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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
夕闇を翔る死装束/5
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崇剛からは珍しく優雅な笑みは消えていた。
「瞬……!」
(そちらの可能性が99.97%――)
相手の狙いが誰であるかわかって、策略家の異名を持つ聖霊師はドアへ一度振り返るが、
「間に合わない!」
(そちらの可能性が99.99%――)
庭へ顔を再び戻し、冷静な水色の瞳は素早く情報集取する。まずはいつもの癖で、懐中時計を取り出した。
十七時十六分三十五秒――
次に視線をせわしなく動かす。
木の位置。
窓との距離。
ダガー。
私の身長。
私の体重……。
これらから判断して、そちらの方法が成功するという可能性が99.99%――!
たった一秒で弾き出した。崇剛は物質界のダガーを鞘から素早く抜き取り、窓枠にスマートにロングブーツで飛び乗る。
「っ!」
部屋から少し離れた場所にある樫の木へ向かって勢いをつけ、聖霊師は突進するように前へ鮮やかに飛んだ。
「ふっ!」
ビューっと頬を切る風が紺の長い髪をはためかせ、重力に逆えず落下しながら、線の細い瑠璃色の貴族服は木へと斜めに向かってゆく。
冷静な水色の瞳へと小さな枝と葉っぱがあっという間に迫ってきて、両腕を顔の前でクロスさせた。
がさがさと音が耳を通り抜けて、視界が開けると、太い木の幹が眼前に浮かび上がる。そこへ聖なるダガーは勢いよくズバッと突き刺された。
「っ!」
シルバー色の柄を右手でしっかり握ったまま、崇剛は木と向き合うように宙吊りになった。地面とはまだ三メートルほどの開きがある。ロングブーツの足で木を押し蹴りする。
「くっ!」
ダガーが木の幹からはずれると、瑠璃色の貴族服と紺の長い髪は地面へ向かって落下し始めた。崇剛は身軽にストンと芝生の上に着地する。
導き出した可能性を使い、二階にある自室のドアから出て廊下を歩き、階下への階段を降りて、外へ出るよりも断然早く庭へ出てこられた。
茶色のロングブーツはそのまま館の玄関――狙われている瞬を救うために、足早に芝生の上を歩き出した。
*
涼介の言いつけ通り、瞬は正面玄関から屋敷へ入ろうとしていた。スキップしてイチゴが浮かび上がると、彼の心も軽やかに弾む。
「あ、ちょうちょ!」
時々寄り道しながらイチゴは運ばれてゆく。太陽もだいぶ西に傾き、幼い瞬の顔には、オレンジの木漏れ日が様々な形で濃淡を差していた。
「イチゴ~、イチゴ~♪」
何もかも平和に見えたその時――。
強風がにわかに吹き荒れ、たくさんの桜の花びらが死後の世界を連想させるように、空へと逆流するように舞い上がった。
「っ!」
瞬は思わず目をつむった。突風はすぐさま止み、カーカーとカラスの鳴く声が夕闇に響き渡った。
ベビーブルーの純粋な瞳が姿をまた現すと、玄関へと続く石畳の上に、真っ白な着物を着た女がゆらゆらと立っていた。体の向こうの景色が透けて見える。
心霊現象。
死装束、幽霊。
髪は乱れ長くたれ、虚な瞳は真正面――ベルダージュ荘の玄関をじっと見つめたままだった。
子供であり、霊を見るのが当たり前の瞬は臆することなく、まるでこの世の人に向かって話しかけるように問いかける。
「だれ?」
「…………」
青白い唇からは、返事は返ってこなかった。油断させるためなのか、瞬には見向きもせず地面から離れた位置でゆらゆらと揺れている。
さっきとは違う冷たい寒気を感じさせるような風が、葉音を切るようにサラサラと鳴らして吹き抜けてゆく。
子供一人。
幽霊一人。
死後の世界――常世へと突如連れ去られる神隠しが、いつ起きてもおかしくない状況だった。
死装束の女の霊力にって、瞬の意識が無理やり別の時空へと飛ばされる。いきなり立っていた、中心街の大通りの中ほどに。
「え……?」
人と馬車がたくさん行き交う路上で、ガシャンと何かがぶつかった音がした。
「瞬……!」
(そちらの可能性が99.97%――)
相手の狙いが誰であるかわかって、策略家の異名を持つ聖霊師はドアへ一度振り返るが、
「間に合わない!」
(そちらの可能性が99.99%――)
庭へ顔を再び戻し、冷静な水色の瞳は素早く情報集取する。まずはいつもの癖で、懐中時計を取り出した。
十七時十六分三十五秒――
次に視線をせわしなく動かす。
木の位置。
窓との距離。
ダガー。
私の身長。
私の体重……。
これらから判断して、そちらの方法が成功するという可能性が99.99%――!
