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最後の恋は神さまとでした
神さまの実験終了/3
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タオルをいつもの折り方で、軽快に畳んでゆく。
「で、邪神界を倒した神さまは、どんな人?」
「陛下をこれからやる」
テーブルの上に瞬間移動してきたコウの、青と赤の瞳を女はのぞき込んだ。
「陛下? って、王様の陛下?」
「お前、社会科は全然駄目だったんだな」
コウは思う。王でなくとも、陛下と呼ばれることもあると。ちなみに、ここは皇帝陛下だと。女は気にした様子もなく、畳んだものをパンパンと手のひらで叩く。
「まぁ、特に歴史はね」
「その陛下って、上の世界から降りてきた神さまなんだ」
神さまに神さまがいると聞いて、人間の女は思いっきり聞き返した。
「はぁ? 普通こうじゃないの? 私たち人間がいて、幽霊がいて、神さまが一番上の世界にいる。それで終わり」
「お前、少しは世界のこと学んだほうがいいぞ。神さまの上には神さまがいて、その上にはまた神さまがいてって、ずっと無限に上につながってるんだ」
「そんなに世界は広かったの?」
昨日よりはまだ、青い空が残っている夕焼けを見上げ、女はさらに遠くへと意識を傾けた。
「陛下はずっと上から降りてきた神さまだったんだ」
「何だかすごい人――じゃなくて、神さまだね」
言い直した女の前で、コウは両腕を組んで、偉そうに微笑んだ。
「そうだろう?」
「うん、いい話聞かせてもらった。ありがとう」
細々とした靴下をかき集めて、女は家事にいそしもうとしたが、コウは慌てて止めた。
「まだ話終わってないぞ。洗濯物はあとでもいいだろう?」
「そうね。今日は昨日の残り物で夕食だから、作る必要なし」
冷蔵庫の中に入っているタッパーを思い浮かべ、洗濯物を床にポンと投げ置いた。くりっとした赤と青の瞳は、どこかずれてているクルミ色のそれに、まるで謎かけのように問いかける。
「悪が生まれた理由って知ってるか?」
「人の心に巣食うからとかじゃないよね?」
コウの小さな人差し指は顔の近くで左右に振られた。
「ちちちち! それは悪が生まれてからの話だろう? できた時の理由だ!」
「人の成長を神さまが願うから? とか」
ありきたりな答えを聞いて、コウはこの人間の女に、神さまの御心を説いてやった。
「そんなのはいらない。だって、向上心があればいいんだろう?」
もっとよくなろう。それの気持ちがあれば、つまずかなくたって発展する。答えは簡単だった。女は珍しく微笑む。
「そうだね。じゃあ、何?」
「神さまの実験だったんだって。怠惰で自分のことばかり考えて、ネガティブな考え方をする心を作ったら、世界はどうなるかって」
誰が悪いわけでも何でもなかった。しかし、世界の点として生きている人間には大問題で、女は両手を床について、盛大にため息をついた。
「はぁ~。それで世の中が大変なことになってるのか……」
コウは神さまらしく、女に懺悔を促した。
「バカだな。人間は神さまには逆らえないんだぞ。そこに何か意味を見出すのが、悪じゃなくて普通だろ?」
「正しいじゃなくて?」
三十年近くしか生きていない人間の間違いを、子供の姿になっている神が指摘する。
「正しいって言葉は昔はなかったんだ、邪神界ができるまでは。だから、普通なんだ。神対応じゃなくて、普通対応なの」
「普通か」
女は心が軽くなった気がした。おごり高ぶるという道へ行くことも防いでくれる素晴らしい考え方だと。
「人間は普通になるために、地球で一番厳しい修業をしてるんだ」
「うむ、確かに厳しい!」
女は思わずうなった。思い通りにならない。毎日同じ日々が繰り返されて、夢ははかなく消え去った。シンガーソングライターになる夢は、自分の臆病風に吹かれて。再び挑戦する気持ちすら出てこない。不完全燃焼の日々。それでも、そこに何か幸せを見つけては、すぐに飽きてのリピートばかり。
ぼんやりしている間に、コウの子供の声が突如響き渡った。
「早く洗濯物たたんで、厳しい現実に生きろよ~! 俺はちょっと忙しいから、もう行くぞ」
「は~い」
女が気がつくと、コウの姿はどこにもなかった。一人きりのマンションの部屋で、さっきよりオレンジ色を濃くした夕暮れを眺めて、唯一の幸せを味わう。
「はぁ。こうさ、夕焼けを見ながら、洗濯物たたむ時が一日で一番いい時間だよね。幸せだなって思う。平和に一日終わったなって」
邪神界消滅の話を思い出して、女がプルプルと頭を振ると、ブラウンの長い髪が左右に揺れた。
「いやいや、世界は平和じゃなかった、昨日までは。でも、今日から本当に平和だ」
新しい幕開けというものは、まずは神さまの世界にやってくる。次は幽霊が住む霊界へと降りてくる。
