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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/4
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崇剛がこのあとどこかはずさない限り、涼介の負けは決定してしまう。素直に感情を表に出している執事の姿を、主人はあごに手を当てたまま冷静に見つめていた。
(涼介のやり方では、今の私には勝てませんよ)
ワイングラスの中にあるルビー色の海を、水色の瞳でクルージングしている主人は優雅ではなく、今は余裕の笑みを見せていた。
涼介は残りのツースローは確実に仕留め、何とか崇剛に食らいついた。ふたりはスローライン上で交代。
崇剛は人差し指と中指で矢を挟み、今度はダーツボートとは真正面にならず、体の右側を正面へ向けて半身でスローラインへ立った。
矢を頭の上へ持ち上げて、手の甲は相変わらず的に向け、
(こちらですね)
ドアを軽くノックするように少しだけ押し出し、最も簡単に矢を放ち、三ラウンドも全て命中。
そうやって、ゲームは進み、崇剛は完全勝利で、涼介は一ラウンドを落としてしまった。
「私の勝ちですね」
主人は思う。勝てる可能性は限りなく百パーセントに近かったと。つまりは、99.99%――。
策略家と純粋な青年は同じソファーへ一旦戻った。崇剛は足を優雅に組み、ルビー色に染まるワイングラスの細い足を神経質な指先でつまみ、柑橘系の香りで勝利を祝福する。
ワインを飲んでいる主人の隣で、執事はチーズスティックパイをカクテルグラスから一本抜き取り、歯でサクサクと噛み砕く。
(バーストはまぬれたが……。おかしい……どうして、崇剛が全部当たるんだ?)
ダーツといえば、自分の十八番だったのにいつもと違うと、涼介は思う。ソファーの背もたれの上に両腕を広げて乗せ、執事はさらに考える。
(練習した……? 見たことないぞ。なのに、当たるようになってる……)
崇剛にわからないように涼介は正面に顔を向けたまま、視線を主人の腰元へと落とし、聖なるダガーの柄を捉えた。
(それと同じ持ち方だから、当たる……?)
フォームを変えただけで、すぐに腕が上がるとは思えなかった。涼介の頭の中が疑問だらけになる。
幽霊の探偵と言ってもいい、聖霊師をしている崇剛。性格は几帳面で、当然、執事の心のうちなど予測できていた。
涼介は何かを考えているように見える。
そちらはなぜ、私が的をはずさないかであるという可能性が98.87%――
こちらから判断して、涼介の次の言葉は以下のふたつ。
なぜ、私がはずさないのかの質問をしてくるしてくるという可能性65.34%――
次のゲームをやらないかと誘ってくるという可能性が34.63%――
前者の時は……。
崇剛の冷静な頭脳の中に天文学的数字の膨大なデータが流れ始めた。
(罠へと誘いましょうか。後者の時は、先ほどと同じ方法で勝負を受けましょう)
罠に引っかかるかと思いきや、涼介はパイ生地で汚れた手をナプキンで乱暴に拭いた。
「今度はカウントアップだ」
別のルールでゲームに誘った、執事の勝算はこうだった。
ダブルブル狙い。
五十かける二十四の、千二百点で勝てる――。
バルブレアをグイッと煽って、涼介はソファーからさっと立ち上がった。ブルーグレーの瞳にはダーツボードの中心が映っていた。
刺さった部分の数字を足していき、得点が高いほうが勝利という、至ってシンプルなルールだ。
ポーカフェイスのまま、崇剛はグラスに残っていたサングリアを全て口に含み、優雅に組んでいた足を解き、エレガントに立ち上がった。
「えぇ、構いませんよ」
返事を返した、主人の勝算はこうだった。
二十トリプル、八ラウンド。
二十かける三かける二十四の、千四百四十点です。
この時点で、涼介はすでに崇剛に負けていた。数字に強い主人は一番得点が稼げるところを見抜いていた。
(涼介のやり方では、今の私には勝てませんよ)
ワイングラスの中にあるルビー色の海を、水色の瞳でクルージングしている主人は優雅ではなく、今は余裕の笑みを見せていた。
涼介は残りのツースローは確実に仕留め、何とか崇剛に食らいついた。ふたりはスローライン上で交代。
崇剛は人差し指と中指で矢を挟み、今度はダーツボートとは真正面にならず、体の右側を正面へ向けて半身でスローラインへ立った。
矢を頭の上へ持ち上げて、手の甲は相変わらず的に向け、
(こちらですね)
ドアを軽くノックするように少しだけ押し出し、最も簡単に矢を放ち、三ラウンドも全て命中。
そうやって、ゲームは進み、崇剛は完全勝利で、涼介は一ラウンドを落としてしまった。
「私の勝ちですね」
主人は思う。勝てる可能性は限りなく百パーセントに近かったと。つまりは、99.99%――。
策略家と純粋な青年は同じソファーへ一旦戻った。崇剛は足を優雅に組み、ルビー色に染まるワイングラスの細い足を神経質な指先でつまみ、柑橘系の香りで勝利を祝福する。
ワインを飲んでいる主人の隣で、執事はチーズスティックパイをカクテルグラスから一本抜き取り、歯でサクサクと噛み砕く。
(バーストはまぬれたが……。おかしい……どうして、崇剛が全部当たるんだ?)
ダーツといえば、自分の十八番だったのにいつもと違うと、涼介は思う。ソファーの背もたれの上に両腕を広げて乗せ、執事はさらに考える。
(練習した……? 見たことないぞ。なのに、当たるようになってる……)
崇剛にわからないように涼介は正面に顔を向けたまま、視線を主人の腰元へと落とし、聖なるダガーの柄を捉えた。
(それと同じ持ち方だから、当たる……?)
フォームを変えただけで、すぐに腕が上がるとは思えなかった。涼介の頭の中が疑問だらけになる。
幽霊の探偵と言ってもいい、聖霊師をしている崇剛。性格は几帳面で、当然、執事の心のうちなど予測できていた。
涼介は何かを考えているように見える。
そちらはなぜ、私が的をはずさないかであるという可能性が98.87%――
こちらから判断して、涼介の次の言葉は以下のふたつ。
なぜ、私がはずさないのかの質問をしてくるしてくるという可能性65.34%――
次のゲームをやらないかと誘ってくるという可能性が34.63%――
前者の時は……。
崇剛の冷静な頭脳の中に天文学的数字の膨大なデータが流れ始めた。
(罠へと誘いましょうか。後者の時は、先ほどと同じ方法で勝負を受けましょう)
罠に引っかかるかと思いきや、涼介はパイ生地で汚れた手をナプキンで乱暴に拭いた。
「今度はカウントアップだ」
別のルールでゲームに誘った、執事の勝算はこうだった。
ダブルブル狙い。
五十かける二十四の、千二百点で勝てる――。
バルブレアをグイッと煽って、涼介はソファーからさっと立ち上がった。ブルーグレーの瞳にはダーツボードの中心が映っていた。
刺さった部分の数字を足していき、得点が高いほうが勝利という、至ってシンプルなルールだ。
ポーカフェイスのまま、崇剛はグラスに残っていたサングリアを全て口に含み、優雅に組んでいた足を解き、エレガントに立ち上がった。
「えぇ、構いませんよ」
返事を返した、主人の勝算はこうだった。
二十トリプル、八ラウンド。
二十かける三かける二十四の、千四百四十点です。
この時点で、涼介はすでに崇剛に負けていた。数字に強い主人は一番得点が稼げるところを見抜いていた。
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