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リレーするキスのパズルピース
魔法と結婚/6
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少し寂しげに微笑む独健の顔が、裸電球に囲まれた鏡に映っていた。
「……そうか。……お前の出生って、珍しいよな」
「…………」
蓮は無言だった。異例なのは確かだ。それは事実。ただ認めただけの沈黙。独健にはきちんと両親も兄弟もいる。妻も子供いる。欠けているものなど何ひとつない。幸せの中で生きてきた。だが、この優しすぎる男は……。心配せずにはいられなかった、目の前の男の気持ちを。
「俺だったら、どう……思うんだろうな? 親も兄弟も親戚も誰もいない。十八歳より前の記憶が何もない。自分のルーツがない。耐えられない……そう思う時もあるかもな、俺だったら。お前だから平気――」
蓮の奥行きがあり少し低めの声が途中でさえぎった。
「俺のガキの頃のやり直しは、あれの両親のもとで育った、許婚として。だから、親はいる」
夕霧命や光命と同じように、彼にも人生のやり直しがあった。だが、それは義理の父と母が両親の代わりだった。こんな過去を持つ人は、この世界には存在しない。
だが、そういう運命なのだ。ただそれだけ、蓮にしてみたら。独健はウンウンと小さくうなずいて、少しだけ微笑んだ。
「そうか。前向きな考え方だな、それは。小さい時から、彼女のことは好きだったのか?」
しんみりとしたシリアスシーンだったが、蓮はただただ無言を繰り広げた。
「……………………………………………………」
小さい頃からのあの女とのやり取りを思い返し中。その中から、好きという感情を探す。だがしかし、なかなか見つからない。まだ捜索しようとしていたが、独健が声をかけたことによって、タイムアップが言い渡された。
「お前まさか、好きとかじゃなくて結婚して……」
蓮の視線は落ち着きなくあちこち向けられていたが、ふと口を開いた。
「違う……はずだ」
独健はまじまじと見つめた。自分と同じ二十三歳の男の、天使のように可愛いらしいのに、超不機嫌で台なし、だが、秀麗な顔を。深刻さが姿を消してゆく。
「はず?」
「気づいたら、結婚していた」
何だかおかしかったが、感覚的な独健は大雑把にスルーしてゆく。氷でも噛み砕くように、相手の言ったことをガリガリと飲み込んで、納得の声を上げた。
「あ、あぁ、そうか。まぁ、ここは物質界じゃないからな、真実の心を持たずに、結婚するやつはいないから、間違いはないな。確かに、違う、だな」
黄緑のカラのお弁当が近くで話を聞いている中で、またやってきてしまったこの時間が。
「……………………」
「……………………」
さっきからの会話のやりとりに、圧倒的なコミュニケーション不足だと、独健は改めて知らされた。蓮が時を止めて、独健を無理やり楽屋に連れてきている。帰れと言ってこない。独健としては、時間が許す限り、お互いの距離を縮めるための好機だと判断した。
(ノーリアクション。返事がない。超初心者の俺には、難しいんだよな。蓮を理解するって)
エメラルドグリーンのピアスを見て、お弁当箱を見て、ヒョウ柄のストールを見て、独健は話題探しに奮闘する。
(何を話したらいいんだ? まぁ、ここは普通に……)
キスもし、愛の言葉も言った。それでも、男ふたりの密室という楽屋。そこに、独健の少し鼻にかかった声が響き渡った。
クエスチョン一。
「貴のことはどう思ってるんだ?」
「……………………」
蓮は身じろぎひとつせず、考える。あのボケをかましてくる男のことを。だが、さっきやってきた貴族服を着た人物と同じように、何が面白いのかがいつもわからず、全てが普通の会話に思える貴増参。
独健は顔を歪ませて、心の中で思いっきり問いかける。
(い、いや! そこで、黙られても困るんだ。伝わってると思うんだが、何か答えたくないような――)
さっきの出生の秘密みたいなものに触れてしまったのかと思い、独健は心配になり始めた。だが、蓮から遅れに遅れて、この言葉が返ってきた。
「わからない」
予測していたものとは、全然違う回答がやってきて、独健は思いっきり聞き返した。
「はぁ?」
訴えかけるような若草色の瞳が向かっていたが、そんなことなどどこ吹く風で、蓮は堂々たる態度で言い切った。
「気づいたら、そうなっていた」
「あ、あぁ、そうか」
独健は戸惑い気味に言って、髪をかき上げた。そして、また気まずい雰囲気の再来。性質も違う、職業も違う、生きてきた環境が違う、目の前にいる男の思考を、独健なりに前向きに解釈した。