たった一秒で弾き出した。崇剛は物質界のダガーを鞘から素早く抜き取り、窓枠にスマートにロングブーツで飛び乗る。
「っ!」
部屋から少し離れた場所にある樫の木へ向かって勢いをつけ、聖霊師は突進するように前へ鮮やかに飛んだ。
「ふっ!」
ビューっと頬を切る風が紺の長い髪をはためかせ、重力に逆えず落下しながら、線の細い瑠璃色の貴族服は木へと斜めに向かってゆく。
冷静な水色の瞳へと小さな枝と葉っぱがあっという間に迫ってきて、両腕を顔の前でクロスさせた。
がさがさと音が耳を通り抜けて、視界が開けると、太い木の幹が眼前に浮かび上がる。そこへ聖なるダガーは勢いよくズバッと突き刺された。
「っ!」
シルバー色の柄を右手でしっかり握ったまま、崇剛は木と向き合うように宙吊りになった。地面とはまだ三メートルほどの開きがある。ロングブーツの足で木を押し蹴りする。
「くっ!」
ダガーが木の幹からはずれると、瑠璃色の貴族服と紺の長い髪は地面へ向かって落下し始めた。崇剛は身軽にストンと芝生の上に着地する。
導き出した可能性を使い、二階にある自室のドアから出て廊下を歩き、階下への階段を降りて、外へ出るよりも断然早く庭へ出てこられた。
茶色のロングブーツはそのまま館の玄関――狙われている瞬を救うために、足早に芝生の上を歩き出した。
*
涼介の言いつけ通り、瞬は正面玄関から屋敷へ入ろうとしていた。スキップしてイチゴが浮かび上がると、彼の心も軽やかに弾む。
「あ、ちょうちょ!」
時々寄り道しながらイチゴは運ばれてゆく。太陽もだいぶ西に傾き、幼い瞬の顔には、オレンジの木漏れ日が様々な形で濃淡を差していた。
「イチゴ~、イチゴ~♪」
何もかも平和に見えたその時――。
強風がにわかに吹き荒れ、たくさんの桜の花びらが死後の世界を連想させるように、空へと逆流するように舞い上がった。
「っ!」
瞬は思わず目をつむった。突風はすぐさま止み、カーカーとカラスの鳴く声が夕闇に響き渡った。
ベビーブルーの純粋な瞳が姿をまた現すと、玄関へと続く石畳の上に、真っ白な着物を着た女がゆらゆらと立っていた。体の向こうの景色が透けて見える。
心霊現象。
死装束、幽霊。
髪は乱れ長くたれ、虚な瞳は真正面――ベルダージュ荘の玄関をじっと見つめたままだった。
子供であり、霊を見るのが当たり前の瞬は臆することなく、まるでこの世の人に向かって話しかけるように問いかける。
「だれ?」
「…………」
青白い唇からは、返事は返ってこなかった。油断させるためなのか、瞬には見向きもせず地面から離れた位置でゆらゆらと揺れている。
さっきとは違う冷たい寒気を感じさせるような風が、葉音を切るようにサラサラと鳴らして吹き抜けてゆく。
子供一人。
幽霊一人。
死後の世界――常世へと突如連れ去られる神隠しが、いつ起きてもおかしくない状況だった。
死装束の女の霊力にって、瞬の意識が無理やり別の時空へと飛ばされる。いきなり立っていた、中心街の大通りの中ほどに。
「え……?」
人と馬車がたくさん行き交う路上で、ガシャンと何かがぶつかった音がした。
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