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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/5
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ふたりが計算したところはもちろん、全てを射た場合の話で、はずれればそれ以下の得点となってしまう。
涼介は洗いざらしのシャツの袖を、気合いを入れるように両方まくり上げた。
「俺からでいいか?」
「えぇ、構いませんよ」
崇剛が応えると、涼介はダートを三本取り、スローラインの上へ立ち、深呼吸を何度かして意識を集中させる。
(ダブルブル……)
魔法の呪文を唱えるように何度も言いながら、立ち位置や矢の持ち方を細々と絶妙に調整してゆく。
後ろにそっと立っている崇剛はあごに手を当て、細身をさらに強調させるように、足を前後にしてクロスする寸前で立つ。
涼介の一投目はシングルブルの右上。角度は三十六度。
二投目と三投目はダブルブル。
以上のことから、涼介はダブルブル狙いであるという可能性が99.99%――
従って、私の勝ちであるという可能性が99.99%――
勝負がまだ始まってもいないのに、崇剛はなぜか自分の勝利を確定に近い状態へと数値を導き出していた。
涼介は崇剛の情報をひとつ見逃したまま、ゲームがスタートする。
左手に持っていた三本のダートのうち、ひとつを右手で鉛筆を持つように、調整を続けていた手から、彼らしい真っ直ぐな投げ方をした。しかし、中心からはずれ、無念そうに刺さったのは、
(あぁ~、右上のシングルブル。はずした。考えてても仕方がない。次……)
気持ちを切り替え、涼介は左手からまた矢をひとつ引き抜き、さっきと同じように軽めに優しくスロー。それは見事に中心に刺さった。
(よし、ダブルブル)
次の一投も同じダブルブルだった。不思議なことに、崇剛が予想した通りの場所へ全て刺さった。
「それでは、私の番ですね」
主人は執事に質問をさせたい。それが最初の目的だ。感覚の執事がざっくり物事を見ているがために、主人の情報を見逃したままで、このままでは策略家の罠へ引っかかる可能性が大幅に下がってしまう。
(それでは、こうしましょうか)
ダート三本は崇剛の神経質な左手に取られ、冷静な水色の瞳はすっと閉じられた。ダガーを持つ時のように人差し指と中指とで矢を挟み、真っ暗な視界なのに、射る場所を探る。
(そうですね……?)
額と同じ高さまで右手をゆっくりと上げ、
(こちらですね)
悪霊を壁に磔にするのと同じ要領で、右手を前へ勢いよく押し離した。いつも通りに自然と矢を挟む指の力を抜き、飛んでゆく微かな空気の摩擦が聞こえると、ストンとダーツボードに当たった音がした。
冷静な水色の瞳が再び姿を現すと、不思議なことに狙い通りの二十のトリプル(六十点)にダーツが刺さっていた。
今度はダーツボードに対して、半身になるように崇剛は立ち、目をまたすっと閉じた。自分へ顔を向けた主人の奇妙な態度に、執事は首を傾げる。
(何をしてるんだ?)
崇剛はそのままダートを右指で挟み、左腕のあたりから横滑りさせ、絶妙なタイミングで矢を手から離した。
見えていないはずなのに、きちんとまた二十のトリプルに刺さり、さすがに涼介もおかしいと思って、策略家の思惑通り質問してしまった。
「待った! お前、どうして、その投げ方で刺さるんだ? 見えてないし、さっきからフォームが全部違う。それに、いつものお前ならはずすだろう? 二十のトリプルなんて、お前の腕じゃ二回も刺さらないだろう」
標的が策に乗ってきても知らない振りで、策略家は優雅に微笑んで、こんなことを言った。
「ただの勘ですよ」
未だ何が起きて、こんなことになっているのかわからない、涼介は盛大にため息をついて、うなるように反論した。
「だから、そこで嘘をつくな! 俺と違って、お前に勘なんかないだろう」
涼介は洗いざらしのシャツの袖を、気合いを入れるように両方まくり上げた。
「俺からでいいか?」
「えぇ、構いませんよ」
崇剛が応えると、涼介はダートを三本取り、スローラインの上へ立ち、深呼吸を何度かして意識を集中させる。
(ダブルブル……)
魔法の呪文を唱えるように何度も言いながら、立ち位置や矢の持ち方を細々と絶妙に調整してゆく。
後ろにそっと立っている崇剛はあごに手を当て、細身をさらに強調させるように、足を前後にしてクロスする寸前で立つ。
涼介の一投目はシングルブルの右上。角度は三十六度。
二投目と三投目はダブルブル。
以上のことから、涼介はダブルブル狙いであるという可能性が99.99%――
従って、私の勝ちであるという可能性が99.99%――
勝負がまだ始まってもいないのに、崇剛はなぜか自分の勝利を確定に近い状態へと数値を導き出していた。
涼介は崇剛の情報をひとつ見逃したまま、ゲームがスタートする。
左手に持っていた三本のダートのうち、ひとつを右手で鉛筆を持つように、調整を続けていた手から、彼らしい真っ直ぐな投げ方をした。しかし、中心からはずれ、無念そうに刺さったのは、
(あぁ~、右上のシングルブル。はずした。考えてても仕方がない。次……)
気持ちを切り替え、涼介は左手からまた矢をひとつ引き抜き、さっきと同じように軽めに優しくスロー。それは見事に中心に刺さった。
(よし、ダブルブル)
次の一投も同じダブルブルだった。不思議なことに、崇剛が予想した通りの場所へ全て刺さった。
「それでは、私の番ですね」
主人は執事に質問をさせたい。それが最初の目的だ。感覚の執事がざっくり物事を見ているがために、主人の情報を見逃したままで、このままでは策略家の罠へ引っかかる可能性が大幅に下がってしまう。
(それでは、こうしましょうか)
ダート三本は崇剛の神経質な左手に取られ、冷静な水色の瞳はすっと閉じられた。ダガーを持つ時のように人差し指と中指とで矢を挟み、真っ暗な視界なのに、射る場所を探る。
(そうですね……?)
額と同じ高さまで右手をゆっくりと上げ、
(こちらですね)
悪霊を壁に磔にするのと同じ要領で、右手を前へ勢いよく押し離した。いつも通りに自然と矢を挟む指の力を抜き、飛んでゆく微かな空気の摩擦が聞こえると、ストンとダーツボードに当たった音がした。
冷静な水色の瞳が再び姿を現すと、不思議なことに狙い通りの二十のトリプル(六十点)にダーツが刺さっていた。
今度はダーツボードに対して、半身になるように崇剛は立ち、目をまたすっと閉じた。自分へ顔を向けた主人の奇妙な態度に、執事は首を傾げる。
(何をしてるんだ?)
崇剛はそのままダートを右指で挟み、左腕のあたりから横滑りさせ、絶妙なタイミングで矢を手から離した。
見えていないはずなのに、きちんとまた二十のトリプルに刺さり、さすがに涼介もおかしいと思って、策略家の思惑通り質問してしまった。
「待った! お前、どうして、その投げ方で刺さるんだ? 見えてないし、さっきからフォームが全部違う。それに、いつものお前ならはずすだろう? 二十のトリプルなんて、お前の腕じゃ二回も刺さらないだろう」
標的が策に乗ってきても知らない振りで、策略家は優雅に微笑んで、こんなことを言った。
「ただの勘ですよ」
未だ何が起きて、こんなことになっているのかわからない、涼介は盛大にため息をついて、うなるように反論した。
「だから、そこで嘘をつくな! 俺と違って、お前に勘なんかないだろう」
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