(ミュージシャンは個性が強いから、人と感じ方が違うのかもしれないな。じゃあ、次)
聞きたいこと――いや、ある人物に対する、蓮の気持ちを知りたい。それが独健の切なる願いだった。
「……そうか。……お前の出生って、珍しいよな」
「…………」
蓮は無言だった。異例なのは確かだ。それは事実。ただ認めただけの沈黙。独健にはきちんと両親も兄弟もいる。妻も子供いる。欠けているものなど何ひとつない。幸せの中で生きてきた。だが、この優しすぎる男は……。心配せずにはいられなかった、目の前の男の気持ちを。
「俺だったら、どう……思うんだろうな? 親も兄弟も親戚も誰もいない。十八歳より前の記憶が何もない。自分のルーツがない。耐えられない……そう思う時もあるかもな、俺だったら。お前だから平気――」
蓮の奥行きがあり少し低めの声が途中でさえぎった。
「俺のガキの頃のやり直しは、あれの両親のもとで育った、許婚として。だから、親はいる」
夕霧命や光命と同じように、彼にも人生のやり直しがあった。だが、それは義理の父と母が両親の代わりだった。こんな過去を持つ人は、この世界には存在しない。
だが、そういう運命なのだ。ただそれだけ、蓮にしてみたら。独健はウンウンと小さくうなずいて、少しだけ微笑んだ。
「そうか。前向きな考え方だな、それは。小さい時から、彼女のことは好きだったのか?」
しんみりとしたシリアスシーンだったが、蓮はただただ無言を繰り広げた。
「……………………………………………………」
小さい頃からのあの女とのやり取りを思い返し中。その中から、好きという感情を探す。だがしかし、なかなか見つからない。まだ捜索しようとしていたが、独健が声をかけたことによって、タイムアップが言い渡された。
「お前まさか、好きとかじゃなくて結婚して……」
蓮の視線は落ち着きなくあちこち向けられていたが、ふと口を開いた。
「違う……はずだ」
独健はまじまじと見つめた。自分と同じ二十三歳の男の、天使のように可愛いらしいのに、超不機嫌で台なし、だが、秀麗な顔を。深刻さが姿を消してゆく。
「はず?」
「気づいたら、結婚していた」
何だかおかしかったが、感覚的な独健は大雑把にスルーしてゆく。氷でも噛み砕くように、相手の言ったことをガリガリと飲み込んで、納得の声を上げた。
「あ、あぁ、そうか。まぁ、ここは物質界じゃないからな、真実の心を持たずに、結婚するやつはいないから、間違いはないな。確かに、違う、だな」
黄緑のカラのお弁当が近くで話を聞いている中で、またやってきてしまったこの時間が。
「……………………」
「……………………」
さっきからの会話のやりとりに、圧倒的なコミュニケーション不足だと、独健は改めて知らされた。蓮が時を止めて、独健を無理やり楽屋に連れてきている。帰れと言ってこない。独健としては、時間が許す限り、お互いの距離を縮めるための好機だと判断した。
(ノーリアクション。返事がない。超初心者の俺には、難しいんだよな。蓮を理解するって)
エメラルドグリーンのピアスを見て、お弁当箱を見て、ヒョウ柄のストールを見て、独健は話題探しに奮闘する。
(何を話したらいいんだ? まぁ、ここは普通に……)
キスもし、愛の言葉も言った。それでも、男ふたりの密室という楽屋。そこに、独健の少し鼻にかかった声が響き渡った。
クエスチョン一。
「貴のことはどう思ってるんだ?」
「……………………」
蓮は身じろぎひとつせず、考える。あのボケをかましてくる男のことを。だが、さっきやってきた貴族服を着た人物と同じように、何が面白いのかがいつもわからず、全てが普通の会話に思える貴増参。
独健は顔を歪ませて、心の中で思いっきり問いかける。
(い、いや! そこで、黙られても困るんだ。伝わってると思うんだが、何か答えたくないような――)
さっきの出生の秘密みたいなものに触れてしまったのかと思い、独健は心配になり始めた。だが、蓮から遅れに遅れて、この言葉が返ってきた。
「わからない」
予測していたものとは、全然違う回答がやってきて、独健は思いっきり聞き返した。
「はぁ?」
訴えかけるような若草色の瞳が向かっていたが、そんなことなどどこ吹く風で、蓮は堂々たる態度で言い切った。
「気づいたら、そうなっていた」
「あ、あぁ、そうか」
独健は戸惑い気味に言って、髪をかき上げた。そして、また気まずい雰囲気の再来。性質も違う、職業も違う、生きてきた環境が違う、目の前にいる男の思考を、独健なりに前向きに解釈した。
(ミュージシャンは個性が強いから、人と感じ方が違うのかもしれないな。じゃあ、次)
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