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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
夕闇を翔る死装束/4
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その頃――
二階の自室で、ロッキングチェアに揺られていた崇剛のそばには、丸く赤い円を描くガラスのティーカップが華麗なるフィナーレを迎えた――カラになった。
冷静な水色の瞳はまぶたというカーテンの中に隠されていて、茶色のロングブーツは優雅に組まれていた。
崇剛は鮮明に思い出す。隣にある寝室で、執事がさっき言ってきた言葉――。
『お前、つかむ相手を間違ってるだろう――』
細く神経質な両手を腹の上で軽く組ませたまま、主人は知らぬ間に、執事に情報漏洩してしまったことを、冷静な頭脳で推し量っていた。
――どなたにも、あちらの話はしていません。
どのようにして、涼介はあちらの話を知ったのでしょう?
そうですね……?
ひまわり色の髪を持つ男の言動が何ひとつ順番も間違えず、脳裏に浮かび上がる。
――こちらのようにしましょうか?
本人から情報を引き出しましょう。
どちらの方法がよいでしょうか?
そうですね……?
ロッキングチェアが揺れるたび、窓から色づく斜傾で、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンが豊艶という輝きを讃嘆した。
デジタルに記憶した会話を並べてゆく。
そちらの言葉はどのような意味ですか――? と、私は聞きました。
俺がお前のこと知らないわけないないだろう――? と、彼は返してきました。
そうなると、以下の可能性が出てきます。
私が意識を失っている時であるが97.57%――
私が倒れた時に、彼が看病するという可能性は99.99%――
これらから判断すると、次の可能性が出てきます。
土と緑の匂いが風に舞い上げられ、机の上の羽ペンがくるくるとリズムカルに回った。
私が無意識の時に、彼が情報を手に入れたという可能性が85.89%――
もしくは、別の何かから手に入れたという可能性が14.11%――
ルビー色がガラスのカップの底で円を描くのを眺めなら、崇剛の独特な声色が一人だけの部屋に静かに降り積もった。
「私が無意識の内……」
人差し指を軽く曲げてあごに当て、スマートに足を組み替えると、ロッキングチェが振り子のように少しだけ揺れた。
――そうなると、寝言もしくは夢魘[脚注]。
それらふたつの可能性が出てきます。
瑠璃色の貴族服も、紺の長い髪も、神経質な頬も、西日の暖色系が混じり込み、宵闇色へと移ろい始めていた。
――そうですね……?
どのような言葉を私は口に――!
そこでいきなり、崇剛の脳裏に、
ババッ!
と、真っ白い着物を着た女の映像がにわかに割って入ってきた。肌は血の気《け》などとは無縁というように青白く、表情は喜楽というものをすぐ消し去ってしまうほど、苦しくて悲しげだった。
人が立ったまま浮遊する、怪力乱心な心霊一閃《スピリチュアルインスピレーション》。さっきまで平和で穏やかだった時の流れへ、無理やり横入りしてきた。
誰かに取り憑いてさらうかのように、ベルダージュ荘へ猛スピードで重力の法則を無視して、空中を横滑りしてくる。
脳裏という黒板に全てを正確に書き記したまま、冷静な水色の瞳はさっと開けられた。さっきまでとは風景が違って、陽の光は屋敷まわりに植っている樫の木にさえぎられている。
メシア保有者の聖霊師は不気味なものの正体を、中性的な唇でつぶやいた。
「生霊……?」
(こちらの可能性が45.56%――)
ロッキングチェアから線の細い体はスッと立ち上がり、神経を研ぎ澄ます。千里眼の力を使って、霊が目指している未来の方向を読み取った。
「玄関……」
(こちらの可能性が89.78%――)
窓へ急ぎ足で近寄り、美しい春の庭を見渡した。しかし、樫の木たちが長い影をあちこちへと伸ばしていて、色は失せてゆくところだった。
聖霊師は今がどんな時間帯かを霊的に分析して、不吉を口にする。
「逢魔が時……」
玄関近くで花びらを降らせている桜の木へ向かって、芝生の上をぽんぽんスキップしている小さな後ろ姿を見つけた。
肉体を持っていない霊――。
他人の体へ勝手に乗り移ったり、簡単に操作したりしてくる。そうなると、病気になったり、事故に遭いやすくなる。最悪な場合は死――霊界へと連れていかれてしまうのだ。
[脚注]恐ろしい夢にうなされること。
二階の自室で、ロッキングチェアに揺られていた崇剛のそばには、丸く赤い円を描くガラスのティーカップが華麗なるフィナーレを迎えた――カラになった。
冷静な水色の瞳はまぶたというカーテンの中に隠されていて、茶色のロングブーツは優雅に組まれていた。
崇剛は鮮明に思い出す。隣にある寝室で、執事がさっき言ってきた言葉――。
『お前、つかむ相手を間違ってるだろう――』
細く神経質な両手を腹の上で軽く組ませたまま、主人は知らぬ間に、執事に情報漏洩してしまったことを、冷静な頭脳で推し量っていた。
――どなたにも、あちらの話はしていません。
どのようにして、涼介はあちらの話を知ったのでしょう?
