
桃色の封筒が左手。水色の便箋が右手。青空に透かすように裏表にひっくり返すを何度もしながら、アッシュグレーの鋭い眼光はアリ一匹も見逃さないように見ていたが、やがてこの手紙のさらにおかしな点を指摘した。
「どこにも名前、書いてねえんだよな。どんなラブレターだよ? これじゃ返事聞けねえじゃねえか。片想いどころの騒ぎじゃねえだろ。一方通行すぎだろがよ」
どこかに呼び出されるでもなく、イニシャルが書いてあるわけでもなく、本文のみのラブレター。色気漂うほど綺麗な筆文字なのに、笑いを通り越して、何かの罠なのかと疑ってしまうような手紙。
兄貴は大爆笑することもなく、便箋を持っている右手のシルバーリング三つごと藤色の剛毛に近づけ、空いている指でこめかみをコツコツとノックする、昔聞いたことのある記憶を思い出そうとして。
「れかよ、ああ~、何つったか?」
だるそうに言葉を一部省略して、懸命に発掘してきたみたいに名前を、わざとらしく口にする。
「スー……ストーカーってか?」
穏やかではない単語が、広大な農園の片すみに響き渡った。だるそうに手紙を持つ両手を、ロッキングチェアからはみ出すようにだらっと垂らして、省略しまくりの言葉を吐き捨てる。
「がよ、っれて、下の話だろ? この世界じゃ誰もしねえだろ」
ありがたくない愛の一方通行は、ここには存在していなかった。
今はそばにいない。あのカーキ色のくせ毛と、優しさの満ちあふれたブラウンの瞳を持つ男が、ボケという濁流の中で密かに岸に残していった手がかりを拾い上げる。
「ヒントは時間きっちり計ってきて、ボクを使う野郎だろ? ここで、推理ってか?」
ウェスタンブーツのスパーは床を軽く蹴り上げるたびに、カチャカチャという金属音を歪ませる。ウッドデッキの日陰の下で熱いシャワーのように夏の風を全身で浴びながら、明引呼のガタイのいい体はロッキングチェアというゆりかごで揺られつつ、犯人候補を上げ始めた。
「オレを引っ張ってきた、あれはよ、てめぇのこと私と僕って言いやがって、使いわけてんだよ」
強風が吹く時だけ煽られる藤色の短髪の中にある脳裏に、鮮明に蘇る。腰までの長いマゼンダ色の髪と、まぶたにほどんど隠されていて、姿を滅多に現さないヴァイオレットの瞳を持つ男が。
ダンブルウィードが風に踊らされ、コロコロと横切ってゆく。心地よい口笛を吹くように、明引呼のしゃがれた声は次の容疑者を上げた。
「でよ、優雅な王子はよ……」
ここは帝国であって、いるとしたら皇子だ。ある男の通称のようだった。
「ガキの頃は僕でよ、今は私なんだよ」
閉じたまぶたの裏で真っ暗になった視界に浮かぶ。紺の肩より長い髪と猛吹雪を感じさせるほど冷たい水色の瞳を持っているのに、自分と同じように激情という感情を隠し持つ男。
十三時五分に届けて――それが相手の要求。時間をきっちり計ってくる候補は四人。さっと開けられた鋭いアッシュグレーの眼光は、青空を眺めて、そこに次の犯人像を描いてみる。
「あと、歩く十七禁野郎はよ、私、僕、俺ごちゃごちゃに混ぜて使ってんだよな」
空というキャンバスに色と輪郭が描かれてゆく。山吹色のボブ髪と、皇帝で天使で大人で子供で純真で猥褻で、全てが矛盾だらけ。宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳を持つ男。
そこで、揺れ続けていたロッキングチェアはピタリと動きを止め、しゃがれた声で犯人を吊し上げた。
「がよ、普通に考えりゃ、あいつしかいねぇだろ。ボクって言ってんのはよ。今言った野郎どもは僕で、漢字だろうが」
話しているだけでは、『ぼく』『ボク』『僕』どれも同じ響きだが、なぜかこの世界では、変換されてきちんと聞き取れるようだった。
シルバーリング三つずつは、日焼けした顔の前で左右から引き寄せられ、持っていた封筒と便箋がぐしゃぐしゃに歪むほどギュッとつかんでいた。
「わかるように書いてきやがって。放置してやっか? それとも、落とし物で届けてやっか」
独健の愛妻弁当と同じ運命を歩まされそうなラブレター。風を切るように投げられた桃色と水色は赤いお弁当箱と丸テーブルの隙間にちょうど入り込んですっと止まった。
その時だった、明引呼のジーパンの後ろポケットで、振動が起きたのは。
「ああ? 電話か」
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