そして最後に人間界へとやってくる。この順番はいつでも変わらない。女に直接影響が現れるのは、まだだいぶあとのことだった。
「で、邪神界を倒した神さまは、どんな人?」
「陛下をこれからやる」
テーブルの上に瞬間移動してきたコウの、青と赤の瞳を女はのぞき込んだ。
「陛下? って、王様の陛下?」
「お前、社会科は全然駄目だったんだな」
コウは思う。王でなくとも、陛下と呼ばれることもあると。ちなみに、ここは皇帝陛下だと。女は気にした様子もなく、畳んだものをパンパンと手のひらで叩く。
「まぁ、特に歴史はね」
「その陛下って、上の世界から降りてきた神さまなんだ」
神さまに神さまがいると聞いて、人間の女は思いっきり聞き返した。
「はぁ? 普通こうじゃないの? 私たち人間がいて、幽霊がいて、神さまが一番上の世界にいる。それで終わり」
「お前、少しは世界のこと学んだほうがいいぞ。神さまの上には神さまがいて、その上にはまた神さまがいてって、ずっと無限に上につながってるんだ」
「そんなに世界は広かったの?」
昨日よりはまだ、青い空が残っている夕焼けを見上げ、女はさらに遠くへと意識を傾けた。
「陛下はずっと上から降りてきた神さまだったんだ」
「何だかすごい人――じゃなくて、神さまだね」
言い直した女の前で、コウは両腕を組んで、偉そうに微笑んだ。
「そうだろう?」
「うん、いい話聞かせてもらった。ありがとう」
細々とした靴下をかき集めて、女は家事にいそしもうとしたが、コウは慌てて止めた。
「まだ話終わってないぞ。洗濯物はあとでもいいだろう?」
「そうね。今日は昨日の残り物で夕食だから、作る必要なし」
冷蔵庫の中に入っているタッパーを思い浮かべ、洗濯物を床にポンと投げ置いた。くりっとした赤と青の瞳は、どこかずれてているクルミ色のそれに、まるで謎かけのように問いかける。
「悪が生まれた理由って知ってるか?」
「人の心に巣食うからとかじゃないよね?」
コウの小さな人差し指は顔の近くで左右に振られた。
「ちちちち! それは悪が生まれてからの話だろう? できた時の理由だ!」
「人の成長を神さまが願うから? とか」
ありきたりな答えを聞いて、コウはこの人間の女に、神さまの御心を説いてやった。
「そんなのはいらない。だって、向上心があればいいんだろう?」
もっとよくなろう。それの気持ちがあれば、つまずかなくたって発展する。答えは簡単だった。女は珍しく微笑む。
「そうだね。じゃあ、何?」
「神さまの実験だったんだって。怠惰で自分のことばかり考えて、ネガティブな考え方をする心を作ったら、世界はどうなるかって」
誰が悪いわけでも何でもなかった。しかし、世界の点として生きている人間には大問題で、女は両手を床について、盛大にため息をついた。
「はぁ~。それで世の中が大変なことになってるのか……」
コウは神さまらしく、女に懺悔を促した。
「バカだな。人間は神さまには逆らえないんだぞ。そこに何か意味を見出すのが、悪じゃなくて普通だろ?」
「正しいじゃなくて?」
三十年近くしか生きていない人間の間違いを、子供の姿になっている神が指摘する。
「正しいって言葉は昔はなかったんだ、邪神界ができるまでは。だから、普通なんだ。神対応じゃなくて、普通対応なの」
「普通か」
女は心が軽くなった気がした。おごり高ぶるという道へ行くことも防いでくれる素晴らしい考え方だと。
「人間は普通になるために、地球で一番厳しい修業をしてるんだ」
「うむ、確かに厳しい!」
女は思わずうなった。思い通りにならない。毎日同じ日々が繰り返されて、夢ははかなく消え去った。シンガーソングライターになる夢は、自分の臆病風に吹かれて。再び挑戦する気持ちすら出てこない。不完全燃焼の日々。それでも、そこに何か幸せを見つけては、すぐに飽きてのリピートばかり。
ぼんやりしている間に、コウの子供の声が突如響き渡った。
「早く洗濯物たたんで、厳しい現実に生きろよ~! 俺はちょっと忙しいから、もう行くぞ」
「は~い」
女が気がつくと、コウの姿はどこにもなかった。一人きりのマンションの部屋で、さっきよりオレンジ色を濃くした夕暮れを眺めて、唯一の幸せを味わう。
「はぁ。こうさ、夕焼けを見ながら、洗濯物たたむ時が一日で一番いい時間だよね。幸せだなって思う。平和に一日終わったなって」
邪神界消滅の話を思い出して、女がプルプルと頭を振ると、ブラウンの長い髪が左右に揺れた。
「いやいや、世界は平和じゃなかった、昨日までは。でも、今日から本当に平和だ」
新しい幕開けというものは、まずは神さまの世界にやってくる。次は幽霊が住む霊界へと降りてくる。
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