そうですね……?
ひまわり色の髪を持つ男の言動が何ひとつ順番も間違えず、脳裏に浮かび上がる。
――こちらのようにしましょうか?
本人から情報を引き出しましょう。
どちらの方法がよいでしょうか?
そうですね……?
ロッキングチェアが揺れるたび、窓から色づく斜傾で、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンが豊艶という輝きを讃嘆した。
デジタルに記憶した会話を並べてゆく。
そちらの言葉はどのような意味ですか――? と、私は聞きました。
俺がお前のこと知らないわけないないだろう――? と、彼は返してきました。
そうなると、以下の可能性が出てきます。
私が意識を失っている時であるが97.57%――
私が倒れた時に、彼が看病するという可能性は99.99%――
これらから判断すると、次の可能性が出てきます。
土と緑の匂いが風に舞い上げられ、机の上の羽ペンがくるくるとリズムカルに回った。
私が無意識の時に、彼が情報を手に入れたという可能性が85.89%――
もしくは、別の何かから手に入れたという可能性が14.11%――
ルビー色がガラスのカップの底で円を描くのを眺めなら、崇剛の独特な声色が一人だけの部屋に静かに降り積もった。
「私が無意識の内……」
人差し指を軽く曲げてあごに当て、スマートに足を組み替えると、ロッキングチェが振り子のように少しだけ揺れた。
――そうなると、寝言もしくは夢魘[脚注]。
それらふたつの可能性が出てきます。
瑠璃色の貴族服も、紺の長い髪も、神経質な頬も、西日の暖色系が混じり込み、宵闇色へと移ろい始めていた。
――そうですね……?
どのような言葉を私は口に――!
そこでいきなり、崇剛の脳裏に、
ババッ!
と、真っ白い着物を着た女の映像がにわかに割って入ってきた。肌は血の気《け》などとは無縁というように青白く、表情は喜楽というものをすぐ消し去ってしまうほど、苦しくて悲しげだった。
人が立ったまま浮遊する、怪力乱心な心霊一閃《スピリチュアルインスピレーション》。さっきまで平和で穏やかだった時の流れへ、無理やり横入りしてきた。
誰かに取り憑いてさらうかのように、ベルダージュ荘へ猛スピードで重力の法則を無視して、空中を横滑りしてくる。
脳裏という黒板に全てを正確に書き記したまま、冷静な水色の瞳はさっと開けられた。さっきまでとは風景が違って、陽の光は屋敷まわりに植っている樫の木にさえぎられている。
メシア保有者の聖霊師は不気味なものの正体を、中性的な唇でつぶやいた。
「生霊……?」
(こちらの可能性が45.56%――)
ロッキングチェアから線の細い体はスッと立ち上がり、神経を研ぎ澄ます。千里眼の力を使って、霊が目指している未来の方向を読み取った。
「玄関……」
(こちらの可能性が89.78%――)
窓へ急ぎ足で近寄り、美しい春の庭を見渡した。しかし、樫の木たちが長い影をあちこちへと伸ばしていて、色は失せてゆくところだった。
聖霊師は今がどんな時間帯かを霊的に分析して、不吉を口にする。
「逢魔が時……」
玄関近くで花びらを降らせている桜の木へ向かって、芝生の上をぽんぽんスキップしている小さな後ろ姿を見つけた。
肉体を持っていない霊――。
他人の体へ勝手に乗り移ったり、簡単に操作したりしてくる。そうなると、病気になったり、事故に遭いやすくなる。最悪な場合は死――霊界へと連れていかれてしまうのだ。
[脚注]恐ろしい夢にうなされること。
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